【第2巻発売中】機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
バレットナイトは機動力に優れた拡張身体である。
第二世代機から第三世代機へと発展するにいたって、とうとう推進器の搭載による空中機動まで獲得したマシン──要するに二本の脚で飛び跳ねるだけではなく、ジェット噴射やロケット噴射を駆使して、短時間の飛行ができるようになった。
これはとても便利だったし、戦場に与える影響も大きい。
それまで巨大で燃費が悪い重戦車を補う役割──軽くて長時間活動できる機甲駆体──だったのが、ここに来て空中からの対地攻撃を果たせるようになった。
小難しい言い回しはさておき、つまりこういうことだ。
──〈ラセツベール〉みたいな機体は、飛行機みたいに空を飛べる。
──ですけど本質は飛行機じゃない。飛行速度も飛行距離もそうです。
リザ・バシュレーは元来、科学技術に親しんでいる。それは最新の機材を扱う、情報機関の工作員としての必然的なスキルだ。
クロガネに拾われて、第二の人生を始めてからもそれは変わらない。
その操縦技量と知識の豊富さを買われて、ミトラス・グループのバレットナイト開発チームでテストパイロットをすることになったからだ。
そこがエルフリーデとは違うところだった。彼女の場合、どちらかといえば伯爵様の懐刀としての比重が大きい。
実戦経験豊富な機甲猟兵とあらば、任務にせよ教導にせよ、やってもらいたい仕事は山ほどあるだろう。
リザの専門はむしろ技術者とのコミュニケーションであり、最新の軍事技術についての知見を深めて、試作装備の運用テストで意見を述べていくことだった。
──なのでまあ、わからないですね!
──この分離合体するバレットナイト、どういう仕組みなんです!?
〈ラセツベール〉は現在、地表すれすれを時速二〇〇キロメートルと三〇〇キロメートルの間で飛行していた。
通常のヘリコプターの最高速と同程度の速さで、あっという間に視界の両脇を高層ビルが流れていく。
もちろん四基のスラスターを出力全開で噴かしたりはしていない。理屈の上では亜音速域での空中機動ができる装備だが、流石にそれを地表すれすれでやる勇気はなかった。
リザは自分の腕前を心得ている。
ためらえば死ぬこともあれば、思い上がって蛮勇をしても死ぬ。
自分はエルフリーデ・イルーシャの二番機だが、決してエルフリーデ自身ではないのだ。
敵機からのレーザー照準。
数は一〇を超えている。
〈ラセツベール〉のセンサーが感知して、電脳棺のインターフェースが警報を鳴らしてくる。
脚部に装着したロケット・スラスターで方向転換、ビルとビルの隙間に入り込む。
弧を描くような軌道──慣性を考慮してもギリギリの回避だった。
背後では
──機体が重いですね。さっさとオプションを使い切って軽くすべき?
敵機の群れからの追跡は続いている。
奇妙な兵器だった。人型をしてはいるものの、それでもやはり歪な印象はぬぐえない。
まるでお化け屋敷の怪物みたいな連中が、地面の上を走って追いかけて来ている。
バレットナイトの設計は自由だ。
これまでエルフリーデが対峙してきた異形の機体群よろしく、人型を逸脱したものも、操縦者の適性によっては十分に実用範囲に収まる。
だが、リザには確信があった。
──さっきからいろんな周波数の電波が飛び交ってる。あの怪物軍団から電波が垂れ流しになってるわけです。
──これって典型的な
ドローン兵器と書くと如何にも科学技術の結晶のように思えるが、その制御方式は基本的に夢も希望もない技術的限界に縛られている。
無線遠隔操縦であれば電波の帯域が、そのまま使役できるドローンの数的限界に直結する。
有線式になるとさらに問題はシビアで、伸ばしたケーブルが絡み合ったりするため、物理的に距離を隔てないと運用できない。
飛ばしているのが電波かケーブルか異なるだけで、「混線するとまとまった数を動かせない」のは変わらない。
──じゃあ私の後ろを走って追ってくる、あの不気味なロボット軍団はなんなのかって話です。
──伯爵様の話じゃ〈パノプテース〉は直接、人間に危害を加えられない。
──お姉さんの知り合い、ジゼルが間にはさまることでルールを
だとしても疑問が残ってしまう。
