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ゆらりゆらり、と水の上に浮かべられた浮き輪の上でぼぅっと空を見上げる。
浮き輪にお尻だけ嵌めるようにして、寝転がっているからそれほど体勢はきつくない。
あとは、サングラスとかがあれば太陽の光からボクの目を守ってくれるんだろうけど――。
むずかしいかなぁ。なにせ地球人と同じ位置に耳がないもんで。
ま、直射日光にさえ気をつければなんということはない。
宇宙から戻ってきて大体一週間くらいが経った。
久しぶりに地球に戻ってきても、ボクの生活はそれほど変わっていない。
変わったのは、御門先生のおクスリをとうとう飲まなくてよくなったこと。
――といっても、彼女にボクが自己申告をしたことが大きな要因で、まだまだ経過観察中の身の上だ。
ああ、後は――。
「音子ー!」
「食べ物買ってきたよー」
プールサイドから、籾岡さんと沢田さんがボクに向かって声をかけてくる。
するりと浮き輪を抜けて水に潜った。
仄かに水色に染まった世界が視界にうつり、そしてボクは浮き輪を片手にプールサイドのヘリを掴んで、プールから上がった。
「いっぱいあるよ。焼きそばにフランクフルトにかき氷」
「……うへぇ。ちょっと買いすぎじゃない?」
「学校とかでも、そこらの男子よりいっぱい食べてたじゃん?音子なら多少何とかなるかなって。それにここには皆いるし、シェアすればいいでしょ」
「ま、人より食べるのは否定しない」
「その小さな体のどこに入ってるのかなぁ?」
わきわき、手を動かす籾岡さんに思わずため息を一つ。
テーブルの上からフランクフルトを掴んで、彼女を横目で見た。
「そんなことしても、ボクの小さいおっぱいなんか揉んでも楽しくないでしょ」
「いやいや、成長中もまた……」
「おっさんかよ……」
これも彼女のコミュニケーションなので、もちろん嫌な気配は彼女から感じない。
だからといって、おさわりは断固拒否である。
もぐもぐとフランクフルトを噛みちぎりながらあらためてそう思う。
クロとの一件のあと、ボクの友人達には本当の姿の事を隠さずにすべて話した。
とはいってもボクの知り合いにはこの前の一件でほとんどバレちゃったから、この話をしたのは、目の前の籾岡さんと沢田さん。
あとは猿山かな、話をしたときにはあいついなかったし。
レンはルンさんから話を聞いているみたいだったからね。
お静さんもあのときの旅行には参加していなかったけど、そもそも彼女は御門先生のところでお手伝いをしている。だいぶ前からボクのことを彼女は知っているのだ。
と、いうわけで。
この辺りでお察しの通り、今日はいつものスーツは着ていない。
というか、宇宙から帰ってきてからは一回も。
姿を隠す意味もほとんどなくなっちゃったからね。
もちろん、脅威はいろいろある。
ボクのことを狙う宇宙人とか、あとはリトのラッキースケベ――って、この二つを並べるのはさすがに失礼か。
どっちにも。
まあ件のドスケベ野郎はともかく、宇宙人の襲撃とかはボクが頑張ればいい。
もちろん、友人を頼らせてもらう機会はあるかもしれないけどさ。
なんでもかんでも背負い過ぎてパンクする、なんて。
そんなことになったら、帰巣本能をこじらせるよりも笑えないもん。
まあ、ともかく。
つらつらと語ってしまったけれど、今日のボクはちゃんと正真正銘古手川さんに選んでもらった水着を着ているという事だ。
ほんとうはもっと泳ぎやすいやつがよかったけど、サイズなどなどの関係で、水色のひらひらが多いタイプを今は着ている。
……うーん。父さんに言われたからってわけじゃないけど。
おんぶにだっこってのもあんまりよくないよね。
頼ることと、寄りかかって生きていくことは違うのだし。
「うーん、難しいなぁ」
「あら、何がですか?」
ぴくり、と耳を動かす。
考えに耽っていたせいか、声をかけられるまでモモ様とナナ様に気づけなかった。
「んーん。急に生活を変えるのも大変だってだけ」
「……?なんか難しいことでも考えてたのか」
「いーや、言葉そのまま。ボクにも新生活の不安ってもんがあるの」
へぇ、と頷くナナ様を眺めつつ、フランクフルトの串を空いた紙皿の上に載せる。
そういえば、今日はまだヤミちゃんと遊んでいないな。
視線を左右に向かわせるも、その姿は見えない。
間違いなくこのプールには来てるはずなんだけど。
……約束もあるし、ちょっと彼女を探してみようかな。
「ちょっとその辺に足伸ばしてくる。ヤミちゃんのこと探したいからさ」
「ちゃんと戻ってきてね。食べ物の処理残ってるし」
「だから買いすぎなんだって……」
机の上には、まだまだ食べ物が残っている。
まあ、これくらいあればボクがそこらへんで時間をつぶしてしまっていても早々なくなってしまうことはないだろうけど。
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「あ、ララ様ー。ヤミちゃん知らない?」
