冒険記録~ギルド『肉食団』~   作:弧埜新月

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このセッションは2020年08月02日~09月13日に行われたものです。
本セッションのGMは私です。章の名前は当時のシナリオ名そのままです。
作者は色々ネーミングセンスが足りません。



『ゴブトラップダンジョン』
プリプレイ・急患


「──こんなものか」

 

 書き上げたばかりのカルテを見返して、アルフレッド・ピュートンはそう小さく呟くとペンを置いた。彼は年若いヒューリンの医師であり、湯治の街ルネスで修行を積んだ後、グランフェルデンで診療所を開く為にやって来た。その腕は良く、治療の為なら自ら出向いてどんなことでも試す探究心とフットワークの軽さを持っている。もっとも、その探究心が災いしてか出費も多く、いまだに診療所を開けずにいたが。今は医師として働きつつ、冒険者として依頼を受けては依頼のついでに薬の素材を取ってくる、二足草鞋の生活を営んでいた。

 

「後はこの薬を飲ませておけば大丈夫だろう……えっと、メルニステラさん、で良かったかな」

「はいです。えっと、良ければメルニと呼んでくださいです。お友達は、皆そう呼ぶですから」

 

 神殿が冒険者に提供する部屋の一室、その隅で心配そうに治療の様子を窺っていた神官服姿の少女がそう答えた。褐色の肌に、紅い髪を腰まで伸ばした彼女の背は、低くはないが然程高いとも言えない身長である彼の半分もない。フィルボルとしても小さな彼女の言葉に、彼は頷きを返す。

 

「了解だ、メルニさん。僕のこともフレディと呼んでくれ」

「わかりましたです」

「それで、メルニさん。彼女と面識は?」

 

 フレディは言いながら目の前のベッドに横たわる患者を指す。青い顔で呻く黒髪のネヴァーフの少女を見ながら、メルニは首を横に振った。

 

「ないです。拝礼に向かう為に廊下を歩いてたら、その人が倒れているのを見かけたんです」

 

 びっくりしたです、とメルニは胸の前で手を握り、当時を思い出したのか深く息を吐いた。

 

「慌てて《ヒール》と《キュア》と、それから《レイズ》も掛けたんですけど、何の効果もなくて……先生が通り掛かってくれて良かったです」

「メルニさんがその手の魔法を使っていたのは見えていたからね。ある程度原因が絞れたから助かった。まぁ、流石にあんなにアホらしい原因だとは思わなかったが」

「あはは……」

「……面目ないッス」

 

 呆れ果てた声のフレディと、乾いた笑いを漏らすメルニに反応し、患者が辛そうな声でボソリと呟いた。

 

「全く、よく反省して欲しいね。レアさんだったか? 何でまた、魔獣の肉なんて食べたんだ」

「うちは、この世のありとあらゆる肉を食べることを目的としたギルドッスから……当然ッス」

 

 弱々しいレアの返答に、フレディはその柳眉を逆立てる。

 

「何だって? ギルドってことは……他にもこんな馬鹿なことをした奴がいるのか?」

「ココロとアヤナは……要らないって、断ったッスよ……」

「あぁ、その二人は賢明だな。いや、君がおかしいだけか」

 

 やれやれ、とフレディは溜め息を吐きながら己の毛先で一つに束ねた青い長髪を掻くと、改めてメルニを振り返った。

 

「ありがとう、メルニさん。後は僕が診ておくから、君はもう帰ってもいいよ」

「はいです! 今日は、ありがとうございましたです!」

 

 ぴょこん、と元気良く頭を下げる少女の姿に、フレディは少し口許を緩める。

 

「いいんだ、これも仕事だからな。あぁそれと、彼女と装備をここに運んでくれた人にも、礼を言っておいてくれないか」

「ルフィアさんですか? 分かりましたです」

「よろしく頼む。それにしても、彼女は見かけに寄らず凄い力持ちだったな。レアさんだけじゃなくて、あの斧と鞄も一緒に担いでくるなんて」

「はいです……わたしもびっくりでした。あんな人もいるんですね」

 

 メルニの言い様に、おや、とフレディは片眉を上げた。

 

「彼女も神殿の関係者だろう? 知り合いじゃないのか?」

「ルフィアさんは最近依頼所の方に入って来た人です。色々噂は聞いてたですが、実際会ったのは今日が初めてです」

「最近入って来たばかりでもう色々噂になっているのか……ちなみに、どんな噂なんだ?」

 

 ふと興味を覚えて問いを発する。問われたメルニはええとですね、と宙に目線を彷徨わせ、

 

「噂、というですか、あだ名というですか……えっと、『歩く非常識』、『受付の最終兵器』、『緑の悪魔』……」

「待ってくれ。ロクな呼び名が無いじゃないか」

 

 言いにくそうに指折りながら告げられるあだ名に、フレディは思わず眉間を揉む。否定する所の思い付かないメルニは乾いた笑みを浮かべた。

 

「さっき少し話した分にはそんな呼び名が付くようには……いや、大分変わった人だとは思ったが」

「ですね。でも、優秀な人みたいですよ。アリエッタさんも、とても頼りになるって言ってたです」

「ふぅむ……一周回ってちょっと興味が出て来たな」

「──呼んだ〜?」

「うわっ!?」

 

 突然背後から聞こえた声に、フレディは仰け反りながら振り返った。そこには、件の人物がにこにことしながら首を傾げていた──先程まで何の気配もしなかったというのにだ。

 

「い、いつからそこに?」

「? さっきだよ〜?」

 

