機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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悪鬼と天使

 

 

 

 想像を絶する真実だった。

 自分が生まれ育った故郷の伝統宗教の根底に、そのような不死者の妄執があったなど――にわかには信じがたいことである。

 ともあれ動揺はしても、エルフリーデ・イルーシャの戦闘センスが濁ることはなかった。

 

 

「――今かッ!」

 

 

 後方から急速接近する極超音速の矢――ほとんど狙撃型レールガンの砲弾と同等の速度域――を、間一髪で避ける。

 機体を掠めるようにして飛んでいった機影を見送る暇もなく、遅れてやってきた衝撃波が〈アシュラベール〉の機体を激しく揺さぶる。

 

 巨人の掌でぶん殴られたような振動だった。

 主翼を失った〈マルドゥック・フリューゲル〉装備では、安定飛行は不可能だった。横転するように傾いだ機体を立て直す。

 

 合計で五基の反動推進エンジンは無事だ。

 〈アシュラベール〉の推進方向を決定する。

 

 

『なるほど、そういう捉え方もあるでしょう。ゆえにわたくしのバナヴィアへの愛は、決して消えることがないのです』

 

 

「身勝手な話だッ!」

 

 

 深紅の悪鬼が空を駆け抜ける。

 これまでのどんな戦いよりも過酷なダメージ――機体フレームにまで及んだ負荷の反動が出始めていた。

 〈マルドゥック・フリューゲル〉で飛行ミサイル艦〈スオラン〉を撃沈するはずが、その対極にあるような超高機動の小型飛行物体との空中戦になってしまった。

 

 可動軸を持った四基のジェット/ロケット・スラスターを駆使して何とか乗り切ってはいるものの、回避運動の度に機体に蓄積されている損傷は無視できない。

 比喩抜きの殺人的加減速Gを踏み倒して、今のエルフリーデは応戦しているのだ。

 〈アシュラベール〉の進む先は、先ほど〈アルファマラーク〉によって真っ二つにされて轟沈した敵艦の真っ只中だった。

 

 まだ抗重力場機関が生きているらしく、七〇〇メートル超の船体が爆弾の誘爆で破壊され尽くしたあとも、ふわふわと残骸の破片が滞空している。

 言うなれば高度一万五〇〇〇メートル上空に出現した難破船と言うべき地形――まだ生きているらしい船体中枢から、絶えずエーテル粒子の奔流があふれ出している始末だ。

 

 誘爆していない巡行爆弾も、ほとんどそのままになって空中に浮かんでいる。

 はっきり言えば危険地帯である。

 亜音速で高速飛行する〈アシュラベール〉が残骸にぶつかればただでは済まないし、巡行爆弾が何かの拍子に爆発すれば、やはり助からない。

 その正気ならざる判断が必要だった。

 

 

――まともに空中戦は無理だ、確実に殺される。

 

 

 それほどまでの機体性能の差だった。質が悪いことに操縦者も凄腕だった。

 これまでにも副腕(サブアーム)を武器化して振るう超人たちは見てきた――セヴランの〈ミステール〉、カガンの〈ルー・ガルー〉、シャルロッテの〈ヤークトドラッヘ〉がそうだ――が、これほどまでに有機的に自らの一部として武装肢を使うとは。

 

 エルフリーデが救国卿の猛攻を凌げているのは、ひとえに()()()()()()()()()()からだった。

 先ほどの薄気味悪い告白にはびっくりしたが、なんとなく思考の癖は掴めてしまう。

 愛おしいもの、尊いものをこの世に永遠に残したいというすがるような思い――その思考の道筋そのものは、エルフリーデにもわかるのだ。

 

 

――いやまあ、わたしはティアナを愛してるだけでクロガネの過激派信者とはちょっと違うけど。

 

 

 実際のところどの程度、差があるのかは不明だった。しかし少女はするりと冷静な自己客観視の芽を忘れて、ひとまず目の前の戦闘に集中する。

 要するにエルフリーデにと救国卿は見ている世界の像が似ている。物事に対する価値観や感じ方、それをどのように行動へ移すかの段取りも極めて近しい。

 

