機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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騎士見習いのリザ

 

 

 

 

 

 

 

 結論から記していこう。

 後にヴガレムル同時多発テロ事件と呼ばれる一連の騒動は、大きく分けて三つの襲撃に分かれていた。

 まずヴガレムル市近隣の警察署への襲撃、次にミトラス・グループ第一工場への襲撃、最後にミトラス・グループの研究施設への襲撃である。

 

 これらの襲撃はその規模、実行部隊の練度、武装のレベルそれぞれがまったく異なるレイヤーに分かれており、それらがほぼ同時刻に行われたという点にその特性があった。

 つまり素人同然のテロリストによる銃撃、自動車爆弾の自爆からの旧型バレットナイトの突撃、そしてティルトローター輸送機からの空挺降下による施設占拠――個人レベルのテロ攻撃と正規軍の精鋭部隊レベルの戦力が同時に動いたのである。

 

 小規模な反体制派による襲撃事件は、バナヴィアではそう珍しいことではない。

 しかしこれらの事件が起きたのは、最も豊かで安定した統治の行われていたヴガレムル伯爵の領地だった。

 その心理的ショックは大きく、また政治的波紋は内外に広がった。

 

 特に大きな問題となったのは、ヴガレムル伯領でテロを起こしたグループが、ベガニシュ帝国製の電子戦システムを入手しており、これを襲撃で用いたという一点である。

 直接、テロ事件を起こしたのはバナヴィア独立派の中でも先鋭的な過激派グループだったのだが――このずさんな管理による兵器流出という問題は、むしろ市民のベガニシュ帝国軍への不信感を強めることになった。

 

 さらに事件当時、警備部隊が用いていたバレットナイトの一部は、原因不明のトラブルによって通信機器が使用不能になっていた。

 後に検証されたところによれば、これらの機材はすべてベガニシュ帝国の本国から輸入して導入されたものだった。

 ベガニシュ帝国によって仕掛けられていたバックドアが、テロリストに利用されたという最悪のシナリオだった。

 

 ともあれこの襲撃事件において特筆すべき点は、これらの襲撃のほとんどが、ヴガレムル伯領の外からの越境攻撃だったことである。

 元来、一つの国だったバナヴィア王国を併合して、三つの行政区分で分割した弊害(へいがい)――たとえヴガレムル伯爵の統治が理想的であり、領内の治安が保たれていたとしても、その統治外の隣接する地域はそうではない。

 そうしてヴガレムル伯領の外側で用意された戦力――それらは、あらかじめヴガレムル伯領に潜伏していた小規模な武装ゲリラグループと呼応して、一斉に領内へと越境攻撃を仕掛けたのだ。

 

 この襲撃事件の主役はバレットナイトであった。

 峻厳(しゅんげん)な不整地を単独で走破し、長時間の無補給活動が可能な機甲戦力――奇しくもバナヴィア戦争でベガニシュ帝国が駆使した機動兵器が、ゲリラ戦においても有用であることをバナヴィア独立派は示したのである。

 あらゆる意味でこの年は、バレットナイトを取り巻く兵器運用・戦術思想が一変した時期であると考えられている。

 

 黒塔紛争/サンクザーレ会戦においてエルフリーデ・イルーシャの示した一個の機動兵器による戦略的打撃力――エルフリーデ・ショックが正面戦力としてのバレットナイトの価値を問い直したとすれば。

 このヴガレムル同時多発テロ事件は、不正規戦におけるバレットナイトの破壊力を示したのである。

 それはこれまでバレットナイトの実用化において先んじていた帝国の運用思想が、遅れたものになっていたことを示しており――あるいはこの年を、後世の戦史研究家は特異点的な転換期だったと解釈する。

 

 

 

 

 

 

『状況を説明しよう、リザ・バシュレー。我々は現在、強力なジャミングを受けている。さらに警備部隊の初期型〈アイゼンリッター〉では、原因不明の通信機器のトラブルが起きている。それらはすべてベガニシュ帝国から輸入された型式だった』

 

「なるほど、バックドアですね?」

 

『そうだ。幸いにも我々の主力はライセンス生産したモデルだ。そちらにバックドアは仕込まれていないし、空中の中継機を通じたレーザー通信は可能だ』

 

 伯爵様からの通信の最中にも、第一工場の出入り口付近から銃撃戦の音が聞こえてくる。大きな爆発音のあとに戦闘が始まったのである。

 クロガネ・シヴ・シノムラによれば、有線ドローンによる偵察の結果、複数のバレットナイト――第一世代機〈パンツァーゾルダート〉と警備部隊が交戦中だという。

 屋外試験場でバレットナイトの試乗を行っていたリザ・バシュレーは現在、そんなわけで戦場と化した工場の敷地内で立ち往生していた。

 電脳棺の中に溶け込んだリザの意識は、やれやれと肩をすくめた。

 