「えーっと……さっき美柑と一緒にスライダーの方に歩いてるのは見たけど……またすぐにこっちに戻ってくるんじゃないかな」
「そっか……」
じゃあ、こっちから彼女達を探すよりここで待ってた方がいいかも。
そう思って、ララ様の顔を見る。
――そういえば。
ララ様と二人きりでこうやって話したことはあんまりない気がする。
その最たる理由は、彼女の作るアイテムの数々を警戒してたってのが大きいけどね。
そしてリトの姿は近くにはない。どうやら彼女とは別行動をしているようだ。
「そういえば。学校にはまだ来ないの?」
「ああ。そうだねぇ……」
口を開いた彼女の言葉にどう答えたものか、と首をひねる。
宇宙から帰ってきてからスーツを着ていないということは、音子として学校にもまだ一回も行ってないという事でもある。
「うーん。今はなんとなくあのスーツを着る気はないかなぁ」
「そっか……もし良かったら私が改良してあげようか?」
その言葉に、シャキーン、と魔改造されたスーツの数々が頭の中に浮かぶ。
いやいや、破滅的なボクの想像はおいておくとして。
「ん、いや。気持ちはありがたいけど……なんとなくあのスーツは未練の象徴みたいな気がしてさ。少なくともしばらくは着たくないかな」
「そっかー、……ってことは、音子とは学校ではしばらく会えないのかな」
「学校については考えてみるよ。ボクもみんなと会う時間は作りたいしね」
「そっか!」
にぱっ、と太陽のような笑顔を浮かべる彼女はボクの頭に手をあてて軽くなでてくる。
あまりにも自然な動きだったので、ボクも逃げる隙が無かった。
「あ、ごめん。なんとなく妹たちにしてたみたいにしちゃって」
「……まあ、撫でやすい位置にあるのは否定しないけどさ」
あはは、と笑うララ様のボクを撫でる手が止まる。
え?
「ん、撫でないの?」
「え?うん、嫌かなって」
「――、別にいやとは、言ってないけど」
大体五分後。それくらい。
ララ様と待っていると美柑ちゃんと一緒にヤミちゃんが帰ってきた。
「あ、美柑!ヤミちゃんおかえり!」
「え、あ。ゴ、ゴホン!」
スライダーから戻ってきた彼女達をララ様と共に迎える。
ヤミちゃんはいつもの戦闘服と同色の黒色の水着を着ている。
これって変身で作ってるのだろうか?うーん、見た目だけじゃわからないな。
「どうしました?」
「いや、ヤミちゃんの姿が見えなかったから今何してるのかなーって、気になっちゃって……探しに来ちゃった」
「ふむ……。それでは少し歩きましょうか。美柑、少しプリンセスと一緒に待っていてください」
「あ、ララ様。籾岡さん達がいろいろご飯買ってくれてたよ」
「ホント!?美柑、行こ!」
「うん、二人とも仲良くねー」
む、なんだか美柑ちゃんにはいらない心配をさせてしまった気がする。
でも大丈夫である。昔ならまだしも今の彼女との関係値は"それなり"だ。
プールサイドを二人で歩く。
小さな子供たちがキャッキャッと人目をはばからず楽しんでいるのをみて、思わず頬が緩んだ。
「あの後、クロとは大丈夫だったんですか」
「うん!ちゃんと連絡先も交換したし、連絡しようと思ったらいつでもできるよ。ただ――しばらくは大丈夫かな」
「無理してる訳ではないようですね」
「もちろん。今は父さんよりもちゃんと向き合うべき人たちがいるって自覚しただけだからさ」
「そうですか……」
二人で、プールサイドに腰をおろして、足だけ水につける。
冷たい水が心地いい。
しばらく何を言うでもなく二人とも黙ったままだったけれど、その均衡をやぶったのはヤミちゃんの方だった。
「あなたの事を知るたびに、私は何も知らなかったのだと痛感します」
「そんなの、ボクが自分の事をちゃんと言ってなかったんだから、しょうがないと思うけど」
「あなたについてだけではなく、色々と。もちろん結城リトから学んだこともありますが…………今の発言は忘れるように」
「はいはい」
頬を赤く染める彼女を見て、頷く。
いや、しかし。
原作なんてほとんど記憶の彼方ではあるんだけど。
もうこんなにもリトのこと気になってたんだなって感じ。
全く、罪な奴だにゃあ、あの男。
ま、彼女の気持ちもわからんでもない。
なんも知らなければありゃやられるわ……って、これはただの感想ね。
「ボクの事、もう隠さないから。だからちゃんと見ててね」
「はい。もう見逃しません」
「じゃ、ボクもヤミちゃんが困ってたら頑張っちゃうよ」
友達として。
彼女とそう約束した。
助けて、助けられて。
友達ってそういうもんでしょ。
だから、多分次はボクが助ける番なのだ。
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「んー♪おいし」
ブルーハワイのかき氷を口に放り込んで、冷たさと美味しさに震える頬を抑える。
かなり食べ進めているからか、口の中で氷がなかなか溶けない……って一口が多すぎるだけかこれは。
