冒険記録~ギルド『肉食団』~   作:弧埜新月

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ここからサンプルシナリオの中身に入ります。



オープニングフェイズ・初依頼

「お待ちしておりました、ギルド『肉食団』のみなさん。フィルフィアさんから話は聞いていますよ」

 

 グランフェルデン大神殿の冒険者依頼所、そのカウンターにて。一人の背の高い男性が新人冒険者である三人の少女を迎えていた。一目で位が高いと分かる祭服を身に付けている男の名はソーンダイク。金髪緑眼に先の尖った耳と、エルダナーンの血が色濃く出ている優男風な人物だが、三十歳という若さでこのグランフェルデン大神殿の神官長を務める傑物でもある。しかし、その位の高さを感じさせない気さくさと柔和な態度から民草からの人気は高く、激務の間を縫ってはこうして自らカウンターに立つ為冒険者達の信頼も篤かった。

 

「ところで……」

 

 そんな常に一定の余裕を湛えた彼の柔らかい表情に今、一筋の汗が走った。

 

「貴女がギルドマスターのレアさん、でしょうか」

「はいッス」

「レアさん。つかぬことをお訊きしますが……何故、所々焦げているのですか?」

「……ちょっとしたセンスの違いの所為ッス」

「はぁ……」

 

 気不味げに目を逸らすレアと、不機嫌そうに顔を背けるアヤナ。彼女は火属性魔法を得意とするメイジだった筈だ、と登録票の内容を思い出して犯人の目星を付けると、ソーンダイクは残る最後の一人、ココロへ目を向けた。敬虔なアエマ神の侍祭である彼女のことは彼もよく知っている。まだまだ幼いものの、生真面目で一本芯の通った所のある彼女をソーンダイクは信頼していた。ココロはソーンダイクの目を見返すと、心配無いのだというように一つ頷きを返す。

 

「あれは、互いの絆を深めるための儀式であったと、わたくしはそう信じます、ソーンダイクさま」

 

 ──信じます、ですか。

 

「成る程、分かりました。では早速、依頼の話に移りましょう」

 

 言葉尻からココロの若干の自信の無さと二人への信頼を感じ取ったソーンダイクは、三人の様子と合わせ、その付き合いの短さから考えれば十分だろうと結論付けて話を先に進める。

 

「依頼の詳細については読んでいただけたでしょうか?」

「ルフィアさんが渡してきたあの資料ですよね。一応、目を通してきましたけど」

 

 不機嫌さを取り繕ったよそ行きの口調で応えたアヤナに、ソーンダイクは笑顔で頷きを返す。態度はともかく、読んできてくれたこと自体が有り難かったからだ。各依頼書には依頼についての詳細が書いてあるのだが、こうして依頼書を読んで来てくれる冒険者は多くない。新人では尚更だ。どうせ受付でも説明してもらえるからと疎かにすることが多いのだ。だが口頭だけではどうしても説明しきれない部分はあるし、事前に資料を見て貰った方が理解度も段違いとなる。なにより説明する側の労力が格段に違う。ソーンダイクは内心で彼女達の評価を一つ上げた。

 

「助かります。念の為、依頼内容を簡単に説明させていただきますね」

 

 依頼内容について概要を三人に説明しながら、ソーンダイクは依頼内容について精査する。書類を読みながらその内容を評価しつつ、並行して要約し声に出して分かりやすく伝えることなど、彼にとっては児戯にも等しいことであった。

 

 ──依頼内容はバルーニサ山の山道を襲撃するハーピーの駆除、依頼人は山道を利用する商人、報酬は適切……ですね。

 

 今回、彼がこうして態々受付業務を行なっているのには訳があった。それは、つい、と視線を外した先、冒険者達が頼んだ酒を配る緑の少女の所為である。

 その少女は昨日、困った顔をしたアリエッタ(受付嬢)が連れてきた少女であった。ソーンダイクの脳裏についその時の様子が蘇る。

 

『神官長〜……この人が、ここで働きたいって言って聞かないんです〜……はわっ!?』

『はじめまして〜。わたし、フィルフィア・アルカチュア……で良かった筈なので〜、ルフィアって呼んでくださ〜い。前職は酒場で給仕やってました〜。配膳、ツケの取り立て、クレーム対応が得意で〜す。よろしく〜』

 

 突然現れて口を挟む間もなく繰り出されたぶっ飛んだ自己紹介と共に、履歴書と称する紙四枚──全て別々の言語で書いてあった。どれも、アーシアン達が使っていたのを見たことがある──を笑顔で差し出して来たその少女。幾つか質問をしてみたものの、要領を得ない……というか、よく分からない回答ばかりが返ってきたが、一つだけ、『ここで働いていた方がいい気がする』と言ったのが印象に残っている。

