うおっ乙四試験と模試が近いぞどうするんだ俺こんなの書いてる場合じゃねえぞ
色褪せた、巨大な屋敷。外はいつも通り曇天と嵐で満たされているが、今日はもう既に邸宅の中にいる。
ここ何週間かは毎日通い詰めていたが、今日で終わってしまうのかと思うと、この生気のない空間も少し寂しく思えてしまう。
今日は魔女狩り――魔女となった聖園ミカが、この邸宅に残るもの全てを破壊し、蹂躙し、奪いつくすと宣言した日。
そして、そのミカを、殺さなければならない日。
否、本当のところは、今日の戦いと、それによって流れる血と崩壊で終わってしまうような物語など、あってはならない。少なくとも先生はそう思っている。
だが、それを避けようにも――
どうすればいいのだと、どう関われば良かったのだと自問自答する。まだそれが幾分か気が早いことは分かっているが、それでもそう思わざるを得ない。
「先生、おはようございます。」
「おはよう、先生。」
遅れてやってきたのは、研ぎ澄まされたセイバーを持った当主――桐藤ナギサと、付き人であり給仕長の錠前サオリだ。
おはよう、と軽く挨拶を返すが、二人の顔色はそれほど芳しくない。
ナギサについては、いつも通りといえばそうなのだが。
「二人とも、大丈夫?」
「私は大丈夫だ。いつもより入念に準備をしていたせいで少し寝るのが遅くなってしまったが。」
「私は――寧ろ快調と言うべきでしょうか。何せ、今日でこの全てが終わるのですから...。」
そうは言いながらも、ナギサの肩は少し震えている。
「大丈夫だよ、ナギサ。」
そう言いつつ肩に手をかけ、落ち着かせる。
少しずつ震えが取れていき、呼吸が落ち着いていくのを感じた。
「ええ、ありがとうございます。
――ですが、少し情けなかったですね。先生の手前、あまり醜態は晒したくありませんでしたが。」
ナギサは少し笑った。昨日から続いて二度目の笑顔だが、今のそれには自嘲が多分に含まれている。
だが、そうなるのも無理はない。
何年も積み上げて溜め込んできた全ての感情を、今ここですべて吐き出そうとしているのだ。揺らぎが起こるのも自然な話だ。
むしろ、自分自身のほうが恥ずべきだと思う。
半端な覚悟でこの場に立っているわけではないが、全てを奪われ泣き叫んだ当主や、全てを知りながらもどうすることも出来ない無力を味わった給仕長、仲間を奪われていったバトラー達。
彼女たちの目を見ていると、未だに別の道を探し続けていることが、逃げの選択であるような気がしてならない。
だが、それでも。
誰かの――特に生徒の崩壊で終わるようなものは、先生として、否――一人の人間として、心の底から否定したくなる。そんなものはまやかしだと叫びたくなる。
だから、今為すべきことは―――。
バン、と割れるような音とともに、厳重に閉ざされた扉が開かれた。
「桐藤ナギサ!!!今日の日を忘れたとは言わせないよ!!!」
つんざくような大声とともに、魔女がその姿を現した。
その背後には、数多の影の軍勢が従えられている。
その行軍は魔女本人の手によって遮られているが、彼女が少しでも指を動かせば、たちまち邸宅中を影が覆いつくすだろう。
「忘れる...ものですかッ...!!」
影達を、そして魔女本人を睨みつけながら、力の限りナギサは答える。
影の中には、彼女の見知った顔があるのだろうか。行軍を見る目は、何処か憐憫を感じさせる。
「今日、貴女と、そしてこの悪夢と決着を着けるために、どれほど刃を研いだか!」
「今日、お前とこの物語に幕を閉じるために、どれほど剣を振るったか!!」
互いの声が、邸宅に木霊する。騒めきは空間を揺らし、痺れるような感覚を植え付けてくる。
もはや二人の間に御託は要らない。
魔女と影達の行進が再び始まるのを契機に、戦いの幕は切って落とされた。
「来たか。」
「やっぱり貴女も立ちはだかるんだね、サオリ。それに...。」
視界の端で、見慣れない大人を捉える。噂には聞いていたが、アレが先生とかいう大人なのだろう。
ナギサがここまで準備をするのは、予想できていたことだった。だが未知数なのは、先生の実力。
噂通りなら、あの人の指揮一つで無茶な戦いにも必ず勝ち。
どんなに劣勢で心が折れそうだとしても、手を差し伸べて何とかしようとする。
だが、だからといって何かが変わるわけでもない。
ただ、剣を振るい首を切り落とす。それが如何な者であろうと、ここに立ち入った時点で例外ではない。
「挨拶の一つも無しか。お前らしいな、ミカ。」
「久しぶりの顔合わせで最初に出る言葉がそれなのは、貴女らしいね。」
互いに、昔を懐かしむように言葉を紡ぐ。だが、互いが互いの間合いを見合っていて、容易に隙ができない。それはサオリに取っても同じだろうが。
「守るものが増えたようで何よりだよ、私には――奪われ奪うものしか無かったみたいだけど。」
「――お前の保母をしていた時は、まさかこうなるとは思ってもいなかったな。」
溜め息を吐きながら、サオリは鞄から長いナイフを一本取りだして構えた。
もはや言葉は要らないということだろう。奇しくも同じように思い、大剣を構えなおした。
――次の瞬間
カァァァァァン!!!
