機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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ぶんぶん様からいただいた支援絵の救国卿ルシア・ドーンヘイルです。


救国卿とクロガネ

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

――ハッタリか、それとも本当(マジ)か判断しづらい。

 

 

 

 エルフリーデはひとまず、リュシーの向かいの席に座った。喫茶店のオープンカフェは大賑わいである。彼女の姿を見つけた顔馴染みの店員が話しかけてくる――どんなときでも笑顔を欠かさないアルバイトの少女は、休日のエルフリーデがこの店を利用することを心得ていた。

 席に着く動作が自然体だったので、リュシーのこともエルフリーデの知り合いだと思っているらしい。

 

「こんにちは、エルフリーデさん。注文はいつもので?」

 

「うん、マスカットフレーバーのアイスティーでガムシロップもお願い」

 

 アルバイト店員が注文を書き取って厨房へと持っていく。その後ろ姿を見送りながら、リュシーが意外そうに呟いた。

 

「おやおや、カフェではなく紅茶ですか。それもアイスティーとは変わっていますね?」

 

「大昔のバナヴィアはどうだか知りませんが、当世風の味覚ってやつですよリュシーさん」

 

 アイスティーの注がれたグラスが運ばれてくる。ごゆっくり、という声がけと共に去っていく店員――エルフリーデは無言でガムシロップをグラスに注いだ。キンキンに冷やされたグラスにたっぷりと氷が入れられ、赤褐色の魅惑的な液体の中で泳いでいる。プラスチックストローでぐるぐると液体を攪拌(かくはん)しながら、少女騎士はリュシーのとぼけた微笑みを見た。

 

救国卿(ロード・セイヴィア)……二五〇年前の革命を起こしたルシア・ドーンヘイルってことですか?」

 

「ああ、なんとも懐かしい名前ですね。あれはわたくしの成し遂げた、最も崇高な光景だったと断言できます――人民の銃火が騎兵をなぎ倒し、停滞しきった旧体制を打倒する。至上のバナヴィア的な絶景でしたとも」

 

 愛想のいい絶世の美女もしくは美少女は、亜麻色のロングヘアをふわりと揺らしてコーヒーカップをソーサーの上に置いた。

 所作の一つ一つに品があり姿勢もいい、まさに上流階級という感じの女性――話しているバナヴィア語も発音の一つ一つが綺麗で澱みがない。

 

 そういう振る舞いの一つ一つに、エルフリーデ・イルーシャはよく見知っている男と同じものを見て取った。

 鉄面皮の無愛想男と愛想のいい奇天烈女、表面上の印象は正反対だが――こうして間近で対峙してみると、びっくりするぐらいに二人は同じ世界観の中にある存在のように思えた。

 それにしてもクロガネの弟子とは、衝撃の事実である。

 

 

――ゲオルギイ卿といい、クロガネの教え子って変人奇人(ウィアード)しかいないわけ!?

 

 

 ちょっと内心で毒づきつつ、エルフリーデ・イルーシャは深呼吸。ガムシロップの溶け込んだ冷たい紅茶を飲んで、そのすっきりとした風味で気分を落ち着ける。

 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)かつ我が物顔で敵地のど真ん中にいる、自称・救国卿に対してどう対応すべきかなんて、咄嗟に正解が出せるような領域の話ではなかった。

 ベガニシュ帝国の貴族、ヴガレムル伯爵の騎士としては捕らえることを前提に動くべきだろう。

 

 だが、そうなってくると頭が痛いのが、今も道路上で派手なパフォーマンスに勤しむ柿色装束の忍者だ。そもそも忍ぶ気がゼロ、衆目を集めまくっているわざとらしい語尾の忍者は、あまりにも何も知らない人たちに囲まれていた。

 

 もし仮に、彼が銃器や爆弾を隠し持っていたなら――その瞬間にこの大通りは地獄に変わる。

 だからこそエルフリーデはうかつに動けなかった。同じテーブルに着いたのは、ひとまずこちらから手出しする気はないという意思表示のつもりだった。

 

 

「仮にあなたが本物の救国卿だったとして――何をしに敵地に単身乗り込んできたんです? セヴラン・ヴァロールみたいに恨みがましくわたしを否定しに来たとでも?」

 

 

 半ば本音を交えて、嫌味たっぷりに皮肉を投げかけた。あまりにも重大な裏切り行為――父母の命を奪ったテロ事件の首謀者が、顔見知りのセヴランおじさんだったという衝撃は、エルフリーデに今も癒えない傷を負わせていた。

