リアルが忙しいので次エンディングは投稿遅れるかも、申し訳ない!
ナギサがミカを突き刺した瞬間、強い衝撃が辺りに迸った。
それに耐えきれず、一瞬目を伏せ、投げ飛ばされそうになる感覚に耐えようとした。
目を開けると、周囲の光景は、いつの間にかあの丘から邸宅に戻っていた。
調度品も、ミカがあの形態になる前の状態に戻っている。
向こうのほうでは、ミカが倒れている。
ナギサは、衝撃に負けて後方に投げ飛ばされているようだ。
「...はは、私の負け、かぁ。」
ミカはそう呟くと同時に、先生がミカの側に近づいた。
「ミカ。」
「...。」
無意識のうちに、手を差し出した。
「私は、君のことを知りたい。
だから一一」
「許すって?」
先生の言葉を遮るように、悲哀が混ざった声色でミカは続けた。
「...うん。確かに、あなたの言う通りかもしれない。
でもね。」
彼女はただ、この場に居ない誰かと話しているような振る舞いをしている。
「ただ、あんな風に暴れ回って自分を否定することも無かったんだ。
本当はもっと、単純だったのにーーただ自分が大事だからって、目を背けてただけだったんだ。」
ミカは、先生の手を払い除けて、傍に落ちていた剣を掲げた。
「だからね、先生。」
ミカは、首にその刃先を押し当てている。
「ミカ、止めるんだ。それじゃ君は」
「分かってる。これじゃ向き合えないって。」
じゃあ、と続ける前に、ミカが口を開いた。
「確かに、私はセイアちゃんを愛していた。
でも...いや、だからこそ。
ただその為に、こうやって破壊したり、自分を壊そうとしただけだって言うことも、知ってる。」
「...君だけがそれを背負い込んじゃ、駄目なんだ。
君たちの責任は、私が取る。だから」
「だから、私からこの罪すらも奪おうっていうの?」
その言葉に、口を詰まらせてしまった。
そんな先生に構わず、ミカは続ける。
「あのね、先生。
あなたが私を許して、責任を取ろうとする度に。
私がセイアちゃんを愛していたって言う、その意味すら消えちゃうの。
そんな訳無い。私は最初からずっと、あの子の幸せを願ってた。それだけは、否定させられないかな。」
ふと顔を上げると、ミカは薄く笑っていた。
「だから、この物語はーーーただ、私とセイアちゃんの愛が招いた、この悲劇の物語の責任は、私が取らなきゃいけないんだよ。
それこそが、私がセイアちゃんを愛してたっていう、何よりの証明だから。」
そんな事ないと、そう言いたかった。
なのに、その言葉は喉に張り付いて、口に出すことが出来ない。
ただ口を固く結んだまま、彼女の手を止めようとした。
だが、それよりも早く。
ミカの腕に、ギュッと力が込められる。
「...ごめんね。」
彼女の顔は、最期まで、薄く笑ったままだった。
それは、この物語に巻き込まれた者全てに対する慈悲と後悔だったのだろうか。
或いは、漸く再会出来たことに対する歓びだったのだろうか。
首元から吹き出した血は、色あせた邸宅を紅く染め上げる。
先生はもはや、何も言うことが出来なかった。ただ、咽ぶことしか出来なかった。
大人として、子供を救えなかったことに。
別の大人から任された命を、手放してしまったことに。
結局、彼女の手で彼女自身を殺させてしまったことに。
後悔が降り積もり、それらが濁流となって押し寄せてくる。
その最中、後ろからナギサが鈍い足取りで近づいてくる。
ミカの元に辿り着くと、その亡骸を、慈しむようにゆっくりと抱き上げた。
「先生、顔を上げてください。」
その声に促されるまま、顔を上げる。
ナギサの顔は、処理しきれなかった感情達でいっぱいだった。
「この物語において、貴方が責任を取る必要は無いと、私は言いました。
彼女はただ、こうやって決着をつけること、それこそが本望だったんです。」
「嘘だ、そんなの...」
「分かっています!」
ピシャリとそう言われ、先生はやはり言葉を失った。
その言葉だけは要因では無いだろう。その顔に溜まった憂鬱は、涙となって彼女の眼から零れていた。
「分かっています。こんなのが詭弁だということぐらい、理解しています。
でもーーこれで、良かったんです。」
雨が、割れた窓から体に叩きつけられる。
吹き荒ぶ嵐はどこかに行ってしまったが、