 ゆえに攻撃のタイミングが予測できたのだ。

 自分ならそうするという確信――あとは山勘を交えて、生き死にを駆けた博打をするだけでいい。

 〈アシュラベール〉と〈アルファマラーク〉の機動力の違いは明らかに隔絶していたが、それでもなお、たった一つのルールはあった。

 

 あの機体はおそらく、五メートルもない人型機に機能集約した結果として、遠距離攻撃用の兵装を搭載していない。

 だから確実に仕留めるならば、白兵戦の間合いになるのだ。

 

 

「セヴランみたいな人でなしを部下にして、今も手足として使ってる人間が――バナヴィア人の代表みたいな顔をしないでっ!」

 

 

 エルフリーデは挑発じみた言葉を吐き捨て、飛行艦〈スオラン〉の残骸に機体を隠す。

 手頃な残骸を見つけると、急制動のために逆噴射を実行。そのままランディングギアを展開――船体表面を滑るように滑走して、打ち砕かれた船体の残骸に降り立った。

 

 元が七〇〇メートル超の怪物的な巨大艦だから、破片一つ取っても一〇〇メートル以上あった。

 ジェットエンジンを切る。

 残骸に身を隠すための決断だった。

 超音速で空の彼方へと飛んでいった敵機が、再び舞い戻ってくるまでの時間を計算する。

 素晴らしい。

 

 少なくとも相手は光の速さになったりはできない。ならば光学情報を用いた索敵システムでも十分に捕捉できる。

 そして高エネルギー状態のエーテル粒子が噴出して、夜空を照らす花火のようになっているこの空域は、身長四メートル半の巨人が身を隠すにはうってつけだった。

 瞬間、耳をつんざく轟音が響いた。

 

 エルフリーデから見て二〇〇メートル先、一際大きな飛行ミサイル艦の残骸が、超音速の衝撃波(マッハコーン)に撃ち抜かれて激しく砕け散った。

 はるか遠方から再接近してきた〈アルファマラーク〉だ。

 

 まるでミサイルよろしく機体そのものが刃となって、接触した物体を破砕する。およそこの世のものとは思えぬ暴れっぷりだった。

 声――謳うように高らかに。

 

 

『ベガニシュという虐殺者の群れを止めるための犠牲です。同胞の骸は、私の胸を今も責めさいなんでいる――ですが、ええ、心から哀悼の意を捧げましょう。エルフリーデ・イルーシャ』

 

 

 言葉は返さなかった。

 電波の発信源から現在位置を特定されるからだ。

 そんなエルフリーデの戦術的判断を余所に、圧倒的強者である〈アルファマラーク〉は言葉を重ね続けた。

 

 

『私はあなたに気づいて欲しいのです――クロガネを信じてはいけません。あなたは今、家族や友人の安全しか目に入っていない。そのような矮小な物言いで、ベガニシュ人の悪意から妹さんを守れると思っているのですか?』

 

 

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。

 これは救国卿の本心というよりも、エルフリーデ・イルーシャの性格を把握した上で、挑発として述べている言葉だろう。

 

 先ほど〈アルファマラーク〉によって打ち砕かれた残骸が、大きな火柱を上げた。

 船体内部に残っていた巡行爆弾に誘爆して、とんでもない爆風が生じている。アルケー樹脂装甲で覆われた残骸の影に隠れてやり過ごす。

 

 抗重力場機関の暴走によるものなのか、無重力化しつつある空間内を、高速の破片が飛び交う。

 人体など一瞬で破壊され尽くすであろう死の嵐。

 船体の残骸に当たった断片が、甲高い着弾音を立てて楽器のように音を打ち鳴らす。

 

 

 

『予言しましょう。あなたは()()()()()()()()()()()()――あの男は人類のために行動する。いつか、きっと、あなたの大切な人々を切り捨てていくでしょう』

 

 

 

 そのとき〈アシュラベール〉は目視した。

 黒い天使の形をした敵が、ふわりと優雅に視界の先に現れるのを見た。ちょうどエルフリーデに後ろ姿をさらす形だった。彼我の距離は五〇メートルを切っている。

 