仮にジゼル・カレがとんでもない情報処理能力の持ち主だったとして、人型ロボットを十数体、まとめて制御できるものだろうか。
第一、自分自身の肉体の延長線上というバレットナイトの原則──融合操縦システムからかけ離れた仕組みである。
後ろを追いかけてくるロボット軍団は脅威だが、そもそも、どうやって成立しているのだろうか。
〈ラセツベール〉は旋回し続ける。
ビルとビルの合間を飛行して、巨大な高層建築を
敵の後ろを取る。
視界に映ったのは、道路の上を走り回る異形の群れだった。
大きさは四メートル程度、バレットナイトに準じた構造を感じさせるものの──その動きはなめらかすぎて薄気味が悪い。
〈ラセツベール〉の
「いろいろ疑問はありますが、おさらばです!」
群青の鬼神は左腕で保持した重火器を構えた。
箱形のロケットポッド──上下二段に三列のロケット弾頭が並んだ発射筒──が構えられた。車両搭載型のロケット砲システムを流用した、対装甲ロケット・キャニスターポッドである。
重戦車の複合装甲だってぶち抜けるタンデム弾頭だった。
〈ラセツベール〉本体の光学カメラやレーザー測距システムと連動し、簡易的な誘導までつく優れものだ。
引き金を引いた。
ロケット弾が発射される。炸薬で射出後、ロケットモーターに点火して加速する弾頭──その数は三つ。
敵の回避運動も迎撃も間に合わなかった。
着弾。
爆発が起きる。
直撃した敵機は跡形もなく吹き飛んでいたし、爆風を浴びて間近にいた機体も動かなくなった。
全滅だった。
「……
リザは敵を壊滅させたよろこびより先に、その脆弱すぎる防御力に違和感を覚えた。
これはバレットナイトの常識で言えば、ありえないほどに装甲防御が薄いことを意味している。対戦車ロケット弾の直撃を受けた機体はともかく、爆風でダメージを受けて動かなくなるのは妙だった。
標準的な第二世代バレットナイト──〈アイゼンリッター〉や〈M4パートリッジ〉──であれば、大したダメージもなく戦闘を続行できるはずだ。
敵が強いよりは弱い方がいい。
それはそうなのだが、言い知れない不安感を覚えてしまう。
リザは〈ラセツベール〉のスラスター出力を上げ、急いでその場から離脱した。
片付いたならばエルフリーデを助けに行くべきだと思ったからだ。
燃え盛る敵機の残骸──その頭上を飛び越えた直後、警報音が鳴り響いた。
「飛翔体を検知? 新手ですか!」
〈ラセツベール〉のカメラアイが敵影を視認した。後方から火を噴いてこちらへ向かってくる飛翔体が六つ。
一瞬、対空ミサイルの類かと思った。
すぐに違うと悟る。
奇怪な印象を抱かせる人型ロボット、その背中にくくりつけられたグライダーのような飛行翼、翼下パイロンに吊り下げられたブースターからのロケット噴射。
異様だった。
使い捨ての特攻ドローンにしては複雑なくせに、バレットナイトにしてはどこか様子がおかしい。
「ああもう、ひょっとして増援がおかわりされる方式ですか!?」
ありがたくない話だった。
〈ラセツベール〉の右腕で保持した電磁機関砲、その銃口を敵機に向ける。口径三〇ミリの機関砲弾を電磁加速して連続発射──航空機関砲並みの威力があるから、装甲の薄いドローンなんて紙切れ同然に引き裂ける。
そして〈ラセツベール〉は航空機ではなく人型兵器だった。
自由に動く四肢を駆使して、真後ろに銃口を向けることだって造作もない。
撃った。
光波シールドジェネレータでバリアが張られることもなく、あっという間に穴だらけになった機体が爆発する。
残骸が墜落していった。
「……動態検知、さらに六機」
リザは嫌な感覚を覚えた。
〈ラセツベール〉の性能ならば、こんなでくの坊に負ける気はまったくしない。
だがもし、敵が無尽蔵の物量を持っているならば──ぞっとするような話だった。
まるでゾンビ映画の登場人物になった気分である。
そのときだった。
〈アシュラベール〉からの通信。
『ライオネス2、そっちにジゼルが向かった! 注意して!』
「言ってる傍から! 了解っ!」
ジゼル・カレはエルフリーデに執心している口ぶりだったが、まず邪魔者から消すことにしたのだろうか。
ありえない話ではなかった。
巨大な愛憎を抱えてる人間の情念なんて、理不尽で当然なのだから。
ぐるんとカメラアイを動かして索敵。
高層ビルが建ち並ぶ街並みは、遮蔽物たっぷりでお互いに視界不良を引き起こしていた。
