鏡の中の青春   作:ひいろの鳥

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約2週間ほど空いて申し訳ねえ!
乙四試験や学祭、模試など色々立て込んでたので...(言い訳)
次回以降はもう少し早く書けたら...いいなぁ。


嵐の夜

「...あ。」

 

瞬間。

何かが切れるような音とともに。

ミカを中心に、衝撃波が辺りのものを吹き飛ばした。

 

「ミカ――!!」

 

あまりの衝撃に、身が飛ばされそうになり、咄嗟に目を伏せた。

そして、目を開けた。

 

 

 

 

 

「ここは...。」

 

先ほどまで中にいた邸宅は消え去り。

雷の音が響き渡る、風の吹きすさぶ丘に立っていた。

辺りは、雷と風が鳴く音。そして、ノイズのような音が時々ひた走る。

 

「あの丘だ...。」

 

声の方向に振り向くと、サオリがふらつきながらも立っていた。

 

「サオリ...。」

 

「心配するな。それよりも...。」

 

 

 

サオリの指が指すその先には。

 

人の頭と胴体が付いた、巨大な蜘蛛。

顔は吸い込まれそうなほど黒く染まり、或いはその内は空虚かもしれないと思えてしまう。

そして、ソレの胴体とそれについた手、蜘蛛の身体と数多の足――そしてヘイローは、鎖で繋がれ、縛られている。

 

「あれは、ミカだ。」

 

容姿はもはや人ではなく、ただの化物にしか見えない。でも、あれこそがミカなのだと、半ば確信している。

 

「あれが、か...。」

「あれがですか...。」

 

サオリとナギサが同時に声を発する。

だが、声の割に顔はさほど変わっていない。

 

「ア...ア...。」

 

「だが、苦しそうだな。」

 

何か声を発そうとしながら、身をよじっている。

その姿はサオリの言葉通り何とも苦しそうで、まともに見ることすら躊躇われた。

 

『先生、先生!聞こえますか!』

「アロナ、プラナ!」

 

あの状態のミカをどうすればいいか考えていた矢先に、アロナとプラナが声をかけてきた。

 

『あのノイズ、解析できそうです!プラナちゃんが!』

『...解析完了。アロナ先輩はあとでプリンください。』

 

 

人じゃないもの、あらゆる獣性を、封じ込めろ。

私と、私を縛り付けるものを、すべて...。

 

 

「...!」

 

あれが、ミカの声なのか。自分の中で動揺が走った。

あの願いが本当にミカの願いだとしたら...。

 

 

「先生、避けろ!」

 

思索に落ちていると、サオリの腕が先生の身を突き飛ばした。

その直後、先ほどまで立っていたところに、鎖の束が突き刺さった。

 

「ボーっとするな。気を抜くと、すぐにやられる。」

 

「ア...。」

 

鎖は次々に飛んできて、先生たちを正確に狙ってくる。

幸い、威力はそこまでないようだ。ナギサやサオリは、容易に弾いている。

 

『先生。』

「どうしたの?」

『解析を進めた結果、あの姿は色彩の影響ではないようです。』

「...!?」

 

プラナの言葉に面食らった。

色彩じゃないのなら、あれは...。

 

『続けます。あの姿は、何らかの要因で心象を物理的な実体として、その肉体ごと具現化している状態...のようです。ここから話せることは二つ――これも確定したわけではありませんが。』

「いいよ、続けて。」

『はい。一つ目は、まだ死んでいないということ。あの状態を解消できれば、元の肉体に戻る可能性があります。

二つ目は、あの姿は心の深い悩みからきているということ。あの鎖は、自己否定から生まれたものであると推察します。つまり...。」

「つまり?」

『鎖をすべて壊し、その上で外部から規定値を超えた過度な干渉を瞬時に破壊的なエネルギーとして与えれば、助かる可能性があります。心象が具現化している今は、物理干渉が適しているでしょう。』

「...?」

『つまり、ぶん殴ればいい!ってことですよね、プラナちゃん!』

『...肯定。』

「合ってるんだ...。」

 

