機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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剣鬼強襲

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミトラス・グループの研究施設――その地下では今、銃撃戦が起きていた。

 すでに職員たちは避難を完了しており、あちこちの隔壁が降りて外界と隔絶し、無人となった地下実験場――バレットナイトが訓練を行えるほどの広々としたドーム状の空間――は、今や部外者によって戦場と化している。

 軽く高さ七〇メートル、半径一五〇メートル以上はある施設は広大だった。地下施設でありながら野球の試合だってできるような広さがある。

 そういう空間のあちこちに、防弾鎧を身につけ自動小銃を手にした兵士たちが陣取り、寡兵の側を追い詰めようと銃撃を加えていた。

 間一髪だった。

 

 エルフリーデとミリアムが武器を片手に乗り込み、半ば強引に職員をエレベーターで退避させるのと入れ替わりに、武装したテロリストの一群が乗り込んできたのだ。

 ミトラス・グループの研究施設内であれば、テストパイロットとして大概の区画に出入りできるエルフリーデ――彼女が先行して地下施設へ移動するまではよかった。

 しかし襲撃者たちの側も施設の構造を把握していたのか、少女二人が考えるよりも早く、歩兵部隊が地下に雪崩れ込んできたのである。

 結果、エルフリーデとミリアムは〈アシュラベール〉まであと一五メートルほどの距離が詰められず、遮蔽物(しゃへいぶつ)にしている土砂入りコンテナに釘付けにされていた。

 

 

――あまり状況はよくないですね。

 

 

 ミリアムが冷静に現状を分析している間にも、戦闘は続いている。

 手榴弾を投げ込もうとしていた敵兵が、エルフリーデの早撃ちでその腕を撃ち抜かれる――敵の真っ只中で手榴弾が爆ぜる。

 爆発音。

 悲鳴がドーム内に轟いた。

 破片はコンテナのおかげでこちらに届かない。

 

「ミリアム、そっちに二人!」

 

「了解、処理します」

 

 二人が隠れているコンテナの影に回り込もうと、敵兵のペアが移動を開始していた。それは前傾姿勢での素早い移動であり、少女二人の頭を押さえようと援護射撃まである理想的な動きだった。

 だが、ミリアムにとっては一瞬あれば十分だった。

 ミリアム・フィル・ゲドウィンは、手にしたピストル・カービン〈G9大型自動拳銃〉の引き金を冷静に引いた。

 小型のレールガンである電磁加速式銃器から、自動小銃と違わぬ威力の銃弾が投射される――超硬化結晶弾頭の徹甲弾が、容赦なく敵兵の頭部を撃ち抜いた。

 それを二連続。

 ヘッドショットを二連続で行い、一瞬で二人の敵兵を射殺する。

 そういう神業だった。

 

 血を噴いて倒れ込む敵兵――ちらりと目を向けると、彼らの手に握られていたのは、特徴的な形状の自動小銃〈LA63小銃〉だった。

 グリップより後方に弾倉と機関部が位置しているブルパップ方式、バナヴィア王国陸軍で採用されていたモデルである。

 ベガニシュ帝国で使用されている銃身短縮モデル〈K54騎兵銃〉よりも銃の全長が短く、威力・射程共に優れた小銃だという。

 ミリアムは淡々とエルフリーデに報告した。

 

「彼らの武器はバナヴィア王国のものです。であればその正体に疑問の余地はありません」

 

「ああ、道理で見慣れない小銃(ゲベーア)のはずだ……」

 

 敵の数は精々一個分隊――およそ十数人であり、武装も軽歩兵のそれである。先ほどの手榴弾の誤爆で何人か倒れたし、残りの戦闘員は五人か六人といったところだろうか。

 元々、〈アシュラベール〉の試運転をする予定だったせいだろう、地下ドーム空間には様々な障害物――家屋に見立ててコンテナを積み上げたもの――があちこちに並んでいる。

 エルフリーデとミリアムは背中合わせの状態で、拳銃を手に会話した。

 

「狙いは〈アシュラベール〉かな」

 

「おそらくは。如何なさいますか?」

 

