前回と同じく、今回も「小鳥遊ホシノ」というキャラクターに対する個人的な解釈が多分に含まれていますので、その点はご容赦をば。
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君は、一体...。
「私の名前は重要じゃない。もっと言えば、ここに名前なんてあって無いようなものだ。君の呼びたい様に呼べば、それが私たちの名前さ。」
じゃあ、鮫さんでいい?
「いいとも。」
それじゃあ...ここは、何処なの?
「ここは無意識の根底、底を流れゆく川、或いは集合意識の海と呼んでもいいかもしれない。少なくとも、ここは誰かの、そして皆の夢の中に在る海だ。」
よく...分かんないな。
「分からなくてもいい。重要なのは、私たちがここにいるという事実だ。
この深く暗い水底の中にこそ、最も明るく輝く夢がある筈なんだ。」
明るく輝く...夢...?
「きっと、君にもあったんじゃないかな。誰にも手を伸ばせない、君自身の大きな夢が。」
私の、夢は...。
ピピピピッ
ああ、また音が鳴っている。
「もうすぐ君は目覚めるだろう。じゃあまた、今度は君の夢を聞かせてくれたら、嬉しいな。」
うん、またね、鮫さん。
また、アラームの音で目が覚めた。何だか眠い、普段以上に寝たはずなのに、それでも眠い。
欠伸を噛み殺しながら朝の支度をし、その間も矢張りあの夢のことを考えていた。
あの鮫さんは、私の夢について聞いていた。でも、私の夢は――
私の夢は、何なのだろうか。
その疑念が頭をもたげて、またあの人の姿を幻視する。
まだ――囚われている。自分でも呆れて笑いが出てしまうぐらいだ。
そもそも、あの会話も夢の中の話だ。現実のものじゃない、虚構だ。
夢なんて所詮、そういうものだ。
でも――
そう思うと、何だかまた一段と、虚しくなって、それを認めることも、矢張り止めた。あの人のことも序でに否定しそうになってしまうのが、恐かったからかもしれない。
中途半端だ。
そうこう考えているうちに何時の間にか用意は済んでいて、適当に朝餉をかき込んで、早々に家を出た。
それでも矢張り昨日と変わりなく、微妙な治安の悪さと、それでも変わらずに廻っている街並みを眺めながら、校門の前まで着いた。
学校に来て先ず初めに行くのは、空き教室の一つだ。そこには未だに、あの人との想い出がこびりついている様な気がする。勿論気のせいだろうが、そうであったとしても、暫くは縋っていたかった。その"暫く"も、かれこれ1年は続いているのだが。
教室の埃っぽい臭いを嗅ぎながら、椅子の一つに座り込む。そこから眺められる景色は、特段普段と何も変わらないはずなのに、何だか懐かしい日々を思い出してしまう。その懐かしさに捉われる様に、静かに目を伏せた。
ホシノちゃん、オアシスを掘り当てに行くよ!
またバカなことを言うんですね。
色んな人に優しくしたら、その分返ってくるんじゃないかな?
じゃあ何で、この学校は栄えないんですか。
貴女はそんなに優しいのに...。
ホシノちゃん、私ね、夢があるんだ。
貴女の夢は...。
「ホシノ先輩、起きてってば!!」
身体が揺さぶられ、眼が開いた。寝て――いたのか。
横に目を遣ると、セリカちゃんが不満げな顔で突っ立っていた。
「先輩、早く来て!ヘルメット団が来てるわよ!!」
その声に漸く目が覚めて、窓の外を見た。確かに、ヘルメット団が数人、銃を乱射していた。面倒だ。だが――
「物資ってまだあったっけ?」
そう、今やもう弾薬すら殆ど無い筈だ。自分一人なら格闘でも何とかならないことも無いだろうが、他の皆はそうじゃないはずだ。
「"先生"が補給してくれたの!ちょうどついさっきね!」
先生、その言葉が今出てくる事を意外に思い、目を丸くした。確か頼んだのは昨日だ。もう来たのか、やけに早いと言わざるを得ない。
そこまで早いとなると、何らか対価を要求されることも必然だろう。身売りか、或いは...