 抗重力場機関によって無重力状態が生じているために、二機のバレットナイトは互いの現在位置を把握できていない。

 電磁波や音波による探査をしようにも、今この瞬間も強烈なエネルギーを吐き出し続けている〈スオラン〉の残骸のせいで、正確な位置測定が不可能なのだ。

 

 

――嫌な二者択一だよ、本当に。

 

 

 これは誘いか、それとも絶好の機会か。

 判断をつきかねる、永劫に思える一秒間が過ぎ去った。いずれにせよエルフリーデは選ばなければいけなかった。

 〈アシュラベール〉の側から敵機が見えているということは、敵がこちらを発見するのもそう遠い未来ではないのだから。

 

 決断した。

 瞬間、最も立ち上がりが速い脚部ロケットブーツを選んだ。エーテルパルス・ロケットスラスター二基が、高エネルギー粒子を噴出して爆発的推力を生み出した。

 加速する。

 

 深紅の悪鬼が、左手に握った太刀を手に突進する。

 その〇・三秒後、背部に装着した馬鹿でかいジェットエンジンに最後の命令を送り込んだ。

 残ったわずかな燃料を燃やし尽くすようなジェット噴射――炸裂ボルトに点火、〈アシュラベール〉から切り離された〈マルドゥック・フリューゲル〉ユニットだけがすっ飛んでいく。

 

 黒い天使〈アルファマラーク〉がこちらを振り返る。

 もう遅い。

 増加ブースター全体をミサイルのように叩きつける。〈アシュラベール〉本体のロケットブーツによる一次加速と、背部ブースターを切り離したあとの二次加速を合わせた速度。

 如何なる反則の軌道特性を持っていようと、交戦距離が五〇メートルを切っている状態でこれを回避する術はない。

 

 

 

「――わたしを愚かと笑うのはいい。でもクロガネを、そんな風に(あざけ)るのだけは許せない」

 

 

 

 断言する。

 あるいはこの信頼と親愛が、裏切られる日が来るとしても――それが今ではないのなら、エルフリーデが迷う理由にはなり得ない。

 

 少女騎士の固い決意が、必殺となって飛翔する。

 〈アルファマラーク〉に増加ブースター〈マルドゥック・フリューゲル〉の高高度飛行ユニットが、今まさに直撃せんとした刹那。

 

 

『――なるほど』

 

 

 一閃。

 黒い天使が目にも止まらぬ斬撃を放った。その背中から抜き放たれた一振りの長剣――十字架を模した意匠の超硬度重斬刀(テロス・ブレード)であった。

 まるで十字を描くように切り裂かれる〈マルドゥック・フリューゲル〉ユニットが、盛大な火花を散らしていく。それはまだ、プロペラント・タンクに残っていた航空燃料に引火して。

 

 爆発。

 白く燃えるような焔の華が咲いた。

 火焔に飲み込まれた〈アルファマラーク〉目がけて、〈アシュラベール〉が飛翔する。再点火した四基のスラスターを最大出力で噴射、その膨大な推力だけで時速九〇〇キロメートルを超える速度を叩き出した。

 爆炎を引き裂いて、漆黒の翼が襲い来る。一対二枚、縦方向と横方向それぞれを埋め尽くすような斬撃。

 

 

 

『わたくしこそが摂理の執行者、バナヴィアの歩む運命を導くものです――エルフリーデ、わたくしと共に来なさい。あなたの力が必要です』

 

 

 

 見切った。

 如何なる慣性制御を実現していようと、可動部の制約から、同時に斬撃を放つことはできない。

 そのわずかな斬撃と斬撃の隙間、時間差によって生じた空間の隙間に飛び込んだ――それを待ち受けていたかのように、〈アルファマラーク〉が両手で握った超硬度重斬刀が迫り来る。

 

 一振りの長剣を両手でゆるりと握り、振るわれる刃。

 ただ速かった。

 剣鬼セヴラン・ヴァロールの〈ミステール〉の奇剣、英雄カガンの〈ルー・ガルー〉の獰猛な剣、シャルロッテ・シャインの〈ヤークトドラッヘ〉が見せた獣性――そのいずれとも異なる速さ。