 予想に反して、リュシーは微笑みを消して神妙な顔になった。そして哀悼の意を込めるようにこう言った。

 

「いいえ。両親を爆弾テロで失っているあなたに、頭ごなしに説教するほどわたくしは傲慢な人間ではありません――我らの大義に誤りがあるとは思いませんが、その過程で生じた犠牲がすべて肯定されるとも思いません」

 

 言葉には一欠片の虚偽もなかった。真心と誠意はたっぷりあって、心の底からそう思っているくせに――おそらく必要とあらば何度でも死体の山を作れる類の人でなし。

 ああ、似ていると思った。

 この自分自身、エルフリーデ・イルーシャという人でなしに、リュシー・ノワールはよく似ていた。

 

 きっと立場が同じならば、自分もそういう言葉を選んで返答していただろうという確信――共感も理解もできたからこそ、相手がどれほど危険なのかもわかってしまう。

 エルフリーデはため息をついた。

 

 

「……そっか、あなたはそういう人か。参ったな、クロガネの弟子っていうのは本当みたいだ」

 

 

 そして相手が先ほど口にした制限時間を思い出す。五分がハイペリオンの目を誤魔化せる限界だと、リュシーは口にしていた。ヴガレムル領内の監視カメラを掌握しているかの機械卿に対して、如何なる対抗手段を講じているのか――防諜的には不安しかない状況だったが、ひとまずそのことは置いておく。

 

 これまでの断片的な情報から察するに、ルシア・ドーンヘイル/リュシー・ノワールこと救国卿は、間違いなくクロガネと同じ不死者だ。幾百幾千の年月を歩いてきた存在ならば、現代人のエルフリーデには思いつかない抜け道ぐらい知っていてもおかしくはなかった。

 

 重要なのは、そうまでして相手が自分に会いに来た理由だ。暗殺が目的ならば、もっと気が利いた不意討ちの方法はあっただろう。わざわざ自分からこちらの気を引いて、警戒させるなんて馬鹿げてる。

 

「本題を訊いても?」

 

 エルフリーデがそう切り出すと、リュシーは黄金色の瞳をこちらに向けてきた。切れ長の目にはまった、夜空に浮かぶ満月のように美しいそれ――どれほどの月日を歩んできたのかもわからぬ、不死者が感情の読めない視線を送ってくる。

 

 

「ではエルフリーデさん、あなたが仕えているあの男――クロガネが、為政者として本当によい世の中を作ると思いますか?」

 

 

 迷いはなかった。

 エルフリーデ・イルーシャは凜とした態度で、きっぱりと言い切った。

 

 

 

「――信じるよ。わたしは、あの人の善なる心に救われたから」

 

 

 

 思い悩む余地などない即答だった。そのあまりに鮮やかな返答に、数秒間、リュシーは黙り込んでいたと思うと――うふふふ、と愉快そうに喉を鳴らして笑い始めた。

 とてつもなく上機嫌であることが伝わってくる、強烈な喜悦の乗った声音だった。あるいは平時のヴガレムル市であれば悪目立ちしたかもしれない光景だが、七日間も続く祭日の最中ではそう目立つものではない。

 傷ありの少女が、その傷跡の残る左目で相手を見据えると――リュシーは片目を閉じてウインクしてきた。

 

 

「バナヴィア~ン! ほとばしるような熱情(パッション)、狂おしいばかりの愛を信じる無垢(イノセント)、とっても優雅(エレガント)です! まさにあなたはバナヴィア人なのですね、エルフリーデ・イルーシャ――()()()()()

 

 

 何が何だかわからなかった。そもそも失格だったらどうなっていたのか気になって仕方がない。ともあれ、少女の脳裏をよぎったのは身も蓋もない感想だった。

 思わずぽろっと口からこぼれた。

 

「えっ、元カノ面……!?」

 

「ふふっ、そういうことは思っても言わぬが花ですよ?」

 

 そもそも今カノが不在の状況(エルフリーデの主観ではそういうことになる)で元カノも何もあったものではなかった。

 亜麻色の髪の乙女は、にこにこと慈愛に満ちたまなざしでエルフリーデを見ていた。どうやら好意的な反応のようだが、相手の出方がわからないのは変わりない。

 

 さて、次はどうなるかと思っていると――救国卿ルシア・ドーンヘイルは世間話でもするように、とんでもないことを口にし始めた。

 

 

