鏡の中の青春   作:ひいろの鳥

12 / 27
アンケート、沢山の回答有難うございました。とんでもなく僅差でこちらを先に投稿しますが、ぶっちゃけどっちももう書いてしまったので近いうちに撃った方も投稿します。



旅立ち

カラン、と銃が地面に音を立てて、手から滑り落ちた。

 

「―――私は」

 

今にも泣きだしそうな顔を堪えるように、マリーは肩を震わせながら口を開いた。

 

「私は、許されない大罪を、どうにか正当化して、剰えそれを続けました。

そんな私でも、生きていても、いいんですか――?」

 

その言葉に、先生は静かに頷いた。

 

「大丈夫だよ、マリー。

その責任と罪の全部を背負うことは出来ないかもしれないけど...それでも、一緒に背負っていくことはできるから。」

 

そう言いながら、先生はそっとマリーを抱きしめた。

胸が、少し湿る感覚がした。

暫くの間、胸の中から呻く声が聞こえた。

 

「シスターマリー。」

 

後ろから、サクラコが声をかけてきた。

振り返る間もなく、彼女はマリーの元に近づいた。

 

「帰りましょう、私達の居るべき場所に。」

「...私が、帰ってもいいんですか―――?」

 

そう言いながら泣き腫らした顔を上げるマリーに、柔らかい笑顔でサクラコは応えた。

 

「勿論です。彼の者の教えは、我々皆に平等に与えられるものですから。

人を救うのも裁くのも、神の為すことです。だからこそ―――祈れば、貴女の神はお赦しになるでしょう。」

 

その言葉に応じるように、マリーは顔を離して肯いた。

 

「私は」

 

また傍から、今度はミネの声が突き刺してきた。

 

「マリーさん、私は貴女を許しません。」

 

その言葉に、マリーは一瞬身を震わせ俯いた。

 

「ミネさん」

「ですが」

 

サクラコの諫める声を遮るように、ミネは続けた。

 

「私は、貴女もまた救護すべき人だと考えています。

人に人を救うことは出来ないのかもしれませんが――病を治すことは出来ます。

だからこそ、私は貴女にその病から逃げることを許しません。

一緒に向き合い、治していきましょう。」

 

その言葉に、マリーは再度力強く頷いた。

気づけば、空は既に朱く染まっていた。

もう、帰る時間だった。


その後は、色々なことがあった。

 

マリーから諸々の事情を聴いた。

路地裏に現れた蝶やそこでの対話、棺や銃を通して駆り立ててくる声...それらはこの世のものとは思えない話だったが、同時にそれによって辻褄が合う部分もあった為に、それで納得することにした。

結局その後、路地裏の蝶の噂はパタリと止んだ。マリーは、その者の棺を意志と共に受け継いだからだと言っていた。

棺や銃は、未だに彼女の付きまとっている。幸いにして、声は今は聴こえなくなったらしいが...また同じことが起きないとも限らず、解決策を模索している最中だ。

 

また、マリーは結局、お縄になることはなかった。サクラコも先生自身も尽力したが、手にかけたのが元より死にたがっていた、他人との関わりの希薄な者ばかりで、ことブラックマーケットという特殊な環境において、あのような失踪事件は掃いて捨てるほどあった所為もあろう。

ただ、マリー自身がまだ罪を消化しきれてないことも相まって、流石に表立っての復帰はまだ難しいようだ。

今は、細々と亡くなった方々に祈りを捧げ続けている。そうすることが、今の彼女にとっても一番いいのだろう。

また、それと並行して、ミネによる精神治療も緩慢だが進められている。

曰く、人を殺めたという重圧はそう簡単に拭うことは出来ないという。特に事の発端となった懺悔室には、近づくどころか言葉を聞くことさえ億劫なのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていうことがあったんだよ。」

「くっくっく...何故それを私に?」

 

そう言いながら、黒服はビールを追加で一杯注文した。

先生はといえば、焼き鳥を串から外そうと悪戦苦闘していた。

 

「いやあ、お前に色々聞きたいことがあってさあ。」

「...およそその蝶のことだと推察できますが。」

「そのとーり!」

 

結局串から外すのを諦めながら、先生は大きく肯定した。

 

「くっくっく、とりあえず聞く相手は私で合ってるんですか?」

「だって知ってそうな顔してるし。」

「くっくっく、そうですねえ...。」

 

グラスを少し回しながら、黒服は語り始めた。

 

「恐らくですが、その蝶は"幻想体"でしょうね。」

「げんそうたい?何よそれ。」

「まあ焦らずに、順を追って話しましょうか。」

 

そう言いながら一気にグラスを空けながら、黒服は続けた。

 

