鏡の中の青春   作:ひいろの鳥

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年末なので恐らくこれが書き納めです。早くてもう4か月かな、ここまで読んでくれてる人ありがとうね。
それと、今回からメイン章には副題で何がテーマかを記します、分かりやすいしね。
毎度ながら感想お気に入り評価など有難く頂戴しております、是非して頂ければモチベがめちゃ上がります、マジで。くれ。(乞食)
それでは、よいお年を。

雰囲気的に最後に宣伝を持っていきづらいので、ここでいつもの定型文をば。
リクエストも募集しているので、感想などに書いてくだされば書こうと思います。
マシュマロも開いたので、俺、いいアイデアが思い浮かんだ...人は投げつけてくれると喜びのたうち回ります。アブノマ×生徒とかそういう感じのやつ。
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砂漠の夢

「私ね、夢があったんだ。」

 

夢、ですか?

 

「うん、昔話したっけ。」

 

いえ...初めて――

初めてだったっけ。

 

「私ね、この学校を、もっとずっと先まで、続けたいんだ。」

 

続けたい、ですか。

それじゃあ、もっと現実を見ないとですね。まずは目の前にある仕事から片付けませんか。

 

「ひぃん...ホシノちゃんは真面目だね...。」

 

それで――学校を守りたい、ですか。

 

「うん。私、この学校が好きだから。」

 

でも――もう無理ですよ。

 

「無理じゃないよ!ここに住んでる皆と一緒に頑張れば、きっと――」

「それが夢物語だって言っているんですよ!」

 

何で私はこんなに声を荒げているんだろうか。

 

「でも...。」

「でもじゃありません!現実を――現実を、見て下さいよ...。」

 

私が、机を力任せに叩きながら叫んでいる。

 

「何で私を見捨てたの?」

 

見捨てる気なんてありませんでした。

見捨てたくありませんでした。

でも、私は、未だ――

 

「私ね、夢があったんだ。」

 

夢って何ですか。

 

「この学校を――」

 

それが、あなたの夢だったんですか。

 

「夢が――」

 

光景が繰り返される。壊れたラジオみたいに、ゆっくり、早回しで、ぐるぐると。

 

夢が――

 

――分かりません。

 

貴女の夢はそうだったんですか。

なら、私の夢は――。


その日の目覚めは最悪だと言って良かった。暫くの間は――鮫さんとの話をカウントしなければ――見なくて済んでいた悪夢を、また見てしまった。こうなってしまえば、眠ることすら億劫になってしまう。けれども、これは仕方の無いことだと思う。これも、言い訳に過ぎないのだが。

朝の支度はしたくなかった。最悪の夢見が現の精神状態にも響いていて、どうにも遣り切れないほど憂鬱だった。もう学校にすら行きたくなかった。昨日までのことを思い出すだけで厭になる。布団に包まったまま、宛ら虫の様に蹲っていた。その布団の中の暗闇に居ると、矢張り昨日からずっと昔のことまでを早戻しで遡っていくように思い出され、それも酷く厭になって。

結局、何も口にせず、フラフラと家を発った。家を出た時間が少しばかし早かったせいか、外はまだ薄暗い。

向かっている途中で、ふと鏡に映った自分の顔が見えた。まるで自分の顔だとは思えなかった。

嗚呼どうしようかとも思ったが、どうにもできないと直ぐに悟り、どうにか誤魔化す為の言い訳を適当に頭の中で捏ねながら、またフラフラと歩いて行った。

 

学校に着いても、矢張り誰もいない――訳では無かった。いつもの空き教室に足を運んだ時に、人の気配を感じた。咄嗟に警戒し、銃を構えながらゆっくりと中を覗き見た。

――教室の真ん中で、あの大人(先生)が眠っていた。

それを見て、何か安心できると言う訳では無かったが。それでも幾らか警戒心を解いて、ゆっくり近づいた。

完全に無防備な状態で眠っている。聞いた話だけでも相当な立場のはずなのに、警戒心というものは無いのだろうか。枕代わりになっている紙束は、どうやら何らかの仕事の書類のようだ。物理的に枕を高く出来るぐらいには積み重なっている。これではいずれ圧死してしまいそうだ。無茶をしていることは一目瞭然だった。

――矢張り、あの人みたいだ。故人を重ねることが失礼なのは分かっているが、それでも思い出してしまう。夢で会ったからだろうか。そうならば単純過ぎる。

結局、これを放置したまま立ち去るのも何だか後味が悪いような気がして、適当に落ちていた毛布を引っ掴んで肩に掛けて、部室のほうで過ごすことにした。

パイプ椅子に腰掛けると、また直ぐに眠気が押し寄せてきた。眠りたくないという想いと、眠りたいという生理的な欲求とがせめぎ合って居る。

 

『それで――』

 

どうしたの?