「ちょっと、ボーっとしてないで早く行くわよ!」
セリカちゃんの怒声にまた気付けを受けて、引き摺られる様に対策委員会室に向かった。
中には、他の皆と、恐らく先生だと思われる、見慣れない大人が一人いた。
「ん~、むにゃ、貴方が先生?よろしくね~。」
わざと寝惚けた風を装い、柔らかい物腰で大人に近付いた。まだ警戒する段階ではない、だが信用してもいけない、ここまで生きてきた人生の積み上げた勘がそう訴えている。
机のほうに目を遣ると、確かに弾薬やら医療品が大量に積まれてあった。この大人が真実物資の補給をしてくれたことは間違いないようだ。一応そこは大丈夫かと、一度の安堵を得た。まだ警戒すべきことに変わりはないが。
ヘルメット団のほうとは言えば、これがまたあっさりと処理できた。後ろから飛んでくる指示が的確だったのも、一つの要因だっただろう。
校舎に帰ると、大人が明るく出迎えてきた。何故こうも馴れ馴れしいのか、そういう性分なのだろうか。その上に、何かしらの対価を要求する素振りも無い。まるで――
否、そこまで考えて、思い留まった。あの人の影を、選りにも拠って大人なんかに重ねるなんて、酷い話だ。向こうも勝手に被せられたら厭だろう。それに、まだ本性を隠している可能性も十二分にある。
各人が自己紹介をして、自分もそれを終わらせたところで、早速ヘルメット団のアジトを叩くことを提案した。利用できるなら、使ってやる。それが、あの人の――
夢、なのだろうか。
否、あの人はこの学校を何としてでも守りたかった筈だ。自分も、そうしなければならないだろう。
その想念を振り切るように、足早に学校を出た。或いは、焦り何かも雑じっていたかもしれない。
幸いにも、ヘルメット団達は然程強くはなく、かと言って数も少なくなく、迷いを物理的に振り切るのには最適だった。
「これで心置きなく借金問題に取り掛かれるわ!」
学校に戻って談笑していると、セリカちゃんの口からその言葉が漏れ出た。セリカちゃん本人は、見知らぬ大人にそのことを言うのは不本意だったのか、教室を飛び出してしまったけれど。
実際のところ、私も話したくはなかった。借金問題がこの学校の恥部だから、というのも理由の一つとしてあったかもしれないが、何よりも――あの人との歩みの一切合切を、あの人から色んな物を奪い去った大人という存在に話す事に、果てしない嫌悪があった。こういう時、あの人はどう言うだろうか。きっと――全部話すのだろう、そしてまた騙されて、そして――
「ホシノ?」
大人からの呼びかけに、ハッと目が覚めた。一度考え始めてしまえば、そのまま沈んで行ってしまう。悪い癖だ。
結局、酷く簡素な説明だけをして、後はアヤネちゃんに任せた。それが一番良かっただろう。
この日は、そこまでで切り上げられ、皆各々の帰路に就いた。校舎に残っているのは、私一人だけだ。
そう、思っていたのだが。
「ん、先輩もまだ残るの?」
空き教室に足を運んだその時、後ろから声を掛けられた。シロコちゃんの声だった。
「うへ、おじさんはちょ~っとやる事があるからね~。」
嘘だ。ただ、ノスタルジーに浸りたかっただけだが、それをこの子供に言うのは、何だか憚られた。思えば、シロコちゃんには未だあの人のことを話していない。話すタイミングも無かったし、これ以降も多分無いだろう。
「シロコちゃんはどうしたの?」
「先輩、何だか不安そうだったから。聞きに来た。」
誤魔化すつもりで聞き返したのだが、単刀直入にそう切り込まれた。相変わらず、この子はそう言う所で遠慮というものがまるでない。物事を教えたのは自分だが、悪い部分を受け継いでしまったのかもしれないなと、一人で内心乾いた笑いが出た。
「そうだったかな~、気のせいじゃない?」
「ん...でも、いつもと違ってた。緊張してた?」
はぐらかそうとしたが、それも上手くいかなかった。シロコちゃんの動物的な所は、こういう時に困るものだ。
「まあ、そうだねえ...。」
今度は、君の夢を――。
「シロコちゃんにはさ、夢ってある?」
何かにつられるように、口をついてその言葉が出た。
眼の前の子供は、呆気にとられたような顔をしていた。
「夢...うーん...。」
「うへ、何でもないから、そんなに悩まなくても――」
自分から言い出したくせに、そう言ってシロコちゃんの言葉を遮ろうとした。怖かった。眼の前の子供から出てくる答えが何なのか、何故か酷く恐ろしかった。
耳を塞ぎたいと、そうとまで思ってしまった。
「いや...あるよ。」
私の心情に構うことなく、シロコちゃんは笑顔で肯いた。
「皆と一緒に、この学校を大きくする。」
――私の夢はね、ホシノちゃん。
この学校を――
「今なら先生もいるし、出来ると思う。」
ここに住んでる皆と一緒に頑張れば、きっと――
嗚呼、駄目だ。耳の中で、頭の奥で、あの人の声が反響する。
「ん...先輩、顔色悪い。大丈夫?」
この子供には夢がある。
私には?