プラナの言葉に初めは驚いた。

でも、アロナとプラナのおかげで、どうするべきか分かった気がする。

 

 

「とにかく、あの鎖を壊そう。」

 

 

そうだ。

自分を否定することが本望なんて、先生として――否、一人の人間として、許容できない。

彼女を縛り付けるあの鎖を壊せば、何かあるかもしれない。

 

 

「ですが、隙がありませんね。」

「弾くだけで精一杯だな。」

 

その言葉を聞いたとき。

半ば無意識に、手がポケットをまさぐっていた。

 

「大丈夫。私が何とかするよ。」

 

そう言って。

 

"大人のカードを取り出す。"

 

その選択を、選ばない理由なんて無かった。

 

 

「助けに来ましたよ、先生!」

「って、ここどこなのよっ!?」

「嵐と雷か。」

「ふふっ、これは...。」

 

 

どこからともなく、4人の生徒が現れる。

妙に似合わない装飾品を身に着けた、それでいてどこか強そうな4人。

 

 

「先生、これは...。」

「どこから来た、お前たち。」

 

「全員、私が呼んだ生徒だよ。」

 

二人はそれを直ぐに呑み込めないようで、微妙な表情を作っている。

特にナギサは、予想外の闖入者に対する信頼を抱けていない。

 

「――いや、分かった。私はサオリという。よろしく頼む。」

 

先に言葉を発したのはサオリだった。

信頼しきっている訳ではないようだが、それでも協力しない理由は無かった。

 

「...私は桐藤ナギサです。」

「よ、よろしくお願いします!」

 

続いてナギサとも言葉を交わした。

だが、言葉の最中でも、ナギサの視線は依然としてミカの方向にある。

 

「あれが今回の目標か。」

「そうだ。あの鎖を壊せばいいんだな、先生?」

 

その言葉に静かに肯き、ナギサとサオリは手の鎖を狙い、他はそのサポートを指示する。

鎖を二人に任せたのは――その方がいいと、根拠もなく、それでも半ば確信めいてそう思ったからだ。

 

「分かった。では――行くぞ!」

「...ええ。」

 

それぞれ、己の得物を構えなおして、ミカに一直線に向かう。

 

 

 

 

 

「アァ...」

 

不明瞭な呻き声とともに鎖が放たれるが、その悉くは銃弾によって弾かれている。

 

「ゥ...ァア」

 

「ここだ!」

 

サオリのナイフとナギサのセイバーが、同時に手の鎖を破壊した。

すると。

 

 

 

許せなかった。

私の手から、セイアちゃんがすり抜けることが。

ほかのものなんてどうでもよかった。

ただ、それだけは、奪われたくなかった。

 

 

 

また、声が聞こえた。

恨むような、すすり泣くような声。

ナギサの顔には、沈痛な表情が湛えられている。

 

 

『先生。』

 

ふと、シッテムからプラナの声が聞こえる。

 

「どうしたの?」

 

『今なら、ミカさんに何かしらの呼びかけを行えそうです。』

『最適な言葉を投げかければ、戻りやすくなるかもです!』

 

シッテムから流れてくるミカの声は、だんだんと掠れていく。

この声が完全に消え入ってしまったら、次に声を届けられるようになるまで待たなければいけないようだ。

その前に、誰かが声を届けなければいけない。

 

周囲の生徒は動揺している。あの雁字搦めの声の物哀しさに、憂鬱を背負う子供もいるみたいだ。

きっと、先生(たにん)の声はまだ届かないだろう。

誰が、彼女に声を届けられるだろうか。

 

「ナギサ。」

 

静かに、その名前を発する。

きっと、彼女に何かを呼びかけられるのは、彼女しかいない。

彼女たちの間に広がったすれ違いは、いずれ結ばなきゃいけないから。

 

「私は...。」

 

呼びかけに対して、ナギサはただ息を震わせ続けている。

その眼に宿った感情は、一概に断定できるものではない。

ただ、悩み続けているようにも見えるその仕草の中、ナギサは―――。

 

