機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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多頭竜の呪い

 

 

 

 苦戦は許されなかった。

 エルフリーデ・イルーシャは自身が融合したバレットナイト──第二世代機〈ブリッツリッター〉の電脳棺の中で、そのように思考する。

 理由は単純だ。

 

 ここは如何に巨大列車とはいえ、所詮、全幅三〇メートルしかない密室の中である。内部の容積に限っていえばもっとせまい。

 このような閉所で敵の双頭竜──〈ドッペルドラッヘ〉というらしい──の抵抗を許せば、今度こそ生身の人間は生き残れないだろう。

 

 流れ弾でクロガネもリザも死傷するはずだ。

 だからリスクを承知で、回避運動ひとつ取らない肉薄しての白兵戦を選んだ。

 

 

 ──そして勝った。

 

 

 一見、危うげない瞬殺である。

 だが本当に肝が冷えた。通常、エルフリーデが意見する戦闘は屋外での野戦が主である。

 遠距離からでも攻撃される可能性がある代わりに、どんな回避運動を取ってもいい空間だ。

 あるいは乗機が第三世代機〈アシュラベール〉であれば、ジェット推進機構を用いての急加速だってできる。

 

 要するに戦い方を選べる。

 思う存分、機関砲や狙撃砲を使ったっていいし、敵の攻撃を予測して回避運動を織り込んでもいい。

 そういう自由が許されない屋内戦闘、しかも守るべき人間がいるというのは──骨が折れる。

 

 

「ご無事ですか、殿下」

 

 

 たった今、バイタルブロックを刺し貫いて沈黙させた敵──〈ドッペルドラッヘ〉の上から、眼下に目視できる少女に対して呼び掛けた。

 長い黒髪と白い肌が印象的な美しい乙女──その白い法衣を血に染めた美姫は、相変わらずの表情の読めない目つきで、こちらをじっと見ていた。

 

 ひどい状況だった。

 本来、路面電車が通過するための通路は、瓦礫(がれき)によってまともに走行できる状態ではない。

 

 しかも〈ドッペルドラッヘ〉の馬鹿でかい残骸まで横たわっているものだから、列車内に整備された交通インフラは完全に埋もれていた。

 それにもまして無残だったのは──ユシュナの周囲にいた騎士や侍従、そしてメイドが、ことごとく倒れ伏していることだった。

 

 天井の崩落時、飛散した金属片を浴びたのだ。

 おそらく即死だったはずだ。

 血に染まった骸を弔う術を、エルフリーデは持たなかった。

 

 

「ええ、わたしは無事です……伯爵は?」

 

 

「はい、負傷していますが命に別状はありません」

 

 

「そうですか……不幸中の幸いだったということでしょう」

 

 

 エルフリーデはあえて、ここに姿が見えない人々のことを口にしなかった。

 オリヴィエ・ライアーやゲオルギイ・カザールがどうなったのかはわからない。何せ、分厚い天井が熱量によって爆ぜ、溶けた金属片がまき散らされるような地獄絵図である。

 

 あるいは瓦礫の下に埋まっている可能性も捨てきれないが──ゆっくりと探し回る時間はなかった。

 むしろエルフリーデやリザが無傷だったことが、ほとんど奇跡的な状況といっていい。

 

 

「殿下、おけがの具合はいかがですか? 不躾ながら、〈ブリッツリッター〉でお運びいたしましょうか?」

 

 

「必要ありません。エルフリーデ卿、あなたはこの場で唯一、バレットナイトに対抗できる戦士です。周囲を警戒なさい──オリヴィエとゲオルギイのことも忘れなさい」

 

 

「承知しました」

 

 

 エルフリーデの返答を聞いてうなずき、ゆっくりとユシュナは立ち上がった。先ほどまで足にあった大きな怪我──太ももを深く切り裂いていた傷──は、いつの間にか、跡形もなく消え失せているようだった。

 

 ユシュナ・ゼオ・アンリバフもまた不死者ということなのだろう。

 それもクロガネ・シヴ・シノムラがそうであるように、常人ならば致命傷となり得る傷すらもあっさりと治癒(ちゆ)する類の異能ということになる。

 

 すさまじいものだ、とエルフリーデは思う。

 あるいはその周囲で無残に死んでいった人々と違いすぎる生命力こそ、ユシュナが無慈悲に見える原因なのかもしれなかった。

 

 

 ──感傷はここまでにしておこう。

 

 

 ひとまずゲオルギイとオリヴィエのことは忘れる。

 彼らの身の安全も心配したいところだが、状況は依然として悪いままだ。じっくりと捜索(そうさく)するなんて贅沢(ぜいたく)は許されていない。

 

