健全な男子には厳しい姿勢で行きたい白猫の話   作:変身スキー

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皆様、いつも拙作の評価、お気に入り登録をしてくださりありがとうございます。
最初はゆるく続けていければと考えていたこの作品ですが、評価を頂けるのがうれしい余りほぼ毎日投稿のような形で続けさせていただいております。

さて。今回の話は今まで一人称視点であやふやにしていたものに多少のけりをつける回になります。


第五話:自分語る白猫――そして。

  ●

 

僕が最初に彼に会ったのは、ボクが組織に誘拐されてからおそらく二年ほどが経った頃だと思う。

正直、細かな時期などはボクにもわからない。

誘拐されていたと自覚したのは、彼に説明された時だったし……それまでは組織で戦闘訓練を続け、最低限の食事を食らって寝るのが当たり前の生活だと思っていたのだ。

 

だから、組織が襲撃された時は素直に世話をしてくれていた彼らのためにと思って、彼に必死になって嚙みついたのだ。

もちろん比喩だ――と言いたいけれど、本当に追い詰められた結果実際に噛みついていたような記憶がある。

 

『窮鼠、猫を噛む』。この場合、ボクがネズミで彼が猫。

どっちも本当は猫だから、つまりはごっこ遊びである。

 

そんなわけで。ああ、これで死ぬんだなあなんてことを思いながら気絶して。

そして、ある程度整えられた寝床の上で再び目が覚めたのだ。

 

「起きたか」

 

「――――」

 

「無理に起きなくてもいい。お前のいた組織は俺が壊滅させた。」

 

「――――」

 

「……俺がお前が一人で生きていけるようになるまで、世話をする。――だからゆっくり休め」

 

なんで助けたのか、とか。なんでそこまでするのか、とか。

そもそもあんた誰だよ。とか。

 

生きてることに仰天しながらもいろんなことを聞きたかったんだけど、そもそもこのころのボクは幼さとその環境のせいでほとんど口が動かなかった。

日本語しゃべっても通じなかっただろうし。

だから実際にその理由を聞けたのは、彼に言葉とか文字の読み方を教えてもらってからだった。

 

「お前を助けた理由か。……昔の腐れ縁だ」

 

最初に聞いたときはこう答えられた。

でも、そのあと少し経って、ボクのいた組織を潰したのは仕事ではなくてボクを助けるためのものだったと知った時。

もう一度同じことを聞くと、彼はようやく口を割った。

 

曰く。

ボクは彼の知り合いの遠く年の離れた妹だと言う。

 

その知り合い……彼女はボクの母星が襲われた際に死んでしまったらしいが、死ぬ前にボクのことを彼、『クロ』に頼んだらしい。

ついぞ、ボクは姉のことを聞けなかった。

安易に聞いてはいけないということを察するのが簡単なくらいには、ボクと彼は一緒に過ごし、長い時間を過ごしていたからだ。

 

「俺にとっては忘れ形見だ。お前を育てることで、彼女の思い出を少しでも長く感じていたいだけなんだ」

 

そう吐露した彼は、それを弱さだと言った。

でも、その弱さでボクは命を拾ったのである。

だから何も言わずにボクはクロのことを抱きしめた……。

単にその時は甘えたかったのかもしれない。自分でもこの時、なぜそんなことをしたのかはよく分からない。

ただ衝動のままにそうしたのだ。

 

それ以降、ボクは彼のことを『父さん』と呼ぶことにした。

今世の家族の思い出は無きに等しい。

父性を感じる存在も、母性を感じる存在もいなかった僕にとって、彼が最初に父性を感じる相手で、最初の相手だったわけだ。

 

『クロ』と呼ぶのは、なんとなくまだ距離が遠いような気がして嫌だったのだ。

最初は『パパ』と呼んだのだけど、一度呼んでから逆に距離が空いた気がして妥協点を探ったわけである。

 

……それでは少し話を変えまして。

ボクの名前の話でもしようか。

母星では生まれてある程度経った頃に、儀式のようなものが行われて名前が決められるらしい。

だけどボクは名前をもらう前に誘拐されてしまったので、しばらくは記号の羅列のような管理番号がボクの名前だった。

 

ある程度情操教育が済んだボクはそれが嫌だったので、名前を彼にねだったのである。

 

「名前を付けてほしい?」

 

「うん。こんな番号みたいなのはやだ」

 

「――自分で決めたほうがいいんじゃないのか?」

 

「やだ。あなたに決めてほしい」

 

このころはまだ父さんとも呼んでないころだったから関係性はちょっとぎくしゃくしていたけれど、父さんは少し悩んでボクに名前をくれた。

 