曇天は、まだ終わりそうになかった。
あの後、色々なことがあった。
どうやらミカの攻撃を庇った時、多少なりとも跡が残ってしまったようで、それをいつもの様にシャワー室に強襲してきたミヤコに見咎められたり。
アロナとプラナ(主にプラナ)は、ミカの身に起こったあの現象について、必死に解析を繰り返しているらしい。
だが、取り分け大きな出来事と言えば。
『〇〇コーポレーションも倒産の危機にあり』
『桐藤家解体の影響、どこまで広がるか。』
あの後、ナギサは役割を終えたかのように、自らのほとんど全てを手放してしまった。
曲がりなりにも名の通る名家だった桐藤家の解体は、世間に大きな影響を与えている。そのせいか、ブラックマーケットが平時より活発だと生徒の1人が嘆いていた。
暫く前から、サオリから幾つか文通が届いている。全て、あの後の近況そ報告するものだった。
手紙によれば、ナギサに残っているのは、あの邸宅とサオリ、後は最低限の調度品だけだと言う。
他のバトラーたちは、皆十分な額の手切れ金を渡され、暇を出された。
サオリも暇を出されそうになったが、ナギサの世話をする者が1人も居ないのは憚られ、無理を通して1人残っているらしい。
他のバトラー達の行方は杳として知れないが、一部はワザリングハイツに住み着いていると、噂で聞いたことがあるという。
そして、ナギサの体調も、日に日に悪くなっているらしい。あの戦いを終えて、役目を全うしてしまったのか、今は自力で立つことすら難しくなっているという。
先生自身も度々様子を見に行くが、その度に衰えていく姿は見るに堪えないものだった。
かかりつけ医によれば、これでもまだ長く生きているのだという。
本来ならもっと早く緩やかに死に向かって行くはずが、これまで無理を通してしてきた分が急に襲いかかってきたようだ。
それでも、ナギサはずっと満足そうな顔で窓の外を眺め続けているらしい。その真意は知れないが、まるで何かを懐かしむような――或いは、懐かしい誰かと再会したような顔をしているらしい。
「...そろそろか。」
ふと時計に目をやり、そう口に出した。
この所、数日か1週間ほどをおいて、通っている場所がある。
仕事を切り上げて、当番の生徒の疑問を振り切ってシャーレを飛び出した。
暫くして着いたのは、やはりあの邸宅の前だった。
もはやこの圧倒してくる感覚にも慣れたが、それはただ時と経験を積んだだけではないだろう。
お邪魔します、と小声で呟きながら門を開ける。
中は、綺麗に空虚が埋まっている。あの時の、バトラー達の忙しなさも、嵐に叩かれる窓の喧しさも、過去のものだ。
何もかも、この邸宅の中から無くなった。ただ、争いの痕だけが残されているだけだった。
だが、そのことに抱く違和感は少ない。
この邸宅は、やはり元々死んでいたのだろう。それを幾ら飾り立てようと、その死臭は洗い流せない。
ただ、あるべき姿に戻っただけだ。この死んだ様な雰囲気こそが、この邸宅の本来の姿だった。
静かな伽藍洞の中を歩く度に、足音が寂しく鳴り響く。その足音も、幾分か重く聞こえる。
慣れた足取りで、決まった順路を通り閑散とした廊下を歩く。
その奥に佇む、重苦しい扉をノックする。
奥から小さく返事が聞こえたのを確かめると、ゆっくりとその扉を開けた。
「こんにちは。ナギサ、サオリ。」
「また来たのか、先生。」
サオリが、呆れるような声で返事をする。
側で横たわっているナギサは、返事の代わりに小さく頷いた。
ナギサの顔は、相も変わらず微笑を称えている。この所はいつもそうだ。
それと正反対に、顔は前に訪れた時よりも明らかにやつれている。そのことを再確認する度に、なんとも言えず、ただ抱きしめたくなる衝動に駆られる。
そばに近寄り、サオリの隣に座る。
その時、どれほど酷い顔をしていたのだろうか。ナギサが、腕を震わせながら手を握ってきた。口もパクパクと動かしているが、声が出にくいのか音は中々出てこない。
「せん...せ、い...。」
続きを言おうとしたが、途中で詰まってしまった。
だから、落ち着いてという意味を込めて、手を握り返した。
それに気づいたのか、一呼吸を置いて、ナギサはつづけた。
「せんせいの、せいじゃ...ありません、から...。」
「そんな、かお、しないで、ください。」