 結局、何を言っても引き下がらなかったので、人手不足を感じていたこともあって給仕担当という形で雇い入れたのだが……。

 

 そんな彼女(要注意人物)が、勤務二日目にして登録してきた冒険者が、彼女達(肉食団)である。気にならないわけが無かった。

 

 もちろん、新人の給仕担当(ルフィア)にそんな権限ある筈もないのだが、どうにもアリエッタを上手く丸め込んでしまったらしい。しかも書類自体の出来は完璧で非の打ち所がないとくれば、押しに弱い彼女にしてみればプラチナムゴーレム*1に殴られるポメロ*2の様な気分*3だったことだろう。ソーンダイクが気付いた時には冒険者登録もギルド申請も終わっており、初依頼の斡旋までした後だった。

 そんなわけで、何か問題があってはならないと、自分の目で見極めるためにこうして予定を入れ替えてカウンターに立った訳だが……。

 

 ──人数こそ少し少ないですが、パーティ構成はバランスが取れている。表面上は問題なし……。依頼の方も、幾つか留意点はありますが、そう難易度の高い依頼では無い……考え過ぎでしょうか。

 

「……概要は以上になります。何か質問はありますか?」

 

 概要の説明が終わり、ソーンダイクは意識を目の前の冒険者達へ切り替える。直ぐにレアが手を挙げた。

 

「アタシ、ハーピーって食べたことないッスけど、どう食べるのが美味しいッスかね? 神官長のオススメを教えて欲しいッス」

 

 ──なんだって?

 

 思ってもみなかった質問に、流石のソーンダイクも思考が停止した。だが直ぐに再起動させると、何とか記憶を絞り出す。

 

「食べられる、という文献は無かったかと……逆に、肉に毒を持つ種がいる、との記述を見た覚えがあります。食べること自体がお勧め出来ないかと……」

「食べられないってさ。どうする、レア?」

「もちろん食べるッス。アタシの夢はこの世全ての肉を食べること! 食べれないと言われて諦めることはできないッス!」

 

 ぐぐっ、と拳を握るレア。処置無し、とばかりにアヤナは首を振った。

 

「食べるのはアンタだけにしなさいよ。焼いて何とかなる範囲だったら焼いてあげるから」

「お、ありがたいッス!」

「いえ、だから毒があると……」

「肉を食べて死ねるなら本望ッス」

 

 全く聞く耳を持たない。ソーンダイクは早々に匙を投げた。そこまで言うなら、神殿として出来るのは遺体を葬ってやる位だろう。気を取り直した彼は肉食バカ(レア)からそっと目を外した。

 

「……他にはありませんか?」

「そうですね……とりあえずは大丈夫じゃないですか? 要は山に入って、遭遇した魔獣を全て残らず焼き払えば良いんですよね?」

「……ええと」

 

 ──彼女は本当に資料を読んできてくれたのだろうか? というか人の話を聞いてくれていたのだろうか。

 

 アヤナの発言にソーンダイクは頬を引き攣らせた。評価を何処まで下げ直すべきか勘案していると、見かねてかココロがアヤナの裾を引く。

 

「主さま、今回の依頼では、巣の発見とその駆除までが望まれております。先程ソーンダイクさまも仰られていましたが、ハーピーと遭遇した際には、敢えて数体逃して巣まで案内させるのが上策かと……」

「それは聞いてたけどさ……なんかまだるっこしいのよね。いっそ山ごと焼き払ったら駄目?」

「なりません。絶対に駄目です。そんな事態になれば、今度は主さまが討伐対象になってしまいます」

 

 真剣な表情でココロが首を横に振る。もしそのようなことになれば本当にそうなりかねないので本気でやめて欲しい。そうなってしまえば彼女達の実績(駆け出しの新人)ではパーティ丸ごと討伐対象になる可能性が高い。流石に自分が目を掛けてきた少女(ココロ)の討伐依頼書への決裁などしたくは無かった。

 そんなソーンダイクの内心を見越してか、レアがあー、と声を上げる。

 

「神官長、アレなんスよ。アヤナはこれまで抑圧されてた反動とか、勇者っていうよく分からないものに対するアヤナなりの使命感とか、あと今感じてるイライラとか、そう言うのがまるっと合わさって暴力的になってるだけなんで大目に見て欲しいッス。本当はもうちょっといい奴なんスよ……多分」

「分析すんなし。あと最後の多分って何よ多分って」

「あだだだだッ! 髪を引っ張らないで欲しいッスー!」

 