いた。
青みがかった鋼色、奇妙なほどに痩せ細った幽鬼の巨体──ほとんど骨に筋肉を被せただけという感じの人型が、地面を蹴って跳躍していた。
例によってこちらの背後を取ってきている。
気味が悪かった。
「──経験談ですけど! 憎しみで動くのって健康に悪いですよ!」
軽口を叩きながら四基のスラスターを噴射した。
加速、急上昇。
ロケット推進器を増設した〈ラセツベール〉は、その推力だけで敵機を引き離すことができた。
警戒すべきは飛び道具だ。
機銃掃射、ミサイル、熱線砲──そのどれを積んでいたっておかしくない。
速度を上げながら急旋回、〈ラセツベール〉を空中で反転させる。
──その瞬間、リザ・バシュレーは信じがたいものを目撃した。
こちらに急接近してきた敵機目がけて、周辺のドローンが押し寄せてきていた。まるで
その数は十や二十では効かない。
どうやら〈ラセツベール〉の目を逃れて、地形を盾にして接近してきていた機影のようだった。
数が多すぎる。
本当にゾンビ映画みたいな景色である。
こうなってくると笑うしかないが、何かを敵が目論んでいるのも間違いなかった。
「ライオネス2、攻撃します!」
左腕に保持したロケットポッドを構える。
〈ラセツベール〉本体側のレーザー照準器を行使、地上からジゼル機に駆け寄るドローンユニットに狙いを定める。
ぶっ放した。
残る三発のロケット弾頭が、相次いで発射された。
着弾、着弾、着弾──爆発が起きる。
ロケットの爆風に巻き込まれて、数体の陸上ドローンが崩れ落ちた。
弾切れになったロケットポッドを投げ捨てる。一気に身軽になった〈ラセツベール〉が、そのままジゼル機に対して電磁機関砲を照準する。
何をするつもりは知らないが、ここで倒せるならばそうしてしまいたかった。
機銃掃射。
──射線上に飛び込んできた飛行ドローンが数機、盾になって砕け散った。
──ジゼルの乗った幽鬼に、地を這う陸上ドローンがまとわりついた。
──空を舞う無数の機影が、コネクタを剥き出しにしてその体表に張り付く。
それは合体、それは寄生、それは同化。
重火器を備えたドローン、推進装置を備えたドローン、装甲を備えたドローン、
ほとんど装甲らしい装甲、兵装らしい兵装が見受けられない幽鬼──その胴体、背面、肩部、腕部、腰部、脚部のすべてに何らかの兵装モジュールが結合していく。
強固な物理的固定をうながすロック機構、凄まじい量のエネルギーを流動させるためのコネクターユニット。
ドローン単体では何の意味もなく、ただ無用な重量増加を招くだけの構造体。
それらが真価を発揮する。
集合していくドローン群が変容する。間接機構で折り畳まれ、それぞれが人体の一部を模した形状へと変容する。
痩せ細った幽鬼の胴体を覆う鎧、剥き出しの筋肉を包み込んで延長する四肢、無数のエンジンと噴射口が連なった推進装置──五メートル以上で六メートル未満ぐらいの背丈が、一〇メートルを軽く超えるほどの巨体へと変貌する。
冗談のように膨れ上がった体積、まさしく巨人と呼ぶほかない力強いシルエット。
それは最早、幽鬼と呼ぶには相応しくない。
巨大なる怒りの化身が吠えた。
『──これが〈ブロッケン・ツォルン〉だ、あの世まで名前を覚えておけよ!』
脳が理解を拒むようなシュールさ──目の前で起きた不条理すぎる光景に、リザ・バシュレーは叫んでしまった。
「もうちょっと頭良さそうなギミックなかったんですか!?」
『うるせぇぞクソガキ!』
機銃掃射が虚空を撃ち抜く。
お互いが推力任せの急上昇/急加速を行うことで起きる交錯──ジェット噴射のうなり声とともに飛翔する巨影が二つ。
リザは思う。
こういうとき緊張感が出せないのは、もう自分の性分かもしれない、と。
機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情
著:灰鉄蝸 イラスト:中村エイト
「オーバーラップノベルス」
表紙
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メカデザイン
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1巻と2巻、好評発売中なのです!(n度目
・〈ブロッケン・ツォルン〉
コードネームは『巨大なる怒り』を意味する。
