【第2巻発売中】機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
マックスの愛称で呼ばれる青年──マクシム・フォールはバナヴィア生まれのバナヴィア育ちである。
では生粋のバナヴィア人なのかと言われるとそうでもない。
つまりこういうことだ。
バナヴィアの移住したベガニシュ系住民、それも
びっくりするぐらい運が悪くて間も悪い父母だった。
ついでに世渡りも下手だ。
侵略戦争を仕掛けた帝国の体制に媚びを売って、甘い汁を吸う──みたいな、わかりやすい悪党の挙動さえできなかった。
真面目で不器用で
そんな両親のことが、マックスはさほど嫌いではなかった。
──まあ死んじまったけどな、神様はいい人間を連れて行くのが好きだから。
人生は複雑怪奇で、時々、直視するのが苦しいことだって突きつけてくる。
彼はもう大人だ。
酒を浴びるように飲んだって文句は言われないし、税金だって人並みに取られるし、何より年相応に責任を求められる。
飛び抜けて素晴らしい豊かな暮らしをしているわけでもないが、寒さに凍えて垢まみれになって野垂れ死ぬ境遇でもない。
実に人並みの人生を送っていると言えよう。
マクシム・フォールは大人である。
自分の人生はバナヴィアとベガニシュの間で起きた戦争によって振り回されたし、そのせいでクソみたいな経験をしてきたという自覚もある。
なのでまあ愛国心は薄目だ。
バナヴィア人の陰湿さを知っているし、ベガニシュ人の残忍さを熟知している。
困ったことである。
どちらか一方だけを嫌って、もう一方をひいきする生き方──ありがちな活動家とか愛国青年の定番──ができればいいのだが。
醒めてしまうのだ、昔から。
──まあこいつら、弱いものいじめしやがるよな、とか。
──どんな威勢のいいこと言ってても、人から金を奪う強盗だろ、とか。
冷や水ぶっかけるようなことばっかり思い浮かぶ。
マックスは自分が心底、何かに熱中して、身を捧げるというような生き様を選べないと知っていた。
もちろん異端対策局のエージェントは楽な仕事ではない。
クソみたいな過激思想にかぶれた主義者、科学技術を盲信するカルト崇拝者、はたまたそいつらを手足にしてうごめいてるイカレた機械仕掛けの化け物ども。
そういうろくでもない事件と対峙して、その悪意と戦うことを強いられる職業だ。
──普通に考えると、俺みたいなやつは命がけでこんな仕事をしない。
異端対策局はろくでもない評判の治安組織だが、紛れもなく仕事への使命感にあふれたエリートたちの職場でもある。
場違いな人間だ、という自認がマックスにはあった。
自分をスカウトした上司、オットー・マハト保安監察官に言わせれば──その異質さこそが重要なのだ、とのことだが。
流石にエリート様は優秀である。
如何にも神経質な小役人って感じだが、あれで存外、器量は広いのかもしれない。
マックスは今、常日頃乗っている大型トラックの運転席にはいなかった。
代わりに乗り込んでいるのは、身長四メートル半ほどの巨人の脊髄──電脳棺と呼ばれる操縦システムによって、彼の心身は機械システムと合一していた。
機体の名は〈シュティーア〉。
そのコードネーム通りに、雄牛のような二本の角を持ったバレットナイトである。
脚部に装着されたローラーユニットで、アスファルトの道路を疾走した。
空は生憎の曇り模様、帝都コルザレムの春ではさほど珍しくもない天候──帝都警察によって封鎖されている道路を横切って、目的地へ急いだ。
行き先は帝都環状線のすぐ傍だった。
都市の物流を担う倉庫街の一角──そこにマックスは向かっている。
──わかってる。人生はクソ塗れだし、理不尽なんて当たり前だ。
──だけどこいつはできすぎだろ、神様。
エルフリーデと交戦した鋼鉄のモグラ。
あの化け物じみた地底戦車の搭乗者が、死んだはずのジゼル・カレだと聞かされたとき、マックスの脳裏をよぎったのは神様への抗議だった。
よりにもよって、どうしてまたこんな残酷な仕打ちをするのだろう。
よく知っている戦友だった。
灰色の髪に鋭い目つきで、皮肉ばっかり言ってるが、まあ本人が自称するほど性格は悪くない──そういう女だった。
若かった。
まだ二十歳にもなっていない少女だったのだ。
きっといろんな人生の可能性があった。
覚えている。
ジゼルは彼と同じ任務に同行していて、激戦の最中で失われた命だった。
それが
──俺がバナヴィア教会の天使を信じてないから?
