機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットと政治チート男の英雄譚~   作:灰鉄蝸

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望まれざる再会

 

 

 

 エルフリーデ・イルーシャにも確信があったわけではない。

 常日頃の事件の始まり──おおむねクロガネと共に進んだ道の先で、向こうからアクシデントが襲ってくる──と、今回の出張はパターンが違った。

 

 まずクロガネと別行動で、ホームの外に出張る羽目になるという状況が特殊だったのだ。

 自慢ではないが、エルフリーデには自分が愛されているという自覚があった。

 そして何よりクロガネと少女が交わした契約は、お互いが履行すべき義務についての取り決めでもあった。

 

 

 ──ティアナ・イルーシャの身の安全の保障と引き換えに、クロガネ・シヴ・シノムラは最強の機甲猟兵の助力を得る。

 

 

 二人の戦いの始まりは、そういうギブアンドテイクによって定められていた。

 そういう原理原則ゆえに、クロガネはエルフリーデの身辺警護には気を遣っている。

 

 フィルニカ王国での銃撃戦やリゾート地マリヴォーネでの騒ぎなど、少なからず例外的なケースもあるが──まあ基本的に手厚く守られていると考えていい。

 いいはずである。

 

 

 ──いや、でも普通は死んでるかもしれないね!

 

 

 ちゃっかり無傷で生き残ってる自分の生存能力の高さを誇るべきだろうか。

 ともあれ、少女騎士には予感があった。

 

 ひょっとして今回の大陸横断鉄道での旅は──常日頃のそれよりも、面倒くさいことになるのではないか、と。

 なので考えることはひとつだけだ。

 

 

 ──なるべく一刻も早く、クロガネと合流する。

 

 

 それがリスク管理の面から見ても、自分の精神衛生的にもベストだろう。

 そのように考えていた。

 どこぞのチンピラ紛いの下級貴族に因縁をつけられるとか、嫌味で腹黒い上級貴族に絡まれるとか、ひょっとしなくてもリザ・バシュレーが剣呑な目つきになる事態を避けたかったのもある。

 

 リザは賢くて頼りになる娘だが、同時に執念深く、恨みは絶対晴らすタイプの人間である。

 トラブルに巻き込まれる前に、馬鹿でかい列車の中を通り過ぎたい気持ちはあった。

 そうなのだけれど。

 

 

 ──うん、現実逃避はこの辺にしておこうか。

 

 

 エルフリーデはその赤い瞳を前に向けた。

 ここは超巨大列車、大陸横断鉄道〈世界蛇〉の客車──階層構造になっていて一両一両が大型船ほどもある全長二〇キロメートルの巨人列車──のど真ん中である。

 エルフリーデとリザが無事に立ち入り検査をパスした直後、トラブルは向こう側からやってきた。

 

 具体的には直立二足歩行するスーツ姿の異形頭として。

 そいつは身長一八〇センチメートルぐらいで、ジャケットもシャツもスラックスもセットの三点揃いの背広姿で、山羊の頭骨を思わせる異様な仮面を被っていた。

 青みがかった頭髪が覗いているのが、これまた強烈な印象を残す紳士だ。

 

 

 

「ヤァヤァ、お久しぶりデスネー。お元気デシタカ、凜々しい女の子が二人そろって騎士とは絵になりますヨネー」

 

 

 

 絶句する。

 見ればエルフリーデの後ろで身構えているリザなどは、呆気に取られて「なんですか、このコスプレ野郎は?」と言いたげな顔になっている。

 ちょっと表情に出すぎである。

 

 どちらかといえばリザは感情表現が豊かな子で、作り笑顔で本音を抑圧してる期間が長かったのだから──そういう振る舞いはもっとすべきだと思うけれど。

 彼女の気持ちも痛いほどわかった。

 

 だってエルフリーデも「このタイミングで再登場して欲しくないタイプの変人だよ!」と思ったから。

 顔が引きつっている少女二人に対して、仮面の怪人はやれやれと肩をすくめた。

 

 

「オオット、お忘れデスカ? 僕はバドムア子爵ゲオルギイ・カザール──去年のバナヴィア収穫祭ではお世話になりましタヨネ。エェ、僕の可愛いシャルロッテをボッコボコにしてくれた英雄サン?」

 

 

「ええ、はい。もちろんご尊顔は忘れていません、ゲオルギイ卿──ロッテは元気にしてますよ。毎日が楽しくて仕方ないって顔してました」

 

 

「オォ、オォ、感動しちまいマース! あの小さな復讐鬼が! 普通の女の子になるナンテ──僕は感動で泣いちゃいそうデース!」

 

