機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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鋼の乱破

 

 

 

 

 

 

 思わず抗議の声をあげたエルフリーデ――そもそも一言も会話したためしがない忍者が、妙に馴れ馴れしく話しかけてくる恐怖――だったが、それはそうとこの状況の異常さにも気づいていた。

 

 総督府のお膝元であるクロイツェク管区で演習が行われるのはともかく、そこが陰謀の舞台となり、ヴガレムル伯爵軍が待ち伏せを受けることまで予期しているのはおかしい。

 クロイツェク領とヴガレムル領を繋ぐ幹線道路沿いに、伏兵を忍ばせておくには、相当前から情報を掴んでいなければならない。

 

 

 

――わたしたちの撤退ルートが読まれていた、それもバナヴィア独立派に!

 

 

 

 おそらく救国卿の差し金だ。

 以前、ヴガレムル市に姿を現したとき、彼女はこともなげにクロガネの監視網をあざむいてエルフリーデと接触してみせた。

 

 専門家ではない少女には見当も付かないが、おそらく何らかの技術として、救国卿は電子的な情報に対するアドバンテージを持っている。

 明らかに新造された駆動フレームのバレットナイトといい、この忍者がバナヴィア独立派の差し金なのは疑いようもなかった。

 

 

 

――速攻で殺すしかない!

 

 

 

 エルフリーデ・イルーシャは苛烈で容赦がなかった。相手側がいきなり姿を見せて話しかけてきたのは、おそらくエルフリーデがその存在に勘づいていたからだ。

 少しでも殺意をゆるめれば、その瞬間に牙を剥いてくるであろう予兆――百戦錬磨の少女兵は、自身の予感を信じた。

 

 そしてすでに命令は発されていた。

 ベア小隊のバレットナイトが、手にした機関砲を照準して発砲する。口径二〇ミリの電磁機関砲は、電磁誘導によって砲弾を高速発射するレールガンだ。

 その弾速は音速の五倍以上、互いの姿がはっきりくっきりと目視できる距離においては外しようがない。

 

 バレットナイトは強烈な加速で地面を跳びはね、立体的な三次元機動を可能とする陸戦兵器だが――その戦闘機動には自ずと限界が生じる。人工筋肉の手足によって駆動する以上、空中での姿勢制御には制約があるからだ。

 

 火器管制装置がその未来予知を予測するのは容易い。

 瞬間、眩い光が爆ぜた。光波シールドジェネレータによって発せられた粒子防御帯、高エネルギー粒子の盾が砲弾によって砕けるときの閃光だった。

 

 

「ベア4とベア5、指定座標に対戦車榴弾を撃ち込め!」

 

 

 エルフリーデは即座に指示を出した。〈アイゼンヴェヒター〉は動きの鈍い重バレットナイトだが、指揮官としてのエルフリーデの頭脳はかつてなく冴え渡っていた。

 光波シールドジェネレータの光に紛れて、一振りの直刀を抜いた影が躍り出てくる。

 速い。

 

 その速度は明らかに第二世代機の水準を超えており、帝国製の二・五世代機〈ブリッツリッター〉に比肩するレベルの運動性だった。

 前衛を務めていたベア小隊の二機、ベア4とベア5が多目的発射機から榴弾を投射する――目標は今まさに打ちかかってきた忍者のバレットナイトだ。

 

 濃紺に塗装された黒に近い機影、その全身を覆っていた外套(コート)は、光波シールドジェネレータの展開によって見る影もなく焼け落ちた。

 一瞬で灰になって燃え尽きる余塵が、対戦車榴弾の爆発で吹き飛んだ。

 指向性を与えた成形炸薬弾の炸裂――まともに直撃すれば、戦車にだってダメージを与えられる大口径榴弾――しかしながら仕留めきれなかった。

 理由は単純だ。

 

 

 

――空中で機動を変えた!?

 

 

 

 エルフリーデはたしかに見た。

 まるで子供向けの紙芝居で、大げさに誇張して描かれる忍者みたいな機甲駆体――両手に手甲鉤を生やした巨人が、その背中から火を噴いて加速する様を。

 

 瞬間的な加速でロケット弾じみた軌道を描くバレットナイト。

 それまで三〇メートル程度あった前衛との距離が瞬時に詰まる。鋭く閃く忍者の刀――ベア4が片手で抜いた対装甲ナイフが、そのブレード諸共に砕かれていく。

 

 瞬時に左腕を失った〈アイゼンリッター〉を守るように、仲間たちの銃火が閃いた。

 同士討ちを避けるために発砲を忌避すれば、かえって敵によって犠牲が生じるという確信――ベア小隊は冷静極まりない精密射撃でこれに応じたのだ。

 忍者の機体がベア4を蹴って空中に飛び上がった。

 宙を踊るように飛ぶ忍者、まるで悪夢じみた光景に舌打ちしたくなった。

 

 

 

「――こいつは第三世代機だ! 双子戦術(ツインズ)を使う、剣士(ソードマン)にスイッチ!」

 