「政治的事情で購入した本国の兵器にバックドア付き、しかもそれをテロリストに利用される……踏んだり蹴ったりですね、伯爵様?」

 

『バックドアは予想の範疇(はんちゅう)ではあった。高い買い物だったがな……そちらの状況は?』

 

「私の〈アイゼンリッター〉はとても完璧な仕上がりです。これから実弾で試射して火器管制のテストをする予定だったので、実弾を装備しています。ですので伯爵様、出撃の許可をいただきたいのですが」

 

 沈黙があった。しかしそれは短いものであり、伯爵は決断的にこう応えた。

 

『……許可しよう。こちらから警備部隊にお前の存在と識別コードを伝える』

 

「合理的な判断です、伯爵様」

 

『だが、非道徳的な判断でもあるな――上空からの偵察結果だが、エルフリーデとミリアム嬢のいる研究施設への襲撃も確認された。速やかに敵を制圧しろ』

 

 要するに子供を戦わせるのはやりたくないが、エルフリーデの身の安全が心配なので、強力な戦力であるリザを遊ばせておく余裕もない。

 そのような判断をしたらしい。賢明なことである。

 リザはニィッと笑って、群青に塗装された〈アイゼンリッター〉を駆動させた。人工筋肉で包まれた四肢が動き、瞬時に身長四メートルの巨人を加速させる。

 

「了解――」

 

 走り幅跳びの要領だった。数十メートルの距離を助走したあと、地面を蹴って跳躍。比較的、背の低い建物の屋根を飛び越えて、戦場になっている出入り口――セキュリティゲート付近にまで移動する。

 走る、跳ぶ、走る、跳ぶ。まるでバッタのように地面を跳びはねながら、ダークブルーの巨人は恐ろしい速さでショートカットを繰り返した。

 

 それは平面的移動しかできない、歩兵の延長線上にはない機動――バレットナイトという兵器にしかできない動きだった。

 三次元的跳躍を繰り返す――常識外の速さで戦場に到達する。

 建物の屋根を飛び越えて現れた〈アイゼンリッター〉は、端から見ていると瞬間移動したようにしか見えなかっただろう。

 

 

――なるほど、大惨事ですね。

 

 

 ひどい惨状だった。

 最初に自動車爆弾が突っ込んできたゲートは完全に破壊されており、その周囲にはずんぐりとした灰色のバレットナイト〈パンツァーゾルダート〉が一〇機、巨大な盾を掲げて陣形を組んでいる。

 〈パンツァーゾルダート〉はベガニシュ帝国が一五年前の戦争で活用した旧世代機であり、現在は払い下げ品があちこちの貴族領に叩き売られている。

 ガルテグ連邦との大陸間戦争では旧式化してろくに使われていないような機種だ。その機動力も装甲も出力も、今となっては陳腐化している。

 見れば地面にはすでに二機の〈パンツァーゾルダート〉が倒れており、戦闘によって撃破されたことがうかがえた。

 

 砕けたコンクリートの欠片があちこちに散らばっている中、敵味方のバレットナイト部隊は、互いに大型の実体シールドを使っていた。

 ミトラス・グループの警備部隊――水色の塗装が施されたバレットナイトは、流れ弾が飛び込まないよう、これまた陣形を組んで施設の防御に徹している。

 襲撃者の側は数で勝るが性能面に不安があり、動きもド素人なので奇襲の優位性をあまり活かせていない感じ――対して警備部隊の方は第二世代バレットナイト〈アイゼンリッター〉だが、通信機器のトラブルと敵のジャミングが重なって大胆に動けていない。

 大方、そんなところだろう。

 同士討ちを避けるためにリザは拡声器で大声を張り上げた。

 

「こちらエルフリーデ・イルーシャの騎士見習い、リザ・バシュレー! 警備部隊の皆さん、助太刀します!」

 

『――わかった!』

 

 警備部隊の応答を聞くが早いか、六〇メートルほど先に固まっている敵部隊に銃口を向けた。

 リザ専用にカスタムされた〈アイゼンリッター〉は、右手に砲身を切り詰めた三〇ミリ電磁機関砲――騎兵砲を携行している。電磁バレルを短くしたために威力と射程は下がっているが、それでも二〇ミリ電磁機関砲よりも破壊力は高い。

 引き金を引く。

 

 白熱するプラズマの尾を引いて、高速投射される超硬化結晶弾――徹甲弾の雨を浴びて、二機の〈パンツァーゾルダート〉が爆発した。

 警備部隊の方に盾を向けていたせいで、ちょうど隙間に三〇ミリ機関砲が飛び込んだのだ。

 有効射程距離内であれば重戦車の装薬式主砲に匹敵する威力の砲弾――旧式化している〈パンツァーゾルダート〉では、正面装甲と言えど耐えきれるはずもない。

 第一世代バレットナイトと第二世代バレットナイトでは、使用されている技術に大きな進歩はないものの、設計上の最適化がされていないため性能が大きく異なるのだ。

 

