機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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エルフリーデ、演習する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これで一八機目か。

 

 

 空と呼ぶには低すぎる、地面すれすれの超低空を駆け抜ける。

 ジェットの轟音、超高温に熱されてプラズマ化した大気を吐き出し、推力へと変える一対二基のスラスターバインダーは翻るスカートにも似て。

 深紅の機体と一体化して、エルフリーデ・イルーシャは正確にカウントし続ける。

 敵を撃墜する、ただそれだけでいい。

 

 光学センサーが視界の中で動態目標を見抜く。

 時速五〇〇キロメートルの速度で飛翔する機甲駆体〈アシュラベール〉――古代の神像じみた一本角の騎士が、手にしたレーザー照準器を向ける。

 

 照準。

 引き金を引く。

 照射されたレーザー光線が、相手機のセンサーと連動して撃墜判定を弾き出す。

 市街地を模した立体的な障害物の群れ――屋根の高さは一階建てから、五階建てビルまで多種多様――それゆえの起伏に富んだ地形を利用して、敵のバレットナイト部隊は隠れ潜み、待ち伏せする戦術を行使していた。

 

 

――悪くない、第二世代機(アイゼンリッター)ならそうするべきだけど。

 

 

 しかし足りない。

 せっかくこちらが事前に手の内を明かしているというのに、二〇機近く撃破されているようではまだまだであろう。

 エルフリーデは醒めた目で()()()()()()

 

 真っ赤なスカートのようなスラスターバインダーを可動軸で反転させ、急激な減速を行う――強靭な脚部が地面と接触、ぎゃりぎゃりと路面を削りながら制動。

 急停止した機体。それでも立ち止まることなく、人工筋肉で大地を蹴った。

 走る。

 機甲駆体は四メートル大の巨人だが、その基本は歩兵のそれに忠実である。すなわち戦闘の基本は歩くことにあり、戦場で走り続けられない兵は死ぬだけなのだ。

 

 先ほどから彼女が相対しているのは、ヴガレムル伯爵家の紋章をつけた機甲駆体の群れだった。身長四メートルの巨人たちは、やはりエルフリーデと同じく、機関砲ほどの大きさのレーザー銃を手にしている。

 一二月の曇り空の下、生身であれば凍えるような寒さだが、電気駆動する人工筋肉には関係なかった。

 

 地平線の果てまで平地が続く、サンクザーレの大地――はるか遠方には巨木の森の影がぼんやりと見えており、高さ二〇〇〇メートル近い黒塔も遠目に拝むことができる。

 ここはヴガレムル伯領サンクザーレ地方にある演習場だった。本物の市街地を模して作られている街並みは、実際に人間が住む建物に比べればはるかに簡素なダミーである。

 

 

――とはいえ、二対三六の演習なんて普通はやらないよね。

 

 

 エルフリーデは相棒であるリザ・バシュレーと共に、伯爵家が保有する軍隊のうち、最も高性能な装備を持つ部隊と演習をしていた。

 ざっとバレットナイト一個中隊が相手である。

 

 普通に考えるならばまともな勝負になるはずがない数の差である。

 そういう常識的な感覚を矯正して、第三世代試作バレットナイトがどれほどの脅威かを叩き込むのが、今回の演習の目的だった。

 

 

――サンクザーレのときは国境沿いの防衛でかなり数を割いてたみたいだけど、クロガネにもいい兵士がいるみたいだ。

 

 

 相手方の練度は戦地帰りのエルフリーデから見てもかなりのものだったし、聴音型センサーや赤外線探知センサー――ジェットエンジンが騒音と高熱を発するので、この種のセンサーが有効なのだ――を用いた索敵も申し分ない。

 

 対空レーダーの支援が得られない市街地での遭遇戦という演習シチュエーションでも、十二分に機能しうる対策だったと言えよう。

 敵側は戦術データリンクを駆使して、三〇機以上の目と耳と鼻を連動させて、エルフリーデがどこからやってくるのかを探知できる。

 

 センサーと連動したレーザー照準システムもあるのだ。

 今回の演習では光波シールドジェネレータによる防御は考慮せず、レーザー照準器で一定時間、狙われた場合にダメージを受けたと測定する。

 つまり単純に考えて、銃口の数が多い方が圧倒的に有利なのだ。

 

 

――Aブロックで四機、Bブロックで四機、Cブロックで二機、Eブロックで八機。

 

 

 だが、実際の戦況はエルフリーデ側が撃墜数で圧倒していた。

 ジェットエンジンを使えば瞬く間に現在位置が割れるという対策を前にして、少女騎士が取ったのは極めて単純明快な戦術だった。

 