 

 

 ベア小隊には以前、エルフリーデ直々の嚮導で戦術を教えたことがあった。

 双子戦術は乱数回避機動と同じく、かつて大陸間戦争の最中にエルフリーデ・イルーシャが編み出したバレットナイトの戦術機動だ。

 ゆえに動きは迅速だった。

 

 エルフリーデが指示を飛ばした瞬間、ベア小隊のうち無傷の三機が近接武器を抜刀した。片手半剣(バスタードソード)型の超硬度重斬刀を抜き放つ〈アイゼンリッター〉が、忍者の周囲で円を描くように走り始めた。

 雪を蹴立てて走る三機の巨人――動きを止めた瞬間に自分が狩られると理解した忍者は、おどけた様子でしれっと軽口を叩いた。

 

 

『手荒い歓迎でござるなぁ! 拙者、エルフリーデ殿に恨まれる覚えはないでござるよ!?』

 

 

「じゃあ投降してくれますか?」

 

 

『それは無理でござる』

 

 

 刹那、濃紺の巨人が動きを変えた。ロケット推進器によって滞空していた機体が、獣じみた逆関節の脚部で地面を踏みしめる。

 抜刀したベア小隊の〈アイゼンリッター〉三機が、動きを合わせて刃を突き出した。

 一歩間違えば同士討ちになりかねない間合いを、三機それぞれが把握して放つ集団戦術としての剣技――刺突が叩き込まれる。

 

 忍者の両手で閃くもの。何かが射出される。

 鋭いかぎ爪が一体化したガントレット――手甲鉤が発射されたのだ。おそらくアンカーガンの類。直前まで予兆の存在していなかった飛び道具――斬りかかった三機のうち、二機は咄嗟にかぎ爪を切り落とした。

 

 ゆえに忍者が対処すればいい刺突は一機分だけ。

 身をひねって突きを避けた濃紺のバレットナイト――片手に握った忍者刀が振るわれ、〈アイゼンリッター〉の両腕が切断された。

 流れるように回し蹴りが叩き込まれ、二本の腕を失ったベア6が地面に転がる。

 

 

『――手ぬるいでござるなあ。拙者の〈残雪〉には届かんでござるよ?』

 

 

 手甲鉤のワイヤーをパージ――身軽になった忍者のバレットナイト〈残雪〉は、残る二機の〈アイゼンリッター〉に向き合って肩をすくめてみせた。

 

 

「ベア5とベア7は後退! 車両を守れ!』

 

 

 抜刀した〈アイゼンリッター〉二機が後ろに飛び退った瞬間、すかさず銃撃を加えた。エルフリーデの傍に控えていたベア2とベア3が、電磁機関砲を発射したのだ。

 嵐のような機銃掃射――その銃火によって敵が防御姿勢に映る。たまらずロケット推進で空に飛び上がった敵――突如として始まった戦闘に、ブレーキを踏んで停止しようとする装甲車の群れ。

 

 ちょうど忍者のバレットナイト〈残雪〉は、彼らの進路を塞ぐようにして戦闘を仕掛けてきていた。

 不味い。エルフリーデは檄を飛ばした。

 

 

 

「足を止めるな、わたしが進路を切り開く――アクセルを踏み続けろ!!」

 

 

 

 敵の待ち伏せがあるとわかった以上、前進した先に何が待っているのかわかったものではない。しかしここで足を止めれば、それこそ敵の思うつぼだった。

 二〇ミリ電磁機関砲すら防げないような軽装甲車両が足を止めれば、いよいよいい的でしかない。

 

 重バレットナイト〈アイゼンヴェヒター〉の複合センサーと火砲ならば、大抵のトラップは事前に吹き飛ばして対処できる。

 そしてエルフリーデは迷うことなく、自分が先頭に出ることを決断した。

 

 

「ベア2とベア3は車両の周囲を索敵! ベア8はベア4とベア6を援護、彼らを戦線復帰させる! ベア5とベア7、わたしを守れ! 〈アイゼンヴェヒター〉で突破口を開く!」

 

 

『ライオネス1、危険です!』

 

 

「相手は〈アシュラベール〉の同類、この場で対処できるのは〈アイゼンヴェヒター〉だけです」

 

 

 異論を認めない。残念ながら話し合って解決する時間なんて、敵は認めてくれなかった。

 危険な兆候を感じた。武装や腕部を破壊され、地面に倒れている〈アイゼンリッター〉――ベア4とベア6に大して、忍者が躍りかかるのが見えた。

 

 とどめを刺すつもりだ。

 エルフリーデは自身の乗機〈アイゼンヴェヒター〉の副腕、二〇ミリ電磁機関砲の引き金を引いた。

 

 徹甲弾の雨――叩き込まれる機銃掃射。

 命中弾はない。地面を蹴って軌道変更した〈残雪〉が、直前まで火器管制装置が予測していた動きを上回ってみせたのだ。

 

 宙を薙いだ機銃掃射が、道路横の森林をなぎ倒していく。

 パキパキと木の幹が砕けて、堅い繊維質が割れていく音が聞こえた。再び離脱した忍者は、こともなげに森の木々の中で突っ込んで姿を消した。

 

 

 

――こういうの、一発ネタみたいなやつが強いのは反則でしょ!?