 

 極限まで無駄をそぎ落としていった果てに、人がたどり着く剣の極地。

 予備動作を感じさせることなく、ただ真っ直ぐに命を絶ちきるために最適化された刺突。

 

 

 

――なんて綺麗な剣だろう。

 

 

 

 エルフリーデ・イルーシャはひるまなかった。

 目くらまし代わりの光波シールドジェネレータを展開、すでに肘から下を欠損済みの右腕を盾にする。人工筋肉の駆動システムをしなやかに連動させ、身をひねるようにして刺突を(かわ)した。

 

 被弾した。

 衝撃と共に右肩部がごっそりと突きえぐられて弾け飛ぶ。姿勢を崩しながら、〈アルファマラーク〉が空中で放った必殺の刺撃を避け切る。

 そしてすれ違い様に叩き込んだ斬撃――虚空を薙ぐだけの切っ先。

 

 

 

――()()()()()!?

 

 

 

 不味い。

 直感した刹那、〈アシュラベール〉の機体が吹き飛ばされた。くの字になって吹き飛ぶ駆動フレーム――空中で宙返りした〈アルファマラーク〉が、蹴撃(キック)を叩き込んできたのだ。

 それまで〈アシュラベール〉が帯びていた運動エネルギーに、強烈なハイキックの衝撃が加えられる。

 

 今度こそ推進方向が狂った。

 亜音速の速度で飛行艦の残骸に衝突しかける――電気熱ジェット推進機構とスラスター・スティルツを制御、四基のエンジンが生み出す推力だけで姿勢制御を取り戻す。

 

 ランディングギアで船の残骸に着地――ガリガリとその表面を削るように滑りながら、エルフリーデは索敵し続けた。

 直上から来る。

 

 

 

『あなたがわたくしの理解者であるように、わたくしもまた、あなたの理解者なのです。互いがその殺意を読み取る限り――我らの戦いを決着させるのは、駆体の性能そのものです』

 

 

 

 ああ、なんて最悪の相互理解だろう。

 きっと今まで自分が倒してきた子たちは、こんな気分でエルフリーデ・イルーシャに対峙していたに違いない。

 

 救国卿は誰よりもエルフリーデに近しく、それゆえにエルフリーデが取る選択肢を誰よりも深く理解している。

 流星が見えた。

 

 

 

――青白い帚星(ほうきぼし)、抗重力場機関によって飛翔する黒い天使がやってくる。

 

 

 

 頭上には青白い飛翔体。

 あちこちの装甲がひび割れ、右腕を丸ごと失い、軋む駆動フレームを抱えて満身創痍(まんしんそうい)の〈アシュラベール〉。

 

 それに対して、古代神話の彫像のように美しい黒の御使いは、腹立たしいぐらいに無傷だった。

 どうやら至近距離での航空燃料の引火・爆発すら、敵機にとっては有効打になっていないようだった。

 遺跡のオーバーテクノロジーを組み込んだ怪物的な機体――煌々(こうこう)と輝く単眼が、エルフリーデのことを見ていた。

 

 

 

『さあ、わたくしのお願いに頷くか――ここで死するか。選ぶときです、英雄殿』

 

 

 

「……わかりきった問いかけをするんですね」

 

 

 答えは三つめ。

 軍門には降らないし、ここで大人しく倒されてやるつもりもないということだ。

 さて、状況はすこぶる悪いが、かといって向こうが言うほど一方的な勝負でもない。

 

 エルフリーデ・イルーシャは救国卿の動きの意図、思考の癖を読み取っているし、その結果として〈アルファマラーク〉の攻撃に対応できている。

 問題があるとすれば〈アシュラベール〉の状態だろう。

 

 先ほどから戦闘の負荷が蓄積されて、機体のステータスを示す計器類はろくでもない情報を表示し続けている。Gで痛めつけられている骨格はもちろん、電磁式人工筋肉の断裂が始まれば、いよいよまともな白兵戦は不可能になるだろう。

 