 呼ばれた気がしたからね〜、と宣うルフィア。咄嗟にメルニを振り返ると、彼女も心底驚いた表情で壁に身を預け、首をぶんぶん左右に振っている。その横にある扉に目線を移せば、先程と変わらず閉まっているように見えた。単独行動の為にシーフの技能も持つ自身や、ヴァーナ程ではないにしろ周囲の物事に敏感なフィルボルであるメルニに一切感知されずに、どうやってこの少女は現れたと言うのか。

 

「細かいことは、気にしな〜い、気にしな〜い」

「いや、細かくないだろう、そこは」

「気にしな〜い気にしな〜い」

 

 ルフィアの様子から手段を聞き出すことの無駄を悟り──仮に聞けても理解出来ない手段のような気がした──フレディは盛大な溜め息を吐いた。

 

「……それで、君は何をしに来たんだ? 呼ばれたような気がした、でこんな所に来る程、ここの依頼所の受付は暇じゃない筈だろう?」

「そうだね〜、そろそろかな〜?」

 

 そう、よく分からないことを言いながら、笑顔を扉の方へ向ける。フレディとメルニが釣られる様にそちらへ目を向けると同時に、やや控えめなノック音が響いた。続いて、ノック音より大分勝ち気な少女の声がする。

 

『レア、いる? さっきあたし達で依頼を受けて来たんだけど』

 

 フレディは自然とメルニと顔を見合わせると、席を立って扉へ近づいた。何となくそうするのは自分の役目だと思ったのだ。今、開けるよ、と一声掛けてから扉を開く。

 そこには、とんがり帽子にマントをブレザーの上から羽織った赤茶髪の少女と、神官服を纏ったエルダナーンの童女がいた。揃ってぽかんとした顔でフレディの顔を見上げている。

 

「あ、あれ? 間違え……ちょっとココロ、部屋違うじゃないの」

「そ、そんな筈は……も、申し訳ございません、主さま」

「あっ、言い争ってる場合じゃ……すいませんでした! 部屋、間違えたみたいで……」

「いや、合ってるよ」

 

 その狼狽える様子に、フレディは微笑ましいものを見る目で苦笑しながら二人の為に道を開けてやる。

 

「ココロさんと、君がアヤナさんかな? レアさんは今朝部屋の外で倒れているのが見つかってね。さっきまで僕が診察していたんだ」

「倒れた!? レアが?」

「あぁ。何でも、魔獣の肉を食べたそうでね」

「あぁー……」

 

 アヤナとココロは揃って遠い目をする。フレディは今日何度目か分からない溜め息を吐いた。

 

「食べるのが分かっていたなら止めてやってくれないか。仲間だろう?」

「仲間だからこそ諦めたの。言っても無駄だって分かりきってるから」

 

 この手の馬鹿は一度痛い目見ないと分からないんだから……と、アヤナは額を抑えた。フレディは肩を竦める。

 

「一度痛い目を見た位で分かってくれれば、僕の苦労も何割か減るんだけどな」

「言えてるかも。先生も苦労してるんだね」

「してるとも。今まで何度馬鹿に付ける薬が欲しいと思ったことか」

「分かるー。あ……」

 

 うんうんと頷いた所で、アヤナははたと気付いた様でフレディを見上げ、気不味げに視線を彷徨わせた。

 

「すいません、その、初対面の人に向かってこんな口の利き方……」

「構わないよ。今更だ。年上を敬え、なんて古臭い考えを押し付ける気もない」

 

 むしろそんなことを気にする様な人物には見えなかったけどな、とはフレディは言わなかった。

 

「君が話し易い方を選ぶといい。僕は全然気にしない」

「えっと……」

 

 アヤナは少しだけ逡巡したが、やがてふっ、と表情から力を抜くと、初夏の日差しの様な笑みを見せた。

 

「ここはお言葉に甘えさせてもらうとするわ。アヤナよ。よろしく」

「フレディだ。ご覧の通り、医者をしている。また何かあれば呼んでくれ」

 

 薄く微笑んだフレディの差し出した手を、アヤナが握る。その時だった。

 

「せ、先生! レアさんが、レアさんが息してないです!?」

「何だって!?」

 

 許容量を一気に振り切った様なメルニの声に振り返ると、そこには口から泡を吹いて今にも召されそうになっているレアの姿が。慌ててその側に駆け戻る。

 

「どうして容体が急変したんだ!?」

「そう言えば〜、さっき〜、わたしを見てひっくり返ったような〜?」

「君の所為か!?」

 

 詰め寄られるが、緑の少女は動じない。そんなこと言われても〜、とほんのり困ったような笑みを浮かべている。その様子を見て初めてルフィアの姿を認めたアヤナがのけ反って驚きの声を上げた。

 

「る、ルフィア!? アンタどうしてここに……さっき受付にいたじゃないの!?」

「秘密の〜、近道ですよ〜?」

「いや絶対おかしいでしょ!? ってそうじゃなくて!」

「主さま……! 今は、レアさまをお助けしなくては……!」

 

 ルフィアの胸倉を掴み掛けていたアヤナの袖口を、珍しく強い力でココロが引いた。我に帰ったアヤナがルフィアを捨て置いてレアの首筋に手を当てるフレディの方へ向き直る。

 

「そ、それもそうね! 先生、あたしに出来ることはある!?」

「お湯を沸かしてくれ!」

「分かった!」

「メルニさん、《レイズ》を! ココロさん、《ヒール》は使えるかい」

「はいです!」

「お任せください」

 

 フレディは三人の少女に的確に指示を出しながら、一度しまっていた荷物を広げ直し、処置を始める。

 

「わたしは〜?」

「君は! 何も! するな!」

「え〜?」

 

 一人が気の抜けた不満声を上げる中、レアの救命措置は迅速に進められたのだった。

 




キリのいいところで切ったら短くなりました。
初登場キャラの紹介は次回
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