 

「.......。」

 

 

ただ、沈黙を守った。

その終わりのない空白の中で、未だ悩み続けているようだ。

でも。

 

「すいません、私は...。」

「大丈夫だよ。」

 

性急に結論を急ぐ必要はない。

すれ違いをただすには今まで見つめてこなかったものに目を向けていく必要がある。

そしてそれは、ゆっくり、時間をかけてやらなければいけない。

 

まだ結論は下せないようだけど。

落ち着いて考え続けていけば、きっと分かるだろう。

 

「今は、目の前のあの人に集中しましょう。」

 

そう言いながら、ナギサは武器を構えなおした。

それに続いて、他の子供も武器を持ち直す。

まだ戦いは続くけれど。

その中で、何かを見つけられるかもしれないから。

 

 

 

 

『先生、注意してください!鎖を解いたせいか、能力が上がっています!』

「先生、あれの手元に...!」

 

 

アロナと生徒の言葉に、ミカの手元に視線を注いだ。

束縛から解き放たれた両腕には、一本の剣が握られている。

先ほどのものとは違う、棺のような一振り。

また不明瞭になってしまった声を上げながら、ミカが剣を宙に振った。

 

「先生ッ!」

 

サオリの言葉に咄嗟に身を捩らせると、その場に雷が落ちた。

 

「雷...!?」

「この雷は...。」

 

他の生徒が驚く中、サオリが、ゆっくりと口を開く。

 

「この雷は、あいつの心に根差した喪失だ。」

「サオリ...。」

「...早く、終わらせよう。」

 

サオリが一足早くナイフを構えて飛び出した。

それに続いて、ナギサもセイバーを手に取りミカに立ち向かう。

 

 

二人は身軽に雷を躱しながら、ミカの元に走っていく。

鎖の束と銃弾の嵐が飛び交い、それらをすり抜けながらナイフがミカの首元に刺さろうとしていた。

 

 

 

 

カァァァァァン!!!

 

 

 

 

激しい金属音が響く。

サオリのナイフは、ミカの握っていた剣に弾かれてしまったようだ。

そのまま剣を振り回し、サオリの身は少し後ろに吹き飛んだ。

 

「サオリ!」

「大丈夫だ、それより指示を!」

 

その言葉と同時にナギサも追いつき、ミカの隙を伺っている。

 

「ぐっ...」

「チッ...!」

 

二人で隙を作り出そうとするも、巨大な一薙ぎで払われてしまう。

どうにかして、隙を作れないものだろうか。そう考えていた時だった。

 

 

ダダダダダッ!!

 

 

銃弾が、ミカの胴体に向かって放たれた。

 

「皆!」

「あれは私達が止めるから!」

 

生徒たちが、朽ち果てた木などを壁にしながら後方で銃を撃っている。

銃弾は少しずつだが、ミカの胴体に巻かれた鎖を壊している。

だが遮蔽となるものも少なく、時間はあまり残されていないようだ。

 

「今だ!」

 

皆が作ってくれたチャンスを逃さないように、声を出す。

二人が、それぞれを武器を煌めかせながら突っ込んでいった。

 

「ア゛ァ...」

「させません!」

 

呻きながら再度剣を構えようとするも、腕を狙い打たれてよろめいている。

そして―――。

 

「家事を――終わらせてやろう!」

 

その言葉とともに、サオリのナイフが胴体の鎖を引き裂いた。

 

 

 

ザザ....ザ...