そう言いながら、力ない腕で顔を引き寄せられる。どうやら、知らず知らずのうちに頬が濡れていたようだ。
「...いや、私の――」
私のせいだと続けようとした。
だがそれは、ナギサの、そしてあの少女のことを無下にする行為だと気づいて。
「――ごめんね。」
ただ、それだけしか言えなかった。
「...先生、ナギサ、そろそろ...。」
「...そうだね。」
それを見兼ねたのか、サオリが声をかけてくる。
その声で、ようやく先生は自分がここに来た目的を思い出した。
邸宅から出て暫く歩き、見渡しの良い丘に着いた。
少し遅れて、車いすに乗ったナギサと、それを押していたサオリが追い付いてきた。
三人の前に佇むのは、二人分の墓石。
それぞれに、名前が刻まれている。
『ここに眠る』
あの戦いの後。
ナギサは、残った力を振り絞って、ミカの亡骸をセイアの隣に埋めた。
もちろん、まともな葬儀は出来なかったが。
その代わりに、こうして弔うことで、遺された哀しみを消化している。
丘から見下ろすと、紫色に包まれた崖を望める。
そして墓に目をやると、似た色の花が裏にこじんまりと咲いていることに気づいた。
これはヒースという花だと、サオリが言った。
「嵐の中でも、崖の合間でも、ああやって健気に咲き誇るらしい。」
その言葉を聞いた瞬間。
ナギサが、車いすから倒れこむように飛び出した。
「ミカさん...。セイアさん...。」
まるで、墓石とヒースを抱え込むようにしながら、そう呟いた。
「ここに、いたんですね...。」
そう呟いたきり、ナギサは黙ってしまった。
「おい、ナギサ、ナギサ...。」
サオリがすぐに駆け寄り、ナギサを抱きかかえた。
先生もすぐにナギサを起こそうとしたが。
体は既に、冷たくなっていた。
「ナギサ...。」
「...ナギサも、あいつらと同じ場所に逝けていればいいな。」
サオリは、ナギサを抱えたまま俯き、そう呟いた。
その声には、涙が混じっている。
それでも、彼女は顔を上げないまま。
ただ静かに、いつの間にか降っていた細い雨に打たれていた。
「先生、あの話知ってる?」
当番の生徒の一人が、そう尋ねてきた。
「あの話?」
聞き返すと、子供は嬉々として話し始めた。
どうやら、最近ある都市伝説が流行っているらしい。
トリニティ自治区の郊外に、雲に覆われて、決して晴れない丘があるという。
その丘の上には、墓石が3つほどあるだけで、それ以外は何もなく、ただ荒涼としていて。
その丘を挟むように、大きな屋敷が二軒ほどあり、一つは荒れているが、もう一軒は綺麗なままだという。
ある噺では、奇麗な方の屋敷には幽霊が出てくるという。
その屋敷に人を引きずり込み、命か何かを吸い取ってしまう。
またある噺では、墓の方こそ恐ろしいのだという。
そこから夜な夜な骨やら何やらが這い出て、人々を驚かせるらしい。
別の噺では、夜毎に墓から出てきた幽霊が、二つの屋敷に行進をする、なんていうものまである。
どれも、尾ひれがついた荒唐無稽な怪談だ。
だが、そんなバラバラの噺達だが、一つだけ共通している点があるという。
その丘の天辺を見上げてみると。
3人の少女たちが、楽し気に談笑したり。
時には紅茶を飲んだり、じゃれ合ったりもしているという。
「ね、ね、気にならない?」
話し終わった子供は、興奮しながら聞いてきた。そういった類の話が好きな子供だ。
だが先生は、その話を聞いたとき、隣で紅茶を淹れていたサオリと目配せをした。
そして。
「...きっと、そっとしておいた方がいいと思うな。その子供たちも、邪魔されたくないだろうし。」
隣でぶつくさ言う子供を横目に、サオリが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
それは淹れたてのはずなのに、どこか冷めていて。
薄くて、寂しい味がした。
評価や感想、お気に入りなどしてくれるととてもモチベが湧くのでよろしくお願いします。
あと、これの次に書くのをあんまり考えてないのでリクエストを募ってます。
出来ればプロムンかブルアカ関連だと嬉しいかな。
プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか
-
ええよ
-
あかんで