「バドムア子爵ゲオルギイ・カザールの狙いはバナヴィア都市連合構想の破壊と、クロガネの信用の失墜です。彼の背後にいるのはベガニシュ帝国陸軍のドルボーラ将軍――シャルロッテ・シャインとその乗機〈ヤークトドラッヘ〉は、彼らによって送り込まれた刺客にすぎません。サンクザーレ会戦でのミリアム・フィル・ゲドウィンと同じ役割というわけですね」

 

 

 ものすごい情報量だった。明らかにベガニシュ帝国の内情について詳しすぎる情報提供の数々――エルフリーデにとっては初耳の要素が多すぎた。しかもサンクザーレ会戦でベガニシュ帝国陸軍がミリアムを送り込んできたこと自体、関係者しか知らない秘密のはずである。

 

 真偽はわからない。そういうのはクロガネやハイペリオンの領分であり、彼の騎士であるエルフリーデの仕事はあくまで、実際に戦闘行為に移る場合の対応なのだ。

 あるいは自分を混乱させるため、虚偽を交えて認識を塗り潰そうとしている恐れもある。ひとまず今聞いた情報の確度は頭の隅に置いて、静かに問いかけた。

 

「……どこまで知っているんですか?」

 

「この程度の情報収集ができなければ、このご時世にわたくしの仕事は勤まりません」

 

 そのときだった。エルフリーデは殺気を感じた。おそらく自分の半径五〇メートル圏内、高低差を考慮しても直線距離で七〇メートル以上にはならない距離に戦闘員が展開している。

 だが、おそらくこちらを狙ったものではない。

 エルフリーデ・イルーシャはリュシーの顔を見た。亜麻色の髪が美しい不死者の額に、赤い光点が生じていた。

 

「おや、思ったよりも早かったですね」

 

 リュシーは落ち着き払っていた。レーザーポインターであえて「照準していること」を知らせる脅迫じみた手法――エルフリーデは一瞬で今の状況を察した。

 感覚を研ぎ澄ませてみれば、背の低い雑居ビルの屋上に人の気配がしていた。ハイペリオンの手配した包囲網が、すでに二人の周辺を取り囲んでいるのだろう。

 

 精密射撃が可能なカービン銃か短機関銃なら、リュシー・ノワールだけを撃ち抜くこともできるかもしれない。とはいえそれは、万が一の場合、流れ弾で無辜の民が死傷する可能性があった。

 しかも確率的には高い数字でそうなるだろう。

 

 エルフリーデは懐に手を忍ばせると、サイドホルスターから引き抜いた自動拳銃を、そっとコートのポケットに仕舞い込んだ。ちょうど対面していたリュシーにしか見えなかったはずである。

 静かに、相手の目を見て告げた。

 

「両手を頭の上に挙げてひざまづいてください――こんなところで銃を撃ちたくはない」

 

 リュシーは目を細めて、微笑みと共に頷いた。

 

「こういうやり口はハイペリオンでしょう、本質的に人命軽視の忌々しい機械知性の限界を感じますね」

 

 そのとき足音。

 こつこつ、こつこつと革靴が石畳を叩く特徴的なその音は、エルフリーデのよく見知った男の身長と体重、歩行のリズムから成り立っている。

 深い茶髪のミディアムヘアを揺らすことなく、視線をリュシーから逸らさずに、それが誰であるかを把握する。

 

「クロガネ?」

 

 エルフリーデの呼び掛けに答えることなく、クロガネ・シヴ・シノムラは喋り始めた――外行きの愛想の良さを微塵も感じさせない声。

 そこにあるのは敵意と警戒であり、その意識は救国卿に傾けられていた。

 

 

 

 

「――幾度名前を変えようと、お前の本質はまったく変わっていないようだな。我が不肖の弟子よ」

 

 

 

 

 その呼びかけでわかったのは、どうやら救国卿の名前の多さは昔からの癖らしいという事実だ。

 何個、名前があるんだこの女――今日だけで救国卿/ルシア/リュシーと三つも呼び名が出てきた相手に、呆れを通り越して尊敬の念すら抱いてしまう。

 

 クロガネの今の顔を見ることはできなかったが、エルフリーデの視界に収まっている不死の女の表情は雄弁だった――ミルク色の肌をほんのりと上気させ、亜麻色の髪の乙女は恋歌を口ずさむようにこう言った。

 

「クロガネ、ご機嫌麗しゅう。()()()()()()()()()()あなたが、自らの戦いを始められると聞いて……いても立ってもいられずに来てしまいました。思い立ったが吉日、これぞバナヴィア~ン。どうせなら今風にリュシーとお呼びください」

