【新刊9/20発売】機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中

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疑惑と奇襲

 

 

 

 すっかり日が沈みつつあった。

 平和とはほど遠い一日になった、とエルフリーデは思う。

 高速道路で起きた襲撃とその撃退の後始末は、無事に関係各所に引き継がれた。

 エルフリーデに撃破されたバレットナイトとトラックの搭乗者は、全員が捕縛された。

 

 ありがたいことにクロガネの根回しか、はたまたマハト保安監察官の裁量なのか──露骨に武装しているエルフリーデたちが、現地の警官に呼び止められて一悶着、みたいなことにはならなかった。

 この辺は帝都での協力者、マックスの腕のよさもあったのだろう。

 

 

「助かるよ、正直。めちゃくちゃな事件のあとに、敵でもないけど味方でもない人たちの相手はしたくないからね」

 

 

 バレットナイト〈シュティーア〉の中で、少女はひとりごちた。

 それはすぐさま通信機によって電波となって送信され、上空を浮遊する通信中継ドローンによって遠方との通話を可能にした。

 つまりクロガネに声が届き、向こうからすぐに返事がくるのだ。

 

 

『ひとまずお前たちが無事で何よりだ。多少、無理を承知で〈シュティーア〉を回しておいてよかった』

 

 

「うん、この子はいいマシンだよ。パワーがあって反応速度もいいし、とっさの操縦でも全然苦にならなかったからね」

 

 

『ああ、〈シュティーア〉は〈アシュラベール〉の技術的フィードバックで作られた機体だからな。白兵戦での使い勝手は、かなり近いものがあるだろう』

 

 

「信頼できる道具は助かるよ。あれこれ考えて使う必要がないからね──それでクロガネ、あなたの方はどんな感じですか?』

 

 

 エルフリーデの問いかけは、クロガネとロイが進めていた資料の分析の件だった。

 帝都コルザレムで起きている死人帰り事件そのものは、異端対策局によってある程度、調査が進んでいる。

 クロガネたちに委託されているのは、それらの情報を統合して分析し、新たな知見を導き出す専門家としての役割だった。

 

 エルフリーデたちが現場を見て回り、現地でしか見えてこない感覚を知ったように──クロガネは今、膨大な資料からしか見えてこないものを掴んでいるはずだ。

 クロガネが「ああ」と応じた。

 

 

『エルフリーデ、お前たちが帝都環状線を見て回った結果、敵の襲撃を受けたことで明らかになった事実がある。敵は我々の存在を察知し、すぐさま実力行使で排除しようとした。おそらく敵は帝都環状線の要所に監視者を置いて、不審な車両を記録していた。このタイミングで襲撃を受けたのは偶然ではない』

 

 

「言いにくいんですが……内通者がいて、わたしたちの情報が漏れていた可能性は?」

 

 

『今後の尋問の結果次第だが、ありえないことではない。だが、個人的な意見を述べるなら……仮に情報流出があったとしても限定的なものだろう』

 

 

「ううん?」

 

 

 エルフリーデは首をかしげた。

 わざわざ高速道路専用に改造された〈アイゼンリッター〉二機を投入してくるなんて、かなり重装備のように思えるけれど。

 クロガネの答え合わせはすぐだった。

 

 

『エルフリーデ、もし俺が敵だったとしよう。完全にお前たちの情報を掴んでいたのなら、あのエルフリーデ・イルーシャが新型バレットナイトと共に控えているトラックを、たった二体の〈アイゼンリッター〉で破壊できるとは思わない』

 

 

「……なんか納得しちゃったけど、わたしの評価がおかしくない?」

 

 

『正当な評価だが?』

 

 

「うーん、この話はやめようか……! つまり……敵がこっちの深いところにスパイを忍ばせてる可能性はひとまず排除していい?」

 

 

『そういうことだ。そしてエルフリーデ、先ほどの話に戻るが……これまでの死人帰りの噂を、資料から検討した結果、可能性は大きく分けて二つだ。これはおそらく、お前たちが現場を見て回って得た感想とも矛盾しない。長い話になる、帰ってきてから教えよう』

 

 

 クロガネはすでになんらかの答えにたどり着いたようだった。

 エルフリーデは相変わらずの仕事の速さに感心しつつ、軽口を叩いた。

 

 

「安心したよ、クロガネ。わたしの伯爵様は相変わらず頼れるみたいだ」

 

 

『お前を失望させるより恐ろしい結末はないからな。努力しているさ』

 

 