 二人が現在隠れているコンテナから見て、一五メートル先に〈アシュラベール〉は鎮座している。

 深紅のバレットナイトは現在、無人の状態で試験場の中央に放置されている。機体は負荷軽減のため専用の台座で支えられており、騎士の礼よろしく片膝立ちの姿勢で動じていない。

 〈アシュラベール〉はバレットナイトとしては標準サイズより大きいが、直立状態で頭頂高は四・五メートルだ。

 膝立ちの姿勢ではもっと背は低くなる。あちこちにコンテナを積み上げた模擬建築物があるせいで、敵歩兵からも射線が上手く通らない位置にある。

 

 とはいえ状況はよくない。

 まず敵が一個分隊だけというのは、あくまで現時点での話である。物資搬入用通路の存在も、おそらく敵にバレている。

 外では警備部隊と空挺降下してきたバレットナイトが交戦状態に陥っているらしく、断続的に銃声が聞こえてくる。

 増援が来る前に、こちらもバレットナイトを入手しなければいけない。

 ミリアムと同じ結論に達しているエルフリーデが、こくりと頷いた。

 

「……次の銃撃が止んだら、わたしが〈アシュラベール〉まで突っ切る。きみは援護射撃よろしく」

 

「ご武運を」

 

 敵は先ほど、手榴弾の投擲(とうてき)が阻止されたことを警戒して、散発的に銃撃をするだけになっている。

 今が絶好の機会だった。

 エルフリーデが猫科の肉食獣のような軽やかさで、音もなく駆け出した。走り撃ちで銃撃が叩き込まれ、敵兵の〈LA63小銃〉に銃弾を当てた。

 颯爽(さっそう)とした跳躍。

 それは誰もが目を奪われる存在であり、自然と射手の銃口も集中する。

 

 

――()()()()()()()()()

 

 

 敵兵の位置は見えている。銀髪の少女はすみれ色の瞳で戦場を見渡していた。

 ミリアムはコンテナの影から身を乗り出して、ピストル・カービン――ストックの付いた自動拳銃を撃ち放った。

 甲高い銃声が二連続。

 首の隙間に銃弾が入り込み、敵兵が血の泡を吹きながら倒れ込む。ゴーグル越しに額を撃ち抜かれ、絶命した兵士が試験場に崩れ落ちた。

 

 エルフリーデは素早く一五メートルの距離を詰めた。身軽な少女が深紅のバレットナイトに駆け寄って、その手足を使って背中に這い上がる。

 ミリアムはエルフリーデを狙う銃口を見つけ出し、牽制射撃(けんせいしゃげき)でそれを追い払った。

 敵は執念深い。

 

 狙いはおそらく〈アシュラベール〉の奪取だろう、とミリアムは推測する。深紅のバレットナイトの背中で、装甲ハッチが開いた。

 そして露出した電脳棺――虹色に光り輝く発光体の脊髄(せきずい)――へとエルフリーデの身体が飲み込まれたのを見届けて、ミリアムはコンテナの影に身を引っ込めた。

 次の瞬間、それまで少女がいた場所に、猛烈な銃撃が撃ち込まれる。

 地面の土砂が銃弾で巻き上げられる。

 

『ミリアム、きみも退避して!』

 

 真っ赤な装甲を身にまとった鬼神が、ゆらりと立ち上がった。ミリアムに浴びせられていた銃撃を防ぐように、四・五メートルの悪鬼が、両肩の盾――光波シールドジェネレータを展開する。

 そうして発生したのは、物質と相互作用する状態に励起されたエーテル粒子の粒子防御帯だ。

 対人用の六・八ミリ小銃弾では突破不可能な障壁(バリア)――巨大な光の盾が発生していることを確認する。

 その絶対的な守りに背に受けて、ミリアムは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 〈アシュラベール〉と融合したエルフリーデは、即座に周囲の状況を把握した。人間の視覚・聴覚・嗅覚とは比べものにならない、強力な複合センサー群による動態探知(モーショントラッカー)の恩恵である。

