健全な男子には厳しい姿勢で行きたい白猫の話   作:変身スキー

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原作では季節が一周(サザエさん方式)したりしますけど、そのあたり踏まえるとめんどくさいので、短編的作りになる無印では基本夏のまま進行しております。

ということで、今回は色々と距離感が近いお話です。


第十二話:(偽)惚れる白猫

  ●

 

「なぁんだ、ボクも呼んでくれればよかったのに」

 

「急を要する要件でしたので」

 

とある日。

地球人スーツを脱いだまま商店街をブラブラと歩いている途中、偶然ヤミちゃんと出会ったボクは彼女と軽いお話をしていた。

もちろんボクの方は、いつもの耳と尻尾は隠しただけの状態である。

 

彼女の手にはボクがおごったたい焼きの袋が抱え込まれている。

なにせ、今のボクの懐は少々あたたかい。

賞金稼ぎの仕事でちょっとした遠征をしていたからなんだけど、その間に彼女やリト達は地球の外で大冒険をしていたみたい。

 

なんでも、リトの家で育てている植物の『セリーヌ』が病気にかかったのが理由で、それを治す植物を取りにとある惑星に行っていたらしい。

 

植物……といっても大きさはバカでかい。

どれくらい大きいかと言えば、リトの家と同じくらいの高さを誇る……と言えばどれくらい大きいか想像しやすいだろうか。

ボクが見たときはラーメンなんかをすすっていたけど……。

大丈夫なんだろうか、植物にラーメン。

 

うーん、彩南町にいればボクも力になれたんだけど……。

 

ええっと、原作では。

結局のところ彼女は病気ではなく自身の成長のために一時的に枯れたような形になっていたんだっけ。

 

彼女の今の姿は5歳程度の幼女になっているはずだ。

そういえば植物的には今の彼女はどういう状態なんだろう。

枯れた実の中から出てきたから種ってことになるのかなぁ?

 

ともあれ。

こうやって軽い談笑ができるようになっただけで以前とは全然違うよなあ。

それこそ少し前まで殺意で殴られる側だったわけだし……。

 

少し。

いつもより機嫌がよさそうに(たぶん)、たい焼きをパクつくヤミちゃんを見てそう思う。

彼女が話してくれた宇宙でのできごとが万事上手く解決したからだろうか?

だとしたらよかったよかった。

 

うんうん。と、心の中で一人で頷いているとボクの目の前に彼女がたい焼きを差し出してくる。

 

「そんなに欲しいならいりますか?」

 

「え?いいの?」

 

ボクがたい焼きを食べている彼女をじっと見てしまっていたから、彼女はボクがたい焼きを欲しいのではないのかと勘違いしたらしい。

 

「そもそも、あなたが買ってくれたものですから」

 

「それもそうか。うん、それじゃあありがたく」

 

かぷ、と彼女の手から直接たい焼きにかじりつく。

ボクは人の食べ物を欲しがるほどみみっちい奴じゃないけど。

それでも差し出されたものには基本的に遠慮しないタイプである。

おいしー。

 

「それでは。私はこの後、本を読みに行きますので」

 

「ばいばーい。面白い本があったら教えてねー」

 

彼女に手を振って別れる。

……ヤミちゃんは手を振り返してくれなかったけど。

 

「うーん次の目標ができた気がする。少しずつ距離は縮まってると思うんだけどなあ」

 

そう独り言ちて、木陰のベンチにもたれかかるようにして座る。

真夏とはいえ、大分過ごしやすい。

手元にあったたい焼きはみるみる小さくなってボクのおなかに収まってしまった。

 

「ふぁ~あ。難しいよにゃあ」

 

どうやって彼女と仲良くなるか考えてるとちょっと眠くなってきちゃった。

うーん、友情に近道などなしってところかなぁ。

 

「ちょっと昼寝しよっかなあ」

 

ざぁざぁ、と頭上の葉っぱと枝が擦れる音が子守歌のようにしてボクを睡魔にいざなってくる。

うん、おやすみぃ……。

 

  ●

 

「まぅー」

 

「へぁ?」

 

とん、と膝上に軽い衝撃が走って目を覚ます。

寝ぼけ眼をぐしぐしと擦ったボクの膝上にだれかが座っているのが見えた。

 

……って、誰かと思えば。

さっきまで話題に上がっていたセリーヌじゃん。

 

「君。どうしたの?リトとかララ様は?」

 

「まう~……ヒック」

 

「ヒ?うわわわ……」

 

思わず彼女を両手で抱き上げ、顔より頭上に持ち上げる。

きゃっきゃっとうれしそうだけど、それどころじゃない。

彼女はコーラを飲むと酔っぱらってしまうらしく、彼女の頭から生えている花から花粉を噴き出すようになる。

 

……これが少々、というか。少なくともボクにとってはやっかいで、男女問わずリトの事が好きになってしまうというとんでもない効果を持っている。

 