 エルフリーデはそっとあたりを見回した。

 彼女の融合している機体〈シュティーア〉は、日が暮れて薄暗くなった空の下にたたずんでいた。

 ここは帝都環状線にほど近いショッピングモールの跡地だ。

 

 かなり大きな商業施設──デパートというやつだ──なのだが、施設の老朽化にともない閉鎖され、今では無人の建物と、だだっ広い駐車場だけが広がっている。

 普段は駐車場も閉鎖されている。

 

 だがつい五分ほど前、マックスの手で施錠用のチェーンは破壊された。

 びっくりするぐらい器物損壊に該当しそうな行い──「ここで異端対策局の応援と落ち合いましょう」とぬけぬけと言い放った彼は、手慣れているように見えた。

 

 まあマックスは元々、ダーティなアウトロー気質の男である。

 そういうこともするタイプだ。

 遠くから聞こえるサイレンの音に、エルフリーデは眉をひそめた。

 

 

「……ひょっとして思ったより大事になってる?」

 

 

『帝都環状線の一部を通行止めにする騒ぎだ。すでにマハト保安監察官は、関係各所への連絡に追われている。気にするな、それが彼の職務だ』

 

 

「うーん、シビアな話だね……それじゃクロガネ、またあとで」

 

 

『気をつけてな。リザ・バシュレーと一緒に帰ってきてから、続きを話そう』

 

 

 通信が切れた。

 話の中で出てきたマハト保安監察官は、たぶん夜遅くまで残業に追われることになるのだろう。

 エルフリーデとしては被害を最小限に抑えたつもりだが、それでも一般人に戦闘が起きたことは見られているのだ。

 

 これで騒ぎにならない方がおかしい。

 エルフリーデがこうしてバレットナイトに乗ったままなのは、無防備になったところに敵の追撃を受けたくないからだった。

 

 その点〈シュティーア〉は優秀だ。

 もしドローンが飛んできても、流れ弾を気にせず電子回路だけを破壊できる。

 

 

「マックス、あんまり一箇所に留まるのはオススメできないよ。どのくらいかかる?」

 

 

 大型トラックの運転席から降りて、使い捨て容器のアイスコーヒーを飲んでいた男──マクシム・フォールは、身長四・五メートルの巨人を見上げた。

 その顔には若干の疲労の色が見て取れた。

 

 

「もうすぐ着くそうです。うちのボスと話をつけてますから、変ななりすましではないはずですよ」

 

 

「きみのボスって例の?」

 

 

「ええまあ、お察しのとおりです」

 

 

 固有名詞は出さなかったが、マックスの雇い主はマハト保安監察官らしい。

 今回の死人帰り事件について、異端対策局の側で責任者となっている男だ。

 

 少なくともクロガネやエルフリーデを罠にかけるために、自分の進退をかけるような人物ではない。

 そういう意味で信用できる役人ではあった。

 

 

「OK! それじゃわたしは引き続き、〈シュティーア〉で警戒を続けるよ。リザ、きみは大丈夫?」

 

 

「大丈夫です、お姉さん。正直、シチュエーションからして()()()()()()()()()()()()()()とは思ってますが」

 

 

「なあ、それ本人の前で言う必要あるか? 円滑な人間関係って、気づかいで生まれるんじゃないか?」

 

 

 いきなり裏切り疑惑をふっかけられて、マックスは怒るより先に困惑していた。

 しかしリザはニッコリと笑って、気の利いたジョークでも口にしたみたいに返事をした。

 

 

「大丈夫です。()()()()()()()()()()()()()()()()()としても、その親しみやすい人間性は私的にポイント高いですから!」

 

 

「なあ隊長、あんたの後輩、悪ガキに育ってないか? だいたい昔の仲間は信じるものじゃないか?」

 

 

 エルフリーデは説明しづらいにもほどがある数々の事件──戦友のミリアムや旧知のセヴランが、それぞれの理由でこっちの命を狙ってきた──を思い出して、肩をすくめることにした。

 

 

「気にしないで、マックス。事情は説明しづらいんだけど……わたしたちって結構、いろんな苦労してきたみたいだから。リザの憎まれ口もほら、本当にヤバいと思ってたら言わないし」

 

 

「……隊長も大変だったんだな……いや、詳しい話は聞かないけどよ。なんか今の一言で察したわ、元気出してください」

 

 

「あれ!? なんかわたしが可哀想な境遇みたいな雰囲気になってる!?」

 

 

「お姉さん、お姉さん。たぶん客観的にはめちゃくちゃ激動の人生送ってる人ですよ」

 

 