金属同士が激しくぶつかり合う音が響き渡り、身に衝撃が走る。
知っている。このバトラー達のナイフは特別製で、より効率的に『家事』を仕上げる為のもので。
チーフバトラーの持つものは、その中でも一際大きく、より強い特別製だということも。
だが、それがこんなにも重いとは。研ぎ澄まされたナイフから繰り出される一撃は、ともすればこの身を容易く弾き、切り殺せるだろう。
それに負けまいと、こちらも大剣に力を籠める。
色彩とかいうやつを見て声を聴いてから、いつの間にか握っていた大剣。
荒々しく叩きつけようとしたが、押し合いは終わりそうにもなく、結局互いの身を一歩退かせる結果に終わった。
その瞬間、背後からふと気配を感じた。
咄嗟に身をよじると、首元を切っ先が掠めた。
「...ッ!!」
「首は落とせませんでしたか。」
夢の中で幾度と聞いた、忌々しい声。
桐藤ナギサが、確実にこちらの首元を刺そうとしていた。
「邪魔ッ!!!」
剣を振りかぶるが、軽々しく避けられてしまう。
間髪入れずにもう一発振ろうにも、後ろにはサオリがいる。
このままどちらかを攻撃すれば、必ずもう一方の攻撃を受けてしまうだろう。
ならば、今はまだ使いたくなかったが――
「サオリ、ナギサ、避けろ!」
「ワイルドハントッ!!」
「「!!!」」
掛け声とともに、無数の影の行軍が二人に襲い掛かる。
これも、大剣とともに手に入れていた能力。数えきれないぐらい殺して回った奴らを、自分の手下に出来る力。
この隙に、首を刈り取る――はずだったのだが。
「ナギサ、サオリ、大丈夫!?」
「ええ、何とか。」
「大丈夫だ。」
先生とやらの指揮によって、難を逃れたらしい。小賢しい奴らだ。
直ぐに影を攻撃に転用して、それらを盾にしてサオリに突っ込む。
避けた直後だ、隙は十分にある。
「くゥッッッ...!」
影達はナイフの雨で退けられたが、腹部に剣は刺さった。
だが、違和感を感じる。これは肉を抉った感覚ではない。
気が付くと、目の前にナイフが一本飛び出していた。
「チッ!」
サオリを蹴り飛ばし、ナイフをはじくために剣を振り回した。
あのまま刺されば、かなりの痛手を負っていただろう。
サオリの方に目をやると、手元ににひしゃげた鞄が転がっていた。恐らくあれで防いだのだろう。
二度目の奇襲は避け易い。すぐに敵意を感じ取り、剣を振りかぶりながらワイルドハントを呼び出して突撃させる。
が、振り返った先には、何もいなかった。
それを不思議に思う間もなく、背中に切られる感覚が走る。
「ここが...急所ですね!」
「ガッ...!」
急いでワイルドハントを呼び寄せ、距離を取る。
痛みを堪えながら、なんとか体勢を立て直す。
遅れて飛んでくるナイフを弾きながら、暫し思考を巡らせる。
このまま続けていても、結局埒が明かない。
否、ワイルドハントも無限ではない。長く続けていれば、いずれ隙が生まれてしまう。
だが、分かったことがある。
今のあれらの攻撃で、傷がほとんどないなんておかしいことだ。
遡れば、幾ら特製といえどナイフであれ程の膂力を出せることも、音もなく首に剣先を掠めたのも。
全部、あの大人のせいか。
噂に違わない化け物だ。ならばどうするか、答えは一つに決まっている。
アレもまた、邸宅の一因に過ぎないのだから。
ナギサとサオリがミカと戦っている間、先生は常に戦況がよく見える立ち位置から指示を出していた。
だが、当たり前だが銃と剣では勝手が違う。それは指揮を執る側にも言えることだ。
荒々しく剣を振り回すミカの姿は、怪物といっても差し支えないだろう。
一発でも真面に受ければ、命の保証はない。文字通り、命を刈り取る為のものだ。