 幸いにも火災は消し止められているから、酸欠で(おぼれ)()ぬことはないはずだった。

 そういうことにしておく。

 

 

「クロガネ、リザ──終わったよ。ひとまず殿下とご一緒に行動しましょう、こっちに来てください」

 

 

 呼び掛ける。

 すると後方の物陰から、血に染まった黒いスーツが現れた。

 身長一八八センチメートルの長身に、心なしか顔色が青ざめているものの、しっかりとした足取りだった。

 

 言わずと知れたクロガネ・シヴ・シノムラである。

 その傍らには褐色肌の少女──リザ・バシュレーの姿もあった。

 よかった、二人とも無事のようである。

 

 

「殿下、ご無事で何よりです。ここからは我らが殿下の護衛を引き継ぎます、この車両から脱出いたしましょう」

 

 

 クロガネは一瞬、痛ましそうな顔でユシュナの足下に転がっている死体を見た。

 神殿騎士にせよ侍従にせよメイドにせよ、こんなところで理不尽に殺されていいはずがないという憤りが、その鉄面皮を貫通して感じられた。

 

 そういう感傷をすぐに引っ込めると、不死者の判断は早かった。

 男は床に転がっている騎士──甲冑姿でその素顔は見えない──が携帯していた騎兵銃(カービン)をひょいっと拾い上げた。

 ためらいのない動作である。

 

 

「伯爵様?」

 

 

 リザがびっくりした様子で、クロガネの顔を見ていた。彼は死体漁りの不道徳を承知の上で、死した騎士の装備品を回収していた。

 

 銃身を切り詰めた自動火器とその予備弾倉、そして自動拳銃──男は顔色を変えずに騎兵銃をリザに渡した。

 より強力で射程の長い武器を、少女騎士にゆずったのである。

 

 

「リザ・バシュレー、お前は前に出るな。殿下をお守りしろ」

 

 

 そう言いながら、クロガネは自動拳銃のスライドを引いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 瓦礫で埋まっている通路を通る方法は、つまるところ力技だった。

 熱線砲でぶち開けられた穴から、冷たい外気が流れ込んでくる状況である。粒子ビーム砲の直撃を浴びて、どろどろに溶けた金属が飛散した通路を、生身の人間が靴で踏んづけるのは危険すぎた。

 

 なのでエルフリーデ・イルーシャの駆る〈ブリッツリッター〉が、即席の橋渡しになった。

 身長四メートルの巨人が、生身の人間を抱きかかえて、頭上に大穴の空いた瓦礫の山を上り下りする──ギリギリ、バレットナイトが通れるだけの高さがあったから助かった。

 

 クロガネを先頭にして安全を確保、次にユシュナを運び、最後にリザを。

 ざっと三往復して全員を、車両前方に運び込んだ。

 

 

 

 ──隔壁は超硬度重斬刀でぶった切った。

 

 

 

 一から十まで力技である。

 だが今は緊急事態、如何にも高価そうな設備をぶっ壊すのも致し方のないことだろう。

 そう思いながら〈ブリッツリッター〉は路面電車用の通路を歩く。クロガネたち三人を連れて歩く様は、幼児を引率する大人のように見えなくもなかった。

 

 幸いにも〈ブリッツリッター〉の整備状況はかなりいい。

 間接部や人工筋肉も良好なステータスを示しており、センサーシステムにも不備は見受けられない。

 

 とはいえ武装はいただけなかった。

 元々、要人警護用の装備ということなのだろうが──この〈ブリッツリッター〉には、電磁機関砲のようなレールガンが装備されていなかった。

 

 それはそうである。

 列車の隔壁を容易くぶち抜くマシンガン型のレールガンなんて、危なすぎて装備させられないのは納得できる。

 

 

 

 ──でもまあ、不利なのは否めないかな。

 

 

 

 代わりにエルフリーデ機が装備しているのは、先ほど使用した特殊合金製ブレードが一振り、そして馬鹿でかい散弾砲である。

 読んで字のごとく、人間が使う散弾銃(ショットガン)を、そのまま巨人サイズにスケールアップしたような武装である。

 

 口径は七五ミリ。

 ちょっとした戦車砲ぐらいの大口径である。つまり人間基準ならば立派な大砲だった。

 

 散弾砲という名前ではあるが、実際にはいろんな用途の弾頭を発射できる──実態としてはグレネードランチャーに近いかもしれない。

 要するに「大きくて重たくて遅い弾を撃つ」「貫通力は低いから列車内で使っても安心」という感じの武器である。

 

