機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情~最強ロボパイロットの英雄譚~   作:灰鉄蝸

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マリヴォーネ地下迷宮

 

 

 

 

 

 

 

 

――絶大なる衝撃。

 

 

 強固な岩盤を破砕するための炸裂杭が、人工筋肉が束になっている関節の隙間で爆ぜる。成形炸薬弾ほど効率的とは言いがたいが、それでも高性能炸薬の爆発は致命傷になった。

 馬鹿でかい杭を打ち込まれて獣の頭部が消し飛ぶ。さらにエルフリーデは自動銃塔のセンサーをぶん殴った。

 

 砕け散る光学センサー類――外界を認識できなくなった〈ルーポ・フィアンマ〉がじたばたと四肢を動かす。その身体を蹴り飛ばして、自動ターレットの射線がこちらを向かないように壁際へ押しつける。

 エルフリーデの〈アイゼンリッター〉は背部ハードポイントにスコップをしまって、腰部ハードポイントに手を伸ばした。予備としてくくりつけられていた炸裂杭を、左腕のパイル発射機に手動装填する。

 

 手際よく動物型バレットナイトを無力化したエルフリーデ・イルーシャは、コンテナの影で身を縮こまらせていたヤレアに声をかける。

 

「ヤレア、行こう」

 

「…………おまえ、本当に何者なんだ?」

 

 いきなり現れて生身でバレットナイトを撃退し、バレットナイトに乗り込んでも鬼のように強い年上の少女――なるほど、ヤレアから見れば自分は不自然すぎる存在だろうと思う。

 エルフリーデは肩をすくめると、〈アイゼンリッター〉でくすんだ金髪/薄い茶色の頭髪をした少女を抱きかかえた。

 

 まるでお姫様抱っこみたいな姿勢でヤレアを抱き上げる。人工筋肉駆動のマニピュレータで卵を掴むように繊細な力加減を発揮、やわらかな女の子の身体を保持する。

 それがあまりに優しく自然な動作だったので、ヤレアからの抵抗はほとんどなかった。

 

 ドーム状の空間の隅でじたばたともがく〈ルーポ・フィアンマ〉を尻目に、エルフリーデは決然と坑道の一つに飛び込んだ。突っ込んできたバレットナイトを目にして、警備兵たちが悲鳴を上げていく。

 すべてを置き去りにして全力疾走した。

 

「うわぁあぁああ!?」

 

「舌噛むよ」

 

 悲鳴を上げるヤレアを腕の中に抱いて、エルフリーデは坑道を駆け抜けた。ここをねぐらにしていた連中が、あちこちに照明を設けてくれているので暗視カメラを使う必要すらなかった。

 そうしてしばらく――たぶん一〇分以上は走り続けたと思う――逃亡したあと、ようやく振り切ったと判断してエルフリーデは歩幅をゆるくした。

 ぐったりとして消耗しきっているヤレアは、青い顔でうめいた。

 

「……しぬかと思った」

 

「銃で撃たれるよりは死なないよ、へーきへーき」

 

 ヤレアに睨まれた。青みがかった灰色の〈アイゼンリッター〉は心外そうに首を傾げた。そしてつい先ほど、ヤレアに問いかけられた言葉への返答として、正直な疑問を突きつける。

 

「わたしはきみの正体が知りたいよ。〈ルーポ・フィアンマ〉ってあいつらの名前でしょ? どうしてきみは、それを知ってたのかな。それにあの……四つん這いの人たちは……」

 

 エルフリーデの問いかけに対して、ヤレアは幼い顔立ちに苦悩の色を浮かべて――しばらく表情を歪めた末、葛藤の果てに諦めたようにため息一つ。

 枯れ草色の頭髪を揺らして、まだ十代前半であろう少女は疑問の一つに答えた。

 

「融合操縦システムの副作用、負のフィードバックだ……〈ルーポ・フィアンマ〉の動物に近い形が、操縦していた人間に二足歩行を忘れさせてしまう……あの四つん這いのやつらは、そうやって人間としての歩き方を忘れて……二足歩行を思い出そうとしていたんだ」

 

「……どうかしてる設計思想だよ。再訓練で歩き方を思い出せるとしても、そんな副作用、許容されるべきじゃない」

 

 ヤレアは小さな肩を震わせて、うつむいた。

 

「ああ、その通りだ……そのとおり、なんだ」

 

 意味深な呟きである。エルフリーデはそれ以上、言及してもヤレアが元気をなくすだけだと悟って口をつぐんだ。

 おそらく彼女は、あの動物型バレットナイト〈ルーポ・フィアンマ〉の出自に深く関わっている――だが、それに関して厳しく追及しようと思えるほど、エルフリーデは非情になれなかった。

