なお、今回こんなタイトルですが、わりかしシリアスです。
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『先日お伝えした密輸業者が逮捕されたニュースですが、この業者が不注意から希少生物を逃したことがわかっております』
『名前を『モシャ・クラゲ』という特殊な生態を持つ監視指定生物であり、地球人との接触による混乱が予想されています』
――宇宙TV局、地球時間早朝の放送にて。
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「どういうこったよ!」
隣でほうきを持っていた猿山君がとうとう我慢しきれない様子で大きく叫んだ。
校外の美化活動という形で外に引っ張り出されたはいいものの、彼もとうとう限界のようだ。
「なんで男子ばっか掃除してんだよ!女子はどうした!女子は!」
そうして丸形の黒いサングラスを付けたふとっちょの男。
少なくとも清廉潔白とは言い難い、うちの学校の校長に声を張り上げる。
猿山の後ろで掃除をしていた男子も彼に同調している……のだが、校長は余裕たっぷりという感じで自身のヒゲを撫でつける。
「まあまあ皆さん落ち着いて。女子生徒は私が用意したお掃除衣装にお着換え中です」
お掃除衣装ねえ……。
彼の言葉を内心鼻で笑う。物は言いようである。
そんな折、ボクたちに向かって足音がいくつも近づいてきた。
「お。おー!」
今まで不満げだった男子のほとんどがにわかに色めきだつ。
なんたって、今到着した女子たちは校長が用意したメイド服に着替えてんだから。そりゃあ思春期の男子は興奮するでしょうよ。
うちの生徒に加えてヤミちゃんまでいる。
しかしまあ、みんなよく律儀に着たもんだね。
まあボクがそんなこと言う資格はないんだけど。
スーツを着ていなかったらボクもあっち側だっただろうから、なんとなくズルをした気分になる。
うん、でもそんなこと気にしても仕方がないか。
ラッキーだった、という事にしよう。
しかし、いよいよ学校の私物化がひどいな。
私立だからって限界ってもんがあると思うのだけど。
ガジガジ、とヤミちゃんのトランス能力でできた口に噛み砕かれている校長を見て、内心苦笑いを浮かべる。
「しかしメイド服ね……」
確かに見る分には目の保養になるよね。
うちの女子はレベルが高いのは周知の事実だし。
一部の女子ははしゃいでるし、まあ嫌がっている人がそんなにいないのなら別にいいのかな……?
ボクはごめんだけど。
「気になるなら、着てみる?」
「うおっ」
不意に投げられた声に思わずびくりと体を震わせる。
周りを見て、今の古手川さんの言葉を誰か聞いていないか確認するけど、どうやら男子も女子もメイド服に夢中で、聞こえていなかったらしい。
彼女は、ちゃんとそのあたり確認してボクに話しかけたのだろうけど……もう、からかわないでよね。
誰にも聞かれていないことにほっと胸を撫で下ろして、ボクに話しかけてきた古手川さんの方を見る。
「やだなあ、ボクに似合うわけないじゃんね」
もちろん古手川さんもちゃんとメイド服をきている。
やけに似合っているなと思ってしまうのは、彼女の気質のようなものが相まって余計にそう見えるのかもしれない。
鬼メイド長って感じだ。
もっとも、それにしてはスカートが短かったり、それこそ『ハレンチ』なメイド服である。
それを彼女も自覚しているようで、少し顔を赤くさせて唇を尖らせる。
「体よく逃げるなんてずるいわ」
「ずるくないよぅ。こうして掃除はまじめにやってるからいいでしょ」
嘘である。
さっきまで地面の上を適当に箒で掃いていただけです。
……しかし、あのモドリスカンクの一件以降、彼女によく目を付けられることが増えた気がする。
色気なしに、なんというかこう……『音子君係』みたいになっているというか……。
さすがにそんなに問題児になった覚えはないよ!?
