機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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伯爵家のティータイム(昔話編)

 

 

 

 

 

 

 

 

「――すいません、この昔話いつまで続くんです? まず時代背景が不明なんですけど」

 

 

 エルフリーデ・イルーシャは温かな紅茶の入ったティーカップ片手に、なんとも言えない表情でクロガネの顔を見た。

 お茶菓子に供された美味しいシュークリームがなければ、長話に付き合うことなく離席していたかもしれない。

 

 こぢんまりとしたティータイムテーブルに二人、向かい合って座っているというのに――何が悲しくって自分ではないどこかの誰かの劇的な物語(ボーイミーツガール)を聞かされねばならないのか。

 

 何せ言ってみれば、捨て猫を拾ってきた話の人間版である。クロガネがすごい科学技術で謎の紳士ムーブをしてたとか、わりと本気でどうでもいい情報ではないだろうか。

 少女の険しいまなざしを受けて、クロガネは心外そうに呟いた。

 

「ああ、今から一万年ほど前の話だ」

 

「もうお爺ちゃんと呼ぶことすらはばかられる数字が出てきた……!」

 

 いつものことながら、クロガネの語る人生経験はいくらなんでも出てくる数字がおかしい。年寄りの昔話あつかいとするには、歴史的という言葉すら生ぬるい領域の過去がぽんぽん湧いてくる。

 

 ほとんど神話的な時代である――世界最古の帝国とも呼ばれるカーラン一世の大陸統一国家すら、一万年の過去ではない。

 考古学者が必死に遺物をかき集めて、何とか歴史を語ろうと努力しているような未知の世界である。

 

 普通に考えれば与太話の類なのだが、いかんせんエルフリーデはクロガネの出自――彼は一〇万年前に滅んだ先史文明種(プリカーサー)の生き残りなのだ――を知っているので、その真実味を重く受け止めるしかない。

 なので少女騎士は、赤い瞳に形容しがたい驚きを浮かべるのだった。

 

「有史以前じゃないですか! なんでそんな大昔の人が出てくるんですか!?」

 

 黒髪の不死者は、話の要点をざっくりとまとめてみせた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()――お前も会った亜麻色の髪の女、ルシア・ドーンヘイルは一万年の歳月を生きた不死者だ。歴史上、幾度も名前を変えているが、彼女はバナヴィアという国家、バナヴィア人という民族の成立に関わっている」

 

 

 エルフリーデは思考停止した。

 数秒間、ティーカップを手に持ったまま硬直していた少女は、ゆっくりとソーサーの上にそれを置くと、目を閉じて深呼吸。

 すーはーと息を吸った末、目を開けて、重たすぎる事実を確認するように言葉を紡いだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。ええと、つまり……二五〇年前にバナヴィア革命を起こした救国卿は、あなたの弟子で、しかも一万年ぐらい生きてる不老不死なんですか?」

 

「最初からそう言っている。他に疑問点はあるか?」

 

「気軽に衝撃の事実をぶつけないで、わたしは常識人なんだから……」

 

 クロガネは微笑した。

 ものすごく面白い冗談を聞いたとでも言いたげな微笑みであった。エルフリーデは言外に発せられた男の感情を見抜き、ぬぅーとうめいた。

 

 今日は珍しく屋敷でできる書類仕事が中心だというので、こうして時間を合わせて午後の休憩を取っていたのであるが――エルフリーデとしては少々面白くなかった。

 

「なんですか、異論があるんですか?」

 

「いや、我が騎士のジョークセンスも上達してきたと思ってな。今ならば宮廷でもやっていけるだろう」

 

「その皮肉を言っているのか本気で言ってるのかわからない言葉選び、なんとかなりませんか?」

 

 こういうところがちっとも進歩していない。

 いや、本人の語る逸話から察するに――かつての救国卿と出会った頃から進歩していない可能性もある。もしそうならば重傷である。

 

 裏表がない言動こそ、この男が本当に心許した相手への態度だというのなら、複雑な心境ではあるけれど。

 ひとまず引っかかっていることを口にした。

 

 

「だいたいですね、かわいそうな女の子拾ってくるにしても節度があるでしょう。出会ってすぐに、ほいほいおうちに入れるのはうかつでは?」

 

 

「……お前にだけは言われたくなかったな」

 

 

 クロガネは本当に心外そうな顔だった。黄金色の瞳には「リザとシャルロッテを拾ってきたお前が言うことか?」と書いてあった。

 

 しかしこれに関しては、自分にも反論すべき項目があった。

 エルフリーデ・イルーシャは胸を張って、堂々とそれを口にした。

 

「待ってください、わたしはもっと関係を深めてます。リザもシャルロッテも命を賭けた死闘の末に保護しただけだし」

 

「突っ込みどころを増やすのがお前の流儀なのか……?」

 

「んんっ?」

 

 エルフリーデは首を傾げた。クロガネはおかしすぎる論理の流れに対して、どこから指摘すべきか苦悩していた。

 そんな不死者の悩みなど素知らぬ顔で蹴っ飛ばして、少女はひとまず話を戻すことにした。

 

「今そのお話をした理由、聞いてもいいです?」

 