──それともベガニシュの始祖竜を敬ってないから?
──どっちでもいい、なんでまた
怒りがあった。
異端対策局の仕事は過酷だ。
普通の倫理観ではまず受け付けないような思想と手段で、生命を
だが、まさか──仲間のために死んでいったはずの戦友を、こんな形で墓の下から掘り起こされるとは思わなかった。
マクシム・フォールは大人である。
腹の底でどれほどムカついていようと、私情で動いたりはしない。
彼が〈シュティーア〉に乗っているのは、純然たる任務のためだった。
見渡す限りの建物、道路で覆われた人工物の風景。
ただ一つ帝都コルザレムの日常と異なるのは、交通規制によって日中とは思えないほど空いている道路だろうか。
おかげで現場に到着するまですぐだった。
──ジゼルを奪い返した未知のバレットナイトが、空を飛んで現場から逃げた先。
──ここは都会のど真ん中、空を飛んだら目撃者が大勢いる。
──物流倉庫の屋根をぶち抜いて、ド派手な着地まで決めたら目立つよな。
帝都コルザレムには防犯カメラが至る所に仕掛けられていて、住民の目も桁違いに多い。
帝国中央政府の省庁だってあるから、防空システムによる監視の目もある。ロケットエンジンかジェットエンジンか電動プロペラかは知らないが、推力全開でかっ飛ばせばすぐに居場所がバレる。
かくして通報を受けて駆けつけたのは、まず帝都警察だった。
とんでもない轟音とともに、屋根をぶち抜いて飛行機が墜落してきた──そういう報せを聞いて、面子丸つぶれの警察は意気込んだ。
さて犯人を捕まえてやろうと、バレットナイトを配備している装甲機動隊まで動員、辺り一帯に交通規制を敷いて封鎖。
多少、派手な戦闘が起きようと構わない、という構え。
物流倉庫に逃げ込んだ愚かな
「……ところが上手くいかなかった、か」
バレットナイト〈シュティーア〉のローラーユニットにブレーキをかける。
電動モーターの回転が止まり、ゆっくりと徐行しながら機体を停止させる。
マックスは機体のカメラアイでその景色を見た。
──帝都警察の配備してる型落ち〈アイゼンリッター〉が、倉庫の敷地を包囲してる。
──何もできてないし、それどころか何をすればいいかわからないって顔してやがる。
これは別に、警察のバレットナイト部隊が無能だからではない。
いや、最前線で機甲猟兵をやっていたマックスに言わせれば、訓練が足りていないし、練度も低いという感想になるのだが。
それでも頑張ってはいる。
たぶん兵隊崩れが暴れたぐらいなら問題なく制圧できそうな雰囲気ではある。
問題はシチュエーションの方にあった。
光学系カメラが倉庫があるはずの方角を捉えている。
地図によればここには、とある中小企業の倉庫があったはずなのだが──
「…………嘘だろ?」
マックスは目を疑った。
事前に異変を聞かされていたはずなのに、それでもなお意味がわからない光景だった。
そこにあったのは飛行機に墜落された倉庫の残骸ではなかった。もちろん飛行機じゃなくてバレットナイトが落ちてきたのだ、みたいな話でもない。
何もなかった。
物流倉庫の壁も屋根もなかった。
完全な虚無がそこにあった。
跡形もなく倉庫が壊れて、
──地上に存在したはずのあらゆる構造体が消失していた。
──倉庫があったはずの座標には、その代わりと言わんばかりに大穴が空いている。
──
頭がどうにかなりそうな景色だった。
地盤沈下で倉庫の建物が崩れてしまったなんてレベルの崩落ではなかった。
これはもうクレーターと呼ぶことすら生ぬるい、切り立った
こんなのはもう、天変地異の領域のはずだった。
もし自然現象としてこの陥没が生じたなら、今頃、帝都全体が大地震に襲われて崩壊していたっておかしくない。