「おかしい……わたしはどっちかっていうと人生をエンジョイしてる薄幸美少女姉妹のはず……!」

 

 

「エンジョイしてるのか薄幸美少女なのかはっきりしねぇ自称だな!?」

 

 

 マックスは呆れ顔になった。

 ふわふわした自己認識の少女が、紛れもなく最強の機甲猟兵であり、それでいて天然ボケの変人でもあるという現実──どうやら相変わらずらしいと悟って、青年は口の端をゆるませた。

 

 

「でも安心しましたよ。隊長はほら、ちょっと思い詰めてるところもあったから。今は妹さんのこと、気負わずに済んでるんだろ?」

 

 

「まあね。おかげさまで帝都まで出張して仕事しても、安心していられるぐらいには」

 

 

「そりゃよかった。今の台詞、聞かせてやりたいやつがいっぱいいる」

 

 

 砕けた口調になったのは、マックスもまたリラックスしている証だった。

 そのとき〈シュティーア〉のカメラアイが、遠くから接近してくる無骨な車体を識別した。

 

 異端対策局を表す表記──HAAと書かれた装甲車と、その後ろを走るトレーラー。

 たぶん機甲駆体(バレットナイト)を輸送するための大型車両である。

 通信で呼びかけがあった。

 

 

()()()()()()()()

 

 

 エルフリーデはそれが、あらかじめ教えられていた符丁(ふちょう)だと気づいた。

 落ち着いて答えを口にした。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

『本物のようだな』

 

 

「そちらにお借りしているバレットナイトもあります」

 

 

『それもそうか。結構、こちらは異端対策局第一機動隊、現場指揮官のフェリックス・ノイアーだ。ひとまず特別捜査官殿と合流する。護衛には〈アイゼンリッター〉もいる』

 

 

 意外と気さくだった。

 今年の初めあたりにバナヴィアに出張してきた連中は、愛想が悪くて高圧的で、かなり感じが悪かったが──この違いはどこから来るのだろう。

 

 エルフリーデはそんな感想を口にするほど子供ではなかった。

 とはいえ戸惑いは伝わったのか、無線通信の相手が笑った。

 

 

『先日はバナヴィアに出向いた第三機動隊の奴らが世話になったそうだが──我々は紳士の集まりであることを心がけている。よろしく』

 

 

「お手柔らかにお願いします、ノイアー殿」

 

 

 さて、仲良くやれるといいのだけれど。

 エルフリーデはそう思いながら、自分が立っている駐車場をぐるっと見回した。

 不審な影はない。

 

 バレットナイトの統合索敵システムは、カメラアイと音響センサーを組み合わせることで、接近してくる小型ドローンを察知できる。

 夜闇に紛れて接近されるのが一番怖いから、〈シュティーア〉の目と耳はずっと研ぎ澄まされていた。

 

 

 ──あれ? なんか揺れてる?

 

 

 些細な違和感だった。

 音響センサーは嘘をつかない。空気の振動が伝わってくる。

 大型トラックの傍で待機していたリザとマックスも、異常に気づき始めていた。

 

 

「……揺れてませんか?」

 

 

「ああ……妙だな」

 

 

 答え合わせとばかりに、足元で小石が跳ねている。

 それまで人間が感じ取れるぐらいだった振動が、トラックの車体を震わせるほどの大きさに。

 微細な振動だった。

 

 それこそ近場で道路工事でもしているのかと思うような、わずかな震え。

 おそらく車で走行中の第一機動隊は、まだ気づいていない程度の異変だ。

 

 

「地震……?」

 

 

 少女は滅多に遭遇(そうぐう)しない自然現象を思い浮かべた。

 まだ父が生きていた頃、自然科学について教わったときに聞いた知識。

 

 バナヴィアは地質学的に安定しており、まず大きな地震が起きることはない。

 しかしここは遠く離れた異郷の地である。

 ならばそういうこともあるか、と迷った。

 

 

 ──ミシッ、ミシッ、と何かが軋む音。

 

 

 ──駐車場のアスファルトに、蜘蛛の巣のような亀裂が入り始める。

 

 

 それはエルフリーデたちから見て、およそ一〇メートルほど離れた場所で起きていた。

 大型トラックの目と鼻の先だった。

 無人の駐車場の一角が、ひとりでにひび割れていく。

 その亀裂(きれつ)はどんどん広がっていき、取り返しがつかない損傷に化けていた。

 

 

「こちらエルフリーデ・イルーシャ、第一機動隊に報告! 駐車場で異変が発生! アスファルトに亀裂が生じて拡大している! 振動が大きい……!」

 