 悔しいが認めよう。

 たしかに乗機の差が、そのまま死に直結する状況だった。

 

 

――だけど生き延びてみせよう、わたしは彼の剣だから。

 

 

 そう思考した瞬間だった。

 エルフリーデは敵の背後に、とてつもなく眩しい巨大な光を見つけた。

 最初、少女はそれの全貌を理解できなかった。一つ一つは淡い光が、急速にその密度を増していった結果、足下の巨大な残骸――宙に浮かぶ飛行艦〈スオラン〉の残骸から吹き出す、エーテル粒子が狂ったような旋律を(かな)でていた。

 

 それは光輝の洪水だった。

 可視化されたエーテルが荒れ狂い、〈アルファマラーク〉の姿が見えなくなるほどの量、空間に満たされていた。

 

 

 

――空が割れる

 

 

 

 暗色の夜空が、虹色の光に切り裂かれて――うねる光の大蛇が躍り出る。もっと北方の極地で観測されるはずのオーロラが、北海の上空で発生しつつあった。

 エルフリーデはその瞬間、たしかに声を聞いた。

 

 それは飛行艦〈スオラン〉と融合した兵士の意識、〈トリニティ・コフィン〉の被験者たちの声だった。

 もうろうとした様子で、うわごとのように呟かれる声が――電波に乗ってもれ出している。

 

 

『おお……おおぉお……これはなんという……そうか、これが、神の救い……』

 

 

 その瞬間、空を引き裂きながら巨大な輪が現れた。

 エルフリーデが〈アシュラベール〉のカメラアイ越しに観測したのは、紛れもなく天使の輪(ヘイロゥ)だった。

 

 記憶が蘇る。

 あれはフィルニカ王国で起きた事件で見たものと同じだ。リザの弟たちが融合した巨大兵器〈イノーマス・マローダー〉の辿った末路――空が割れ、天使の輪が現れ、光り輝く何かが彼らをこの世から消し去った。

 

 あとからクロガネに聞いたところによれば、あれは電脳棺の暴走事故であり、その結果として時空連続体に対して致命的な事象が云々、だとか。

 えらく専門的で聞き慣れない科学用語が頻出したのは覚えている。ほとんどSFじみたイベントだと飲み込めただけである。

 

 

――もっと真面目に尋ねておくべきだったよ、こんなことなら!

 

 

 動揺した少女は周囲を見渡す。

 〈アシュラベール〉のセンサーシステムが告げるだけでも異常は明白だった。電磁場の乱れは自然界で起きるそれの許容値を超えている。思えば周囲の重力が無効化され、無重力地帯が生まれていたこと自体が前兆だったのだ。

 

 自分を飲み込む虹色の洪水が、もう手遅れなほどに周囲を飲み込んでいることを悟った。

 エルフリーデは喉元までせり上がってきた恐怖を、光輝の渦の中で直視した。

 

 

 

 

――神が降りてくる

 

 

 

 

 時空連続体を断裂させ、剥き出しになった虚ろなる空の彼方より、大いなる掌が伸ばされる。

 それは指の一本一本が一キロメートルにも及ぼうかという、何もかもが馬鹿げた大きさの(かいな)だった。

 おそらく初めて動揺したように、救国卿――ルクカカウがその声を震わせていた。

 

 

 

 

『これはアカシャ臨界反応……偽りの神(ヤルダバオート)……よもやこのタイミングで!』

 

 

 

 

 エルフリーデはジェット推進機構を最大出力で稼働させていた。だが、離脱できない。すでに空間的な概念が意味を成さなくなっていると気づくまで三二秒が必要だった。

 周囲の景色はエーテル粒子の爆発的増殖に埋め尽くされ、全天を覆う神の指からは逃れられない。

 そしてすべてが飲み込まれる刹那、少女はそれの本質を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――それは存在の原初に座すもの、一であり全である虚空の主、エーテルで編まれた救世機械。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――死すら終焉を迎えた永劫である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、すべてがその手指の中に包まれて。

 北海上空、一万五〇〇〇メートルで起きた戦闘は終結した。

 あらゆる痕跡を残さずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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