「昔、私はここではない別の場所で研究をしていました。」

「今から身の上話ぃ?」

「だから焦らずに...。

とにかく、私は元はここの人間では無かったんですね。ああ、転々としているからと言って目的が変わっている訳では...いえ、今はこの話はやめておきましょうか。

 

私がその場所にいたとき、ある研究者と出会いました。アインと呼びましたね。...顔が少し変?くっくっく、旧い友人の名前を呼ぶと懐かしさからかこうなるんですよ。

彼が言うことには、この世界の底には大きな"川"が流れているらしいです。それは人類の根底を流れる川でもあると言っていましたが...まあ、私は特段興味の湧かないことでしたから、軽く流しましたがね。

 

その川から特定の方法、或いは道具を使って水を汲み上げると、ある形を以て現れるといいます。」

「それが...幻想体?」

「ええ。彼らは人類にある様々な感情やある出来事に対する恐怖、古くから語られる物語など、川の中に堆積する様々な要素を抽出して具現化したものです。

 

ここからは私の推察になりますが...思うに、死に対する想念が何らかの理由で高まったせいで、その蝶が生まれたのではないかと考えますね。」

「ええ...そんなこと有り得るの?」

「元より此処は受けたテクストが直に反映され易い場所ですから、もし川がここにも流れ着いているとすれば、そうしたことは十分あり得るかと。」

 

そういうものかと思いながら、先生は漸く鳥を食べ切った。

 

「私としてはその棺の方が興味深いですね。」

「ああ、それも聞きたかったんだけど...もしかして分からない?」

 

少し煽ってみるような口調の言葉に、それなりに呑んでいたせいか、黒服はいとも容易く乗った。

 

「いえ、おおよその検討は付きますね。恐らくはE.G.Oギフトでしょう。」

「えご...何て?」

「E.G.Oギフトは、文字通り、幻想体の自我の欠片です。

幻想体に対する適切な行為──その蝶の場合はおそらく対話──によって稀に貰うことがあると聞いたことがあります。」

「それって貰うとどうなるの?」

「凡その場合は、身体能力の向上や、使いこなせれば自由に幻想体の力も引き出せるようになります。が――適性が無かったり精神が摩耗していると、却って自我に侵食されてしまいます。」

「じゃあ、マリーがああなってたのは...」

「聞いたところ、ヘイローも消えていたようですし、侵食されたのでしょうね。そのまま放置していれば、帰ってこれなかったでしょうね。」

 

そこまで聞いて、先生は漸く納得のような何かを得た。

矢張りあれはマリーの本心ではなく、蝶の言葉だったのだろう。

 

「しかし、神秘に影響する侵食...非常に興味深いですね。」

「生徒を使っての研究はダメだからね?」

「...。」

「何で黙ってるのさ。」

「くっくっく、冗談ですよ痛い痛い痛い」

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょーが!」

「ギブ、ギブです先生――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それよりも、先生。」

 

少し落ち着いて、再び黒服が口を開いた。

 

「何よ。」

「何よ、じゃありません。また身を危険に晒しましたね?」

 

その言葉に少しビクッとしたのを、黒服は見逃さなかった。

 

「...したんですね?」

「シテナイヨ?」

「したんですね?」

「...しました。」

 

それを聞くと、黒服は分かり易く溜息をついた。

 

「前々からずっと言っていますが、あなたには死なれてしまっては困るんですよ。あなたの愛する生徒も悲しんでしまいますよ?」

「だって、あの時はああするしか無いかなって...。」

「もう少し自分の身を案じてほしいものですよ、全く。」

 

また分かり易い溜息とともに、暫くの間無言が流れた。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ。」

 

「今度は何でしょう。」

 

「いや...神って実際いるのかなって。」

 

「名もなき神ならいたでしょうが...そういうことではないでしょうね。」

 

「まあ、所謂救世主の方だね。神とか死後の世界とか、それを理由に人生を諦めるのは否定したいけれども―――実際どうなんだろうね。」

 

「信じることだと思いますよ。

神は人の内に宿るとも言いますし、そういったものはいると信じたほうが救われるものです。無論例外はあるでしょうが。」

 

「信じる、かあ...。」

 

そうぼやきながら、何となく外を見遣った。

暗い闇の中に、白い蝶が一匹翔んでいた。

その姿を見て、何となく祈ってみようかという気分になった。

あの蝶が、真に自分の往きたい方向に飛び立てることを。




ご拝読ありがとうございました。これにて「往きし者に蝶を、遺りし者に祈りを」は一先ず完結です。
感想やお気に入り、評価などしてくれると作者がとても喜びます。
それと、リクエストも募集しているので、感想などに書いてくだされば書こうと思います。

裏話的な雑多な感想も書いたので、興味があればそちらもどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=319693&uid=447779

プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか

  • ええよ
  • あかんで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。