 

『こちら第一機動隊フェリックス、了解した。君たちは避難してくれ、安全確認は我々が行う』

 

 

「了解──」

 

 

 目を疑うような光景だった。

 アスファルトがゆっくりと盛り上がっていく。

 ひび割れが広がった一帯を中心に、地面の舗装部分だけが上下していた。

 

 まるで波間を漂う板切れのように、ゆらゆらと地面が流動していた。

 最初こそ数センチの膨らみだったそれは、いつしか数十センチメートルの隆起に。

 

 異様な光景だった。

 まるで地面そのものが、とらえどころのない流体に変じたかのような景色──そして地震にしては、エルフリーデたちの周囲の建物は揺れていない。

 

 

「その場から退避して!」

 

 

「はいっ!」

 

 

 リザはすぐさま駆け出した。

 エルフリーデの指示には迷うことなく従う──これまで共に戦ってきた日々が育んだ姿勢。

 爆発を警戒してか、大型トラックの影に隠れるようにして移動。

 一方マックスはトラックの運転席へと駆け上がった。

 

 

「トラックを退避させます! 隊長、援護よろしく!」

 

 

「わがままなやつ! わかった!」

 

 

 とはいえマックスの判断もわかる。

 生身の人間では退避できる距離などたかが知れているし、防弾ガラスや防弾プレートで守られた車内が一番安全ではある。

 

 マックスが運転席に飛び込むと同時に、リザもするっと助手席に乗り込んだ。

 電動車両であるため、エンジン起動のようなタイムロスはない。

 トラックがその場で後退し始めた。

 次の瞬間──

 

 

 

 ──地面が爆発した。

 

 

 

 バキバキと硬質な破砕音。

 圧壊したアスファルトが爆ぜて、砕かれた灰色の石と茶色い土砂が、噴水のように吹き出ている。

 

 エルフリーデは一瞬、昔、通っていた学校で見た映像資料を思い出した。

 そう、まるで活火山の噴火みたいだった。

 異なるのは、吹き出しているのが溶岩や火山灰ではないこと。

 

 

「わたしが盾になる、二人はそのまま後退!」

 

 

 エルフリーデは自身の機体〈シュティーア〉を前進させた。

 右手の騎兵槍(ランツェ)を構えながら、濃霧のような土砂の煙幕に突っ込んだ。

 急激に吹き上げられた土砂が、視界を埋め尽くしていた。

 ゆえに頼りになるのは音響センサーだけ。

 

 

 ──何かが震えている?

 

 

 異様な音だった。

 それは戦場で幾度となく聞いた音。

 高速振動する金属が(かな)でる超振動ブレードの駆動音に似ていた。

 土砂の煙幕がうっすらと晴れていく。

 

 

 

 ──地面から異様な突起物が生えていた。

 

 

 

 ──それは目を疑うほど巨大なドリルだった。

 

 

 

 少女は流石に絶句した。

 エルフリーデの融合している〈シュティーア〉と比べても、明らかに大きすぎる巨影だ。

 ドリルだけで数メートルはあろうかというそれが、まるで魚が水面を泳ぐように浮上する。

 

 不気味なほどなめらかな動作。

 ドリルの根本にあったのは、ずんぐりとした分厚い金属製の胴体──その表面をびっしりと覆う魚のうろこのような器官が、一斉に震えていた。

 

 

 

 ──ザザザ、と震えるうろこ。

 

 

 

 ──接触している穴の断面で、流体のように波打つ土砂。

 

 

 

 その怪物は、やはりずんぐりとして太い手足を地面に振り下ろした。

 信じがたい事実──建設機械ですらなく、ドリルを頭に生やした人型。

 並みのバレットナイトよりも大きな鋼鉄の巨獣が、大地を割って現れたのだと理解する。

 エルフリーデ・イルーシャは、心の底からこう思った。

 

 

 

 ──()()()()()()()

 

 

 

 そして叫んだ。

 

 

 

……地底怪獣は専門外なんだけど!?

 

 

 

 

 

 









エルフリーデ「空からドローンで奇襲されるのが怖いね…」

ドリル地底戦車「やあ」

エルフリーデ「ウワーッ何!?」





好きなロボットはモンスター(鉄人28号)、好きなMSはジオグーン、好きな怪獣はガボラです。




9月20日発売の書籍版『機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情 2 ~最強パイロットはスパイガールの運命にキレている~』も各サイトで予約開始しております。
いろいろとリザ関係の加筆多めです、よろしくお願いします!!





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