 

「……クロガネ。先ほどの賊の名乗り、(なんじ)はどう思われますか?」

 

 

 不意にユシュナが口を開いた。

 真っ白な法衣は血に染まり、すすけていて、すっかり汚れ果てていたが──そんなことよりも気にすることがあるとばかりに、ユシュナ・ゼオ・アンリバフは思案していた。

 端整な顔立ちの美姫と、これまたとびきり顔がいい伯爵が連れだって歩いている。

 

 その光景を後部カメラで見ていると、エルフリーデはむずむずした。

 我ながら緊張感がないと思う。

 しかしまあ、ずっと張り詰めているよりはマシだった。

 

 

「ええ、確かに私も聞きました。あの賊はフランツィスカ──七〇〇年前の皇太后(こうたいごう)フランツィスカ陛下を名乗っていました」

 

 

「どう思いますか。私に対する配慮は無用です、率直に述べなさい」

 

 

 ユシュナは相変わらず傲慢だった。

 彼女自身の権威を証明するもの──ユシュナ・ゼオ・アンリバフという個人に付き従う人々──が、この場にはもういないとしても、そう振る舞うことが摂理であると信じるかのように。

 そしてクロガネは紳士だった。非常事態で取り乱すほど、この男は(やわ)ではなかった。

 

 

「奇妙に思えます。何故ならば、かの暴虐女帝は七〇〇年前に処刑され、その亡骸は蘇ることがないよう、厳重に封印されていたと記憶しています。彼女が我々のように、後天的に不老不死を獲得する可能性はありません。処刑直後に不死を発現しなかったものが、時間差で目覚めるとは思えないからです」

 

 

「それは長き生に由来する知見かしら?」

 

 

「はい、殿下。体験談です。ゆえに私はこう考えます。あれはフランツィスカ陛下を名乗る()(もの)、そう思い込まされた哀れな別人にすぎません」

 

 

 エルフリーデ・イルーシャは今さらながら、ちょっぴり汗をかき始めた。

 嫌な冷や汗である。

 先ほど迷いなくとどめを刺して絶命させた相手が、ベガニシュ帝国の歴史に名を残す皇太后(こうたいごう)だった可能性──不敬どころではない話の流れである。

 

 どうやら()()()()()()()()()()というのが、クロガネとユシュナの共通認識なので助かったけれど。

 クロガネの論理的な解答を聞いて、ユシュナはうなずいた。

 

 

「よろしい。ひとまずアレは、わたしとの因縁を賢しらに語る狂人だった──そのように解釈しましょう。その上で問題があります、伯爵」

 

 

「襲撃者の正体でしょうか?」

 

 

「汝の考えを述べなさい。配慮は無用です」

 

 

 クロガネは目を細めつつ、駐機スペースの電動車両に歩み寄り、そのドアを開いた。ユシュナが当然のような顔をして後部座席に収まった。

 続けてリザが助手席に座ると、クロガネは運転席に座った。しっかりとシートベルトを締めている。

 

 エルフリーデの〈ブリッツリッター〉が立ち止まったのを確認して、やはり律儀にウィンカーを出してくる。

 ものすごく運転が丁寧(ていねい)だった。

 クロガネらしい、とエルフリーデは思った。

 

 

「……ベガニシュ帝国は相争う多頭竜の国です。常時、どこかしらの貴族と貴族が勢力争いを行い、その結果として紛争が起きています。しかしながら大陸横断鉄道への襲撃は一線を越えている──これは明確に帝国政府への反逆と見なされるでしょう」

 

 

「続けなさい」

 

 

 電動車両が走り始めた。決してスピードを出しているわけではなかった。

 エルフリーデが前方の安全確認を行い、その後ろをついていくという基本形を崩せない以上、猛スピードで疾走したところで危険なだけだった。

 

 ある意味、この状況下でそういう冷静さをずっと保っていること自体が驚異的なのである。

 〈ブリッツリッター〉が前方を走る。二本足の歩行機械が、車輪で走る車両に速度で勝る──これ運動効率という面では難しいことだが、バレットナイトの運動性では十分に可能なことだった。

 がしんがしん、と床を蹴る音。

 クロガネが口を開いた。

 

 

「先ほどの賊は、あの機体を〈ドッペルドラッヘ〉と呼んでいました。おそらく帝国のいずれかの工廠(こうしょう)の手が入った試作機の類でしょう。そうしたものを入手できる勢力は限られています」

 

 

「そう、そういうことなのね──愚かな貴族たちは、この期におよんでなお、アンリバフの血に刃向かわずにはいられない」

 

 

 重たすぎる会話だった。

 クロガネが直接、口にしなかったこと──含意をユシュナの台詞から推測すると、次のような意味になる。

 

 おそらく敵は開発中の試作機を持ち出せるほどの大貴族、あるいは中央のコネクションのある軍閥の類。

 死ぬほどろくでもなかった。

 そしてこう思った。

 

 

 

 ──ベガニシュ帝国って大丈夫なのかな!?