 

 うわムカつく、と思った。露悪的な道化もここに極まれり、だった。

 眼前の怪人のプロフィールを思い出す。

 バドムア子爵ゲオルギイ・カザール──ベガニシュ帝国の暗部に巣くう魑魅魍魎、異形の仮面を被った不死者、クロガネ・シヴ・シノムラの弟子の一人。

 

 今ではクロガネらに保護され、日常生活を送っている少女シャルロッテ・シャインの才能を見出し、バレットナイトの搭乗者としてリクルートした張本人だった。

 道徳上、大変よろしくない悪党ということだ。

 

 

 ──まあ年端も行かない女の子を人型兵器に乗せて戦わせてるって意味では、クロガネも同じぐらい暗黒権力者ってことになるけど。

 

 

 クロガネ本人が聞いたら無言で目を伏せそうな皮肉を考えつつ、エルフリーデはゲオルギイの顔を見た。

 山羊の頭骨を模した真っ白な仮面──その合間から覗く二つの瞳は、クロガネと同じく黄金色をしていた。

 エルフリーデが知る不死者の一人、救国卿ルシア・ドーンヘイルもそうだったが、他では見られない色彩の目は、不死者の特徴なのだろうか。

 

 いかんせん見知っている不死者のサンプルが少ないので、エルフリーデには判断しかねる。

 不死者というのはあやふやな存在だ。

 長生きして権力を握っている王様や貴族なんて、ちょっと歴史の教科書をめくってみれば、すぐに見つけられる。

 

 しかし真実、文明の裏側で暗躍していた本物の不老不死──千年や万年を生きてきた超人──となると、一気に実在性が怪しい与太話になってしまう。

 エルフリーデ・イルーシャとて、そういう真実の不死者に出会ったのは、ここ一年ぐらいの話なのだ。

 

 

 ──その例が一〇万年生きてるクロガネと、バナヴィア人の起源な救国卿なのは極端すぎるよね。

 

 

 まったく笑えないことである。

 エルフリーデ自身、特殊すぎる自分の境遇──物質レベルで分解されたことで、不死者たちの記憶をのぞき見ることができた──がなければ、そんな経歴は絶対に信じなかったと思う。

 

 しかし常識的かはともかく、真実は一つだけだ。

 ゲオルギイ・カザールは去年の秋、ヴガレムル市でテロ攻撃を目論見、それをエルフリーデたちに叩き潰された。

 

 つまり元は立派な敵だったのである。

 諸々の政治的取引の末、事件は闇に葬り去られて彼も身柄を釈放(しゃくほう)されたが──なるほど、これほど信用ならない悪党もそういないと思う。

 

 

 ──ここでばったり出会ったのが偶然で、ゲオルギイに何の悪意もないって信じる方が難しい。

 

 

 しかし状況がよろしくない。

 エルフリーデもリザも、今は武器を帯びていない。

 ベガニシュ帝国という巨大帝国の中に置いて、この巨大列車──〈世界蛇〉の車内は、神聖にして不可侵の領域なのである。

 

 ゆえに貴族だろうと平民だろうと武器の持ち込みは御法度だった。

 拳銃はもちろんナイフすらNGである。

 するとエルフリーデとリザのように、年若い少女にとって問題となるのは──肉弾戦になると体格差で不利になるという現実だ。

 

 

 ──いやまあ、そもそも治安が最悪じゃないと問題にならない要素だけどさ!

 

 

 ありえないとは言い切れないのだ──ベガニシュ帝国は小競り合いの絶えない素敵な帝国である。

 年がら年中、大陸全土に敷かれた広大な領土のどこかで紛争が起きていると言っていい。

 こんな国が世界一の軍事大国で覇権国家なの、当たり前すぎて感覚が麻痺しているが──普通に最低だよね、と思うエルフリーデだった。

 

 もちろんそれを口にすることはないが。

 まかり間違ってもバナヴィア系帝国人として、祖国への熱烈な愛に目覚めることはないと誓っていい。

 

 

「ロッテもきっとよろこぶと思いますよ、子爵様と再会したことに──ええ、それではよい午後を」

 

 

 エルフリーデはさっさと会話を切り上げようと思った。

 失敗した。

 

 

「つれないデスネー、ちょっとお話ししまセンカ?」

 

 

「生憎、クロガネに嫉妬されちゃいますから。ゲオルギイ卿のような若々しく素敵な紳士とお話ししてたら、噂になってしまうかもしれません」

 

 

