いつものことなんですが、今回は特に「小鳥遊ホシノ」というキャラクターに対する個人的な解釈が多分に含まれていますので、その点はご容赦をば。決して貴方の持つ小鳥遊ホシノ像を破壊する意図はありません。
前置きが長くなりましたね、それでは良きユメを。
海の夢
私は今、何処にいるんだろう。
蕩け容る様な感覚、夢心地を揺蕩う様な感覚が全身を駆け巡る。
自分が何をしていたのか、何をしているのか、何をすべきなのか、何も分からない。
海。
その単語が頭にスっと入ってきた。
そうだ。私は今、海にいるんだっけ。
じゃあ、私の体はきっと濡れてるし、泳いで無いのならきっと沈んでいる最中なんだろう。
暗くて深い、それでも明るい水底に。
「君も、この海の奥深くまで沈んでいくのかい。」
声が聞こえる気がする。聞き馴染みのない声だ。
遠い海の底から聞こえているようで、上手く聞き取りづらい。
そういえば。はたと思った。魚がいない。
この海には、魚はいないのだろうか。好きだったのに、残念だ。
──そうか。
この海には、私しかいないのか。
空っぽだ。何処までも。まるで私みたいだ。
「そうだ。ここには、君と私しかいない。」
また、声が聞こえた。
さっきよりも少しハッキリしているだろうか。それでもまだ聞こえない。
でも。
何で、私は海の中にいるんだっけ?
その疑問が頭をもたげると同時に、急速な違和感と共に、視界が少しづつ明るくなってくる。
「時間だね。また、この深い海に来た時に、続きを話そうじゃないか。」
ああ、そうか。
何となく気がついた。
この声は、きっと鮫の声だ。
深い海の底に独り居る、寂しい鮫。
じゃあね、鮫さん。
また、会えるといいね。
アラームの音ともに、目が覚めた。
夢を見ていた気がするが、いまいち内容は思い出せない。海だの鮫だの、そう言った単語だけなら思い出せるが、全体となるともう駄目だった。
否、そもそも夢というものがそういうものなのだ。残念がる必要はなかった。だが、何処か懐かしいような感覚がまだ残っている。その所為か、何だか淋しい心地がした。
「私も年かな~...。」
体を伸ばしながら、冗談めかしてそう独り言ちたが、言葉に出すと余計に気怠くなってきて、結局途中で言葉を切ってしまった。
寝ぼけ眼で朝食を作りながら、今朝の夢についてふと考えた。
夢――一時期は、見ることすら嫌になっていた。そのせいで寝不足になっていたほどだし、今でも若干その気はある。
ホシノちゃん──。
なんで、私を見捨てたの──?
まだ、あの声は聞こえる。勿論夢の中の幻聴だが、記憶の中のあの人は、ずっと自分を苛み続けている。だから、夢なんて嫌いだった。
今は、声が聞こえる度に、大丈夫と、そう自分に言い聞かせている。
あの人の夢は私が受け継いだ。あの人が成せなかった学校の守護を、私はやり遂げる、やり遂げられる。
それにしても。
何故、海の夢だったのだろうか。
魚が好きだから?それにしても、今まで見てなかったし、何なら海を見たことすら無かったからそれは奇妙だ。何せこの辺りには一面砂しかないのだ。数年前、オアシスを掘り当てようとしたことが懐かしい。今じゃそんなこと絶対にしないだろうから。
そんなことを考えていると、また――あの時の記憶が呼び起こされた。この質は本当に厭になる。
まあ、夢に理屈を求めるほうが可笑しいのだろう。そう思って、早々にこびり付く思念を振り払った。
適当に朝食を済ませて、登校ついでに日課の見回りを始めた。
日を追うごとに、この地域は物騒になっていっている気がする。そもそも地域の治安維持を担う学校が廃れかけているのだから、これも仕様がないことだと思う。仕様はないが、それでも何とかしなければならない。
折角、今年は二人も新入生が入ってきてくれたのだ。どっちも自分とは違って真面目な子だ。猶更頑張らなければならない。
「あ、昨日の方!昨晩はありがとうございました!」
不意に、傍から声を掛けられた。
振り返ると、何処かで見覚えのある顔があった。
確か──昨晩、財布をひったくられた人だ。ちょうど居合わせたから、犯人を捕まえて財布は返したんだったか。
「あれ以降は大丈夫でしたか?」
「ええ、お礼も渡せずにどこかに行かれてしまったので...受け取って下さい!」
そう言いながら、その人はお金を渡してきた。