 ここにクロガネやリザがいれば、また違ったのだろうけれど。

 ひとまず少女は尋ねるべきことだけを訊くことにした。

 

「一応、訊いておきたいんだけど……あいつらの弱点ってある?」

 

「……〈ルーポ・フィアンマ〉は小型機だ。装甲を正面に限って分厚くしているが、側面や上面に関しては最低限の防護だと思っていい」

 

「わかった」

 

 今の返答で疑念は確信に変わった。ヤレアは確実にあのバレットナイトについて何かを知っている。設計上の弱点なんて知っているのは、その製造に関わった技術者か、実物から解析した技術者ぐらいのものである。

 まだ十代前半、エルフリーデ・イルーシャの妹と同じぐらいの子供が、未知の新型機について知識を持っているのは何もかもおかしかった。

 

 弱ったな、と思う。どうしてヤレアが襲撃されているのかも含めて、疑念なんて腐るほど湧いてくるのに、問い詰めようって気にもならない。怪しすぎると逆に納得してしまうのだ。

 

「この地下空洞、換気システムが働いている……いくらマリヴォーネの地下だからって、こんなのおかしい」

 

 気分を紛らわせるように不自然な点を言葉にすると、〈アイゼンリッター〉の腕に抱かれているヤレアが怪訝そうに首を傾げた。

 

「たしかに変だな……待ってくれ、この坑道、ひょっとして……地下に向かってないか?」

 

「ゆるやかな傾斜が付いてるね……うん、どうやら地上の出口とはいかないみたいだ」

 

「さすがにおかしい……石切場がこんな地下深くに掘ってあるはずない」

 

 そもそも石材を地上で用いるなら、空間的な距離は縦方向にない方がいいに決まっているのだ。一〇メートル水平に移動する手間と、垂直に移動する手間を比べれば、どちらがより合理的かは言うまでもあるまい。

 水平方向に動くだけなら人間は簡単に歩いて行けるが、垂直方向となると階段やハシゴ、あるいはエレベーターのような機械的な補助が必要になる。

 ましてや大質量の石材を移動させるなら、地下深くに潜る手間はない方がいい。

 

「なんだろう、実はもっと価値がある鉱物資源の鉱山だったとか?」

 

「……いや、マリヴォーネにそんな地下資源があるなんて話は……」

 

 二人で会話しながら、ずしんずしんと歩いて――広い空間に出た。そこはまるで大きな広間みたいになっていて、換気システムの稼働音がかすかに響く奈落の底だった。電灯用の電源ケーブルが張り巡らされた細い通路には、キャットウォークのような金属製の橋がかけられている。

 

 崖のように切り立った地形である。足場と足場を繋ぐ橋の間には、恐ろしく深い谷底があった。ぱっと見では何百メートルの深さがあるのかもわからない。

 歩いた距離から考えて、すでにここはマリヴォーネの市街地から離れた座標ではあったが――それにしたって、とても地下深くにあるとは思えない、異様な空間である。

 

 エルフリーデたちから見て向こう岸にある壁までの距離は、レーザー計測でざっと五〇〇メートルはあった。広大すぎる。

 そして周囲の壁や天井は、明らかに資源採掘のあとではなかった。岩石を削り取った痕跡どころか、ほとんど継ぎ目一つ見当たらないような質感――まるで黒曜石を加工して作ったような、半透明の鉱物で作られたひどく人工的な空間。

 エルフリーデ・イルーシャは一度、似たような形状の施設を知っていた。

 

 

――〈ケラウノス〉を封印してた遺跡と同じだ。

 

 

 不味い。これはどう考えてもよくない。あの超古代兵器〈ケラウノス〉絡みと同じテクノロジーの産物だとすれば、おそらくそれは、エルフリーデたちの生きる世界にとってよくないものが眠っているはずだ。

 そういう施設に現代文明の産物らしい電源ケーブルが張り巡らされているのも、とびきり悪い兆候だった。

 

 先ほどまでエルフリーデとヤレアが交わしていた会話、その疑問の答え合わせがするりとできてしまう。

 どうしてこんな地下深くにまで坑道が伸びているのか――もしかしたら穴を掘ったわけですらないのかも。元々、存在していた遺跡への通路が発見されただけなのかもしれない。

 ヤレアはしばらくの間、無言で周囲を見渡して。その距離感が狂うスケールに困惑しきって、ため息をついた。

 

「なんだ、これ」

 

「……待って、振動センサーに反応が……」

 

 この広大な空間――垂直方向にも水平方向にも馬鹿みたいに広い――は、あちこちの坑道に通じているようだった。エルフリーデたちが来たのとは別の方角から、どしん、どしんと足音が聞こえてくる。