 

「断る――お前が如何なる意図でここに来たのかは問うまい。だが俺には、お前を捕らえて尋問すべき理由がある」

 

 恐ろしく断固とした対応である。そこにあるのは明確な拒絶の意思であり、従者のロイ・ファルカが主の前に進み出ている。この調子では私服姿の警備担当者が、相当数、人混みに紛れて護衛しているのだろう。

 

 ちなみにその背後では、今もなお忍者がばっちりポーズを決めて、観客と一緒に記念写真を撮っていた。

 しかも「ニーンニンニン! 忍者は正義の味方、これだけは覚えてほしいでござるよ~!」と愛想がやたらいい。

 

 もう存在がノイズみたいなやつである。できれば忘れてしまいたいが、間違いなく今の緊張した状況を揺るがす可能性がある。見物客との距離が近すぎるのだ。

 ざわざわとした話し声、群衆の意識がこちらに集まる気配――クロガネとリュシーの間に漂う剣呑な空気を感じ取ってか、徐々に周囲の人々も事態に気がつきつつあった。

 

 

――不味い、このままだと人死にが出る。

 

 

 そのときだった。

 エルフリーデは直感的に、自分たちを取り巻く空気の不自然さに気づいた。

 弾かれたように立ち上がって、空を見上げる。そこには何もないように見えた。晴れ渡った空の下、さんさんと降り注ぐ日差しをさえぎるものは何もない。

 そのはずだったが、同時に言葉にならない違和感がエルフリーデの感覚器を支配していた。

 

 

 

「……()()()()()

 

 

 

 ぞっとするような確信だけがあった。ここはヴガレムル市のど真ん中で、人通りも多いメインストリート沿いのオープンカフェの真上である。誰の目にも触れずに、何かを運んでくるなど不可能なはずだった。

 

 しかしエルフリーデ・イルーシャの感覚は嘘をつかなかった。少なくとも目に見える景色に不自然なところは何もないが、皮膚の感じる空気の流れ、聴覚の感じる風の音が異なるのだ。

 

 あるいは以前、クロガネに命を救われたとき――不可視化する(とばり)をまとったバレットナイトに命を助けられていなければ、考えもしなかった可能性。

 ()()()()()()()()()()が、エルフリーデたちのすぐ上を漂っている。

 

 

「ありえない、こんな低空で……」

 

 

 エルフリーデの呟きに対して、リュシーは悪戯が成功した子供のように笑う。それは見るものに好感を抱かせずにはいられない、とても魅力的な微笑みだった。

 

 

「完全な無音での浮遊(フロート)が可能なバレットナイト――ふふっ、現代の技術水準ではまずありえない作品でしょう。そうして驚いていただけると設計者(アーキテクト)冥利につきますね」

 

 

 先史文明種の遺産という単語が脳裏をよぎった。クロガネが使っていた虎の子の透明化技術と同等か、それ以上の理不尽な奇跡であった。

 いつでもダース単位の人間のミンチを作れる殺戮機械が、不可視化して音もなく空を飛んでいるなど――本気でどうしようもない理不尽だった。

 クロガネは無言で胸元の小型マイクに手をやると、ただ一言、告げた。

 

「命令だ、撃つな」

 

 レーザーポインターでの照準が消える。リュシー・ノワールを名乗る怪人、救国卿ルシア・ドーンヘイルが席を立った。コーヒーの代金をそっとテーブルの上に置いて、亜麻色の髪の乙女は優雅に一礼してみせた。

 

 

 

「わたくしの情報提供によって、このよき祭日が守られることを祈っています――では、いずれまたどこかで!」

 

 

 

 刹那、リュシーが地面を蹴った。それはエルフリーデの動体視力を持ってしても、移動方向を目で追うのがやっとの凄まじい跳躍だ。

 ほぼ垂直に数メートルの高さを飛び上がって、亜麻色の髪がふわりと宙を漂い――そのままリュシー・ノワールこと救国卿の姿が空中で消失した。

 化け物じみた身体能力だった。ふと視線を水平方向に戻すと、ついでに忍者も消えていた。あんなバカみたいに目立つ不審者が、今では視界のどこにも見つからないのだ。

 

 

――えっ、まさか本物の忍者?