「うへ、そんな唐突に言われても困るな〜...」
「それでもあなたは恩人なんです!是非...!」
その言葉と共に、ぐいと札を押し遣ってくる。
正直、困る。お金自体は有難いが、こうも人目に付く場所でやられると良からぬ誤解を産むのではないかと思ってしまう。
「わ、分かりましたから!」
結局お金は受け取ってしまい、足早にその場を去った。寧ろそっちの方が怪しまれそうだが、その時は急いで離れたかった。
自分がそこまでされる程の人間じゃないと思っていたからかもしれない。純粋な厚意なのは分かっているのだが、自分が屈折してるせいでどうも真っ直ぐに受け止められない。矢張り自分には厭な処が多過ぎる。
暫くダラダラ歩いて、漸く学校に着いた。ゆっくり歩いたとは言え、発ったのが早かったからかまだ誰も来ていなかった。
油断したからか、大きな欠伸とともに眠気が襲って来た。矢張りまだ眠りの質は良くないのだろうか。取り敢えず、空き教室の机に座り、顔を突っ伏した。多分、誰かが来たら起こしてくれるだろう。
顔を伏せると、途端に眠気に瞼が落ちた。そしてそのまま、意識がゆっくりと溶けていった。
暗い。暗いところにいる。
また、海だ。
矢張り魚はいない。
また独りなのだろうか。
「ここにはきっと、君と私しかいないだろうね。」
また声が聞こえた気がする。
鮫の声だ。なんで鮫だと思えるのかは分からないけれど、兎に角鮫だ。
独りじゃ──ないのか。
じゃあ、何処にいるんだろう。
「落ち着いて、この闇の中にある小さな光を見つけてご覧。そこに私はいるから。」
まだ声はぼやけていて、上手く聞き取れない。
ただ、何となく、近くにいる気がする。
そもそも。
この海は、いったい何処のものなのだろうか。
否、魚がいない海なんてあるのだろうか。無いだろう。
なら、ここは海では無いのか。
考えるだけ無駄か。
だって、こうして何も思わずに揺蕩うだけで、心地がいいんだから。
ずっとこうしていたいな。
視界が明く染まっていく。
きっと直に目が覚めるのだろう。
「またこの海で巡り会えたら、今度は話せるといいね。」
またぼんやりと声が聞こえる。
次は、お話出来たらいいな。
きっとあの声の主も、この海の中を孤独に居るのだろうから。
目が覚めると、もう9時を過ぎていた。とっくに皆来ているだろう。慌てて起きて、皆がいるであろう部室に向かった。
机で寝たせいか、首や肩が少し痛かった。
「ホシノ先輩、今何時だと思ってるんですか!」
部室に入ると、アヤネちゃんの怒声が耳を貫いてきた。
「ん、先輩ねぼすけ。」
「うへ、ごめんってば〜...。」
一応心から謝るが、口調のせいで軽薄な感じが拭えない。
それでもアヤネちゃんは納得してくれたのか、席を一つ空けてくれた。
そこに座り、漸く会議が始まった。
とはいえ、会議で話す内容なんて、特段無かったのだが。
「ん、やっぱり銀行強盗しかない。」
「却下かな〜。」
「ん!!!」
「そんな顔しても駄目だよシロコちゃん。」
シロコちゃんは銀行強盗を熱烈に推してくるし。
「もっとクリーンな稼ぎ方をしましょう!アイドルとか!」
「アイドルか〜、おじさんそういうの好きだよ〜?それで、誰がやるの?」
「勿論、ホシノ先輩です☆」
「うへ、おじさんがアイドルになって売れたらちょっと世間を疑うかなー。」
ノノミちゃんは些か世間離れした提案をしてくるし。
「このブレスレットを他の人に売っていけばお金が倍々に...」
「セリカちゃん、多分それ騙されてるよ?」
セリカちゃんは騙されやすすぎるし。
「じゃあ、ホシノ先輩はどうなのよ!何かいい案があるの!?」
「うへ、そうだな〜...おっきい学校のスクールバスをジャックしてウチに来させるとか?」
初めは巫山戯たつもりで言ったが、これはこれでアリな気がしてきた。何よりも手っ取り早いし、私が動けばその辺の子達なら無理やり引っ張って来れるだろう。
「...皆さん──」
その声に横を見ると、アヤネちゃんが沸点に達した顔をしていた。これは──不味いかもしれない。
「──ちゃんと会議をしてください!!!」
案の定、直後に空をちゃぶ台が飛んだ。
毎回、結局こうなってしまう。それでも、この日常が愉快だと思う自分もいる。この光景を守りたいとも。それは──傲慢な願いだっただろうか。