身長11メートル。
グレート合体する勇者ロボ風。
通常のバレットナイトの2倍以上の巨体と、全身に装備されたスラスターによる単独飛行能力、ユニット化された兵装モジュールの分離・合体・変形機能を持つ。
騎士のマントを思わせる逆デルタ型の飛行ユニット、頭部と比して巨大すぎる手足、それらに内蔵されたスラスターなど大型化した機体に相応しい重装備が特徴。
ベガニシュ帝国で開発された第三世代試作バレットナイトの一つ。
本機は量産化を前提とした試作機ではなく、これまでにない兵装および戦術を検証するための概念実証機。
その設計コンセプトは「大型フレームに多数の兵装を装備させた強襲駆体プラン」「バレットナイトと連携・運用されるドローン型の分離合体式兵装ユニット」。
つまるところ複数の子機と合体する人型ロボット兵器という、ある種、荒唐無稽にも思える存在である。
現在、バレットナイトを取り巻く兵器開発環境はめまぐるしく変動している。
1年前の〈アシュラベール〉の初陣以降、それまでありえないと考えられていた戦術、戦闘単位での作戦行動が多大な戦果を上げている。
つまり「エルフリーデが次々とありえない成果を出しているせいで、次世代兵器の成功ラインがわからなくなってしまった」。
〈ブロッケン・ツォルン〉の建造目的の一つは、実際にアイデアを検証し、何が正解で何が過ちであるのかを見極めることである。
バレットナイトの「人型兵器ゆえに融合操縦システムが有効」という特性と、「内蔵火器や推進機構との相性の悪さ」を軽減すべく、本機はモジュール構造を採用。
従来型の電脳棺による融合操縦を行う駆動フレームと、その拡張身体となる外装部を分けた。
要するに「コアとなる本体フレーム」「パワードスーツのような兵装モジュール」を別個に用意している。
融合者は機体中枢となる人型フレームそのものとなり、自分自身の手足を拡張するパワードスーツとして、全身の兵装モジュールを行使する。
すなわち多数の重火器やドローンユニットの集合体こそ、合体変形するバレットナイトという異形の正体である。
〈ブロッケン・ツォルン〉を構成するのは、本体であるコアフレームとそれに装着される無数の兵装モジュールである。
兵装モジュールは独立したドローンとして行動可能で、コアフレームからの無線通信によって制御され、戦闘中の分離合体を可能とする。
これにより破損した部位の交換、作戦行動中の迅速な兵装変更が可能となっている。
なお実機の製造とテストの結果、本機の運用上のデメリットは多岐にわたることが明らかとなった。
まず内蔵火器を重視するあまり、バレットナイト本来の利点――融合操縦システムによる圧倒的な制御難易度の低さ――が失われている。
直感的な機体制御というメリットが失われ、全身の重火器の使用時、多岐にわたる選択肢を即断即決することがパイロットに求められてしまう。
ドローン化兵装モジュール群は事前に充填されたエーテル粒子と電気的エネルギーで稼働しているため、分離形態での戦闘能力は低く、稼働時間も極端に短い。
合体時の強度を前提にしているため重量がかさみ、ドローンユニットそのものの制御にも難があり、戦場での生存性そのものも低い。
さらに巨大化した機体をスラスターの推進力で駆動させているため、運動性という点で4メートル大の第3世代機に劣る。
あまりにも大量の内蔵火器ゆえに、整備の負担も大きい。
〈ブロッケン・ツォルン〉はこの特異な機体特性ゆえ、ひとまずベガニシュ帝国の次世代機動兵器には適さないという結論が出されている。
ジゼル・カレの搭乗している機体は、先史文明種の遺産〈パノプテース〉によって盗まれたデータを元に製造されたと推測される。
武装(コアフレーム)
・頭部:複合センサーユニット
・胸部:ドローン管制用通信ユニット
・背部:換装型バックパック・コネクタ
・肩部:兵装モジュール接続コネクタ
・腕部:兵装モジュール接続コネクタ
・腰部:短距離飛行用エーテル粒子ロケット推進機
・脚部:兵装モジュール接続コネクタ
見た目は勇者ロボもしくは合体トランスフォーマー方式の合体機構(コアロボットの胴体や手足にどんどん盛っていくタイプの合体)。
コンセプトはどっちかっていうとインパルスガンダム(戦場でユニット化した手足や武装を空中換装すると強いんじゃないか理論)。