 

 

 

 いや、こんな最低な国の行く末を心配するほど愛国心があるわけでもないが。

 だが怪物じみた超巨大国家というのは、いけいけで圧力をかけてくるときも厄介だが、右肩下がりで沈むときだって世界一迷惑なのは目に見えている。

 

 なのでエルフリーデ・イルーシャがどんな政治的立場を取っていようと、無関心でいれば無関係でいられるわけもなかった。

 少女騎士がドキドキしていると、クロガネは深くうなずいたようだった。

 

 

 

「──つまるところ、帝国は依然として()()()()()()()()()()

 

 

 

 ずっこけそうになった。

 〈ブリッツリッター〉は超人的な反射神経で、姿勢制御の乱れをほとんど悟らせることなく立て直したが──エルフリーデは内心こう思った。

 

 

 

 ──これが平常運転ってありえないでしょ!?

 

 

 

 人があれほど無残に死んでいるというのに、いっそのこと清々しいぐらいにこの帝国は血まみれだ。

 いや、それこそがベガニシュ帝国の本質なのかもしれなかった。

 かつてバナヴィア独立派の闘士たち──セヴラン・ヴァロールや救国卿と対峙する中で、彼らが口にした言葉を思い出す。

 

 

 

 ──戦場の英雄。君が見てきた地獄は、まだ綺麗な地獄だよ。戦場の狂気という言い訳を使えるからな──真に非人間的な残虐非道とは、家畜を(ほふる)ように行われるものだ。

 

 

 

 ──ベガニシュという虐殺者の群れを止めるための犠牲です。同胞の骸は、私の胸を今も責めさいなんでいる。

 

 

 

 かつてエルフリーデは、ベガニシュ帝国がバナヴィア人を虐げている世界を憎んだ。

 そういう世界観を前提として、それでもなお、クロガネを信じるという道を選び、バナヴィア独立派と戦ったのである。

 

 だが、ここにある現実はむしろ、ベガニシュ帝国のぞっとするような悪しき平等を示していた。

 彼らは同胞であるベガニシュ人に対してすら、殺戮を手段とする陰謀を、平常運転でぶつけられるのだ。

 

 心底ろくでもなかった。

 とはいえ同時に何故、クロガネがベガニシュ帝国の側に踏みとどまっているのかもわかる気がした。

 

 

 

 ──こういう連中がのさばってる国だから、何とかしたくて、クロガネは頑張ってるんだね。

 

 

 

 途方もない視点だと思った。

 クロガネ・シヴ・シノムラの視座は、明らかに人類全体に向けられている。

 

 かつて古代兵器〈ケラウノス〉の探索と破壊に、その使命感を注ぎ込んでいた時期すら──とどのつまり、この不死者は後世の人間を苦しめないために戦っていたのである。

 その重たい宿命から解放されたというのに、クロガネはもう、次の使命を見つけていた。

 

 不器用すぎる、と思う。

 同時にその優しさを誇らしく感じた。

 

 

 

 ──ああ、仕方がない人だな。わたしが守ってあげなきゃ。

 

 

 

 全長二〇〇メートルの車両を、端から端まで渡り終えるのは容易かった。

 近づいてきた車両前方では、やはり隔壁が降りている。

 さて、どうするべきだろうか。

 隔壁を斬り捨てる準備をするか。

 

 

 

 ──その瞬間、エルフリーデの背筋に電流が走った。

 

 

 

 ぞわっと毛が逆立つような思い。

 電脳棺に収まった意識が、生身の肉体でそうであったように、言語化しがたい危機感を覚えたのである。

 それはほとんど第六感と呼んで差し支えない、エルフリーデ・イルーシャの持つ先読みじみた才覚だった。

 叫ぶ。

 

 

 

「クロガネ、止まって──敵です!」

 

 

 

 電動車両が急ブレーキを踏む。

 エルフリーデの駆る騎士人形〈ブリッツリッター〉が、前に躍り出た。

 刹那、車両と車両を区切っていた隔壁が、火花を散らした。

 