アヤネちゃんを宥め落ち着かせてから、気になることを聞いた 。
「そういえば、物資のお願いはしたの?」
少し前から出来たシャーレという新組織。生徒の頼みなら何でも聞くと言う触れ込みに、些か怪しさを感じながらも、もはやそれに頼るしか無かった。
今は兎に角物資が無いのだ。銃弾だって節約しながらじゃないと直ぐに底を尽きるだろうし、怪我をしても安定して治せるかすら心許ない。
「それはしたんですが──」
微妙に歯切れの悪い言葉が返ってきた。
「どうしたの?断られちゃったとか?」
それならば、いっそシャーレを強襲して物資を奪ってやろうかと思ったが。
「まだ返事は帰ってきていません。ですから、本当に来るのか...。」
そこまで言って、アヤネちゃんは項垂れた。
よしもうシャーレを襲ってやろうかと思ったが、流石に思い留まり、外を見遣った。
この所、砂がまた増えてきている。清掃をする余力がある人ももう少ないのだろう。それ程までに寂れているのだ。
結局──自分は何を守れているのだろうか。
あの人が置い遺した夢を、私は受け継げているのだろうか。
「──アヤネちゃんはさ。」
その言葉に、アヤネちゃんが顔を上げた。
「どうして、この学校に入ったの?アヤネちゃんって賢いし、もっと別の場所にだって行けたと思うよ?」
しかし、アヤネちゃんはその言葉を否定した。
「私は、この学校が好きだから入ったんです。他の学校なんて──考えられません。」
それは──私だって好きだ。だが、私が愛しているのは、本当にこの学校なのだろうか。
そう思うと、目の前にいる後輩が、途端に眩しく見えた。私には、その光は眩し過ぎた。
「そっか、ありがとね。」
「いえ、思ったことをそのまま言っただけなので...。」
そう言いながら再び俯く彼女の頭を、少し撫でた。
それも、儀礼的な動作に過ぎないような気がした。
その後アヤネちゃんも他の皆も帰り、学校に残ったのは私一人だけだった。
重い腰を上げて廊下を掃除しながら、夕陽に焼けた街を見た。
砂が橙色を反射して、辺りが燃えるように赤くなっている。火が灯っている様で、そのせいか静かな街並みも何処か活発なように見える。
実際もそうであったら良かったのに。きっと、蝋が溶けるように、この火もいずれ沈み消えてゆくだろう。
ある程度片付き、何時もより早く家に帰った。普段は見回りをしているが──今日は何となく、そんな気分になれなかった。
適当に夕食を作ったり風呂に入ったりなど、日常的な動作を済ませて、ベッドに転がった。
特段何もすることも無く、テレビも付ける気になれなかった。どうせ何処かのニュースぐらいだろう。
目を閉じると、先程まで無かった眠気が押し寄せてきた。そのまま、ゆっくりと意識を手放していった。
また海だ。今日で三度目だったか。
矢張り魚はいない。孤独──では無いのだろう。きっと、あの鮫もいる。
何処にいるんだろうか。
「小さな光を追い掛けたら、きっとそこに私はいるさ。」
光?
ここは真暗闇だ。光は見つからない。
「君が見ようとしていないだけだ。目を凝らして、落ち着いて見てご覧。」
落ち着いて、目を凝らす。
真暗闇だと思っていたが、遠くにぼんやりと、小さく淡い光が見えた気がした。
そこに向かうように、或いは沈み込むように、体を動かした。
何も無い中を、ゆっくりと下っていく。
何かを遡るように、逆波を掻き分けるように、沈んでいく。
その時。
目の前に、大きな何かが現れた。
それは、ゆっくりと体をこちらに向けた。
淡く光る、壊れかけの蛍光灯。
それは、鮫というには余りにも巨大で、何処か御伽噺の中の怪物のようだったが。
「漸く会えたね、海の旅人さん。君も、この海を下っていくのかい。」
優しく、それは語りかけてきた。
間違いなく、あの鮫の声だった。
「暫し、語らおうじゃないか。私たちの夢と、向かうべき方向を。」
ご拝読ありがとうございました。
毎度のことながら、感想やお気に入り、評価などしてくれると作者がとても喜びます。
それと、リクエストも募集しているので、感想などに書いてくだされば書こうと思います。
プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか
-
ええよ
-
あかんで