【新刊9/20発売】機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
──あたしは嘘をつかなかった。
──それがエルフリーデに対する義理立てで、生存戦略ってやつだからだ。
超法規的な捜査、尋問、拷問紛いの事情聴取。
そういう強硬的な手段を執ることが内外に知られる異端対策局が、ジゼル・カレに対して比較的穏便だった理由は単純だ。
あまりにも事件にかかわっている人間が多すぎる。
もし彼ら単独で邪悪な陰謀を突き止め、それにかかわる犯罪者としてジゼルを捕らえていたなら──あるいは苛烈な手段で真実に至ろうとしていたかもしれない。
だが、ジゼルの所業はすでに帝都警察と帝国陸軍の管轄にまで波及した。
それぞれの組織が、自分たちの面子と保身のためにジゼル・カレの証言を欲している。
こうなってくると大人の世界は
──要するにエルフリーデのおかげで捜査が進んだって実績を渡しておけば、あいつらは外部の協力者の面子も立てなきゃいかなくなる。
──あたしは別に超人じゃないから、プロが本気で情報を聞き出す気になったら抵抗なんてできないし。
ジゼルは粗暴な人間である。
だが決して愚かではなかった──そのようにエルフリーデ・イルーシャならば、彼女のことを評するだろう。
自分自身をそのように客観的に評価する理性と、自他の状況を
それがジゼル・カレという少女に根ざす性質だった。
そう、ジゼルはエルフリーデが来てから、驚くほど
これまでどうやって潜伏してきたのか。顔も名前も知らない契約者に従う理由。先のテロ事件において使用された地底戦車にどこで乗り込んだのか。
ここに虚偽や謀略はなかった。
無論、異端対策局の連中は情報の裏取りでてんやわんやだろうが──ジゼルはまやかしを口にしない。
──たぶん黒幕にとっては、あたしが撃退されたのは予想外だ。
──だけどまあ、想定外じゃないだろうさ。
こういうこともありえる。
だからこそジゼルは最低限の情報しか与えられてこなかったのだ、と今になって理解する。
そもそも彼女を蘇らせたやつにとって、ジゼル・カレは計画に不可避なキーパーソンなどではない。
どちらかといえば実験の副産物とか、用済みの廃棄物のリサイクルとか、そういうニュアンスに近い立ち位置だろう。
情報の保全を求められるような関係ではなかった。
奇妙なギブ・アンド・テイクの契約者──耳慣れない異国の言語で、通信機越しに名乗っただけの存在。
ゆえにジゼルはある種、達観していた。
一切の事前通告なしにいきなり檻の中から出ろと告げられて、拘置施設から移送されるときも、驚きなんて
手錠をはめられ、目隠しされて、護送車両に乗せられる。
行き先は帝都警察か軍の施設だろう。
──さて、あたしの価値がどのぐらいかはこれでわかる。
可能性は三つほどある。
ジゼルの契約した人ならざるもの──それが人間ではないと感じたのは、ほとんどジゼルの直感が為せる業だ──が、その利用価値をどの程度と見積もっているか。
これで
一つ目はこのままどうでもいい末端として切り捨てられ、知ってることを喋るだけ喋って、裁判所で判決を告げられる犯罪者。
今のところ一番ありえるのはこれだった。
──あたしが異端対策局に生け捕りにされてから、たぶんまだ一日も経っていないだろうけど。
──あたしが本気でどうでもいい雑魚なら、これで何もかもおしまいかもな。
ジゼル・カレは考える。
もしそうだったらお笑いぐさだ。
クソみたいな人生を送って徴兵された挙句、やっとマシな死に方をしたと思ったら、今度は刑務所に行くためだけに蘇ったなんて。
無様すぎて笑えるし、ジゼルのこれまでの人生経験上、決してバカにできない結末である。
護送車両の車内で、加速し始めるときの感覚があった。
電動自動車の走行音は静かだが、それでも走り始めるときに発生する加速Gはゼロにはならない。
──
──どこかの研究所に放り込まれて、実験動物になって死ぬまで飼い殺しかも。
まったく気分の悪い話だ。
自分自身のことだというのに、どこか他人事みたいな気持ちが湧いてくる。
ああ、昔から自分はそういう人間だった。
父母の愛の結晶として生まれながら、破綻した愛によって育まれ、誰からも愛されていないと感じてしまっている。
息が詰まるような
ゆえに未来の展望がないのだ、とも思う。