 

 

全部。

全部、私のせいだ。

私が捨てたから、セイアちゃんは死んじゃって。

私が、人じゃないばかりに...。

 

 

三度、声が聞こえる。

その声色は、もはや後悔で埋まっている。

 

「プラナ、また...。」

『再び声を掛けるチャンスですね。』

 

 

やはり、段々と声は掠れている。

今なら、もしかすると先生の声が届くのかもしれない。

ナギサは...未だ、考え続けているようだ。

 

 

「ミカ、君のせいじゃないよ。」

 

『...。』

 

こちらからの声が聞こえたからなのか、ノイズが少し収まったような気がする。

 

 

「君はきっと、過去に対する怒りや後悔に縛られてるんだと思う。」

 

 

「そして、私はそれを全部知ることは出来ない。」

 

 

『...。』

 

 

「でも。」

 

 

「君がそれら全てを背負って、自分に枷を付けて束縛するのは。」

 

 

「過去に向き合わず、ただ鎖として受け入れてしまうのは、間違ってると思う。」

 

 

「私たちはみんな、自分の過去に縛られちゃいけないんだ。」

 

 

「ただ、ゆっくりと向き合わなきゃいけないんだ。」

 

 

「私もそれを手伝うから...。」

 

 

その言葉が、確かに聴こえたのか。

 

「ア...アゥ...。」

『先生!ミカさんの出力が下がっています!』

 

アロナの言葉通り、ミカは苦しむようによろめいている。

鎖をジャラジャラと鳴らしながら、身をよじらせている。

その後すぐに、立ち直ったようだけど...。

 

「もうすぐ、だな。」

「そう、ですね...。」

 

サオリとナギサは、再び武器を構える。

ナギサは、何かを呑み込むような顔をしていたけど...。

 

「ナギサ、大丈夫?」

「あ...いえ、大丈夫です。」

 

ふう、と息をついて、ナギサはミカの方向に目を逸らした。

果たしてナギサも、向き合えるのだろうか。

 

ミカの方に目をやると、蜘蛛の胴体は崩れ落ち、ただ茫然と、人型のモノが突っ立っている。

手には変わらず剣が握られ、胴体には胸のあたりに大きな穴があり、それを隠すように鎖が巻き付いている。

 

「アァ...」

 

先ほどと同じように、剣を宙に振って雷を落としてくる。

その雷も、苛烈さを増しているように思う。

 

「あと一息だ、皆、頑張ろう。」

 

全員に疲労が見える中、何とか激励の言葉を振り絞り、子供たちもそれに応えようと銃を構えなおした。

 

 

 

ナギサとサオリが同時に飛び出し、それに合わせて後方から銃弾も後ろから降り注がれる。

鎖もそれに合わせて、銃弾をすり抜けて的確に二人の足元を狙っている。

 

サオリとナギサの得物が同時に鎖を壊そうとするが、剣で弾かれてしまったようだ。

その動きは、まるで残った胸の鎖を守るような――

否、唯一残った大切なものを守ろうと抱える子供の様だ。

 

「また隙が...。」

「私が、隙を作ろう。」

 

そう言いながら、サオリは大量のナイフと箒を鞄から取り出して見せた。

 

「――迷うなよ、ナギサ。」

「...。」

 

ナギサの返事を待つ間もなく、サオリの手に握られていた無数のナイフが雨のようにミカに降り注がれる。

無論、それを弾くことなんてミカには訳なかったが。

その一瞬に、箒の一払いが割り込んできた。

 

「"掃除"してやろう!」

「...!」

 

直ぐに剣を割り込ませて防ごうとするが、一歩遅くミカはよろめいた。

その隙を。

 

 

 

「これで――終わりです!」

 

 

ナギサのセイバーが、最後の鎖を切り裂いた。

 

 

ザザ....ザ...

 

 

最後のノイズが流れ出す。

 

 

私は。

私は、何がしたかったんだろう。

ただ、セイアちゃんを愛したかっただけだった。セイアちゃんの幸せを望んだだけだった。

そのはずなのに。

全てを壊して奪おうとして、自分を抑えて近づこうとして...