 次の瞬間、リザの〈アイゼンリッター〉目がけて反撃が飛んでくる。

 二〇ミリ電磁機関砲が四機分、敵の半数から乱射される。こちらの回避運動まで織り込んだ優秀な火器管制システムのランダム射撃――たとえ搭乗者がド素人のテロリストだろうと、集団での制圧射撃ができる優れもの。

 リザは落ち着いて回避運動を取った。敵の機銃掃射の一部が着弾する――左肩部に装備された光波シールドジェネレータが、粒子防御帯を形成。

 高エネルギー粒子のバリアが、着弾した砲弾を片っ端から無力化していく。

 弾ける閃光。

 

 

――まあ数が違うんだから、射撃戦やったら負けるか。

 

 

 光波シールドジェネレータの防御力も無限ではない。しかし彼我の距離、六〇メートルの交戦距離を詰めるには十分だった。

 〈パンツァーゾルダート〉部隊からの機銃掃射を(かわ)して、粒子防御帯で弾いて、あっという間にリザは敵群に突っ込んでいた。

 彼我の距離、三メートル。

 踏み込む。

 左腕に装備された小型の盾――超硬度重斬刀(ブレード)と同じテロス合金製のバックラー・シールドで、敵を殴り飛ばす。

 比重の重たい合金製バックラーシールドに吹き飛ばされる〈パンツァーゾルダート〉。

 

『ぐぁっ!?』

 

 密集陣形を取っていた敵部隊は、それゆえに一機が弾かれると陣形が乱れてしまう。

 そのがら空きの胴体目がけて三〇ミリ騎兵砲を叩き込む――二機のブリキ人形がまとめて、四肢を痙攣(けいれん)させながら崩れ落ちる。

 残る〈パンツァーゾルダート〉は六機。数的不利がなくなったことを見て取って、警備部隊のバレットナイトが突撃を開始――一気呵成(いっきかせい)に押し込んでいく。

 

 リザは背後の敵を左手のバックラー・シールドでぶん殴った。

 振り返りもしなかった。

 彼女が殴り飛ばした敵機は、警備部隊のバレットナイトから集中砲火を受けて砕け散った。

 続けて正面方向、こちらの銃口を向けていた〈パンツァーゾルダート〉に三〇ミリ騎兵砲を接射する。

 

『――ギャッ!?』

 

 くぐもった悲鳴を上げて敵機が撃ち抜かれる。

 リザの介入によって変わった流れを、テロリストの〈パンツァーゾルダート〉部隊は覆すことができなかった。

 また一機、討ち取られていく機体群。

 追い詰められた〈パンツァーゾルダート〉が、リザの群青の機体を睨み付けた。

 

 

『――ベガニシュの犬どもが』

 

 

 その怨念じみた声を浴びて、リザ・バシュレーはやれやれと肩をすくめた。個人的経験に基づき、昔から思想が強い手合いは苦手なのだ。

 フィルニカ王国のロガキス王といい、ロックウェルのクソ野郎といい、思想が強いやつは自分の人生に害ばかりもたらす。

 褐色の少女は苛立ちを押し殺し、軽口混じりにこう告げた。

 

 

すいません(ソーリー)、私ってバナヴィア人でもベガニシュ人でもないので――虚しいですね」

 

 

 そして無慈悲に引き金が引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


















・〈アイゼンリッター〉リザカスタム
クロガネが独自のルートで入手した軍の現行主力機〈アイゼンリッター〉D型をベースに、リザ・バシュレー専用機としてカスタマイズされた機体。
ダークブルーの塗装が特徴である。
ミトラス・グループによって開発された第3世代機〈アシュラベール〉の技術が一部で使用されており、肩部ハードポイントや新型人工筋肉などにより、2.5世代機相当の機能を獲得している。
リザの習得している特殊な操縦技術を最大限に生かすため、テロス合金を加工して作られる超硬度バックラーシールドなど、独自の装備が用意された。
機体各所にミトラス・グループの独自技術が用いられ性能向上を果たしているものの、正規品とのパーツ互換性は高く保たれており、ユニット化された部品の交換で修理が簡易に済むのが利点。

武装
・胴体固定武装:6.8ミリ機銃
・左肩部ハードポイント:光波シールドジェネレータ
・右腕部:30ミリ騎兵砲…大型電磁機関砲をベースに全長を短縮したモデル。威力や射程は低下した。
・左腕部:超硬度バックラー・シールド
・腰部ハードポイント右:60ミリ対戦車拳銃…大口径リボルバー・グレネードピストル。





※基本的テストのための装備だったので、本来はハードポイントでさらに重装備がくっつきます。




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