 照れ隠しの様にレアの立派なポニーテールを引っ張りつつ、アヤナは小さく咳払いした。

 

「冗談はこれくらいにして、と。巣の場所に目星は着いてないんですか?」

「はい。襲われた商人達は身を護るのに精一杯だったようで……かつて、あの山にハーピーの棲み家があり、冒険者がそれを退治したらしいという文献はあるのですが、相当古い記録で詳細などは残っていませんでした」

「そうですか……じゃあやはり、地道に逃げる獲物を追い掛けるしか無さそうですね」

 

 アヤナが顎に手を当てて何事かを考え始める。ようやくまともな質問が来るようになったと内心安堵していると、それに入れ替わるように再びレアが手を上げた。

 

「神官長、他に生息してる生き物はいないッスか?」

「他の生き物ですか。そうですね、ハーピーが現れる前には蛇の類がよく確認されていました」

「蛇ッスか! あれ、タンパクで美味しいんスよねぇ」

「えっ……蛇って食べれんの……?」

 

 目を輝かせるレアに、アヤナが信じられない者を見る目を向けた。しかし、レアは何を言ってるんだとばかりに鼻を鳴らす。

 

「種類にもよるッスけど、蛇は美味いッスよ。塩焼きもいいッスが、アタシのオススメは串を打って濃いめのタレを塗って焼く蒲焼きッスね。魚とかとはまた違った風味がして最高ッスよ。皮目をパリッと焼いて、甘塩っぱいタレを付けて、強い酒を一杯引っ掛けて、食べる! もう堪らないッスよ!」

「レアさま、白焼きにして山椒を添えたものなどは如何でしょうか。素材の味が活きるので、わたくしは気に入っておりますが」

「おお、中々そそられる提案ッスね! じゃあ蛇を捕まえたら今回は白焼きにするッスか。幸い山椒なら持ってるッス。そうだ、白焼きなら柚子胡椒も合うと思うんスよね、こっちも試して見て欲しいッス」

「それでしたら……」

 

 和気藹々と蛇の調理方法について話を詰めていく二人にドン引きしているアヤナ。どうにも最近見掛けるアーシアンには蛇を食べる習慣がないのか、こういう反応をすることが多い気がする。勿体ないことだ、と思いながら、ソーンダイクは補足事項を付け足す。

 

「蛇はハーピーの好物ですので、ハーピー達が現れてからはあまり姿を見せなくなりました。何処かへ隠れているかも知れません」

「そんなっ……これは由々しき事態ッスよ。ハーピーに取られる前に狩らないとッス」

 

 闘志を滾らせるレアに、ボソリと「まるで餌の取り合いじゃん……」とアヤナが失礼なことを呟いた。しかしここでココロがレアに同調する。

 

「何としてもハーピーより先に蛇を見付けなくてはなりません。主さまに是非白焼きを御賞味頂かなくては」

「えっ、あたしが食べるの!?」

「勿論でございます。主さまはどうやら蛇を食べたことがないご様子。であれば、是非とも御賞味頂き、この世界の素晴らしい味を知っていただきたいと存じます」

 

 真摯に自分を見詰める視線に、アヤナはよろめき助け船を求めるようにソーンダイクへ目を向けた。彼は微笑みを浮かべて小さく頷く。

 

「蛇の白焼きであれば岩塩に山葵を添えるのをお勧めしておきます」

「アンタもそっち側かーい!」

 

 当然である。心情的にも好意的にも彼がココロを差し置いてアヤナに味方する謂れは無いのだから。

 

「こちらとしてはハーピーの討伐を優先して欲しいですが、依頼に支障の出ない範囲で蛇を探すのは止めません。ただ、天敵が現れたことで非常に警戒心を強めている可能性もあるので注意してください」

「了解ッス」

「他には、そうですね。あの山でアンラッキースター、という変わった魔物の目撃情報が報告されています」

「アンラッキースター、ですか?」

 

 一旦蛇の話が終わったことで冷静さを取り戻したアヤナが首を傾げる。

 

「はい、そうです。ラッキースター、という魔物を知っていますか? 空飛ぶヒトデの珍しい魔物なのですが」

「ラッキースターッスか。知ってるッスよ。肉は小骨ばかりだし、舌が痺れるくらい渋いんで正直食べれたもんじゃ無いッスね。でも丸ごとじっくり塩茹でにして、中の卵巣だけ取り出して食べるとめっちゃ美味しかったッス」

「うげ……アンタヒトデも食べんの……?」

「食べれるって話は聞いたことあったッスからね」

 

