鏡の中の青春   作:ひいろの鳥

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ギリギリ一週間以内に投稿できました。GOOD ENDです。


旅立ち(GOOD END)

ナギサがミカを突き刺した瞬間、強い衝撃が辺りに迸った。

それに耐えきれず、一瞬目を伏せ、投げ飛ばされそうになる感覚に耐えようとした。

きっと、これで終わるのだろう。直感的にそう思った。

 

だが。

果たして、これで本当にいいのだろうか。

本当に、ミカは向き合えているのだろうか。そんな不安が、ふいと頭を横切った。

そして、その思いに呼応するように。

再び、黒いカードを握っていた。

 

 

"生徒たちを、よろしく頼みます。"

 

 

そうだ、まだあの言葉は、あの人の遺志は遺っている。

ならば。

 

カードを掲げる。

ただ一つ、心の底からの願いを込めて。

 

 

"目の前の子供たちが、本当に互いに向き合えるように。"

"そして、決して目を背けず、過去と向き合えるように。"

 

 

それは同時に、私自身に対する望みでもあった。

 

カードが黒く、明るく輝き始める。

そしてその輝きが、嵐と曇天に満ちた空間を包み込む。

 

 

その輝きは、様々な光景を瞬時に、然しとてもゆっくりと映し出していく。

 

 

セイアの言葉に傷つき、邸宅から逃げ出したミカ。

ただ最愛の人の幸せを望んだが、その心を終ぞ伝えられなかったセイア。

近づこうとする心を、怨嗟と悲哀で塗りつぶされたナギサ。

 

どれも、ただ上手く向き合えずにすれ違った姿だ。

そして、そのすれ違いのまま、彼女たちは互いに憎しみを抱きながら沈んでいく。

嵐が支配する夜の中、邸宅は闇に吠える。

その音は、誰かに対する憎しみや悲哀、後悔で出来ている。

 

これらはとても残酷で、目を背けたくなる光景の数々だ。

だが、誰一人それから目を離したりはしない。

 

 

やがて、その光景は様々な結末を映し出していく。

 

 

自ら命を投げ出し、物語を終わらせる姿。

愛する者の声に囚われ、全てを壊そうとする姿。

すべてを壊した後、虚しさに吠える姿。

或いは、自らの手で最愛の人の命を奪った姿さえもあった。

 

 

だが、その中に一筋の光があった。

 

 

それは、彼女たちに似た3人が、仲良く茶会を開く姿。

互いに軽口を言い合ったり、時には喧嘩になることもあるけれど、

それでも、互いに信頼と愛を抱く光景。

 

 

その光に、輝きは収束して。

やがて、本来あった邸宅に、周囲の風景は戻っていた。

 

 

「はは...私の負け、かぁ...。」

 

 

向こうのほうでは、ミカが体を投げ出すように仰向けで倒れている。

 

「でも―――うん、そうだね。私たちは本当に、互いに目を合わせられなかっただけなのかもね。」

 

誰に言うでもなく、ただぽつりと呟く。

 

「先生、だっけ。ありがとうね、私は――。」

 

そこまで言って、ミカは眠るように目を閉じた。

 

「ミカッ!」

 

慌てて駆け寄り、ミカの体を抱きかかえる。

どうやら、ただ気絶しただけのようだ。

それに安心したせいか、目からはいつの間にか涙が零れていた。

割れた窓からは、一筋の陽の光が差し込んでいた。


暗い。

なんだか、とても暗い。

暗闇の中を落ちていく感覚が残り続けている。

そして、落ちていく中で。

今までの記憶が、走馬灯のように駆け巡る。

自分の過去と罪が目の前に次々と顕れる。

それは目を背けたくなるほど酷いし恥ずかしいけれど、不思議と目を離す気にはなれなかった。

 

そして、その内、私の周りを暖かな光が包み込んでくる。

この暖かさを、私は知っている。

声が聞こえる。間違いない、あの声だ。

 

気づけば、私は丘の上に座り込んでいた。嵐は止んだが、まだ厚い雲が残っている。

横には、知らない誰かがいる。しかしその人は、知っている人でもあった。

 

「あなたは...。」

 