 

『君の夢は、見つかったのかい。』

 

――まだ。

まだ見つからない。

 

『それじゃあ、やっぱり...。』

 

...それもまだ、怖いんだ。

 

『...そうかい。焦ることはないと思うよ。重要なことだ。』

 

そう...なのかな。

 

――足音が聞こえる。

廊下のほうに、静かに気配を感じた。息を頑張って潜めようとしているようだが、隠しきれていない。誰かはわからないが、慣れていないのだろうか。

 

「...誰かな~、そこにいるのは?」

 

顔を向けないまま、背を向けてそう話しかける。念の為に銃に弾を込めておきながら、背中で全ての気配を感じ取るように気を集中させた。

 

「...え~と、よく分かったね...。」

 

後ろから柔らかい声が聞こえた。あの大人の声だった。

 

「うへ、先生だったのか~。」

 

こちらも、お返しするように振り返って柔らかく答えた。流石にまだ争うべきでは無いだろう。

 

「...隈凄いけど、大丈夫?」

 

そう言う大人は心配そうな眼付をしている。そういえば誤魔化す言い訳も考えていなかったか。

 

「あはは、ちょっと夜更かししちゃってね...先生も教室で寝ちゃってたみたいだけど?」

 

結局適当にはぐらかして、先生に聞き返す形で落ち着いた。これほどのことも面倒だと感じるとは、矢張り余程疲れているのだろうか。

 

「私も仕事が立て込んでてね...。」

 

向こうも疲れた様子でそう話しながら椅子に座った。その時の顔は、何か話したそうだったが――向こうに話す気が無かったようなので、こちらも無視した。

その後、暫く無言の時間が続いていたが、シロコちゃんを初めに皆がやってきて、また暫くの間は静かになった。

その日の昼頃に食べたラーメンは、朝食を抜いていたせいかやけに美味しかった気がした。気のせいかもしれないが。

ただ、その日の幸せはそこまでだったと言えよう。夜に――セリカちゃんが誘拐されたという連絡が飛んできてから、今までの幸せの一片でも壊される感覚に陥った。その時は偶然――でもないのだが、学校に残っていた。連絡が飛んできて、直後に自分独りで街中を探し回ろうかと真剣に考えたが、偶々学校にいたらしい先生が、シャーレで居場所を調べると言い出した。大人の力に頼るのは何だか厭だったが、頼らざるを得ない状況であるのもまた確かだった。

否――この大人何ら大丈夫かもしれない、そんな思いもあったかもしれない。あったかもしれないが、その考えは否定したかった。でも、何で否定したかったかは自分でもよく分からなかった。

幸い、居場所は直ぐに分かって、救出も間に合った。不安そうに涙を浮かべるセリカちゃんを見て自分も少し泣きそうになったが、流石に後輩に涙を見せたくはなかった。

その日は夢を見なかった。覚えてないだけかもしれないが、それは少し嬉しくて――何故か、寂しいことでもあった。

 

だが、不幸はこれだけに留まらなかった。とはいえ、此方の不幸は自分の感情的な問題だったが。

また幾何日か経った後に、スマホに一本のメールの通知があった。スマホに電話でもモモトークでもなく、ただのメールを使ってくる人間は一人しかいない。

 

 

「それで、何の用?黒服。」

 

人気のないオフィスビルで、自分を呼び出した男の名前を呼んだ。はっきり言って、この大人は嫌いだ。あの人を食い物にした人間と同じ類の臭いがしていた。

 

「クックック、分かっているでしょうに。」

 

出来る限りねめつけた筈だが、構わずに嫌味たらしく笑いながら返された。

 

「...まだこの身体は売らないよ。」

「即答ですか、貴女らしいですね。」

 

私の何を知っているんだと言いたかったが、この男なら粗方調べてそうだなと思い、それを聞き出すのも気持ち悪くなって辞めた。

そもそも、この男の目的がまだ分かっていない。学校そのものが欲しいかといえばそうではなさそうだ。何方かといえば――私自身か。それもそれで酷く気持ち悪いが。

 

「話は終わり?ならもう帰るよ。」

 

そう言って踵を返そうとしたが、黒服は引き留めてきた。

 

「どうやら顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

 

何故そこまで見ているんだ。お前のせいだと言おうとも思ったが、凡その原因がそこにはないと言うことは知っていたので、その言葉を呑み下して、代わりにお前には関係ないと言ってやった。

 

「...そうですか。ですがまあ、倒れられたりしても私としては困りますので、何かお困りのことでもあれば、こちらでも適切な治療などをお届けしましょう。」

「誰がお前の世話になるもんか。」

 

我ながら妙な捨て台詞だとは思ったが、気にせずにそのままその場を去った。そもそも、大人の手を借りること自体が厭なのだ。また何を奪われ要求されるか、分かったものでは無い。それこそ、取引でもしないと学校が潰れる様なことでも無い限り。

一瞬振り返った時に、あの男の不安そうな顔が見えた気がしたが――気のせいだということにして、そのまま無視した。

 

『じゃあ、学校が潰れそうになったら?』

 

...応じるよ。それが――

 

『君が大切にしている人の夢だったから?』

 

そうだ。それで何が悪い。

 

『君がそれでいいなら、いいんじゃないかな。』

 

...もう、話しかけないでくれ。

 