うぅ、少なくともこの体制を保っておかないと……。

多分近くにセリーヌちゃんを探しているリト達がいると思うし、それまではこのまま我慢しなきゃ。

 

「おーい!セリーヌ!」

 

「セリーヌ!」

 

お。ほらほらやっぱり。近くからリトと美柑さんの声が聞こえてくる。

 

「おーい、二人とも。セリーヌちゃんならここだよー」

 

ベンチから立ち上がって彼ら兄妹のところに向かう。

どうやら、随分探し回っていたらしい。

彼らは少々汗の浮かんだ顔でボクの声にこちらを振り向いた。

 

 

「おぉ、セリーヌよかっ……」

 

リトが安心したようにそうつぶやくと、言葉の途中でピタリと固まった。

いったいどうしたんだろう。

 

「はい、美柑ちゃん。気を付けて連れて帰ってね」

 

「は、はい」

 

隣にいた美柑ちゃんにセリーヌちゃんを預ける。

気を付けてね、とは言ったものの彼女はすでにうつらうつらと舟をこいでいる。

多分彼女が花粉にやられるなんてことはないと思うけど、一応警告をしておく。

 

「えっと……音子さん。大丈夫ですか?」

 

「……?何が?」

 

「い、いや。何もないなら大丈夫!さ、美柑帰ろう!」

 

あはは、と能天気な顔で笑ってどこかに行こうとするリトの腕を握って止める。

 

「ごめん、美柑ちゃん。ちょっとリト借りていくね」

 

「あ、……ハハ。デスヨネー」

 

掴んだリトの腕を抱き込んで、そのまま引っ張る。

そうそう。随分前に遊びに行こうって約束してたよね。

せっかく今日はスーツ脱いでるし。ちょうどいいんじゃないかな。

どこに行こう。うーん、もう。遊びに行くって決めてたらもっとちゃんと考えてたのにぃ。

 

「えーっと……これって、どうなるんだろ」

 

美柑ちゃんの少し戸惑ったような声が聞こえた気がするけど……。

そんなことより、デート。

 

デートである。えへへ。

 

  ●

 

「おや、シロちゃん。今日もかわいいね」

 

「シロちゃん。これ持っていきな!」

 

商店街のみんなに話しかけられつつ、リトと共に商店街を歩く。

リトといっしょにいるところを見られて少し頬が熱い。

んー。いつもはそんなことないんだけど……今日はいつもより距離が近いからかなぁ。

 

「いつの間に、商店街のアイドルになったんだ?」

 

「んー?別に何もしてないよぅ?ただ、ここらで買い物してたら自然とこうなってたっていうか」

 

スーツを脱いで活動してからかな?

善意で売り物をくれる人もいるけど、その分お金は落としているつもり。

アイドルってよりは、自分目線では『お得意様』って認識だ。

 

「ほら、これ美味しいよ。あーん」

 

「お、おう」

 

彼の口に商店街のおばちゃんからもらったコロッケを持っていく。

袋でもらったから、残りは収納しておこう。帰ってから食べよ。

 

「あ、ゲームセンター。ちょっと寄ってこうよ」

 

「そ、そうだな。何がやりたい?」

 

「んー、そうだなぁ」

 

対戦ゲームとか、いろいろあるけど……。

色々な筐体に目が奪われてしまう。

 

「あれがいいな」

 

「クレーンゲーム?」

 

「たしか、得意だったよね」

 

筐体の中には手の中に納まるほどの小さなぬいぐるみが景品として入っていた。

小さな白猫のぬいぐるみがこっちを愛らしげに見つめている。

 

「おう、任せろ」

 

ちゃりんちゃりん、と彼は筐体の中にお金を入れる。

あ、お金ならボクが払うのに。

 

「音子がスーツ着てるときは、このゲーセンで何回か遊んだけど……、その姿で来るとなんか新鮮だよな」

 

「たまには、いいでしょ?」

 

「ああ、そうだな……」

 

彼に笑いかけると、ちょっと彼の顔が赤くなる。

それが面白くて、ボクも自然と笑みが浮かんだ。

 

「お、取れたぞ」

 

何回目かの挑戦。

クレーンのアームが景品のぬいぐるみを掴み、景品口へと持っていく。

軽快な音楽と共にアームが掴んでいたぬいぐるみが景品口へと消えた。

 

「やった!ありがとう!」

 

「わ、ちょっ、音子」

 

思わずうれしくってリトに後ろから抱き着く。

もっとも本気で力を籠めると抱きつぶしちゃうから、力加減は繊細にだ。

 

すんすん。んー、なんか落ち着く匂い、かも?

そんな感じがしないでも、ない?