ぼちゃん。水の音がした。
『また会ったね。』
鮫さん?どうして、ここに――。
『夢と現実に確かな境目なんて無いだろう。何故かは知らないし知らなくてもいいと思うけれど、今こうやって私たちと話しているということは大事なんじゃないかな。』
そう...なのかな。
『それで、君の夢は、何だったんだい。』
私の夢は――
分からない。
「先輩...?」
『まだ見えないのかい。』
無いんじゃないかとも思うよ。
『きっと、この深く暗い海の中にあるだろうけれど。』
私には見えないや。
「先輩、先輩!」
『じゃあ、一緒に落ちていこうじゃないか。暗闇を照らす光は、最も暗い所にしかないんだ。』
そこに行けば、私も――。
「ホシノ先輩!!」
身体が揺さぶられ、また目が覚めた。否、起きていた筈なのに、寝ていたような心地だ。
「ん、漸く起きた...。」
眼の前には、半ば泣きそうな顔をしているシロコちゃんがいた。悲しませてしまったのか。これでは、まるで何も成長していない。
「先輩、ずっと顔色悪くて、ボーっとしてた。疲れてるなら休むべき。」
そう言いながら、シロコちゃんは私の身体を抱き締めてきた。昔から、不安な時はこうしている。何だかこの感覚も懐かしい様な気がした。それなのに、昔のような安堵感は無い。
「大丈夫だよ、シロコちゃん。」
その言葉と共に、胸に埋めている頭を撫でた。
でも、不思議と、撫でているときにも、何も感じなかった。自分が空っぽだと、まざまざと見せつけられている様に感じてしまい、また厭になった。
「ん...じゃあ、今日は私と一緒に帰って。」
「うへ、甘えんぼさんだ~。」
「ん...そうじゃなきゃ、先輩無理する。」
中々厳しく、それでいて的確な言葉に胸を射抜かれた。乾いた笑いしか出てこずに、結局二人で一緒に帰路に就いた。
寒空の中、二人で先生のことについて話そうかと思ったけれど――矢張り、大人の事について話すのは、何だか厭だった。
シロコちゃんと別れて、自分の家に帰りベッドに身体を埋めながら、今日のことについて考えた。
この所、後輩たちを泣かせてばかりだ。あの日、あの人を見捨てた時から、進歩していないのだろう。
「私の夢...。」
そう呟いてみたが、矢張りそんなものは分からなかった。
やがて、段々と眠気が襲い掛かってきた。今は眠りたくはなかった。あの鮫さんと話していると、何処かに引き摺り込まれそうになってしまう。
それでも生物的な本能には抗えず、結局瞼が次第に落ちていき、意識もそれに倣って深く消えていった。
荒涼とした砂漠だ。
海じゃ――ないのか。なら、鮫さんはいないのか。
何だか嬉しいような、寂しいような、よく分からないな。
暫く歩きながら、思案する。
ここは何処なんだろうか。どこまでも広がっているし、果てが見えない。後ろを振り返っても、砂が有るだけだ。
でも、歩かなきゃ行けない様な気がした。
歩く。
少しずつ、風が吹き始めた。
砂埃が舞い始め、視界が少し塞がる。
歩く。
誰かの声が聞こえる。
視界は砂で塗れて見えない。何処にいるのかも分からない。
歩く。
知っている。
この場所を、私は知っている。
歩きたくない。
それでも足は進む。
歩く。
何かが落ちている。
鞄だ。
誰のだろうか。
否、私はそれを知っている。
誰かがそれを拾い上げた。
「ホシノちゃん。」
顔を上げたくない。
でも。
「あれ、もしかして寝てる?」
懐かしい声に、耐え切れずに、顔を上げた。
「あ、気付いた!?無視なんて酷いよー!」
緑色の髪、黄色い瞳、柔らかな身体と笑顔。
「ユメ...先輩...。」
「ホシノちゃん、覚えてる?」
「私ね、夢があったんだ。」
ご拝読ありがとうございました。
毎度のことながら、感想やお気に入り、評価などしてくれると作者がとても喜びます。
それと、リクエストも募集しているので、感想などに書いてくだされば書こうと思います。
マシュマロも開いたよ!俺、いいアイデアが思い浮かんだ...人は投げつけてくれると喜びのたうち回ります。
https://marshmallow-qa.com/pfrcn2t7nqzsj38?t=hb5gJk&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
あと最後の方に置いてるアンケート何ですが、単純に気になっただけで答えたから何かが変わるという訳でもありません。過激派の皆さんは僕に対する殺意を持ってると見なします。冗談です。
プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか
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ええよ
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あかんで