 大地を蹴る。そして体当たりでコンテナにぶつかり、その位置を数メートル横にずらした。

 いきなり高速で衝突してきたコンテナに吹き飛ばされ、敵兵が悲鳴をあげる。自重だけで二トンを超える重量物との接触事故は、バレットナイトならちょっと痛いぐらいで済むが、人間にとっては大惨事だ。

 残りの敵兵も戦意をなくしたのか、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。

 

 

――ずいぶんとお行儀がいいテロリストだ。

 

 

 エルフリーデが意外に思ったのは、彼らが無差別な発砲を行わなかったことだ。自動小銃を手にした戦闘員が十数名いれば、非武装の研究者など簡単に虐殺できたはずである。

 彼らがそれを行っていない――地下試験場にやってきた人数的に、おそらくこれが敵部隊の歩兵の大半だ――のは、マンパワー的な問題というよりも、統制された目的意識を感じさせるものだった。

 その目的が第三世代試作バレットナイトの実物――〈アシュラベール〉の奪取だったなら納得はできるけれど。

 エルフリーデ・イルーシャにとってどうにも噛み合わなかったのは、バナヴィア独立派への悪印象が強いせいだった。

 少女の父母は、独立派が仕掛けた爆弾に巻き込まれて亡くなっている。

 バナヴィア独立派というのは、そういう無辜(むこ)の民の犠牲も辞さない過激派だと思っていたのに、これではまるで――紳士の集まりだ。

 

 

――なんだろう、この違和感は?

 

 

 〈アシュラベール〉のカメラアイが、ミリアムの避難を確認した。銀髪の少女は、地下試験場の外へと無事に撤退できたようである。

 地下試験場の傍の通路は、実弾を使った訓練でも大丈夫なように厚さ数メートルの強化コンクリートと合金の防弾プレートで覆われている。

 機体のコンディションを確認する。

 幸か不幸か、火器は装備していない。武器はデモンストレーション用の近接装備だけ――背部ハードポイントのサブアームに二振りの超硬度重斬刀、胸部ハードポイントに対装甲ナイフが二本、そして両腕の内蔵武器〈パイチェ・シュヴェールト〉だ。

 必要十分と言えるだろう。

 〈アシュラベール〉の機動力であれば、流れ弾を気にせず振るえる武器の方がありがたいとすら言える。

 そのときだった。

 

 

――地上へのゲート?

 

 

 巨大な地下ドームに通じる、物資搬入用通路で異変が起きていた。大型トレーラーすら余裕を持って侵入できる巨大な門が、ひとりでに開き始めていたのである。

 ゴゴゴ、と静かな振動音。

 固く閉じていた門が開かれていく――おそらく敵兵が門の開閉操作をしたのだろう。

 コントロールルームはミリアムが退避した方角とは逆方向だから、敵兵と鉢合わせなんてことは起きていないはずだが。

 

 エルフリーデ――否、少女と一体化した深紅の悪鬼は、地面を蹴って跳躍。

 着地と同時に背中のサブアームが起き上がり、保持された二振りの太刀が鞘から引き抜かれた。

 抜刀。

 左右二本の腕に太刀を握りしめた二刀流。

 着地した位置は、物資搬入用通路からざっと二五メートルほど離れたコンテナのすぐ横だ。門の向こうから咄嗟に銃口を向けづらく、こちら側はセンサーが使える位置。

 開いていく門の向こうに感覚器を向けて、動態探知(モーショントラッカー)機能を動作させる。

 

 

――()()()()()

 

 

 危険な敵意の兆候を感じ取った。半開きの門を隙間から、深緑色の巨影が飛び込んでくる。

 爆発的瞬発力の発露――おそらくは〈アシュラベール〉と同等サイズ、四メートル半はあろうかという背丈の騎士が、前傾姿勢で突撃してきた。

 瞬時に一五メートルもの距離が詰められる。

 まるで鴉のくちばしのように口吻(こうふん)が突き出た異様な頭部形状――呪術的な意味合いすら感じる何か。

 そいつは左腕に大きな盾を保持しており、その陰に右半身を隠していた。

 

 

――得物がわからない!

