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静かに、厳かに鐘の音が鳴った。
何かに押されるように引き金を引いたその結末が、酷くゆっくりと、鮮明に視界に映し出される。
血を流すことなく、目の前の大人が後ろに身を投げ出した。
「ごめんね、マリー。」
その声色は、表情は、安息とは程遠いように見えた。そんなはずが無いのに、そうであってはならないはずなのに、五感とそれを感ずる理性はそれを惨く否定する。
どこかから誰かの声が響き、二つの影が迫ってくる。
確か大切な人達だったはずだ。
にも関わらず、引き金を引く指は止まることを知らない。
もはや自分の意志とは関係ない壮大な使命に、この肉体は絡めとられていた。
静かに銃を撃ち切ると、呻く声と共に、それらの倒れ伏す音が聞こえた。
ふと我に返り、それに気づくと同時に鼓動が早まった。もう取り戻せない時間を取り戻さんと、呼吸が浅く加速していく。
胸の中の何もかもを吐き出してしまいそうになりながら、眼前の光景から目を逸らそうとした。
『目を逸らしてはいけない。ただ、哀悼と祝辞を述べればいい。』
声は決して目を逸らすことを赦さない。
でも、この顔は――。
『己が信ぜずして、どうして安らぎが有り得ようか。その祈りに混じった疑念は、哀悼の意を曇らせるだけに過ぎない。』
――――。
息を詰まらせながら、静かに倒れ伏すその人の元に歩みを進めた。
その亡骸を静かに抱き上げてみる。あれ程暖かな人だったというのに、驚くほど冷たい。
「...先生。」
静かにその名を読んでみる。口が開くことはない。
「あなたは、安らげましたか。」
応えることはもはや無い。
「どうして、そんな顔をしているんですか...。」
表情を変えることはない。
『それ故に。』
後ろから、あの声で囁きかけられる。
振り返ることなく、静かに言葉の続きを待った。静かに、自分を罰することを望んだ。
『お前は、私達は、祈らなければならない。彼らに安息があることを、永遠に。』
――それが、遺された者の罰なのだろうか。
『その意識は哀悼の意味を濁らせるだけに過ぎない。ただ、もっと単純に、彼らが眠れるように。』
その言葉に、静かに目を閉じた。
暗闇の中、道が見える。
私がこれまでに歩んできた、もう戻れない道だ。
その道程に、数多の死者が眠っている。
『彼らの眠りは永遠だ。』
だが、私がそれを信じない限り、
『彼らの手はお前の手足を掴み、首を締め付けてくるだろう。』
だから、私にできることは。
「ただ、彼らに静かな眠りがあることを確信し、それに至れるように祈るのみ。』
暗闇の先に光が見えた。
蝶は皆、あの光に向って羽ばたく。
だから、誰もがあの場所に辿り着けるように。
静かに、手を合わせて、祈った。
『シャーレの"先生"、未だ見つからず』
『シャーレの先生が失踪してから数週間も経ちますが...。』
新聞やラジオから、聞き飽きた情報が雪崩れ込む。
シャーレの先生、生徒たちの希望であり象徴だったあの人が突如として消えてから、今日でもう何週間かにもなる。
始まりは連邦生徒会長代理の七神リンだった。
先生に仕事を頼もうと部屋を訪ねても見つからない。連絡を取ろうとしても繋がらず、モモトークにも返事をしない。
不審に思った彼女が捜索を始めるも、一向に見つからない。
噂は瞬く間に広がり、一斉に捜索が始まった。
アビドス砂漠の最端から、路地の隅々まで探された。
にも拘らず、姿は見当たらなかった。
そのうちに、死亡説が口端に上がるのもまた、自然だったのだろう。
そしてそれがどれ程の阿鼻叫喚を呼んだかは、想像に難くなかった。
加えてもう一つ、大きく頭を悩ませる事件もそれに隠れてあった。
救護騎士団長の蒼森ミネとシスターフッドの長である歌住サクラコが、先生が失踪するのと同時期に同じく失踪していた、ということだった。
勿論、すぐに探した。が、これもまた見つからなかった。
彼女らの消失は、先生の件も併せてトリニティ内に大きな動揺をもたらした。
だが、この学園の悲しい性であろうか、次第にこんな噂も流れた。
ミネとサクラコの二人が共謀し、先生を拐かしている。
無論、根拠なんてあったものじゃないし、それを言い出した者は、単にこの異様な事態に何かしらの理由付けをしたかっただけなのだろう。
それでも人の口に戸は立てられるものではなく、瞬く間にトリニティ内の疑心という燃料から、学外の不安という可燃物まで燃え広がった。
多少なら、せめて学内までなら消火も間に合ったであろうか。だが、気づいた時には火は余りにも大きくなりすぎた。
噂の出所が、
実しやかに囁かれた噂に、不安を抱えた者達は一斉に押し掛けた。そうしなければ、この凄惨な事件の重みに耐えきれなかったからだろう。
こちらから言えることは何もなかった、有るはずもなかった。それなのに、噂は消えずに残存したまま、未だにトリニティに対する誹謗や、あまつさえ個人に対する中傷さえ未だに突き付けられる。
『トリニティは...』
その文字が紙面に踊ったり、ラジオから聞こえた瞬間に、それらを全て打ち止めてしまった。全くらしくないが、それでもここ一時はずっとそうしているのだから、もはやこれが平常とさえいえるかもしれない。
ここ数週間で胃薬を殆ど飲み尽くしながら、不味くなった紅茶を無理に喉奥に押し込めた。
正直なところ、もう何もしたくなかった。存在しない責任を問われ、詰られ、探せど探せど出口の見つからない、終わらない無間地獄。いっそ、どこか遠くに逃げ出したかった。
考えを巡らせた挙句、結局桐藤ナギサは、何ともなしに部屋を発った。
考えもなしに出たはいいものの、余り人目に付くのは憚られ、人の少ない通りを練り歩いた。
気づけば、もう冬になりそうだ。つい最近まで木の葉が色づいていた気がするが、既に景色は灰色に成りかけている。
その灰色に溶け込むように、如何なる生きた音も発さずに歩いた。
暫く歩いていると、ブラックマーケットに出た。
この辺りの臭いは独特だ。子供の時分の戯れや、長じてからも成り行きで数回ほど足を運んだことがあるが、ここの活発だが埃っぽい妙な雰囲気には未だに慣れない。
その光景を見ながら、ふと、こんな噂話を思い出した。
トリニティのブラックマーケットの一角には、近づいてはいけない。
平時は入っても何もない。
だが、死の想念を抱いた者が入れば、話は続く。
その路地には、死人を抱いた者がいる。
その者は葬儀屋の服をしており、首から上は真白い蝶である。
そして、その者の言葉に惑わされ近づくと...