 食べれる肉なら何でも食べるッスよ、と食べれない肉すら食べようとする女は誇らしげに胸を張った。ソーンダイクもその食い意地には苦笑するしかない。彼とて食べられる、という話を聞いたことがあるだけで実際食べたことはなかった。そもそも珍しく、しかもすぐ逃げ出すことで有名なのだ。肉を入手すること自体が容易では無い。

 

「アンラッキースターはラッキースターの亜種なのですが……ラッキースターが幸運を呼び込むと言われているのに対してアンラッキースターは不運をもたらすと言われています」

「不運……随分と曖昧な言い方ですね」

「それだけ目撃例が少ないので……ただ、今回の依頼における懸念事項にはなると思うので留意してください」

 

 ソーンダイクの言葉にアヤナは顔を顰めた。

 

「留意って……不運の中身が分からないのに何に気を付けろって言うんですか?」

「不運なことがあると身構えるだけでも対処は変わってくるものですよ。遭遇しないに越したことはありませんが、付近にその影が無いかは常に気を配ると良いでしょう」

「むぅ……」

 

 そういうものか、と微妙に納得の足りない顔でアヤナは唸る。

 

「ご安心ください、主さま。山中ではわたくしの使い魔(ファミリア)にも周囲を見張らせますので……」

「ファミリアッスか?」

「あぁ、あの利口そうなカラスね。確かに上空からの目が増えるのは有難いかも。あ、アンタ、間違っても捕まえて食べないように」

「流石にそれ位の分別はあるッスよ!? ココロも杖を構えないで欲しいッス!」

 

 ぶんぶん腕を振って抗議する肉食娘(レア)だが、今までの発言を聞いて誰がそれを信じると言うのだろうか? ソーンダイクとしてはその内倒した盗賊などの肉を食べるとか言い出さないことを祈る他なかった。

 

「神官長、アンラッキースターがよく発見される場所とか、居場所の傾向みたいなものはありませんか? あればあたし達も警戒し易いし、ココロも探しやすいと思うんですけど」

 

 レアを適当にあしらったアヤナが追加で質問してくる。その答えを持たない彼は心苦しそうに首を振った。

 

「まだ傾向が分かる程の目撃例は……何分目撃されるようになったのが最近なので」

「そうなんですか?」

「はい。丁度ハーピーが出現する前後頃になります。因果関係は分かりませんが……」

「めちゃくちゃ怪しいじゃないですかそれ」

 

 彼もそう思うが、出現時期が同じ位しか現状怪しむ要素が無いのも確かだった。更に言えば、今回の依頼者が望んでいることはハーピーの殲滅であって、その原因の究明と解決までは含まれていないし、新人冒険者には荷が重いとも感じている。である以上、今回は懸念事項として伝えるに留めておく位が関の山だろう。

 

「山の地図を渡しておきます。ここに、アンラッキースターの目撃地点を書き込んでおきましょう」

「うわ、紙の地図……そりゃそうか。スマホのアプリにでもなってれば楽なんだけど」

「んお? あぷりって何スか?」

「気にしないで。今は関係無いから」

 

 ひらひらとレアに手を振ってあしらうと、改めてアヤナは地図を覗き込んだ。その両脇に二人が立ち、同じように地図を覗き込む。

 

「あれ、丸が二箇所しかないッスよ?」

「はい、目撃例がそれしかないので」

「あんまり参考になんないわね……神官長、ハーピーの出現場所は?」

「そちらは全域で襲われているので、それこそ書き込む意味があまりありません。商人から山菜を取りに来た老人、果ては焼け出された盗賊崩れまで見境無しです」

「あー……」

 

 何故かアヤナが遠い目をした。ソーンダイクが視線を向けると、何でもないです、と手を振ったので話を続けることにした。

 

「今回はレアさんが大量の肉を持ち歩いていることですし、直ぐにでも襲ってくると思いますよ」

「こ、この肉は渡さないッスよ!?」

「はい、頑張って死守してください。他に何か質問はありますか? 無ければ前金の代わりとしてMPポーションを支給しますが……」

 

 彼はカウンターの下に置いていたポーションの瓶を三本カウンターに置いた。アヤナとココロは質問が無い様子で、ポーションと地図を手に取る。しかしレアだけはポーションを見詰めてうーん、と首を傾げた。

 

「どうかしましたか?」

「……神官長、アタシはポーション要らないんで、肉と交換して貰えないッスかね?」

「まだ肉要るの!? 荷物殆ど全部肉じゃないのよ!」

「肉はあればある程いいッス。あ、それとベルトポーチも貰えると嬉しいッス。確かこの間道具屋を覗いた時に、ベルトポーチが肉四分の三個と同じ値段だったと思うんスよ。MPポーションって肉二個半だったッスよね? 端数は要らないッス!」