ボクの友人全員が集まったプールでの遊びは、とても楽しいものとなった。
――とはいえ、平和にとはいかなかったけど。
プールから飛び出てきた巨大なスライム状の生物のことを思い返す。
リトが中に取り込まれかけたり、ぬるっぬるの触手がボク達を襲ってきたりと。
それは少し大変だったけど……これこそボクたちの日常という感じだ。
「楽しそうでよかった。あれからほとんど会う機会がなかったから」
隣にいた古手川さんが安心したように呟く。
彼女含めたくさんの人に迷惑をかけてしまった。
「ん。いろいろと決着をつけれたからね。気分はスッキリって感じだよ」
だから彼女にも今この場を楽しんでもらいたい。
「あ。それ何味?」
「いちご味。食べる?」
「うん!あー」
大きく開けた口にシロップと共にかき氷が飛び込む。
確かにイチゴっぽい香りが鼻腔を駆け巡る、が。
「あれ、同じ味?」
「かき氷のシロップって、味は同じだから」
「う、鋭い味覚と嗅覚が裏目にでたか」
意識的に強弱は切り替えれるとはいえ、さすがに直で味わうとなるとボクに嘘はつけない。
細かい匂いをかぎ分ける、とか犬のようなことはできないけどね。
「おーい!古手川!音子!」
「ナナ様に、ルンさんと御門先生。――なんか不思議な組み合わせだね」
「さっき偶然そこで会ったの。一度リトくんと合流しようってことになって……」
「へー」
彼女たちの手元には、ボク達と同じようにかき氷が。
プールにいるから多少はマシだけど、夏だもん。冷たいものを食べたくなるよね。
「結城君なら、多分この辺りに……」
その言葉にボクもリトが周囲にいないか探る。
……あ、いた。なんかうつむいてるけど。
皆で彼に話しかけようと彼の方へ近づいていく。
なにやってるか分かんないけど。とりあえず声でもかけて――。
「好きだ!」
「へぅ?」
リトの口から考えもしなかった言葉が飛び出て、変な声が漏れた。
それはボクの周りのみんなも同じようで(御門先生は余裕の表情だったけど)、それぞれあっけに取られたような表情だ。
って。好きって言ってもこの中のだれにだよって話である。
「……」
目の前の男は、口をぽかんとあけたまま固まって、今の言葉を追求する古手川さん達の言葉にこたえる余裕はないみたいだし。
どーせ。彼には彼の事情というものがあったんだろう。
あー。びっくりした。
かき氷を口に含む。
口に含んだ氷はすぐに溶け、シロップの甘い味が口の中に広がった。
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プールから帰ってきて数日。
学校の中をできるだけ早歩きで歩く。
それもこれも、学校にいるリトの姿を探しているからである。
昼休みにこうして出歩いていれば、多分すぐに出会えるはずだ。
「はぁ……」
しばらくそうしていると、無事にため息をつくリトの姿を発見した。
ため息をついている理由は定かではないが、プールでのことを吹っ切れていないか、それとは別でララ様の発明品でなにかあったのか。
……、まあ細かいことはどうでもいい。
ボクは、手をメガホンのような形にして口元に持っていき、彼の名前をできるだけ元気よく呼んだ。
「結城せーんぱい!」
「え?」
きょろきょろ、とボクの声で振り返ったリトは階段の上にいるボクの方を見て、ぎょっと目を丸くする。
「おまえ、その恰好……」
「どう、似合う?」
右手でVサインを作って彼に問いかける。
本邦初公開のボクの女子制服である。
「うちの校長に頼んだら、転入は一発オッケーだったんだよね。……まあ、一年生からスタートなのはちょっとむかつくけど」
家に郵送されてきた書類を見たときは思わず叫んだが、これに限ってはボクの容姿のせいかもしれないので、直談判する気は起きなかった。高校一年生でぎりぎりという事なのだろうか。
実年齢からしたら若作りなんだよなぁ……。
「と、いうわけで。音子君は休学になり、シロちゃんが転入生としてあなたの後輩になりました。オッケー?」
「あ、ああ」
「んじゃ、そういうことで。同じクラスの子と御飯食べる約束してるから、またね」
ぽかん、とした表情を浮かべるリトを置き去りにするのは心苦しいけど、約束は約束。
さあ。
ボクの
これにて終了。(無印)
この後の更新ですが、少しいままで投稿したお話を修正させていただきまして、その後ダークネス編を更新する予定です。
もしかしたら別作品の短編を更新するかもしれませんが。
修正完了時には、無印編のあとがきを追加する形でお知らせを行わせていただきます。
あと最後にアンケートを。
今後の参考にします。
ダークネス編は引き続き、こちらの作品内で連載させていただきますのでよろしくお願いいたします。
いろいろなしがらみからいろんな意味で解放されるダークネス編をもうしばしお待ちください。
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