──あたしがどうなったって、帰る場所なんて最初からどこにもない。
実際にそうなったら理不尽に怒り、苦しみ、きっと呪詛を吐くに違いないのに。
今この瞬間、ジゼル・カレの胸中にあるのは──救いようのない諦念だけだった。
しばらくの間、護送車両は道路を走り続けた。
行き先は郊外の施設だろう、と当たりをつける。ここから帝都警察の拘置所に行くならそうなるし、軍の施設ならどこかで輸送機に乗り換えることになるはず。
わけもなく鳥肌が立った。
戦場で幾度となく感じた予兆に、ジゼルは思わずうめいた。
「うぇ……」
護送車両に同行している男たち──おそらく異端対策局ではなく引き渡し先の職員──は気づいていない。
警告を発する暇はなかった。とっさに身構えて、いつ何時、それが来てもいいように両脚で踏ん張った。
急激なブレーキ音、減速にともなって生じるG。
轟音。
衝撃が走る。
まるで護送車両が横殴りにぶん殴られたようだった。シートベルトで身体が固定されていなかったら、天井や床に叩きつけられていたかもしれない。
「うぉわ!?」
ジゼルは悲鳴を上げた。
その刹那、少女の脳裏をよぎったのはありえそうな展開についてだ。
自分に待っているであろう三つの可能性──二つ目はこれ以上、余計なことを喋られる前にどこかで暗殺される口封じ。
そして襲って仕留めるなら、施設から施設に移る瞬間が一番
がくん、と背中から骨にまで響くような衝撃。
身体の
──マジかよ、車体を横倒しにしやがった!
つまり自動車の横転事故だ。
内臓に走った衝撃で、死ぬほど気分が悪かった。
外の状況はわからない。隣のシートに座っている男たちは、衝撃で気絶しているようだった。
この様子では、おそらく軍人ではない。
帝都勤めの警察官だろうか──ご苦労なことである。
パァンと空気が弾ける轟音。
続いてピリピリと護送車が震える振動──恐ろしく巨大な何かが現れ、高速で着地したことを示す音。
ジゼルはそうして、自分に待ち受けている結末を覚悟した。
このまま護送車ごと撃ち抜かれて息絶えるだけ、そういう死に方を数秒間、息を潜めて待ち続けて──
──何も起きない?
次の瞬間、メキメキと音を立てて護送車のフレームが歪んだ。
巨大なパワーによって車体が破壊され、施錠されているドアが外部から引き千切られているのだ。
最悪の経験だった。
目隠しのせいで何が起きているかもわからないなんて最悪極まりない。
緊張感でずっと、身体は張り詰めている。
ジゼル・カレは喉から漏れかけた悲鳴を、辛うじて飲み込んだ。
べこん、と何かが外れる音。
続いて流れ込んでくる外の空気に気づいた。
都市に雑多なにおいがした。たぶん帝都のど真ん中ではないはずで、その証拠にわずかに湿った風が感じられる。
おそらくどこかの河の近くだ。
──ああクソッ、つまり三つ目ってことかよ!
ジゼル・カレにありえる三つ目の可能性。
それはまだ契約者が彼女を見捨てておらず、リスクを承知で──あるいは治安当局に追跡されるのもよしとして──奪還しに来るというもの。
刑務所にぶち込まれたり、実験動物にされたり、暗殺されたりする結末ではない。
だけどこれが幸せな展開とは、到底、思えなかった。
そんな雑感を裏切るかのように──まるでこちらを心配しているとでも言いたげに、穏やかで優しい声が聞こえてきた。
『お待たせしました、我が契約者。あなたを解放しに参りました』
「……呪縛の間違いだろ?」
ジゼルは毒づいた。
幾度となく言葉を交わしてきた、無線機越しにしか知らない、どこかの誰かさん。
よっぽど皮肉な物言いが得意な貴族か、はたまた自分の直感通りに人ならざる悪魔の類か──空気の揺らぎで、巨大な何かの接近を感じた。
それは金属を引き千切るほどのパワーを秘めた存在が、ゆっくりとジゼルに迫っていることを意味している。
目隠しがそっと外される。
シートベルトの固定金具は解除された。
薄気味悪いほどの精密動作で、彼女の拘束を解いたもの。
──最初に見えたのは、馬鹿でかい金属製の指。
──頭を向けると、こちらを覗き込む巨人のカメラアイがあった。
思わず呆気に取られた。
大きい。普通のバレットナイトが四メートル前後なら、たぶんジゼルと目が合った巨人はそれ以上のスケール感のはず。
頭と指先だけでそう思えるのだから、実際に全体像を見たらもっと驚くに違いない。
ジゼルは苦労して身を起こした。
手錠が車体と繋がっているせいで、上手く立ち上がれなかった。