自分もまた、死んでしまう。
そしてその死に様は、とても美しく安らかだという。
以前からこの様な噺はあり、未だに残っているのかと知った時には驚いたものだった。
無論、その路地は調べたが、妙に入り組んでいるということ以外は何もなかった。
だが、噺が本当であれば。
今の自分であれば、もしやすると出会えるのかもしれない。
出会ったところでどうするのか、そもそも噂が本当だという確信すらもどこにもない。死亡説に対する恐れが生んだ滑稽な話が関の山だろうと、そう考えてもいる。
だが、足は自然とその路地に向かっていた。
件の路地の周辺に、人は寄り付いていなかった。そのことが、余計にその噂の存在を目立たせていた。
その前に立ち、流石に暫く逡巡した。
だが、周囲の人の視線に耐え切れず、結局路地の奥に入っていった。
埃っぽく光の差さない、薄暗い路地を歩き続けた。
そこまでに誰にも出会わなかったから、結局のところ噂は噂に過ぎないのかと、踵を変えようかとも思った。
だがそう思っていると、ふと向こうに人影が見えた。
少し震える足を上げて、ゆっくり近づいて行った。
人影は、足元に何かを横たわらせているようだった。
近づく度に、姿がはっきり見えてくる。
その服装は、顔は、噂通りの蝶だった。
そして、足元に寝ているのは――。
「せん...せ、い...。」
つい、声をあげてしまった。
あそこに転がっているのは、間違いなく、失踪者のものであった。
安らかに眠るように、目を閉じたまま動かない。
死んで―――いるのだろう。
それを抱きかかえる蝶は、薄暗い不気味さも相まって、神聖さとどこかグロテスクな様相を醸し出していた。
『ここは』
突如、鐘がなるような声とともに、聞いたことのあるような声が頭に響いた。妙な感覚だ。
『ここは、彼岸と此岸を渡す場所です。』
困惑するナギサを置いて、蝶は亡骸を抱いたまま続けた。
『あなたも、向こう側に往きたいのですか。』
指し示すように、蝶はナギサとは反対の方向を向いた。その方には、微かな光が見える気がする。
言葉に対して肯きも否定もせずに立っていると、それは亡骸の体を優しく置いて立ち上がった。
『ここに来る者は皆、自分の往くべき方向を見失った哀れな蝶です。私は、彼らに安らげる場所を与え、そこで羽ばたきを已むことを祈り続けています。丁度、この人のように。』
この人とは、足元の先生のことを指しているのだろう。ナギサは、その寝顔が、羨ましく思えていた。
『もし今退がれば、また無意味な想念と共に羽ばたきを続けることになるでしょう。
しかし、一歩踏み出せば、あの光の向こう側に進めます。』
そこまで鳴り響いた後、蝶は立ち上がったまま固まった。きっと、ナギサの選択を待っているのだろう。
冷静に考えれば、このまま退がって、通報なり何なりすればいいだろう。
だが既に、羽ばたく意味すら見いだせずに疲れ切っていた。
何かに憑かれた様に、一歩を踏み出した。
『―――往きし者に崇高な誓いと共に蝶を、遺りし者に厳粛な哀悼と祈りを。』
その言葉とともに、銃口が差し向けられる。
その時、蝶の裏に、見覚えのある橙色の猫耳がチラリと見えた気がした。
だが、それに対して言葉を発する間もなく、銃声は路地に鳴り響いた。
トリニティのブラックマーケットの一角には、近づいてはいけない。
平時は入っても何もない。
だが、死の想念を抱いた者が入れば、話は続く。
その路地には、死人を抱いた者がいる。
その者は葬儀屋の服をしており、首から上は真白い蝶である。
その"路地裏の蝶"に近づくと―――
静かな安らぎが得られるという。
また、別の噺がある。
その"路地裏の蝶"には、よく見ると橙色の猫耳が生えているという。
噂では、それはかつてシスターフッドにいたが、
いつの間にか消息を絶っていた者のものと酷似しているという。
だが、そんな噺は、直ぐに忘れ去られ―――
やがて、蝶の話だけが遺り、シスターフッドの噂は静かに、ゆっくりと羽ばたきを止めた。
ご拝読ありがとうございました。
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それと、リクエストも募集しているので、感想などに書いてくだされば書こうと思います。
裏話的な雑多な感想も書いたので、興味があればそちらもどうぞ。
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プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか
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ええよ
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あかんで