その疑問を口に出すと、その人は優しく微笑みながら答えた。

 

「私が何者かは関係ないわ。ただ――あなたが本当にそれで良かったのか、聞きたかったの。」

 

「どういうこと?」

「分かってるでしょ?」

 

そう言いながら、その人は光の中に手を突っ込んだ。

すぐにノイズが走り、別の映像が流れ始める。

目の前に、セイアちゃんの姿が視界いっぱいに映った。

 

「あなたは、この子を愛したかった...そうよね?」

 

その言葉に、静かに肯く。そうだ、その感情は本物だ。

 

「でも、その感情は、他人に、そして自分にすらも遮られてしまった。」

 

さっきまで、真実だと思っていたことだ。

否、この人が言うと、一段と真実味を帯びて、信じてしまいそうになる。

 

「私はね。」

 

その様子に気づいたのか定かではないが、声は続けられる。

 

「私は、全ての人間は愛に流されて生きてるんだって思うの。」

 

愛。この場において、それ以上に滑稽で、美しい言葉は無いだろう。

 

「皆、自分のことを愛してる。その過程で、他人も愛するようになる。

分かる?私たちはね、自分を愛することこそが目的地なの。」

「じゃあ、私のあの姿は...。」

 

その疑問を口に出すと、やっぱり微笑みながら答えてきた。

 

「ええ。あなたは、自分を愛することができるように、自分の醜い部分、愛せない所を全部消し去ろうとしたんじゃない?」

 

確かにそうだ。そしてそれは―――。

 

「途方もない満足感だったでしょう?」

 

心を見透かすように、語り掛けてくる。そして、それは真実だった。

ただ、肯くことしかできなかった。

 

「もう一度聞くわね。あなたは、本当に醜い自分を解き放ってしまうの?

それを受け入れるっていうのは、自分を愛することから一番離れたことだって、あなた自身がよく理解してるでしょ?」

 

声が優しく諭し、導いてくる。

何も見ることなく、ただ自分にだけに目を向けろと、誘っている。

それは本当に魅力的で―――ともすれば、彼女の手を掴んで引っ張られてもいいかと、そう思えてくるほどだった。

でも。

 

「...ごめんね。そのお誘いには乗れないかな。」

 

その人は、少し意外そうな顔をした。

そして、どうしてと理由を尋ねてきた。

 

「どうしてって...。確かに、私だけを愛することさえできれば、十分かもしれない。でもね。」

 

セイアちゃんの姿が視界に映る。

 

「私以外にも、私の幸せを願ってくれる人がいたから。

そして私も、あの子の幸せを願っていた――その気持ちは、本物だったから。」

「その子は、既にいないのに?」

「それでもだよ。」

 

セイアちゃんはもういない。

でも、あの子のことを無下にすることは、セイアちゃんと自分の両方に向き合わずに進むことは、何よりも彼女自身を愛さないことになるから。

 

「私は、これまでも、これからもずっと、セイアちゃんを愛し続ける。

その為に、色んなものと向き合っていくことにするね。」

「その道は、きっと苦しいものになるけれど。それでもあなたは、他人のために進むの?」

 

分かっている。真に誰かの幸せを望み、その為に自分と向き合うことは――この世の何よりも辛く苦しいことだって。

でも、それでも。

 

「きっと、私たちは別の道を進むだろうね。」

「そうね。残念だけれど、あなたもまた、あなたの道を進むのだろうから。」

 

結局、その人は微笑みを保ったまま、私の行く先を見送った。

 

 

 

ふと、背中に柔らかい感覚が走った。

そうか、自分は目を閉じていたのか。今更ながらそう気づく。

それにしても、この柔らかいものは何だろうか。

うまく考えが纏まらない。とにかく目を開けるしかないか。

 

 

 

 

 

 

「...!ミカさん!!」

 

起き抜けに、体を抱きしめられる。

片方の腕がないから、抱き寄せられたといったほうが正しいか。

 

「ナギ...ちゃん...?」

 

思わず、声が出てしまう。

なぜこの子が、いの一番にこのような反応をするのか理解できなかった。

無理やり引きはがして、顔を覗き込んだ。

今にも泣きだしそうな、それでも安堵で満ちた表情が、そこにはあった。

頬には涙の跡がある。さっきまで泣いていたのだろうか。

だが、だからこそ余計に疑問の感情が芽生える。

 