「ハハハ、クロガネに恨まレルの、ぞっとシネー話ダネ。ああいう不死者はネ、一度、恨むと決めたら何万年でも恨むからネー」

 

 

 ゲオルギイはエルフリーデの牽制(けんせい)などどこ吹く風、涼しい顔でカラカラと笑って受け流してみせた。

 手強い。

 

 もとい空気読まないおっさんの馴れ馴れしさだよね、これと思った。

 つまり現実的に嫌な感じだった。

 

 

「アッ、今ちょっとウゼーおっさんって思いませんデシタ?」

 

 

「ゲオルギイ卿、わたしは悪魔の証明って人間関係で持ち出すべきではないと思うんです」

 

 

「そこで素直に否定してクレネーノ傷つくヨ!?」

 

 

 客観的には年齢不詳の不審者にウザ絡みされてる十代(ティーン)の女の子という構図なのだ。

 ここはベガニシュ帝国が誇る神聖なる列車の内部。移動用の通路と言えど、横幅は広く天井だって高くて、電灯によって隅々まで煌びやかに照らされている。

 

 最低限の明かりで陰影が濃く浮き出るような、一般乗客用の列車とは根本的に異なる内装──どこかの高級ホテルの廊下とでも言われた方が、よっぽど感覚的には近しいだろう。

 つまり異形の紳士と少女二人が話し込んでいても、誰かの迷惑になるわけではない。

 

 そもそも乗客の密度が低いから、人目について助け船を出されるということもなかった。

 ちらっと見た感じでは、監視カメラはあちこちに配置されているようだったが──警備の人間が駆けつけてくる、なんていうのは望み薄だろう。

 

 

「アァ、マァネ。僕らの不幸な出会いを思エバ、警戒するのは当然だケド。エルフリーデ卿、イイコト教えてあげマース」

 

 

「……ゲオルギイ卿?」

 

 

 ちなみにこの間、リザは言いつけを守って沈黙を貫いていた。

 正しい判断だった。

 ベガニシュ帝国の定める手続き(プロトコル)において、目下の者から発言するのは非礼と見なされる。

 

 今回の場合、子爵様が格下の騎士たちに話しかけ、筆頭騎士であるエルフリーデ・イルーシャがこれに応じるという形で会話が為されているのだ。

 つい最近、騎士になったばかりの新参者が、自発的に言葉を発すると──()()()()()()()()()

 

 要するに「おたくの新人教育、どうなってんの?」と言われることになるのだ。

 心底、面倒くさい場面だった。

 そんなエルフリーデの内心を察してか、ゲオルギイは大げさに肩をすくめて──もったいぶって事実を述べた。

 

 

 

「クロガネは探シテモ見つからネーデスヨ。何せ今、あの男は()()()()()()()()()()()()に捕マッテル」

 

 

 

 いきなりだった。

 探し人にして想い人の現状を告げられて、エルフリーデは「ほえっ?」と間の抜けた声を漏らした。

 

 そんな少女騎士の反応を見て、愉快そうにカラカラと笑う怪紳士──ゲオルギイ・カザールは、誰がどう見たって怪しすぎる風体のまま、まるで王子様みたいに手を差し出してきた。

 

 

「今回の僕ハネ、君タチのピンチに駆けつけた代打のヒーローってワケ──こういうノ、恋物語(ロマンス)の定番デショー?」

 

 

 ゲオルギイはエルフリーデの読書趣味のこともよく知っているようだった。こういうところでさらっと情報収集能力をアピールしてくるあたり、油断ならない男という感じがした。

 

 そして何より、数々の恋物語を愛してやまない熱烈なる読者──恋愛博士エルフリーデ・イルーシャには持論があった。

 少女は自分の発言が無礼かもしれないと思ったが、それでも言うべきことをぶっ放した。

 

 

 

「お言葉ですがゲオルギイ卿。仮面に片言喋りに元ヴィランって()()()()()()()()と思うんです。それに登場時期がちょっと遅すぎると思います──仮に複数のヒーローの間で揺れ動く乙女心が主題なら、序盤から出ていてこそ波瀾万丈(はらんばんじょう)が楽しめるわけですし」

 

 

 

 ゲオルギイは爆笑した。

 

 

 

「君たちにダケは言われたくネーデスヨ、本当にネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 













エルフリーデ「ちょっと設定山盛りすぎると思います」

ゲオルギイ「設定山盛りカップルがなんか言ってマース!」



5章の仮面紳士ことゲオルギイ卿の再登場です。
なんか今回は敵ではないと主張しています。
あと例によってクロガネは女難の相があると思われます。









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