 おそらく、すでにこちらの位置は補足されている。エルフリーデは撤退と進撃のどちらを選ぶべきか、一瞬、悩んだ。

 生身の人間であるヤレアを連れた状態では、逃げるのも戦うのも上手くなかった。背後から足音が聞こえてきた時点で、後退する選択肢が失われる。

 

「ヤレア、口閉じてて」

 

「んっ」

 

 疾走した。二本の足で大地を蹴り、奈落の穴が真っ黒な口を開けている崖っぷちを走った。

 同時に――無数の坑道から、獣の群れが押し寄せてくる。

 三六〇センチメートルの巨体に四本の足、ガスマスクを被ったような尖った鼻面、背中に背負った自動銃塔(ガンターレット)――狼に似た機甲駆体が、細い通路を渡ってくる。

 

 その数は多すぎた。せめて一個分隊であればエルフリーデにも始末する自信があったが、四方向から八機も湧き出してくるとなると話は別だ。

 完全に逃げ道を塞がれた格好である。

 

 広大な空間の中央部、まるでコロシアムのようなすり鉢状の台座に滑り込む。一〇〇メートル四方はある台座の上には、先史文明種の遺産である未知の素材で構築された構造物がそそり立っている。

 それを遮蔽物として物陰に飛び込んだ。

 直後、電磁重機関銃が一斉射された。古代の神殿めいた巨大な柱に、小口径レールガンが嵐のように浴びせかけられた。

 

 ありがたいことに柱の強度は完璧だった。重機関銃の弾丸がいくら飛んでこようと貫通せず、削れることもない素敵な遮蔽物だった。

 銃火と銃声が断続的に響き渡る。

 しばらく続いた一斉攻撃が止んだ――かと思えば、拡声器で呼び掛けられた。

 

『出てこい、ヤレア。裏切り者には相応しい裁きがある、せめて最後はズァレン人らしく散れ』

 

「ラハイド……ズァレン人を裏切ったのは、おまえのほうだ! 団長がこんな横暴を許すと思うのか!? おまえが副団長だとしても、これは組織と同胞への背信行為だ!」

 

 エルフリーデは驚いた。これまで未熟なところはあれど、基本的に自制心がある感じだったヤレアが、顔を真っ赤にして怒っていたからだ。

 〈アイゼンリッター〉の腕に抱かれながら、少女は心の底からの憤怒を噴き出していた。

 それが自分の敵からの挑発だとわかっていても、口答えせずにはいられないほど――枯れ草色の髪をした少女は、猛り狂っていた。

 

『〈ルーポ・フィアンマ〉の開発に携わっていたのは貴様の両親だ。その思いを裏切り、同胞を告発せんとした罪は重いぞ』

 

 嘲るような言葉だった。ラハイドと呼ばれた男は、明らかにヤレアのことを見下していた。あるいは父母のことを持ち出されたのが効いたのか、ヤレアは叫んだ。

 

「こんな副作用がある機体、父も母も望んではいなかった! カバニス・メッカニケ社と共和国の人体実験に、私たちの思いが利用されている! どうしてわからない!?」

 

『だが、〈ルーポ・フィアンマ〉は我らの力になった。歩行機能への悪影響など、いずれ克服される程度の不備だ』

 

 ラハイドは自信たっぷりにそう告げた。ヤレアは言葉を失っているようだった。まともに歩けなくなるような悪影響がある兵器なんて、どうかしている。エルフリーデが乗りこなしている〈アシュラベール〉とて機体制御に難がある試作機だが、少なくとも運動機能に障害を来すような設計はしていない。

 根本的に何かがおかしいマシンと、それを疑問に思わない人々――寒気がするようなやりとりだった。

 

『カガン団長は所詮、過去の英雄なのだよ。我らの安住の地を得るためだ、多少の犠牲はやむを得ない』

 

「ラハイド、おまえがベガニシュ人と手を結んだのはわかっているんだ! 犠牲なんて言葉で、侵略者に屈することをごまかすな!」

 

 ヤレアの言葉でエルフリーデはなんとなく事情を察した。

 つまり彼らは併合されたズァレンの民であり、反帝国のレジスタンス組織――それも少なからず外国の支援を受けている――らしい。カバニス・メッカニケ社という聞いたことがないメーカーが、あの動物型バレットナイトの開発元なのだろう。

 

 ズァレン人がベガニシュ帝国の侵略を受けたのは、ほとんど歴史の教科書に載っているような昔の出来事である。現在、ズァレン人を名乗っている人々とて、ズァレン王国の在りし日など物語の中でしか知らないはずだ。

 であるからして組織の内部で分裂が起こった。ラハイド率いる派閥はベガニシュ人と何らかの取引をした。そして告発しようとしたヤレアを裏切り者と呼び、処刑しようと追いかけ回している。