 

 

 考えたくない現実が多すぎて、うんざりするほど課題が山積みになっていた。

 まるで嵐が去ったあとの瓦礫の山を目の当たりにしたような気持ち――エルフリーデ・イルーシャは正直な気持ちを呟いた。

 

 

 

「なんだったんだろう、あれ……」

 

 

 

 クロガネは少女の隣に立つと、疲れ切った様子でぽつりとこうこぼした。

 

 

 

「すまん、世話をかけた」

 

 

 

 喫茶店のオープンカフェにたむろする人々は、何が起きたかもわからず、呆然として空を見上げていた。人間が垂直に飛び上がって空に消えるなんて、新手のマジックか何かと思う方が自然だった。

 クロガネは何事もなかったかのように歩き始めた。エルフリーデはアイスティーの代金をテーブルの上に置くと、店員に一声かけてから、伯爵の背中を追った。

 

 止めてあった自動車に乗り込み、ドアを閉める。

 いろいろ言いたいことは山ほどあったけれど、ひとまずエルフリーデは励ますことにした。あまりにも黒髪の伯爵様の雰囲気が沈んでいたから、そうせずにはいられなかったのだ。

 

 

 

「えーっと、クロガネ……元気出してください、ね?」

 

 

 

 クロガネは肩をすくめると、ただ一言、思い出したようにエルフリーデへと釘を刺していった。

 

 

「念のために言っておくが……俺と不肖の弟子の間に男女関係はない」

 

 

 しょうもない冗談だったので、エルフリーデ・イルーシャは冷たい一瞥(いちべつ)で応じた。

 

「そこは別にどうでもいいんですけど……」

 

「…………そうか」

 

 クロガネは何故か落ち込んだ。

 エルフリーデは小首をかしげたあと、大事なことを思い出した。この場にクロガネが駆けつけたということは、ハイペリオンの統括する監視網と連絡が取れているのだろう。

 そうなるとあの機械卿が、リザに対してどんな仕事を振ったのか気になってくる。

 

 

「そういえばクロガネ、リザは今、何をしてるか知ってます?」

 

 

 問いかけに対して答えたのは、運転席のロイ・ファルカであった。金髪碧眼の従者は、その美しい面相に何の感情も交えずに、しれっとこう言ってのけた。

 

 

「早朝にヴガレムル市を離れたゲオルギイ・カザールとシャルロッテ・シャインの捕縛のため、バレットナイトで出撃しています」

 

 

「――はっ?」

 

 

 エルフリーデは間の抜けた声をもらしたあと、天を見上げて数秒間、押し黙った。

 そしてクロガネを睨み付けた。

 

 

「わたしに対して隠した理由を訊いても?」

 

 

「……お前は相手に同情しすぎる」

 

 

 冴え冴えとした美貌の青年は、臆することなくエルフリーデの怒りを受け止めていた。それがシャルロッテのことだと理解して、少女は何も言えなくなった。

 たしかに自分はシャルロッテ・シャインの境遇で思い悩んでいたし、朝方にそんな仕事の話をされても、完全に割り切って動けたかは怪しい。

 クロガネとハイペリオンの合理的な選択は理解できた。それだけに余計に腹立たしくなって、指摘すべき点をぶちまける。

 

()()()()()()()()()()

 

「だが、今のお前よりも冷徹になれる――では問おう、我が騎士よ。やれるか?」

 

 クロガネらしい発破のかけ方だった。挑発混じりの問いかけに対して、エルフリーデ・イルーシャは唸るように答えた。

 

 

「……わたしの力が必要ならば、いつでも」

 

 

「よろしい」

 

 

 何度も何度も、同じ問いかけが繰り返されている気がした。

 果たして本当に、クロガネのために戦うのは正しいのか、と――ハイペリオンも救国卿も同じことを言っていたのだと理解する。

 少女は答えを出したはずの宿題に再提出を命じられたような気分になって、しかめっ面で呟いた。

 

 

 

「面倒くさいことばっかり、みんな尋ねてくるよね」

 

 

 

 あるいはその面倒くささこそが、避けられない宿命なのかもしれないと悟りながら――少女騎士はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

























クロガネ「(なんか誤解されることがすごい多いので言っておこう)あいつ元カノ面すごいけど元カノじゃないから」

エルフリーデ「いや、どうでもいいよねその情報?」

クロガネ「(´・ω・`)」







救国卿のチャーミングな支援絵をいただきましたので是非ご覧ください!



※4/19追記
コトバノリアキさんから支援絵いただきました!
超かっこいい&かわいい、エルフリーデとアイゼンリッターのファンアートです。
あらすじ欄のリンクから是非ご覧になってください。





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