 

 

 如何なる形状、如何なる大きさか測りようもない。電光石火で間合いを詰められたエルフリーデは、それでも直感的にそれが()()()()であると察していた。

 敵機の上半身がひねられる。これまで左半身に隠していた右半身が露わになる。

 刹那、銀光が閃いた。

 

 

――刺突が来る。

 

 

 エルフリーデは左腕の超硬度重斬刀を横薙ぎに払った。敵機と自機の相対距離、速度から導き出される未来位置の予測――そこから求められる敵の刺突の到達タイミングに合わせて斬撃を繰り出す。

 神速の判断であった。

 戦闘の天才である少女は、瞬時に深緑色のバレットナイトの機体サイズ、スピード、予想される攻撃方法を識別していた。

 であれば刺突のタイミングと自機への着弾位置を求めることなど造作もない。

 

 ()()()()()()()

 左の太刀筋が狂う。大きな衝撃を受けて超硬度重斬刀が跳ね上げられる。巨大な運動エネルギーの衝突で〈アシュラベール〉の姿勢が崩れる。

 その瞬間、何が起きたのか――エルフリーデの目はしっかりと捉えていた。

 敵の刺突を切り払うはずだった太刀の刀身に、()()()()()()()()()()

 

 その理由――敵機の刺突の速度と間合いが、こちらの予想を超えて伸びた――エルフリーデは信じがたいものを見た。

 ()()()()

 刀身だけで四メートルはあろうかという長大な刺突剣(エストック)――さらにそれを握る右腕もまた異形。

 バッタの後ろ脚を思わせる折り畳まれた隠し関節――それがバネのように伸縮して、瞬時に刺突を延長させた。

 

 

――とんでもないゲテモノだ!

 

 

 深紅の悪鬼が崩れた体幹を立て直す。一方、長大な重量物を運動エネルギー弾として放った敵機もまた、刹那の攻防で第二撃を浴びせるには至らない。

 鴉頭の剣士は()()()()()を引き込み、盾を構えて体当たりを仕掛けてくる。

 右手の太刀でそれを切り払う――斬撃は鋭く、太刀筋は真っ直ぐだ。たとえ重装甲の実体シールドが相手であろうと関係ない、それを斬り砕くための剛剣。

 

 エーテルパルスを刀身表面にまとった超硬度重斬刀は、接触した物質を容赦なく破砕する。

 如何に物質的強度が高い素材で盾を作っていようと、高エネルギー粒子の(あぎと)と高密度金属の刃、二種類の破壊が乗せられた斬撃の前では無意味だ。

 斬撃の軌道に敵機が入った。

 その瞬間、エルフリーデはかつてない悪寒(おかん)に襲われた。

 

 

――ヤバい。

 

 

 理由もなくそう思った。右腰の電気熱ジェット推進機構を最大出力で噴射する。人体にはあり得ざる動き――ジェット噴流の反動推進で、ぐるん、と身を半回転させる。

 それは斬撃の速度をさらに上昇させ、真っ二つに切り裂くための加速だった。

 〈アシュラベール〉の眼前に迫った鴉頭――病人を看取る迷信深い医者みたいな風貌――その左腕の盾が掲げられる。

 刹那、盾の縁から、銀色の光が飛び出す。

 

 

――盾から()()()()()()が現れた。

 

 

 衝突――ジェット噴射の加速を乗せた剣閃が、超硬度重斬鋏(じゅうざんきょう)によって受け止められる。

 テロス合金製の刃がぶつかり合い、エーテルパルスの激突が狂おしいエネルギーの奔流(ほんりゅう)を生み出す。

 ()()()()()()()()()

 凄まじい衝撃であった。がっちりとハサミに掴まれた合金製ブレードを認識、右手の五指を剣の柄から離す――左腕の超硬度重斬刀を振り下ろしながら、その勢いを利用して地面を跳びはねる。

 斬撃を敵の刺突が撃ち落とした。

 狂気じみた迎撃だ――点に過ぎない刺撃で、高速の剣閃に刃を当てるなど。

 

 

――こっちの思考が読まれてる。

 

 