するとやはりロボットアームが伸びてきて、あっさりと手錠は断ち切られた。
「こえー……」
ジゼルは呟くと、肩をすくめながら護送車から出た。
その手を差し出す巨人に、灰髪の少女は駆け寄った。
『急いでください。すでに機体の予備電源は尽きかけています。本来、無人で動く設計ではありませんから。周囲の警官は無力化していますが、後続の到着まで三〇秒もありません』
「……殺したのか?」
『いいえ。私自身の倫理によって当該行為は禁じられていますから』
ジゼルは質の悪い冗談を聞いた気がして笑った。
笑うしかないだろう、こんな現実。
「テロ攻撃の指示出して、戦車まで用意した悪党の台詞かよ!」
迷うことなく、ジゼル・カレは眼前の巨人の腕を駆け上がった。巨大な頭部の真後ろに設けられた装甲ハッチが開く。
露出した機体の制御中枢──光り輝く脊髄にも似た部品──に足先が触れる。
あらゆる肉体が情報へと転換され、機体を駆け巡るエネルギーそのものへと変わっていくのがわかった。
電脳棺との融合に成功。
汎用インターフェースを通じて、自分自身が何者であるのかを知る。
たった今、目にしたばかりの機械仕掛けの巨人──その名前も外見も知らなかった機体の名前を、そっと呟いた。
「──
周囲を見渡す。
殺さずに警官を無力化するなんて、一体どんな手品を使ったのかと思えば、周囲を囲んでいるパトカーすべてに粘着物がまとわりついている。
ドアに張り付いたパテ状の物質が硬化して、中の人員を閉じ込めていた。
タイヤのホイールにまで同じものが絡みついている。
なるほど、警官を物理的に外に出られなくしているのだ。
ご
だが問題ない、とわかっていた。
今やジゼル・カレはこの未知なるバレットナイト〈ブロッケン・ツォルン〉と一体化しているのだから。
『ではジゼル、私の言うとおりに動いてください。報酬は明確に二つ、提示できます』
「なんだそりゃ?」
甘いささやきが聞こえた。
『あなたの願いを叶えましょう。そしてエルフリーデ・イルーシャとの決着も』
ジゼルはつくづく、自分の度しがたさを知った。
エルフリーデに対する慕情も友情も消えていないのに、同じぐらい、その人生をここで断ち切ってやりたい情念が渦巻いている。
皮肉なものだった。
死んだときはそんなこと、考えてもいなかったのに。
自分の今の気持ちは、醜悪な
「ああ、それは──望むところだよ」
機械仕掛けの巨人が、力強く大地を蹴った。
瞬間的にかかった負荷でアスファルトの路面が
スラスターのうなり声。
圧縮された高エネルギー粒子が解放され、ロケット噴射となって吹き出す。
航空力学的な洗練とはほど遠い、推力任せの飛行物体となって〈ブロッケン・ツォルン〉は空を舞う。
──この世のすべてを呪うために。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情 2 ~最強パイロットはスパイガールの運命にキレている~ (オーバーラップノベルス)
https://amzn.asia/d/04xKf8O4
Kindle
https://bookwalker.jp/de87d7a769-ea7c-4c07-9c71-b5d71b90c715/
BOOKWALKER
書籍2巻、ぼちぼち書店に並んでるようです。
リザ・バシュレー周りのやりとりが過去・現在ともに追加されてる他、戦闘シーンもいろいろ修正入ってたりします。
2巻単体での独立したエピソードとしてのまとまりもよく、オススメ!!
https://blog.over-lap.co.jp/tokuten_elfriede2/
また物理書籍には書店さんによっては特典SSがつきます。
OVERLAP STORE:A4サイズ書き下ろしSSペーパー「妹が反逆する日」…2巻直前の前日譚。ウザい姉の醜態。
全国の特約店様:A4サイズ書き下ろしSSペーパー「ものすごい美形!」…エルフリーデとクロガネがイチャイチャしてます。
メロンブックス様:B6サイズ書き下ろしSSリーフレット「ご飯が美味しすぎる!」…エルフリーデが妹とぐだぐだする話です。
全部コメディでエルフリーデさんが自由なお話…!
今後も機甲猟兵エルフリーデをよろしくお願いします。
感想・評価なども超よろこびます!!
以上、露骨な宣伝タイムでした(動画サイトのCMめいたクソデカ音量)