 恐るべき早さの斬撃。

 瞬時にバラバラに切り裂かれた隔壁が、断片となって床に落ちていく。

 エルフリーデは敵を視認するよりも早く、先手必勝とばかりに散弾砲を向けた。

 

 引き金を引く。

 七五ミリ低圧散弾砲から一粒の(スラグ)弾が飛び出す。弾速は遅いものの、バレットナイトを行動不能にできるだけの威力。

 相手は隔壁の向こう側にいる。

 ならば外しようもなかった──()()()()()()()

 

 

 

 ──銀光が閃く。

 

 

 

 刹那、空中で火花が散った。

 何が起きたのかをエルフリーデ瞬時に悟った。

 

 空中で刃をぶつけて砲弾を切り払ったのだ──銃口を敵機に追従させる。

 逃れるように跳躍した人型──()()()()()()が視界に飛び込んでくる。

 まるで毒蜘蛛だった。

 

 

 

 ──真っ黒な装甲と、警戒色じみた鮮烈な赤色が入り交じった塗装

 

 

 

 ──編み笠のような円盤状の頭部、らんらんと輝く深紅の複眼(カメラアイ)、病的な痩身を思わせる長い手足

 

 

 

 ──その手に握られているのは、東洋風の曲刀じみた特殊合金製ブレード

 

 

 

 恐るべき跳躍力だった。

 あるいはジェット推進機構を使っている〈アシュラベール〉に匹敵するのではないか、と思わせるほどの瞬発力──バネのように伸びた手足が、その原動力のように思われた。

 

 だが、跳躍が高すぎる。

 ここは所詮、天井が低い列車内なのである。天井にぶつかって姿勢を崩した瞬間に、もう一撃叩き込む。

 そう予測しながら〈ブリッツリッター〉は疾走した。

 

 

 

 ──天井に激突する直前、敵は片腕一本で()()()()()()()

 

 

 

 刀を握っていない左腕を、脚部の代わりに使っての接触/反転。

 毒蜘蛛が空中で踊る。

 まるで軽業師のような身のこなしで、超硬度重斬刀を軽々と振り下ろす──自動車ごとユシュナを真っ二つにするつもりだった。

 

 

 

 ──やらせるかッ!

 

 

 

 エルフリーデは跳躍した。

 同時に背中の鞘から剣を引き抜く。

 全身の人工筋肉をバネのように伸縮させ、真横から剣を突き入れた。今まさに自動車の屋根を切断しようとしている超硬度重斬刀(テロス・ブレード)、その刀身を真横からぶっ叩いた。

 

 甲高い金属音の衝突音。

 あまりの衝撃に手指から剣の柄がすっぽ抜けた。

 急発進したクロガネの運転する自動車──それを横目に、ほとんど体当たりする形で飛び込んだ〈ブリッツリッター〉と毒蜘蛛がもつれ合う。

 相手は思いのほか大きかった。

 

 頭ひとつ分は〈ブリッツリッター〉より大きい、歪な人型──奇妙にひょろ長い手足と相まって、人型に擬態している毒蜘蛛という印象が抜けなかった。

 彼我の距離は二メートルと離れていなかった。

 ポンプアクションで排莢(はいきょう)装填(そうてん)

 そうして散弾砲を向けた。

 

 

 

 ──銃口から砲火が放たれる刹那

 

 

 

 ──毒蜘蛛の円盤状の頭部で、何かがうごめいた

 

 

 

 エルフリーデは本能的にそれを避けた。〈ブリッツリッター〉の人工筋肉をしならせて、空中に飛び上がった。

 コンマ二秒前まで少女騎士がいた空間を、鈍く輝く金属色が刺し貫いていた。

 

 無理矢理に身をひねった代償に、ほとんどコントロールを失って床面に激突しそうになる──銃把(グリップ)を握っていない左手で受け身を取った。

 人間であれば手首を捻挫(ねんざ)するが、バレットナイトの衝撃吸収構造ならば可能だった。

 上下左右がぐるんと入れ替わる中、エルフリーデはそれを見た。

 

 

 

 ──編み笠じみた平たい頭部の縁から、昆虫の節足よろしく伸びた無数の副腕(サブアーム)

 

 

 

 ──毒蜘蛛の悪意に満ちた(かいな)

 

 

 

 少女は思わず叫んだ。

 

 

 

 

うわっ!? 気持ち悪い!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















Q:この帝国、内ゲバ多すぎませんか?
A:平常運転です。

Q:大丈夫なんですか?
A:(意味深な笑顔で親指を立てる救国卿)










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