 

「ん。これ、大切にするね」

 

「ゲーセンで取ったぬいぐるみだぞ?」

 

「そう。初めてこの姿でキミと遊んだ記念!」

 

掌の上に載ってる猫をかたどったぬいぐるみは、なんだか特別に思えて。

 

「なんか、そうやってると前にララのゲームに巻き込まれた時を思い出すなぁ。ぬいぐるみはもっと大きかったけどさ」

 

「ああ、あの時はボクほとんど役に立たなかったけどね……。ボクのメイド服でも想像した?」

 

「想像してねーって!」

 

「ふふふ、じょーだん。ララ様とか古手川さんくらい……とは言わないまでももうちょっと大きかったらねぇ」

 

ボクの言葉でメイド服を着たときを思い出したのか、顔を赤くして否定をする彼だが。

えっちな事を彼が考えている時のような、頭から湯気が出るほど恥ずかしがっているというわけではない。

 

傍から見ても彼氏、というよりはいいとこ兄弟?

ゆーわく、とか。とてもじゃないけどボクには無理なのだ。色々とね。

 

「ま!少しずつ成長してるらしいし、こうご期待かな」

 

この星には永くいるつもりだし、かれとも長い付き合いでいたい。

だったらボクの身体だってもうちょっと大きくなってるだろう。

 

とはいえ、ちょっと周回遅れ。

……周回遅れ?何が?

 

「さ、じゃ……違うとこにでも……」

 

「バウ!」

 

「うお!?」

 

せっかくならいろいろなところを遊びたい。

そう思ったんだけど、ボクら二人の後ろで狂暴そうな野良犬が前触れなく急に大きく吠えた。

急にそんなことをされたもんだから、リトも大きくバランスを崩す。

 

「や、やべ!」

 

「……!」

 

バランスを崩したリトはボクの方へ倒れこみかける。

思わずとっさに出した腕がボクの身体を掴むけど、このままじゃボクを下に押し倒してしまうと思ったのか、強引にリトはそのまま体を捻る。

 

そのまま二人で地面に倒れこむことになったけど、リトが下。

ボクが上のまま、彼に抱きすくめられる形になった。

 

う、うわ。なんだこれ。新感覚。

人に包まれる感じ?

 

……、思えば。

そもそもボクってなんで彼のこと気にしてたんだっけ?

湯だった頭で考えるが、まともな考えは頭に浮かんでこない。

 

「いてて……わるい、大丈夫か」

 

「……」

 

ムクリ、と身体を起こし、ボクの下にいるリトを見下ろす。

自然と彼を見ていると少し息が荒くなった。

 

……色々とできることあるんじゃない?

真っ白になった頭の中で、ふとそんな考えが頭をよぎった。

 

「ね、音子?」

 

戸惑ったようなリトの言葉が頭を素通りする。

なにかが体の中で押しあがっている感覚。

 

「リト……」

 

ギリギリギリギリ。

頭の上で何か音がするが、気にならない。

 

「お、おい。ちょ……それ、どうなって?」

 

……?

リトが何を言っているか分からないけど、口を開く。

 

そこ、動かないでね(逃げんなよ)

 

「ひぇ……」

 

「んぎぎぎぎ」

 

すぽん。と、体が反応して、勝手に右手で掴んでいた花を引き抜く。

……引き抜く、というかほぼ時間切れだったけど。

つまり、たっぷり三十分効果は継続してしまったというワケ。

 

「ん。ん、ごほん」

 

ぴょい、と彼の上から飛び抜く。

うわ、顔あつ。

 

どうやら眠っている最中、既にセリーヌちゃんの花粉を浴びてたみたいだね。

ずぅっと、その間リトの事が好きになってたみたいだ。

 

あ、危ないなあ。効果時間が三十分でよかったぁ。

 

「音子、大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫!」

 

くぬぉおお。

恥ずかしさで少し視界がゆがむ。

正直に言うとすぐにでも、逃げ出したいけど……。

おかしくなっていたとはいえ、彼を誘ったのはボクだし、それはいくらなんでもというやつである。

 

「ふー、ふー。よし、落ち着いた」

 

深呼吸をいくらかしていると少し頭が冷えてきた。

じーっと、リトを見る。

 

「え?何?」

 

…………。

うん、なーんにも感じないや!

やっぱり、セリーヌちゃんの花粉のせいで、彼にいろいろな感情が芽生えてただけみたい。

一安心である。

 

「んーん。なんでもない。安心したぁ」

 

「?」

 

リトのラッキースケベもぎりぎりなかったし……どっちかというとボクのほうがアレだったけど。

まあ?ぎりぎりよし、かな?

 

結果的には、正体がバレた時に言ったことを守る形になったし。

 

ちょっとはセリーヌちゃんに感謝してもいいかも。

今までのままだと、なんやかんや理由をつけてスーツを脱いだまま二人で遊びに行くなんてなかったかもしれないし。

 

それはそれとして、彼に取ってもらった小さいぬいぐるみは家に飾っておくとしよう。

彼と遊んだ記念、というのは嘘じゃないしね。




というわけで、恋愛ごっこ編でした。
セリーヌバフがあっても、色々と蹴りをつけてない彼女ではこの辺りが限界です。

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