どうして、私は、私は―――。

 

 

悲痛な泣き声が辺りに響き渡る。

その声はか細く、今にも消え入りそうだ。

誰が、今の彼女に応えられるだろうか。

その時。

 

「ナギサ...。」

 

ナギサが一歩を踏み出していた。

 

「私が、いきましょう。」

 

その顔は、どこか晴れやかそうで。

 

「――向き合えたんだね。」

「お陰様で――ようやく私も、分かったんです。」

 

薄く微笑みかけながら、ミカの前に立ち、言葉を一つずつ紡いでいく。

 

「ミカさん。

 

私は...あなたのことを、初めは―――人じゃないと思っていました。

 

ただ、怖くて、恐ろしくて――人じゃないと決めつけて、それで安心していました。

 

理解できなかった、しようとしなかっただけなのに。」

 

『...。』

 

ミカは黙って聞いている。

 

「でも、貴女は――私の知っている誰よりも、人らしかった。

 

ただ、愛したかった。それだけだと、誰も知らずに、誰にも知らせずにいた。

 

貴方自身すらも、それを知らなかった。」

 

その言葉は、一つ一つ、絡まった感情を解していくようで。

その感情の洪水に押し出されるように、流れるままにナギサは続ける。

 

「セイアさんは――。

 

セイアさんは、ずっと、貴女を見ていました。」

 

『...!』

 

その言葉に、ミカが反応する素振りを見せた。

 

「貴女は、あの人が貴女を捨てたと。

貴女があの人を捨てたと、言っていましたね。

 

 

 

セイアさんも...同じことを、言っていたんですよ。

 

 

 

そんな訳―――そんな訳、ないじゃないですか―――!」

 

 

いつの間にか、ナギサの眼には涙が溜まっている。

それでも、ナギサは続ける。そうしなければいけないように。

 

 

「貴女は、私は、あの人は――。

 

私たちは誰も、互いに、自分に向き合わず、ただ決めつけてばかりでした。

 

私がそうであったように――。

 

 

 

 

ミカさん。

どうか、どうか。

あの人のことを―――。」

 

 

そこまで言って、とうとう感情があふれたのか、それ以上言葉は続かなかった。

 

 

「ナギサ...。」

「...今はまだ、いい。それよりも――。」

 

ゆっくりと、ミカに顔を向ける。

 

 

 

ミカは、ただその場に、蹲っていた。

その声は正確に聞こえることはない。

それでも、その言葉が発する意味は、理解できる。

きっとまだ、悩み続けているんだろう。苦しんでるんだろう。

 

 

「ミカ...。」

 

 

アロナとプラナの言では、あの状態で止めの一撃を与えればいいという。

 

 

「...。」

 

 

いつの間にか、ナギサがゆっくりとミカの前に向かっている。

 

『...。』

 

「ミカさん。」

 

セイバーは鋭く、その胸の奥深く、深い闇に突き立てられている。

 

 

「お願いです。」

 

 

柄に、しっかりと力を入れる。

 

 

 

「目を、覚ましてください――――!!」

 

 

ただ、それだけを思い。

セイバーを、突き刺した。

 

 

「...ごめんね。」

 


 

私は、縛らなきゃいけない。

自分を、自分の中にある何かを。

そうしなきゃいけないって、あの声と話して分かった。

 

でも。

 

目の前にいる誰かから、鎖が壊されていく。

邪魔しないでほしい。

こうしなきゃ、私は――。

 

 

 

許せなかった。

私の手から、セイアちゃんがすり抜けることが。

ほかのものなんてどうでもよかった。

ただ、それだけは、奪われたくなかった。

 

 

 

 

誰かの声が聞こえる。

これは――私の声だ。

私の中の、封じなきゃいけない声が、溢れてくる。

 

 

 

 

 

でも、何で。

何で、縛らなきゃいけないんだっけ。

 

 

分からない。でも、邪魔されたくない。

これが邪魔されたら、私は――。

 

 

 

 

まただ。

また、誰かが鎖を狙ってくる。

いや、誰かじゃない。

あれは、確か――。

 

 

駄目だ。頭痛で何も分からない。

誰だっけ。大切な人だったはずなんだけど。

 

 

 

 

全部。

全部、私のせいだ。

私が捨てたから、セイアちゃんは死んじゃって。

私が、人じゃないばかりに...。

 

 

 

 

また、また声が聞こえる!