そして、それ以上に厄介なのが――
「ワイルドハント!!」
僅かな隙を縫うように現れる、影の雪崩。ミカの声とともに現れるようで、このせいでまともに攻撃を加えることが未だに出来ていない。
幸い、受け流すこと自体は容易で手痛い反撃を受けることはない。だがその瞬間に生まれた隙を狙って、ミカが剣を突き出してくる。
サオリは受けきれたが、次同じ手を使われても同じように対応できるとは限らない。
何か、どこかに隙はないか。思考を巡らせ、戦況を見る。
近づいたときに現れる、影の猛攻。そしてその後に振るわれる大振りな必死の一撃。
瞬間、何かが繋がった気がした。
「ナギサ、影の中を潜り抜け!」
ミカに悟られないように指示を出し、その通りに影の中をナギサは軽々とすり抜ける。
やはり、あの反撃には隙ができる。
そして、その隙を見逃さずに。
「ここが...急所ですね!」
「ガッ...!」
ナギサの剣のきらめきが、ミカの背に輝いた。
だが、あまり効いていないのだろうか。苦しそうな声をあげながらも、影を呼び寄せながら態勢を整えている。
肩で息をしているようにも見えるが――あの様子では、大した痛手にはなっていないように見える。
次の一手に対して思考を巡らせていると、ふと何か嫌な予感を抱く。
ミカが、呆としている?
そこだけを切り取れば隙だらけに見えたが、それだけじゃないように思えてならない。
そして直後に、ミカの足元が黒く染まったかと思うと――
――それまでと比較にならないほどの量の夥しい影が、ミカを取り囲むように湧いて出てきた。
サオリやナギサ、ミカの姿すら覆い隠すほどの影に気圧されてしまう。
何とか二人の名前を叫ぶが、返事の代わりに金属の鳴る音ばかりが鳴り響く。
それをただ見ていることしかできない無力感を噛みしめていると。
先生の首元に、突如として一本の剣が飛んできた。
確かに、先生の首元を狙った。
後のことを考えず、ただあの大人の視界を潰すに足りるだけのワイルドハントを呼び出し、無理やり作り出した隙を穿ったはずだった。
「そんな...サオリ...。」
「だい...じょうぶ、か、先生...。」
私の剣が刺さっているのは、サオリの脇腹だ。先生はサオリの後ろに投げ飛ばされたまま、ただ茫然としている。
「サオリ...サオリ...!」
ただ名前を呼ぶことしか出来ない大人の姿に、失笑を禁じ得ない。
剣を抜いてやると、そこから血が面白いぐらい溢れてくる。まだ死んでないが...この様子じゃ暫くは何もできないだろう。
横たわって何も言わなくなったサオリを蹴り飛ばし、一歩、また一歩と目の前の大人に近づく。
この大人の首を落として、ナギサも殺し、そして、そして...
「私も、殺すつもりなんだね?」
「うん、そうだよ。」
いや、その先を考える必要は無い。
「私は、君に誰も殺させない。」
「黙れ。」
最後までうるさい大人だ。どうせ今から死ぬのに。私に殺させるのに。
そうして、剣を握りしめた。
その瞬間。
背後から、何度目かのセイバーが飛び出してくる。さっき私の背中を刻んだ、忌まわしい剣だ。
振り返ると、顔を限りなく引き攣らせたナギサが、私の首元に剣を突き立てようとしていた。
そうだ、その目だ。
哀悼や悲嘆を持たず、恐怖すら断った、その目。
「ようやく私を見たね、ナギちゃん...!」
「...!」
如何なる言葉も発さず、ただ私の命を取るための剣術。
無論、私もその首を狩るために剣を振り回す。
斬る。避ける。弾く。防ぐ。
斬る、斬る、斬る、斬る。
ただ、何も考えず、目の前の命を奪わんと剣を振るう。
それがこれほど楽しいとは知らなかった!