その疑問に気付いたのか、サオリが呆れたような声で言った。

 

「...ミカ。ナギサはな、ずっとお前のそばから離れなかったぞ。

...お前のことを、ずっと心配していたんだ。」

 

その言葉に、耳を疑った。

 

「...なんで。

私は、ナギちゃんの全部を奪ったんだよ...?」

 

その言葉が、口をついて出てしまう。

私は、恨まれこそすれ心配される謂れなんて無いはずなのに。

その言葉を聞いて、ナギちゃんはゆっくりと顔を上げた。

やっぱり、酷い顔だった。

 

「...ミカさん。

確かに、私はあなたから色々なものを奪われました。」

「じゃあ...。」

「でも。」

 

私の疑問を押しとどめるように、ナギちゃんは続ける。

 

「でも、それでも、セイアさんが愛したあなたを無下にして恨み続けることは、やはり出来ません。

私は、あなたも――愛したいんです。」

 

一種の愛の告白のようにも思えるその言葉に、戸惑ってしまった。

そして、刹那逡巡した。

その時ーー否、既に気づいていたのかもしれない。

私が望んだことは、セイアちゃんとの幸せな生活。

それは叶わなくなったけれど―――それでも、誰かを愛するという道が残っているのなら。

ただ静かに、ひしとナギちゃんを抱きしめた。

 

いつまでそうしていたか分からない。

唐突にノックの音が聞こえて、それでお互いに急に恥ずかしくなって、急いで身体を離した。

ドアから顔を出したのは先生だった。

 

「ミカ、大丈夫?」

「私は大丈夫だけど...先生の方は?」

 

先生のことも傷つけてしまったはずだ。

だが先生は、何事も無かった様に、ただ笑って大丈夫だと言った。

 

 

「...本当にごめんね、皆。」

 

そう言って、頭を下げた。

自分のせいでこうなってしまったこと、勝手に自由になろうとして暴れまわったこと、身勝手に恨んで全部を滅茶苦茶にしようとしたこと――他にも数えきれないほど謝ることはある。

でも、誰も私を責めることもなく、それがまだ消化しきれなかったから、ただ謝った。

 

「ミカ、顔を上げて。」

 

その言葉の通りに顔を上げると、先生は手を握りながら真っすぐ私を見つめた。

 

「君が、全部の責任を取らなくてもいいんだ。

責任は私が――いや、私()背負うから。」

 

赦すということは、罪の半分を背負うということ。

いつか、サオリが話してくれたこと。

 

「...先生、狡いよ...。」

 

いつの間にか流れていた涙を拭うこともしたくなかった。

ただ、愛することを、向き合うことを許されたような気がして。

ただ、涙を流した。

 

 

 

「ところでミカ。」

 

暫く泣いて、涙が止んだところで先生が話しかけてきた。

 

「これから――どうするつもり?」

 

これから。そんなこと、一度も考えたことなかった。

全部を壊すことしか考えてなかった。そのことを素直に話した。

 

「良かったら...シャーレに来ない?」

 

その提案は魅力的に見えた。いや、事実素晴らしい提案だろう。

でも――。

 

「...その前に、少し自分のことを見つめなおしたいかな。」

 

「そっか。また困ったことがあったら、いつでも連絡してね。」

 

先生はそう言って連絡先を教えると、忙しそうに部屋を立ち去った。

サオリ曰く、仕事を置いてここに来ていたらしかった。――先生らしいといえばらしい気がする。

私も、ずっとここにいるわけにもいかない。

少し痛む身体を起して、立ち上がろうとした。

 

「――行ってしまうんですね、ミカさん。」

 

ナギちゃんは寂しそうな顔をしていたけれど。

 

「いつか、また会えるから。」

 

剣を担いで、扉の前に進む。

 

「さようなら――いえ、また会いましょう、ミカさん。」

「うん、またね、ナギちゃん。」

 

それは、永遠の別れではない。

互いに、それを望む心なんて、片隅も無かった。

邸宅を出て空を見上げると、見たことがないぐらい晴れていた。


或る日

 