「……おいおい、どうしたらこうなるんだよ? 夜中に巨人が土木工事でもしたのか?」
冗談めかした独り言。
もちろん本気でそう思っているわけではない。
人知れず都会のど真ん中に、こんな
勘弁してほしかった。
いくら何でもスケール感が狂っている。
これなら軍用兵器が帝都に持ち込まれて、大規模なテロ攻撃が計画されてる──なんて物騒な話の方がまだマシである。
相手が凶悪なテロリストの群れなら、こっちも重火器やバレットナイトで応戦するという選択肢がある。
かなり犠牲は出るだろうが、それでも事件を終わらせる道筋は見つけられるだろう。
これはそういう問題じゃない。
『──残念だね、マックス。どうやらきみはお留守番みたいだ』
突然だった。
それは暗号化された無線通信。
何度も何度も、記憶の中で聞き慣れた少女の声だった。
生意気盛りのガキのくせに、誰よりも強くて頼りになって、その実力だけで戦場の英雄に成り上がった傑物。
辛くて、苦しくて、怖くて、悲しい戦場の中でなお、英雄譚を兵士に信じさせるような誰か──そういう少女を一人、マクシム・フォールは知っていた。
「エルフリーデ? ああいや、準備ができたんですか、隊長?」
『うん、こっちだよ』
今度はレーザー通信だった。
レーザー光線の受光部の方に顔を向ける。
〈シュティーア〉のカメラアイが捉えたのは、走行中のトレーラーの荷台からこっちに手を振っている巨人の姿だ。
真っ赤な耐熱塗料の深紅、刀剣じみた一本角のブレードアンテナ、どこか航空機然とした優美な流線型の外殻──全体として見たときの印象は、東洋人が信じる地獄の鬼そっくり。
そんな物騒なシルエットが、何故か脳天気に手をひらひらさせている。
見た目がごついくせに動きが可愛らしい。
「…………緊張感ない光景だよな」
思わずマックスがうめくと、深紅の悪鬼〈アシュラベール〉は肩をすくめた。
鎧武者の
トレーラーの停車に合わせて器用に慣性を裁きつつ、その機甲猟兵は声を発する。
『この事件の解決のために、エルフリーデ・イルーシャが来たんだよ。安心してマックス──胸くそ悪い陰謀って、わたしが一番嫌いなものだから』
それを聞いて、マックスは自分の強ばった表情が、ゆっくり解けていくのを感じた。
たぶん
意味がわからない怪奇事件の真っ只中で、根拠なんて欠片もないのに──エルフリーデの言葉に説得力しかないのがどうかしている。
ああ、そうだった。
「隊長、あんたってやっぱ最高ですよ」
『えっ何? 口説いてるの、これ』
「俺、ライオンは恋愛対象じゃないんで……」
『うーん、処刑していいってこと?』
理不尽である。
たぶん本気で口説いてても処される。
相変わらずすぎる少女の振る舞いに、マックスは笑った。
機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情 2 ~最強パイロットはスパイガールの運命にキレている~ (オーバーラップノベルス)
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書籍2巻のメカデザインが公開されたのでご紹介するんですよ…!
【挿絵表示】
アイゼンリッターPMCカスタム。
エルフリーデが書籍2巻で乗り回してるカスタム機。
帝国製の量産型機をベースに、白兵戦を想定した装甲強化型。
【挿絵表示】
M4パートリッジ秘密工作仕様。
リザが書籍2巻で乗ってるカスタム機。
連邦製の量産型機をベースに、軽量化と隠密性を重視。
黒幕の邪悪AI「地下奥深くにまで続く穴……!」
エルフリーデ「急にボスキャラが待ってるタイプのダンジョンが生えてきた…!」
なお帝都警察は「なにこれ…」状態ですが、クロガネの想定の範囲内には収まっている。
スパダリ…!