だが――
「もう限界なんじゃない?」
「...。」
お前もだろうと、目線で返してくる。
その通りだ。互いに消耗は激しく、特に私にはワイルドハントがもうない。
加えて、ナギサにはまだあの大人がいる。ワイルドハントが無ければ、勝ち目は限りなくないといえるだろう。
ワイルドハントは、殺した人間を操り支配下に置く能力。
ならばどうするか、答えは一つしかない。
「ミカッ!?」
「...!?」
二人分の驚きを背に、階下に飛び降りる。
あの場にはバトラー達がまだいるだろう。それらの首を刈り取り支配すれば、まだ勝機はあるはずだ。
「魔女だ、総員構え!」
「負傷者は下がれ!」
「私たちも出ます!!」
バトラーの怒号が次々に聞こえるが、もはやそれらはじきに意味を為さなくなるだろう。
「まずはお前からだ。」
「ひっ!?」
怯えた顔すらもどうでもいい。ただ無感情に、剣を振り下ろした。
「せん...せい...?」
「言ったでしょ、誰も殺させないって。」
『なんとか、間に合いました...。』
『無茶しないで下さいよ、せんせー!!』
目の前にいたのは、身体を裂かれたバトラーではない。
先生が、血の一滴も流さずに、そこに立っていた。
「なんで、生きて...。」
「この子も、君も、私の大切な生徒だからね。」
「誰も死なせない、誰も殺させない。」
「私は、あなたを殺そうとしたんだよ...?」
「分かってる。」
それに――
「それに、私はもう殺した、殺しすぎたんだよ?」
私のせいで、多くのものが壊された。
それに、セイアちゃんも――。
「どうせ知らない癖に...!」
「ミカ。」
「確かに、私は君が過去にしてきたことを知らない。」
「...。」
「でも、罪は一人で抱えるものじゃない。」
「違う、私の苦痛は...私だけのものだから。」
「私は、ミカを赦すつもりだよ。」
いつかサオリが言ってたっけ。赦すということは、罪の半分を背負うということだって。
私も、こうやって身勝手に、他人を救えたら――
否、そんなの幻想だ。有り得ない話じゃないか。
私は全てを否定した。
私を取り巻く全てを否定して、人生の唯一の意味だったあの子すらも捨てた。
私は魔女、裏切りと復讐の魔女。
そんな私が、救えるはずないんだ。
私はそれを知っている。
あれは――。
「未だ接触は不完全だが、これで再び試みれる。」
「この箱庭のもの全てに、救済を与えろ。」
「そして、新たな崇高を迎え入れるのだ―――!!」
私に何かを与えてくる。押し付けてくる。
それは私に課せられているの?
どうせお前たちも、何も――。
「その言葉に耳を貸さないで!」
「君は何にも縛られてないはずなんだ!!」
何にも縛られない?そんなの戯言だ。
私は、私は――。
美しくて、温かい声。
なんで、あの邸宅を去らなきゃいけなかったの?
「崇高の邪魔をするな――!!」
それは、セイアちゃんが...。
セイアちゃんが、私以外の人をその目に捉えてるって知ったから。
セイアちゃんっていう傘が、私に降り付ける雨を防いでいたのに。
その傘は結局、私以外の人のものだったと、知ったから。
だから、耐えられなかったんだ。
私に大切な何かを与えて、それをすぐに奪ったあの邸宅が。
...いや、私には元から何も残ってなかった。
ただ、思い違いをしてただけなんだ。
でも、その思い違いが、もしかしたら本当なんじゃないかって。
ただ、期待が虚しく消えただけだった。
そんな期待に縋ってたせいか...。
『私を、私を置いていかないで!!
セイアちゃん...貴女すらも消えちゃったら...私は、私は!!!』
いつの日か、墓石の前で泣き喚く私がいる。
身を引き裂かれる苦しみ。生きる意味を失った苦痛。
そして、それを全部、この世界にぶつけてやるって。
あなたは、自分のことをどう思ってるの?
私は、もはや人間じゃない。
そうだ、人間じゃない何かが、人らしく生きる意味を求めるのが間違いだったんだ。
だから、魔女になって、そして――。
私は、私は............。
『ミカ、君は何になりたいんだい?』
『えーっと...笑わないでね、セイアちゃん?』
『勿論だとも。』
そうだ。私は――。
『...その、私、この本に出てくるような、お姫様に...なんて。
あ、あはは!じょ、冗談だって!』
『...いや、素敵だと思うよ、ミカ。』
子供らしい、馬鹿な話。
『本当?』
『本当さ。』
でも、あの頃は満たされてた。そんな夢を抱いても許されるって、そう思ってた。
何者にもなれなかった。
人間じゃないから。人間らしい夢なんて持てやしない。
でも、今のこの姿は。
ただ奪われ、壊されることを憎しんで、
私から何もかもを奪った全てを壊し尽くそうとしたこの姿は...。
そうだ。
ただ、人になりたい。
破壊も救済も要らなかったんだ。
私の中にある、人じゃないものを全て、鎖の中に押し込めて。
慟哭と共に、私の人じゃなかった証左を全て、この手で封じていきたい。
私と、私を否定し人間性を奪い去った全てを、この鎖で締め壊して。
そして、やっと人になるんだ。
あなたのなりたい姿になれるよ。
感想とかくれるととても嬉しいのでお願いします(乞食)
プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか
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ええよ
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あかんで