 

 

――すごい、考えてるだけで嫌になってくる内ゲバだ。

 

 

 拡声器で呼び掛けてくるラハイドは、わざとらしくため息をついた。おそらく会話は打ちきられる。エルフリーデはヤレアにささやいた。

 

「きみは隠れていて」

 

 そっと小さな身体の少女を地面に降ろす。エルフリーデは〈アイゼンリッター〉の背中からスコップを取り出すと、それを両手で握りしめた。左腕の炸裂杭(パイル)の予備弾薬はそう多くない。

 だが、まあやれるだけやってやろう。

 不安そうな表情でこちらを見上げるヤレアを、安心させるように頷き一つ。

 

 

『さて、自裁する勇気はないようだな――では死ね』

 

 

 どしん、どしん、どしん――足音が響き渡る。

 十分に接近するのを待って、エルフリーデは物陰から飛び出した。超硬度金属で作られたスコップを、出会い頭に〈ルーポ・フィアンマ〉の頭部に叩き込む。互いの弾丸じみた相対速度が乗っかった打撃――無事では済まなかった。

 

 首が折れそうなほどの衝撃を受け、姿勢を崩した巨獣に飛びかかり、横腹をさらしたその胴体を踏みつける。

 そのまま首と胴体の隙間に左腕をねじ込み――炸裂杭(パイル)を射出。岩盤をぶち抜く破砕工具を撃ち込まれ、〈ルーポ・フィアンマ〉の首が半ばから千切れかけた。

 

 

――これで一機。

 

 

 同時に右腕でスコップを投げつける。前脚に超振動ブレードを展開、こちらに飛びかかってきていた巨獣――その鼻っ面に重量物が激突する。

 そうして稼がれた数秒間に、右腕で炸裂杭(パイル)の予備弾頭を手動装填する。

 

 大地を蹴った。スコップを投げつけられ、ひるんだ敵機に飛びかかり、その頭部を右手で捕まえる――左腕を押し当て、炸裂杭の射出機を作動させる。

 爆裂、破壊、粉砕。

 

 

――これで二機。

 

 

 獣の首をねじ切り、背部の自動銃塔を〈アイゼンリッター〉の太い二本足で蹴り飛ばす。荷重に耐えきれずターレットから重機関銃が脱落する。

 左腕のパイル射出機に予備弾頭を再装填――これで腰部ハードポイントに装着されていた炸裂杭は、装填済みのものを含めて残り二発になった。

 

 大気を切り裂く銃声。

 電磁重機関銃の一斉射を装甲で弾きながら、エルフリーデは頭部を千切り取った〈ルーポ・フィアンマ〉を背中側から持ち上げた。

 

 二本の腕で獣を掴みあげる――そして腕力で投げつけた。細い通路を通って、今まさにエルフリーデのいる此岸へやってこようとしていた機体に、投擲された重量物が衝突した。

 悲惨な結果が起きた。二体まとめて谷底へと落下していく〈ルーポ・フィアンマ〉――長い長い自由落下のあと、何かが砕け散る音が響いた。

 

 

――これで三機。

 

 

 ヤレアを殺すために飛び込んできた敵バレットナイト部隊は、〈アイゼンリッター〉の異様な戦闘能力に目を奪われていた。細いキャットウォークじみた通路のせいで、一度に攻め寄せることもできていない。

 一〇秒もあれば合流できる距離だが、瞬く間に三機の仲間が潰された理不尽に、数の理があってなお彼らは怯えていた。

 

『な、なんだこいつは!?』

 

 喉を震わせてラハイドが吠えた。

 さて、どうすれば彼らの関心を自分に引きつけられるだろうか――考えた末、エルフリーデ・イルーシャは一番、単純明快な策を選んだ。

 スコップを拾い上げ、まるで片手剣のように構える。

 

 

 

 

「――通りすがりの機甲猟兵だ。命捨てる覚悟あらばかかってこい」

 

 

 

 

 少女騎士とその乗機〈アイゼンリッター〉は高らかに名乗りを上げ、残り五機の敵機を睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 















サプライズ英雄理論(突然、大陸間戦争の英雄が乱入してきて破綻する陰謀はダメ)




エルフリーデが使っている炸裂杭(パイルバンカー)は兵器ではありません。
というのも
・バレットナイトならレールガン撃った方が普通に強い。
・近接武器なら重斬刀や超振動ブレードなどの間合いと威力に優れた刀剣がある。
・1発打つたびにパイルの手動装填が必要ですごい不便。
・バレットナイト用のリボルバー拳銃など、接射前提でも使いやすい武器は他にもある。
などの理由があり、あくまで工具だからです。
エルフリーデは駆動部にねじ込んで無理矢理に必殺武器にしてます。


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