私の声だ。私が封じたはずの声だ。

でも、何で。

何で、封じていたんだっけ。

 

いや、これは。

また別の、私じゃない誰かの声が聞こえる。

 

 

 

「ミカ、君のせいじゃないよ。」

 

 

 

誰かの声だ。

これは確か――。

 

 

 

「君がそれら全てを背負って、自分に枷を付けて束縛するのは。」

 

 

「過去に向き合わず、ただ鎖として受け入れてしまうのは、間違ってると思う。」

 

 

 

間違い?

この行動が、間違いっていうの?

でも、こうしなきゃ、セイアちゃんは―――。

 

 

 

「私たちはみんな、自分の過去に縛られちゃいけないんだ。」

 

 

「ただ、ゆっくりと向き合わなきゃいけないんだ。」

 

 

 

向き合う...?

向き合うって、どうやって。

どうやって、今更向き合えばいいっていうの?

 

セイアちゃんはもういないんだって。

だから、あの子を取り戻すために、こうやって、鎖で―――。

 

 

いや、それが。

それが間違いだって。

目の前の大人は言っている。

 

 

いつから。

いつから、こうやって縛ろうとしたんだっけ。

いつから、全てを壊そうとしたんだっけ。

 

そんなことしても、セイアちゃんが戻ってこないことなんて知ってる。

 

 

 

じゃあ、この鎖は。この剣は。

何のためにあるっていうの?

私は―――。

 

 

 

 

 

 

私は。

私は、何がしたかったんだろう。

ただ、セイアちゃんを愛したかっただけだった。セイアちゃんの幸せを望んだだけだった。

そのはずなのに。

全てを壊して奪おうとして、自分を抑えて近づこうとして...

どうして、私は、私は―――。

 

 

 

 

いつの間にか、目の前にナギちゃんとサオリが立っている。

そうか。

今まで、鎖を壊してくれていたのは―――。

 

 

 

「貴女は――私の知っている誰よりも、人らしかった。」

 

「ただ、愛したかった。それだけだと、誰も知らずに、誰にも知らせずにいた。」

 

「貴方自身すらも、それを知らなかった。」

 

 

 

私は。

そう。私は、ただ愛したかっただけなんだ。

それだけだったんだ。

 

 

 

「セイアさんは――。

 

セイアさんは、ずっと、貴女を見ていました。」

 

 

 

セイアちゃんが―――?

私は、あの子を捨てたのに。

それでも、あの子は―――。

 

 

 

「貴女は、あの人が貴女を捨てたと。

貴女があの人を捨てたと、言っていましたね。

 

セイアさんも...同じことを、言っていたんですよ。」

 

 

 

セイアちゃんも――?

まさか、私が、セイアちゃんを―――。

 

 

 

「貴女は、私は、あの人は――。

 

私たちは誰も、互いに、自分に向き合わず、ただ決めつけてばかりでした。

 

私がそうであったように――。」

 

 

 

そうか。

私も、ただ自分を、セイアちゃんを、決めつけ続けていたんだ。

 

 

 

「どうか、どうか。

あの人のことを―――。」

 

 

 

私は、私は―――。

本当に、セイアちゃんに、あの子に幸せになってほしかったんだ。

それをただ、伝えられずに、すれ違っていただけだったんだね。

 

 

 

 

 

いつの間にか。

いつの間にか、ナギちゃんがわたしの上に乗っている。

漸く、私の中のすべてが、解放されるんだ。

 

 

 

ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ありがとう。

 

 

 

鋭く尖った剣が、胸の奥深くをゆっくり突き刺していく感覚が、確かにした。




次回以降エンディングですが、3パターンほど考えているので、その中からバッドエンド(?)から順番に書いていく予定です。

評価や感想、お気に入りなどしてくれるととてもモチベが湧くのでよろしくお願いします。

あと、これの次に書くのをあんまり考えてないのでリクエストを募ってます。
出来ればプロムンかブルアカ関連だと嬉しいかな。

プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか

  • ええよ
  • あかんで
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