エンジニア部と鏡
ある日、ミレニアムサイエンススクール
「やあ、こちらから呼び出しておいて待たせてしまったかな?」
そう言いながら部室の奥から颯爽と現れたのは、エンジニア部の部長、白石ウタハだ。
そこまで待ってないよと適当に返事しながら、促されるまま席に着いた。
周囲に他の人はいない。彼女の後輩たちも、今日は別の用事があるという。
"それで、要件っていうのは...。"
そう尋ねると、ウタハは静かに、ガラス片のようなものを取り出した。
普段の彼女なら、正規の発明をしたような顔でろくでもないものを見せつけるところだ。
だが、その時のウタハは、何かが少し違っていた。
"これは...?"
「そうだな...『鏡』とでも呼んでおこうか。」
うんそうだな、などと一人で勝手に納得しているウタハの様子に、何か尋常でないものを感じ取ってしまう。
それにも関わらず、ウタハは続ける。
「これは、正確に言えば私が初めから作ったわけではない。元となった遺物があった訳だね。」
そう言いながら、もう一つ、先ほどの『鏡』と似たようなものを取り出した。
「これは『硝子窓』というものだ。勿論、ただのガラス片なんかじゃない。例えば...そうだな。」
ウタハは辺りを見回すと、落ちていた...いや、初めから用意していたような蝶の死骸を拾い上げ、その前に硝子窓を翳した。
"これは...。"
硝子窓を覗き込むと、信じがたいことに、そこには一匹の真白い蝶が羽ばたいてる様子が見えた。
裏側を見ても、蝶はただの死骸で、羽ばたく様子など微塵もない。
"生き返らせた...って訳じゃないよね。"
「ああ。どうやらこの遺物には、映った物のあったかもしれない姿を映し出す...そういう類のものらしい。」
"それじゃあ、この『鏡』は...。"
「...『硝子窓』を、私が解析し、模倣し、改良を施したものだ。」
そう言うと、ウタハは深い溜息を吐いた。
やはり、何か変だ。ウタハが、自分の製作物について話すときにこんな態度を取る場面は見たことがない。
"大丈夫...?"
「...大丈夫だとも、とは言えないかな。」
そう言ってウタハは笑ったが、その笑顔もどこかぎこちない。
「続けるね。そうして私はこの『鏡』を作り上げた。...でも、それは失敗だったんだ。」
そう言いながら、ウタハは視線をこちらに向けたまま手元で鏡を弄んでいる。
「『鏡』は、文字通り鏡に映った自分自身の、その可能性を見ることが出来る。
調整さえすれば、他人のものも見れるだろうけどね。」
"これを、私に渡してくれるの?"
尋ねると、ウタハは決まりの悪そうな顔で答えた。
「預ける、と言ったほうが正解かな。それは、在ってはいけないものだ。
...『鏡』は、確かに自分の可能性を映し出す。でも、それが決して自分の望むものだけを映し出すとも限らないんだ。
失敗してしまった自分、不幸になってしまった自分、何処かで息絶えてしまった自分...。
勿論、それらが映し出されるたびに、心は摩耗していく。自分のしてきたことの全てが無駄に感じられて、自分の人生の方向性に疑念を持って、遂には他の世界に干渉するようになるだろう。」
"ウタハ、君は...。"
「だから貴方を呼んだんだ、先生。」
顔を伏せながら、ウタハは『鏡』と『硝子窓』をこちらに差し出した。
先生たるもの、断る理由などない。だが、これはどうするべきなのだろうか。
「幾つか、約束してくれ。
『鏡』は使わず、他の誰にも見せないこと。
使うなら『硝子窓』にしておいた方がいい。そっちも、使い過ぎはよくないだろうけどね。
そして...このことを、他の誰にも、特にコトリとヒビキには言わないでくれ。後輩たちに心配は掛けさせたくないものでね。」
それを言い終えると、止める間もなくウタハは覚束ない足取りで部屋の奥に去ってしまった。
"(...人生の意味を奪ってしまう『鏡』と、より羽ばたける可能性を映す『硝子窓』...。)"
"(もし、もし生徒の『もしも』が見れたら...。)"
"(...いや、それは先生がやることじゃないな。)"
思い直して、二つを懐に入れた。
誰かがこれを覗かないように、肌身離さず持っておこう。
もし、もしもこの中に何かが映し出されたら...
その時は、何が映っているのか、私たちじゃない誰かが確認するだろうしね。
ウタハ:鏡を覗き込んでしまったせいでメンタルがやられてしまったエンジニア部の部長。
周囲のサポートでゆっくりと立ち直っていくだろうが、関係のない話。
先生:先生。性別はご想像にお任せ。
「誰かがこの青春物語を覗き込んでいる」と思い込んでいるが、だからといってどうというわけはない。
見た目が不安定。一番安定してないときにアロナに似顔絵を描かれたのを少し根に持ってる。別に書き直しを要求したりはしない。
プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか
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ええよ
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あかんで