 

 

 

 舌打ちしたい気分だった。

 無限軌道の回転速度を速めて、装甲車の群れを追い越して最前列に躍り出る。3D化してある地形情報、光学センサーと音響センサーを組み合わせた統合索敵システム――すべての情報を総合して一番怪しいところを直感で選んだ。

 

 一二〇ミリ試作電磁狙撃砲を構える。

 出力は抑えて最大出力の四〇パーセント程度、重戦車の装甲を射貫くには至らないが、それでもなお破壊力は絶大だ。

 

 雪化粧が施された景色の中、おそらく道路上に危険はないと判断する。積雪を掘り返せばそれだけで目立つし、アスファルトで舗装された路面に対戦車地雷を仕込むのも難しい。

 となると路肩爆弾の類が危険である。

 

 さて、どこで仕掛けるか――()()()()()()()()()という確信と共に引き金を引いた。

 馬鹿でかい試作レールガンの弾倉内、徹甲弾と交互に装填された対戦車榴弾が発射される。反動は強烈だったが、アウトリガーを展開して機体を固定するほどのものではなかった。

 

 着弾する。前方三〇〇メートル先、道路脇のわずかな盛り上がりを対戦車榴弾が吹っ飛ばした。

 瞬間、大爆発が起きた。

 仕掛けられていた爆発物が爆ぜたのだ。

 雪の欠片が高々と宙を舞う。白い雪の結晶が豪雨のように降り注ぎ、空気を伝わった衝撃波が押し寄せる。

 

 

 

「敵がもう一度仕掛けてくる! 右手の森を見張れ――」

 

 

 

 叫んだ瞬間、エルフリーデは違和感に気づいた。視界をさえぎるように振りまかれた雪の結晶、それが煙幕のように一瞬だけホワイトアウトを引き起こした。

 空間が白で埋め尽くされる。

 

 これが敵の狙いだったと気づく。

 そして理屈ならざる直感で、左手に装備した大盾〈ブレッヒャーシルト〉を横薙ぎに振るった。超振動ハンマーとして機能する複合武器たる盾の一撃――火花を散らして白刃が閃いた。

 怖気が走るような剣閃だった。

 

 柄まで含めれば全長四メートルにも達するであろう刺突長剣(エストック)

 亜音速に達した刺突が、左前方から飛んできた。

 真っ白に塗り潰された視界の中、それでもなお身体が覚えていた敵の剣術――エルフリーデ・イルーシャは自身の喉を焼く激情に気づいた。

 

 

 

 

 

「――セヴラン・ヴァロール!」

 

 

 

 

 

 叫びは嘆きに似て。

 親しみを感じさせる声音で、鴉頭の剣鬼が笑った。

 

 

 

 

 

『元気そうだな、エルフリーデ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











・〈残雪〉
身長4.3メートル。
救国卿によって東洋の神秘を自称する忍者に供与された第3世代バレットナイト。
その駆動フレームは〈ミステール〉のノウハウを反映しつつ、より小型化して運動性を強化することが目標となっている。
バナヴィア独立派において初めて、第3世代機の定義を満たす要素――エーテルパルス・ロケットの推進機構が搭載された機体である。
(※開発時期そのものは〈アルファマラーク〉以前である)。
この推進器は補助的なもので、それ単体での飛行を目的とせず、脚部による跳躍と組み合わせることで短時間の空中姿勢制御が可能。

背部ロケット推進器と電磁式射出アンカーを駆使した三次元機動を行う。
折り畳まれた獣脚型の脚部によって、通常のバレットナイトを凌駕する跳躍力・地上走破性能を持つ。
すなわち自身を非人間型の機構と同一化できる異形のもの――選ばれた乗り手を前提とする、救国卿の思想を体現した作品の一つである。

しかしながら本機は決して、完成度の高い第3世代機ではない。
出力の低いエーテルパルス・ロケット推進器(バナヴィア独立派にはこの種の推進器のノウハウがない)で飛翔する関係上、限界ギリギリまで機体は軽量化されている。
このため装甲防御をほぼ諦めて、光波シールドジェネレータに防弾性能を依存する形になっている他、搭載可能な武装も極めて限定される。
高密度金属を使った超硬度重斬刀を携行するだけでペイロードが限界に達するなど、技術的な課題の多い機体である。

武装
・オプション装備:電磁迷彩外套
・背部固定装備:光波ロケット推進器×2
・肩部防御装備:光波シールドジェネレータ×1
・腕部固定装備:電磁アンカー付き手甲鉤×2
・腕部内蔵武器:自在軌道剣パイチェ・シュヴェールト×2
・携行武装:超硬度重斬刀(ニンジャブレード)









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