「先生、久しぶりだね。」

 

あの邸宅の前で立っていると、後ろからミカが手を振りながら近寄ってきた。

 

「久しぶり、ミカ。元気?」

「私はね。先生こそ仕事のほうは大丈夫?」

 

その言葉に目の前の大人顔を逸らした。この人はそういう人間だと、何回かの会話で学習した。

 

 

「二人とも、元気そうですね。」

 

門が開き、中からナギサとサオリが現れた。

以前のような憂鬱な雰囲気は持ち合わせていないようだ。顔つきも、あの頃に比べたらずっと健康的だ。

 

「それじゃ、行こうか。」

 

先生のその言葉で、4人は同じ方向を目指した。

 

 

 

 

道中、自分たちの近況を話し合った。

 

先生は相変わらず仕事に忙殺されている。それでも生徒が第一なことも変わっていない。

ただ――あの戦いから、少し考えは変わったらしい。全部を自分が抱え込まないようにしようとしていると、笑いながら先生は話した。

 

ミカは、ブラックマーケットなどで仕事を貰って日銭を稼いでいるらしい。

あの時から少し力は衰えたらしいが、それでもその力や戦闘センスは高く買われることも多いという。

最近は、趣味というものを見つけようとしているらしい。まだ簡単には見つかっていないようだが、それも焦ることではないだろう。

 

ナギサは、あの頃のように誰かを傷つけるために武器を研ぐことはやめたという。

それでも、身体を鍛えることはやめていないらしい。少しでも油断して身体を崩してしまったら、それこそ色んな人に迷惑を掛けてしまう、なんてナギサらしい真面目な理由だ。

また、今までよりも幾許か物腰が柔らかくなったからか、以前よりも人付き合いも良くなったようだ。未だに長く外にいられない身体だが、それでも彼女に悪くない印象を抱く人間は前よりも多くなった。

 

サオリは、特に変わったところはないらしい。ただナギサが外に出る機会が増えたから、前よりも忙しくなったと笑いながら語っていた。

 

 

 

そんな話をしているうちに、目的の場所に辿り着いた。

二つの邸宅に挟まれた丘の上。4人の目の前には、一つの墓石がある。

ミカは、その墓石を慈しむように撫でた。

こうして弔うことが、ここに眠る彼女の――何よりも、遺された人々の安寧に繋がるのだろう。

 

「あれ、この花...。」

 

ミカが声を上げ、他の皆も墓の裏を覗き見た。

そこには、紫色の花が生い茂っていた。

 

「これは――ヒースだな。」

「ヒース?」

「嵐の中でも、崖の合間でも、健気に咲き誇るらしい。

嵐が丘(ワザリング・ハイツ)に植えられていたこともあったが..ここにも生えていたんだな。」

 

その言葉の合間にも、ミカはその花を懐かしそうに眺めていた。

 

「ミカ?」

「...昔、セイアちゃんが同じような花を私にくれたことがあったんだ。」

 

それを聞いたナギサも、口を開いた。

 

「まるで、ミカさんみたいな花ですね。健気に、力強く咲いていますし。」

 

その言葉を聞いて、ミカはプッと吹き出した。

そして。

 

「あの子も、同じように思ってくれていたのかな。」

「きっと、そうだろうな。」

 

いつの間にか、ミカの両手には沢山のヒースが抱えられている。

その時、一陣の強い風が吹いた。

その風に吹かれ、ヒースが空を舞っていく。

雲のない空に吸い込まれるそれらは、どこか幻想的で。

 

「セイアちゃん――ありがとうね。」

 

あなたの想いも、優しさも、愛も。

ずっと、忘れないから。

空から差す陽の光は、他の何よりも暖かだった。




これにて、「嵐吹く丘と魔女狩りの夜」は終了です。ここまで読んでくれてありがとうございました。よければ感想やお気に入りなどしてくれると嬉しいです。

裏話的な雑多な感想も書いたので、興味があればそちらもどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=318420&uid=447779

プロムン関係無い純粋なブルアカ創作をここに載せてもいいか

  • ええよ
  • あかんで
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