……西園寺さんとは、今までとそんなに変わらない付き合いができてるんだけどなあ。
『く、くそ。あんなにガードの固い古手川と上手く二人きりになりやがって』
『恋愛には興味ないって面してんのに……あいつも中々やるな……』
「そういえば、あの金髪の女の子も宇宙人なのよね」
「うん、そうだよ」
「あの子とは知り合いなの?」
二人で掃除のために移動していた折に、古手川さんにヤミちゃんの事を突っ込まれた。
うーん。なかなか難しい質問をするもんだ……。
「まあ……浅からずも深からず。昔々からなんどかね」
「昔々って大げさね」
「ボクにとっては昔々なのさ。彼女にとってはそうじゃなくてもね」
彼女と初めてあった日のことを思い出そうとして……やめた。
苦労してその時のことを思い出そうとしたところで、別にいい気分になるわけでもなし。
「……詳しく話したくないなら、別にいいわ。ごめんね変なこと聞いちゃったみたい」
「別に気にするほどのもんじゃないよ。ボクの事を気にしてくれるのはうれしいし」
思わず顔が綻ぶ。
秘密の共有ってのはいいもんだ。なんとなく、仲が良くなった気がする。
そんな脳みそが茹るような事を思い浮かべた、その時。
がさっ、と何かがボクらの傍から飛び出してきた。
こういう時、何かしらのハプニングに巻き込まれる機会が多かったからなんとなく身がこわばってしまう。
満を持して草むらから出てきたのは、銀色の髪に猫耳を生やした少女、である。まあ可愛い……。
というか、ボクである。
そう。ボクがもう一人。
「え……?え……!?」
古手川さんがボクと猫耳の方のボクへ視線を右往左往させる。
彼女にとったら、ボクの中身だけがなぜか外にいるというよくわからないことが起きていることになる。そりゃあ混乱もするってもんだ。
いやあ……そうか。こういうこともあるのか。
他人の姿をかたどる希少生物。
おそらく春奈さん。もしくは古手川さんに知らないうちに触れたのだろう。
その記憶の中にあるボクに化けたのか。
その件のボク。偽ボクとしよう。
その彼女は満面の笑みで草むらから飛び出して、未だ混乱する古手川さんにとびかかる。
「きゃあ!」
彼女を押し倒し、彼女の顔をペロペロと嘗め回す。
っておい!
「ちょ、ちょっと……やめ……」
なんかやけに密着してるし……偽物のボクの方もなんかやらしい顔してるし!
自分の
舐める場所が顔だけじゃなくなるまえに、箒を振り上げる。
大丈夫、多分こいつは身体能力まで同じになるわけじゃない……はず!
大きな声をあげてできるだけ威圧させようとしたところで、後方からトランスによって髪を変化させることで作られた鈍器が、偽物のボクを襲う。
「にゃ!」
そんな安直ににゃあにゃあ言わないぞ!なんて突っ込みをぐっとこらえる。
どうやらヤミちゃんはその下にいる古手川さんを気にして、あまり上手く偽ボクに攻撃を当てることはできなかった様子。
「た、助かった……ヤミ……さん?」
お礼ぐらいは言っておこうとしたのだが、ゴゴゴゴと擬音が出そうなオーラを纏うヤミちゃんに思わず閉口する。
うわあ、なんだか準備万端って感じだね。
「か、加減してあげてね……?悪い人じゃないよきっと!」
偽ボクを追いかけて、あっという間に小さくなっていく彼女に、思わず声をかける。
おおこわ。彼女に嫌がらせのようなことをした記憶はないのんだけど……?
しかしまあ、所謂えっちい事をしようとする自分を見るのはなんだか変な気分だ。
他の人ならともかく自分がやっているというのが、余計にヤダ。
「だ、大丈夫?」
うう。ちょっと気まずい。
ちょっとメイド服もはだけかけてるし……。
「あんなことするなんて!あなた、ハレンチよ!」
「ボクはこっちにいるでしょうが!あれは偽物だって!……ともかく、ボクもあいつを追いかけてくる。あのままボクの姿で街を徘徊させるわけにはいかない」
それに、あのままじゃあもう一人のボクがヤミちゃんに殺されちゃいそうだし。
近くにいた御門先生に古手川さんの介抱を頼んで、『モシャ・クラゲ』を探す。
確かそんな名前だったはずだ。
確かあっちこっちで悪さをしてたはずだから、こうして奴の行ったところを走り回ってたら……。
「きゃあああ!」
「いた!」
女の子の叫び声。
ちょっと無理をして、塀の上によじ登ってショートカットをする。
私有地だけど大目に見てよね!
そうして飛び出した先にはヤミちゃんの姿が。
でも、本当のヤミちゃんは戦闘衣装ではなく、メイド服を着ていたはずだ。
「うおおお!」
飛び出して偽のヤミちゃんを捕まえる。
本物じゃないから許してね、ヤミちゃん。
そうして捕まえた『モシャ・クラゲ』がうごうごと姿を変える。
誰に変化するつもりだ……?あいにくだけどボクはそんな程度では手を……。
そして。
そいつが変化したのは見覚えのある顔だった。
黒のツンツン頭に、黒のロングコート。
「シロ。
――――。
すぐに『モシャ・クラゲ』は体力の限界を迎え、形を元に戻す。
きゅう……。とか細い声をあげるそいつをできるだけ、丁寧に抱き上げる。
ああ。分かってるさ。こいつが『らしくない』ように他の人物に化けるやつだということくらいは。
「
思わずぼそりとそうつぶやく。
「あ……ヤミちゃん」
ヤミちゃんが近づいてくる。
何か気の利いた事を言おうとするが上手く言葉にならない。
そして、そのままぎゅうっと、襟首を掴まれて顔を無理やり近づけられる。
「泣いているのですか……『シロ』」
彼女の顔はにじんでよく見えない。
次回、オリジナル気味。
白猫の深堀へ。視点は1人称なので五話扱いの予定。
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