 仕切り直すべきだな、と判断して、電気熱ジェット推進機構を噴射して空中へ逃れる。

 銀光。

 足下を敵の刺突が(かす)めた。

 そのまま敵機の頭上を飛び越えた〈アシュラベール〉は、電気熱ジェット・スラスターバインダーをぐりぐりと動かし、殺人的加速Gと共に敵の背後を取って――

 

 

――撃ち落とされた。

 

 

 それは迎撃であり、刺撃だった。

 敵機の背中から高速射出された刺突――まるでシャコの前腕のごとき形状・機構の副腕(サブアーム)が、瞬時に左腰の電気熱ジェット・スラスターバインダーを刺し貫く。

 大気を吸入して膨大なエネルギーによって加熱、ジェット噴流として放出するジェットエンジンが爆ぜる。

 自分自身の生み出すエネルギーの暴発が、腰の位置で起きた。

 このとき機体が砕け散らなかったのは、機体強度を常識外に高く見積もって設計したクロガネの意地だった。

 

「うぁあ!?」

 

 〈アシュラベール〉が床に激突しそうになる。エルフリーデは咄嗟(とっさ)に受け身を取った。自由な右腕で床と接触、関節の柔軟性と人工筋肉のしなやかな馬力で、衝突の運動エネルギーを回転運動へと変換する。

 右腕を支点として身を(ひるがえ)し、〈アシュラベール〉が敵から距離を取った。

 直線距離にして三〇メートルの位置にまで後退する。

 たった一瞬の攻防で、第三世代バレットナイトの強みである電気熱ジェット推進機構を潰された。

 残っているのは右のエンジンだけ、片翼の状態では羽ばたくことはできない。

 

 

――なんてやつだ。

 

 

 異形である。

 鴉じみた特異な頭部形状、全身を覆う深緑色の装甲、刺突剣を持った右腕はバカみたいに伸びるし、左腕の盾は巨大なハサミが仕込んである。

 背中には昆虫じみた節足がサブアームとして存在しており、折り畳まれた状態から瞬時に六メートルほどの射程を持った槍に変じる。

 印象に反して、敵は完璧なまでに初見殺しに特化した機体構成だった。

 身長はおおよそ四・五メートルから五メートルの間、〈アシュラベール〉と同等の大きさ――独自設計の駆動フレームであり、既存の機種のデッドコピーとは考えづらい。

 特筆すべきはその運動性能だろう。

 

 ジェットエンジンやロケットエンジンを搭載している様子がないにもかかわらず、その瞬発力は極めて高い。ならばおそらく装甲はギリギリまで削ってあるはずだ。

 問題となるのは近接戦におけるその戦闘センスだ。

 こちらの一手先を行く動きは、寒気がするほどに冷たい殺意に満ちている。

 鴉頭の剣士が、泰然(たいぜん)とした様子で振り返る。

 ハサミで掴んだ超硬度重斬刀を地面に投げ捨てながら、そいつは妙に見覚えのある仕草で話しかけてきた。

 

 

 

『――よぉ、エルフリーデ

 

 

 

 セヴラン・ヴァロールの声だった。次の瞬間、エルフリーデは迷うことなく剣を構えて敵目がけて踏み込んだ。

 虚を突かれれば殺される。

 そういう判断が、自分自身の感情すら超越して働いた。

 刹那、やはり同様に地面を蹴っていた鴉頭の剣士――多腕の死神が、その右手を一閃した。

 超硬度重斬刀(ブレード)超硬度重突剣(エストック)が激突する。全長三メートル半の長大な刃をぶつけて、バナヴィア人の少女は哀切を叫んだ。

 

 

 

「――なんで、おじさんがっ!」

 

 

 