「一言で言い表すならば――情勢の変化だ。お前も知っての通り、我がヴガレムル伯爵家は先日、バナヴィア都市連合という政治的共同体の設立を提唱した。これは複数の自治区と連携して、経済と安全保障の両面で結びつきを強めるものだ」

 

「前々から気になってたんですけど……これってすごいことなんですよね?」

 

 いや、エルフリーデにもそれとなく雰囲気はわかるのだ。これでも父から受けた教育は根付いているし、新聞にだって目を通してはいる。

 なのでまあ、クロガネがぶち上げた政治的共同体が、実際のところベガニシュ帝国の統治政策と相反する理念を持つことはわかっていた。

 

 ベガニシュ帝国は悪辣な統治をしている。バナヴィア王国という広大な領土を持つ大国を併合後、これを無数の小さな領土に切り分けて分断しようとしてきた。

 ベガニシュ貴族領、バナヴィア自治領、総督府の直轄領という三つの区分も、そういう邪悪な意図で作られたものである。

 

 もっともそのおかげで本来、バナヴィアから搾取するはずだった資産や資源の回収が上手くいかず、帝国の統治は赤字続きである――というのがクロガネの言だったはずである。

 少女の問いかけに、クロガネは深くうなずいた。

 

「ああ。三日後にヴガレムル市で予定されている会合には、バナヴィア東部および南部の有力な自治区から、首長が集まる手はずになっている。これは分断されたバナヴィアの現状を思えば、大きな進歩と言えるだろう」

 

「……帝国の傀儡って批判してる人もいますね?」

 

「まさにそれこそが()()()()()()()()。バナヴィア都市連合とは、本質的に――ヴガレムル伯領が主導権を握って、政治的影響力を拡大するための枠組みだ。バナヴィア独立派にとっては帝国の傀儡、総督府にとっては自分たちの頭の上を飛び越えた越権行為ということになる」

 

「つまり敵が多いってことですね」

 

 エルフリーデは身も蓋もない指摘をした。わかってはいたが、クロガネ・シヴ・シノムラの立場は極めて綱渡り的なものである。

 いっそのこと独立派なり帝国中央なり、旗色をはっきりさせてしまえば楽なのだろうが――それでは意味がないのだろう。

 

 クロガネは既存の枠組みのどちらも選べない人々のために、第三勢力じみた何かを作ろうとしているのだ。たとえそれが、ベガニシュ帝国皇帝とすら通じる人脈を通じた働きかけの産物で、実際には帝国政界との繋がりなしに成立しないものだとしても。

 

 あるいはエルフリーデの知る独立派の闘士、セヴラン・ヴァロールのような人々から見れば、所詮は利敵行為だと切って捨てられるであろう選択肢。

 だけど少女騎士は知っている――クロガネ・シヴ・シノムラという男の優しさと善良さを。

 ゆえに信じたいと思ったし、支えたいと願った。

 

「そうだ。それゆえに、救国卿にとって我々は無視できない存在になりつつある。彼女は必ず、何らかのアプローチを仕掛けてくる。そうなった場合、彼女の人物像を知っているかどうかが生死を分けるだろう」

 

「生死って……大げさな」

 

 ちょっと面食らった。

 話の流れからして、大局的な政治の話になると思ったのだけれど――クロガネの言葉からはもっと切実な場面を想定したニュアンスが感じ取れた。

 

 それこそ鉄火場、殺し合いの場で役立つか否かを論じるような口ぶりである。

 鼻白んだエルフリーデの目を見つめて、不死者はゆっくりと言葉を続けた。

 

 

 

「エルフリーデ――()()()()()()()()()()逸脱者(イレギュラー)、魂を自在に作りかえるもの。俺が知る限り、彼女は唯一、お前に匹敵する戦闘の天才だった」

 

 

 

 自分と同じもの。

 数え切れないほどの歳月を生きて、やはり数え切れないほどの人間を見てきたであろう男の断言に、エルフリーデは戸惑いを隠せなかった。

 二〇年にも満たない人生とはいえ、エルフリーデ自身、戦地で大勢の将兵を見てきた人間である。

 

 自分よりも剣術に優れるもの、射撃に優れるもの、戦術立案に優れるものはいた。しかしながら、いざ実践の場においてエルフリーデ・イルーシャの天才を上回る存在はいなかった。

 

 クロガネに救われ、ヴガレムル伯爵の騎士となってからの冒険でも同じである。

 ミリアム・フィル・ゲドウィンやリザ・バシュレー、シャルロッテ・シャインのような才覚あふれる好敵手もいたが――そのすべてを斬り捨ててきたからこそ、今こうして自分はここにいる。

 

 最近になってようやく、英雄の自覚ができあがってきただけに、少女騎士は不死者の言をどう受け止めればいいのかわからなかった。

 

 

 

「忘れるな。救国卿ルシア・ドーンヘイル――我が弟子ルクカカウの心の原風景は、この世界への怒りだ。その苛烈さゆえに、彼女は必ず、我々の前に立ち塞がることになるだろう」

 

 

 

 予言じみた言葉だった。

 それが現実のものとなることを、このときのエルフリーデ・イルーシャはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















エルフリーデ「元カノの話がしたいの?」
クロガネ「ボスキャラ解説だが?(回りくどすぎる話の流れ)」









そろそろバトルフェーズの次期です(?)




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