――声は止んだようだった。

この所、あの声が昼夜問わずに流れ込んできている。夢と現の境が曖昧になっている。

 

便利屋68と交戦したり、

銀行を襲ったり、

ラーメン屋で楽しくラーメンを食べたり、

他にも色々なことがあったはずなのに。

 

その全てが、夢であるように思えた。

否、むしろ今までの全てが夢だったらよかっただろうに。

夢が私を蝕んでいる。そしてそれを私は受け入れている。

それが酷く――怖かった。

私が今どこに立っているのかすら曖昧だ。

まるで真暗闇に取り残されているような不安に、ずっと襲われている。矢張り――眠れない。眠りたくない。

屡々嘔吐感を催すようにも成り始めた。隈も隈隠しでは誤魔化しが効かなくなりそうだ。

あの声は、暫くは聞こえなかった。でも、ずっと何かに見られているような気持ち悪い心地が纏わりついていた。

 

「夢って、何なの...。」

 

夕陽に焼けた路地の裏手で、そう独り言ちた。そのまま、また吐きそうになって、道端に吐瀉物を撒き散らしてしまった。いつもは喧しく話していたあの鮫さんの声も、その時は聞こえなかった。

 

 

 

「...さん、ホシノさん。」

 

うるさい。だから、未だ――

 

「小鳥遊ホシノさん、大丈夫ですか。」

 

その言葉に、ハッと目が覚めた。どうやら呼びかけていたのは黒服のようだった。

 

「以前よりも顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」

「ふん、そんなやつの体調なんざ気にする必要も無いだろう。」

 

この前よりも不安そうな目で私の顔を覗き込む黒服とは正反対に、奥にいるもう一人の見慣れない大人は冷徹に言い放った。

 

「私としてはそういう訳にもいかないんですよ。」

 

呆れたようにもう一人の大人に言い返すと、黒服はまた私に話しかけてきた。

 

「それで、取引――いえ、その前に治療ですかね。そのままではいずれ倒れてしまいますよ。」

「うるさい。」

 

そんなこと、私が一番知っている。

 

「誰がお前の世話になるか。」

「クックック...そうですか。それでは、取引の方は――」

「断る。」

 

そうやってまた即答すると、奥にいる大人が気味の悪い笑い声を上げながらこちらに歩み寄ってきた。

 

「まだ立場を分かっていないようだな?この条件が破格だということは分かってるだろう?」

 

それも――そうなのだ。私の身一つで解決するのであれば――

 

――じゃあ何で、それをしないのだろう。

単純だ、こいつらが信用できないからだ。

 

「帰る。」

「お大事にしてください、ホシノさん。」

 

黒服のその一言は矢張り気持ち悪くて、無視してそのままその場を立ち去った。

 

でも、あの提案は酷く魅力的だった。

今の子の地獄から、あの子達を、私を開放できるなら――

否、それは利己的だ。そうじゃない。そうじゃない。

 

「...変ったわね、小鳥遊ホシノ。」

 

私は何も変わっていない。

 

「お前の身でも売れば借金は返せるんじゃないか?」

 

それは――そうだろう。

そして、そうすべきだ。

ああ、どうしてそんなことに気づかなかったんだろうか。

 

「この退部届はどうしたの、ホシノ。」

 

私以外には分からない。

――あの人の夢なんて、私以外に分かりっこない。

 

「...お待ちしておりましたよ、小鳥遊ホシノさん。」

 

これで、漸く――。


私は砂漠で蹲っている。

私はその横を通り過ぎる。

私はそこに何かを置いてきたけれど、それが何かは分からない。

 

 

私のずっと後ろには誰かがいる。もしかすると前方かもしれない。きっとそれはどうでもいい。

私はずっと前を向いている。後ろかもしれない。きっとそれはどうでもいい。

 

私は進まなければならない。

 

何処に?

 

何処なのだろうか。

 

 

「私の夢はね――。」

 

 

懐かしい声が聞こえる。それは私の声ではない。

私の夢は分からない。

 

 

いつしか、砂漠は海の夢に変わっている。

 

「久しぶりだね。」

 

そうだね。

きっとこれが最後の会話になるだろうから。

 

「そうかい。それで――。」

 

私の夢は分からない。

 

「...そうなんだね。」

 

だから、君のそのランプで、照らしてほしいな。

 

「!...そうだ、そうなんだ。」

 

この海は暗いでしょ?

 

「でも、その闇の果てに至れば光りがある。」

 

そこに、暗闇で光を放つものたちがあるから。

 

「そこへ行こう。」

 

私たちは最も暗い場所で、最も明るく輝くんだ。

 

「私たちは捨てられたけどみんな夢があったよね、覚えてる?

さぁ、あの夢を叶えに深く深く降りてゆこう。」

 

ランプは鈍く輝く。

そうだ。私の夢は分からない。でも、きっとこの暗闇の中に、砂漠の奥深くに、取り残されている。

だから、私は――

私は―

  • 一緒に降りていくと言う。
  • 一緒に降りていくと言う。
  • 一緒に降りていくと言う。
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