 それは、慟哭に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





















・〈ミステール〉
鴉頭の剣鬼/多腕の死神。
4.6メートル。機体名は「神秘」の意。
バナヴィア独立派の幹部、ゲリラ戦指揮官セヴラン・ヴァロール専用機。
独立派が独自開発した機体で、ベガニシュ製BKのデッドコピー〈クラージュ〉を基礎にして発展させたもの。
ペストマスクを思わせる、くちばし型の口吻が突き出た鴉のような頭部形状が特徴。
通常のバレットナイトよりも大柄な駆動フレーム、次世代人工筋肉によるなめらかな動きなど、多くの特徴が〈アシュラベール〉に追従するコンセプトを持つ。
人工筋肉の出力や駆動フレームの強度から第3世代バレットナイトに相当する本体性能を持つ。
一見すると外貌は正統派の剣士らしいが、その実態は全身に仕込み武器が隠され、白兵戦を挑むものすべてを葬り去る悪意の結晶。

巨大な刺突剣を保持する右腕は肘関節が折り畳まれており、この関節を伸縮させることで伸びる刺突を放つことが可能。
完全に超硬度重突剣(エストック)の運用に特化した構造であり、人型とは言いがたい異形の関節構造を備えている。
また左腕に装備された大型盾・近距離破砕防盾〈ブクリエ・デュ・ブゥロ〉は、仕込み武器の一種である。
積層装甲の下に超硬度重斬鋏(じゅうざんきょう)――巨大シザークローと電磁パイル発射機を備えた盾は、〈処刑人の盾〉の名前通り、捕らえた対象を確実に抹殺する。

本機最大の特徴は、背部ハードポイントを占有する格闘戦専用のサブアーム〈ブラ・ドゥ・ラ・モール〉である。
携行武器の保持を目的とした通常のサブアームと異なり、この1対2本の武装肢は本体の四肢と同様の出力・強度があり、小型の超硬度重斬刀と一体化した武装肢である。
6メートルもある長く強靱なサブアームはシャコのそれを参考にデザインされており、折り畳まれた静止状態から高速展開され斬撃・刺突を行う。
サブアームの付け根には衝撃を吸収する層があり、自らの攻撃の反動で傷ついてしまう危険はない。

この武装肢の制御に関しては、人体にない器官を操る関係上、特殊な才能が必要されるためワンオフ機に留まっている。
末端の重量が大きい武装肢を振るう際の重心制御は難しく、サブアーム展開時はその動きに振り回されることになりかねない。
これを実戦運用するには相当な技量が必要とされる。


武装
・両肩:光波シールドジェネレータ×2…ベガニシュ製BKから奪ったものを流用している。
・背部重突肢〈ブラ・ドゥ・ラ・モール〉×2…シャコの前脚。刺撃型の重斬刀でブレード部分は短剣ほどだがアームが長い。「死神の腕」の意。
・右腕部内蔵武器:多目的手裏剣
・右腕部::超硬度重突剣(エストック)…全長4メートルにも及ぶ刺突用長剣。
・左腕部:近距離破砕防盾〈ブクリエ・デュ・ブゥロ〉…電磁パイルと超硬度重斬鋏(じゅうざんきょう)シザークローが内蔵された大型盾。「処刑人の盾」の意。
・腰部ハードポイント:発煙弾発射機





・〈LA63小銃〉
ランドアームズ63型自動小銃。バナヴィア王国軍で採用されていた電磁式自動小銃(ガウスガン)
グリップと引き金より後部に弾倉を配置した、いわゆるブルパップ方式が採用されている。
これは銃の全長を抑えつつ、電磁投射に必要な電磁バレルの長さを確保するための設計。

こうした設計が功を奏し、〈LA63小銃〉の基本モデルは、カービンモデルである〈K54騎兵銃〉よりも全長が短い。
重心バランスはグリップを中心に均等になるよう調整されており、使用時の疲労が少ない。
マガジンがグリップより後方に配置されているため、〈BG45小銃〉で可能なクイックリロードに比べると弾倉交換速度は遅いのが難点。
銃の部品がほとんどモジュール化されており、交換が容易なのが利点である。

銃口に差し込んで使用する小銃用グレネード(銃口に差し込む部分が磁性体金属で、電磁バレルで投射される)が使用可能。
口径6.8ミリ、装弾数50発。
バナヴィア独立派では継続的な改良が続けられている。

モデルはステアーAUG。









ゲテモノロボのボスキャラです。





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