 

 と満面の笑みを見せるレア。何で単位が肉なのよ、とアヤナは呆れているが、事前に下調べをした内容を根拠に交渉してくるのは中々に強かだとソーンダイクは思う。単位は肉だが。

 しかもこちらが提示した額より要求を下げているので断り難い。実際、ベルトポーチや肉などは用意して居ないのでそれらを入手してくる手間を考えるとそう要求は下がっていないのだが、気持ちのいい笑顔と合わせられるとまだ負けてやろうかと言う気になる。少なくともMPポーションは要らないからハイHPポーション(肉十個)を寄越せとか、火酒(肉十五個)を寄越せとかよりもよっぽどいい。

 

「分かりました。ただ、ここには無いので、後で手配した馬車の所へ届けさせましょう」

「ありがとうございまッス!」

「馬車の用意もしてくださったんですか?」

「はい、乗り合い馬車ですけどね。こちらの手形を乗り合い馬車の御者に見せてください。山の麓まで載せてくれる筈です」

 

 ソーンダイクは依頼主が手配した乗り合い馬車の手形をカウンターに載せた。アヤナがそれを手に取り、表裏を確かめるように眺めた。

 

「今の時間だと……次の馬車が出るのは大体一時間後でしょうか」

「一時間後か……ちょっとした買い物位は出来そうね。ココロ、何かある?」

 

 アヤナは受け取った手形をココロへ渡しながら問う。それを恭しく受け取って腰のポーチへ丁寧に仕舞いながら、ココロははい、と頷いた。

 

「この地方の蛇は毒を持っていることがあるので、備えが必要です。また、主さまも持ち物が多くなってきたご様子。背嚢などを誂えた方がよろしいかと」

「成る程、確かにね。意見ありがと、ココロ」

「勿体無いお言葉です。乗り合い馬車の停留所までの道すがら、丁度良い道具店がございます。そちらへ参りましょう」

 

 ご案内致します、と手を依頼所の出口へ差し向けるココロ。

 

「次は道具屋ッスか? アタシも行くッス」

「まぁ別々に行動する意味もないしね。アンタも何か買うの? というか、さっきの位自分で買いなさいよ」

「アタシ、お金持って無いッス。全部肉にしたんで」

「アンタね……いや、もう何も言うまい」

 

 アヤナは一つ溜め息を落とすと、ソーンダイクを振り返って軽く頭を下げた。

 

「色々ありがとうございました、神官長。厄介者は必ず巣ごと全部焼き払ってくるので、安心して待っててください」

「行って参ります、ソーンダイクさま」

「ハーピー肉沢山持って帰ってくるんで、楽しみにしててくださいッスー」

「はい、お気をつけて。ハーピーの肉は遠慮するのでお気遣い無く」

 

 思い思いに挨拶して去って行く三人娘に、ソーンダイクは笑顔で頭を下げ返す。

 些か感性に問題がありそうな人物(レアとアヤナ)もいるが、人の言うことを聞かないわけでは無いし、信頼のおける軌道修正役(ココロ)もいる。

 依頼の達成状況次第だが、一先ず彼女達を、問題の少ない弱小ギルド(しばらく放置)としても良いだろう。

 そう結論付けたソーンダイクは用事を言付ける為に別の人物を呼ぶ。

 

「フィルフィアさん」

「ほいほ〜い。何か御用〜?」

 

 すいすいとテーブルの間を縫って、すぐさま緑の少女が戻ってくる。仮にも上司に取る態度ではないが、言っても無駄なので早々に本題へ移る。

 

「これで肉とベルトポーチを買って、乗り合い馬車の停留所でレアさんに渡してきてください。馬車は一時間後に出るのでくれぐれも遅れないように。残金は好きにして構いません」

「おっけ〜ですよ〜」

 

 ルフィアへお金を渡すと、彼女は軽やかな足取りで依頼所を出て行った。

 得体が知れず、態度は良くないが、勤勉で優秀ではある。様々な魑魅魍魎(人の悪意)を見てきた彼の感も、彼女は無害であると告げている。

 

「もう少し、様々な仕事を任せてみるとしましょうか。彼女達の専属にして様子を見るのも良いかも知れませんね」

 

 そう独りごちると、ソーンダイクは次の書類を手に取った。仕事はまだ山程あるのだから。

 

*1
レベル49のゴーレム

*2
レベル1のスライム的サムシング

*3
最低でも六回は死ねる。どう足掻いても無理。

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