 超低空飛行による容赦なき攻撃――建物の屋根から屋根へと飛び移るような狂気じみた戦闘機動――敵陣に対する真っ当すぎるぐらいの騎兵突撃を敢行してみせた。

 これの破壊力は凄まじかった。

 

 模造ビル群を壁に見立て、これを遮蔽物(しゃへいぶつ)にして索敵網を構築していた敵軍は、いきなり軽々とこれを飛び越して突っ込んできた〈アシュラベール〉に翻弄(ほんろう)された。

 

 最初の五秒で四機に撃墜判定が出た。

 ジェット推進のうなり声を聞いて駆けつけた次の一分隊は、地上ルートでひっそりと進行していたリザによって待ち伏せにあって壊滅。

 

 この異様な状況に対して、偵察に出てきた二機をエルフリーデが始末した。

 状況を把握した敵軍がまとまった数を投入しようとする――何の前触れもなく〈アシュラベール〉が襲ってくる――直前までジェット推進機構を停止させ、地上の建物に隠れて近づいての奇襲。

 これでさらに四機を削り取った。

 

 銃口が自身に向けられる前に、模造ビルの影に飛び込む〈アシュラベール〉――追撃に出た〈アイゼンリッター〉部隊を、待っていましたとばかりにリザが狙い撃ちにする。

 敵が混乱したタイミングを見計らって、引き返してきたエルフリーデが別方向から奇襲する。

 実に効果的だった。

 おかげで一八機狩ることができた。

 

 まるでお手本のような領域との連携――空中飛行して自在に戦場を舞う〈アシュラベール〉と、低探知性を追求した特務仕様〈アイゼンリッター〉のコンビネーションだった。

 どう足掻いても目立つ〈アシュラベール〉に注目を集め、僚機であるリザの存在を隠蔽(いんぺい)する。

 

 この戦術の肝心なところは、種が割れても痛くないところだ。

 たとえリザの存在とその役割がわかったとしても、突撃してくる真っ赤な悪鬼を無視することはできない。

 本来、〈アシュラベール〉の側が突出しすぎるという欠点も、かえってリザがどこまで浸透しているかわからないという不確定要素に昇華される。

 

 

――半分まで減らせたけど、これ以上は厳しいかな。

 

 

 実戦ならば〈アシュラベール〉の防御力と機動力で押し切る自信がある。

 だが、今回のレーザー銃を用いた模擬戦の場合、銃口を向けられて一定時間経てば撃墜判定は避けられない。そうなってくるとエルフリーデが如何に傑出した戦士であろうと、ひっくり返せない戦局はある。

 何より特務仕様とはいえ、敵と同じ第二世代機であるリザは著しく不利と言える。

 

 残り一八機の敵部隊は決して無能ではないし、何より第三世代機がどういう兵器であるかについて、ある程度の理解がおよんでいる。

 赤外線探知センサーによる熱源探知は、電気駆動の兵器が中心の現代戦では、あまり用いられてこなかった類のセンサーだが――〈アシュラベール〉が圧倒的な戦果を叩き出した結果、急速に前線への配備が進んでいる。

 かつて〈アシュラベール〉が一二〇機を超える公爵家の騎士団を相手取り、大立ち回りを演じた頃とは前提条件が異なるのだ。

 

 

「さあリザ、やれるだけやってみようか」

 

 

 少女騎士は楽しむでもなく、苦にするわけでもなく、至って平常心で戦いを続行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、一五分間にも渡る攻防の末、〈アシュラベール〉はレーザー照準器によって捕捉され撃墜判定が出た。一方、伯爵家の有する最精鋭のバレットナイト一個中隊は、演習終了時には一個分隊にまでその数を減らしていた。

 

 条件からして〈アシュラベール〉にかなり不利だったのは否めないとしても、この演習結果がヴガレムル伯爵軍に与えた衝撃は大きかった。

 最強と謳われた英雄であろうと、条件設定次第では撃墜されうる。

 そんな当たり前の事実に、多くの軍人の目が覚めたのである。

 

 

 

――英雄エルフリーデ・イルーシャと〈アシュラベール〉の不敗神話。

 

 

 

 それに対する反証が、この演習の意義であった。傑出した英雄的個人であろうと、十分に対策して戦力差を押しつければ落とすことはできる。

 撃墜という結果はヴガレムル伯爵の軍が精強である証だったが、同時に他の勢力――ベガニシュ帝国軍やバナヴィア独立派にも、同じことができる証明でもあった。

 

 これまで次世代機の圧倒的なスペックを誇っていたからこそ、その優位性が縮まりつつあることを突きつけられ、ヴガレムル伯爵の軍は難しい舵取りを迫られることになる。

 あるいはそれこそが、この演習を望んだ伯爵の狙いなのかもしれなかった。

 

 

 

――良かれ悪かれ、時計の針は進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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