それが『シロ』である。

父さんの仕事について行ってから、『黒猫』と『白猫』のウワサはよくたっていた。

曰く弟子をとっただの、子供がいただの。

後者の方は大正解。実の子供ではないけどね。

ともかく、その『白猫』からとってシロである。

安直かもしれないけど、父さんの名前みたいで好きだった。

 

さて。閑話休題。

 

その後は彼の殺し屋稼業に引っ付きながら技を磨いていった。

このころ、初めてヤミちゃんと会ったんだっけ。

彼女は当時の事をなぜか覚えていなかったようだけど、後々顔を合わせることになる彼女とは違い、初対面のころは異常に強かった。

尻尾をまいて逃げ回るのに必死で、最終的に父さんに何とかしてもらったわけだけど、このころの彼女はちょっとしたトラウマである。

 

少し経つと、ボクも最初に比べると口も達者になって今のような性格になったし、それに合わせて父さんも口うるさくなった。

といっても技術の話とか、戦うときの心構えとかではなく生活に関する注意ね。

好き嫌いとか、下着で部屋をうろつくなとかそんな話。

 

つまりは最初よりもボクと彼の距離は近づいていたのである。

けれど。それでも別れは突然だった。

 

それはおそらく十二歳くらいの頃だったと思う。

目が覚めたある日、手紙だけを残し父さんはその姿を消していた。

その手紙には既に一人で生きていけるだけの力を付けたこと。最初の約束どおり面倒を見るのは最後だということが丁寧に書いてあった。

 

それを見たときのボクの気持ちとしては、とうとうその日がきたのかという程度の気持ちだった。

そもそも彼はいつまでもボクが殺し屋の自分とともにいることはよくないことであると考えていた節があったし、ボク自身も殺し屋にはなりたくないとはっきり彼に伝えていた。

 

だから。とうとう免許皆伝されたのだ、とこの時は軽く考えていた。

 

今まで二人で暮らしていた宇宙船はボクにくれるらしく、そこからボクの父さんに頼らない生活が始まった。

 

――それから、ボクが正常じゃなくなるまで、半年もかからなかった。

夜、寝てるときに自覚なく徘徊を始める。

気性が異常に荒くなる時がある。などなど。

 

それが一か月、二か月も続いたのだから、これはおかしいとボクは当時まだ宇宙にいた御門先生の受診を受けることにしたのだ。

 

「ネコフーリ族の特徴が異常に強く出てるみたいね」

 

「ボクの種族の特徴?」

 

簡単な質問を受けた後、彼女はボクにそう言った。

 

「もともと、ネコフーリ族は帰巣本能が強い種族なんだけど……。あなたはその中でも種族の特徴を両親から強く受け継いだのでしょう」

 

「でも、ボクはどこかに戻りたいなんてあんまり考えてないよ」

 

「自覚症状がないから重症なの。自分の異常に気付けていないってことはおかしいことなのよ?」

 

つまり。ボクは無意識に。

父さんのいるところへ戻りたいと思っているわけだ。

体に異変がでるほど異常に。

 

「一番いいのは、あなたにとって新しい自分の居場所を見つけることなのかもしれないけど……その本能を少しは和らげる方法はあるわ」

 

そう言って、彼女は薬の瓶をボクに用意してくれた。

それがボクが今でも飲んでいるおクスリの正体である。

 

「ネコフーリ族の本能を鎮める……ようは強力な鎮静剤ね。これで症状自体は和らぐと思うわ」

 

「ほんと!さすが名医だね!」

 

そう言って、薬に手を伸ばそうとした手が彼女にパシンと叩かれる。

 

「話は最後まで聞きなさい。――確かにこれで症状自体は緩和されるけど、あくまでもこれは種族としての正常な反応を無理やり押さえつけてるの。身体的にも精神的にも正常な状態とは言えないわ。これを使わなくても通常通りの生活ができるのが一番いいのよ」

 

そしてこれ以降、ボクは賞金稼ぎを主な資金源として生活することになる。

いや。他人の依頼を請け負うこと自体ボクが嫌いなのは最初からだよ?

でもこれはボクが依頼を請け負わなくなった理由の話。

 

そんなわけで数年が経った頃。

おクスリをもらいに行った御門先生が地球へと移住することを聞き、ボクははっきりと今世の世界についてを自覚することになる。

 

それと共に、前世でボクが過ごしていた地球なら新しいボクの居場所になってくれるのではないか、と期待してボクは地球に腰を落ち着けることに決めたのだった。

これが地球に帰りたくなった本当の理由。

それに父さんにも会えるしね。

 

実際おクスリの数自体は減ったわけだからある程度の効果は出ているというわけだ。

おクスリのせいで正常に成長できていなかった体の方も正常な活動を取り戻しているらしい。

最近その……やっと初潮も来たし。

 

だからこそ。ボクはこの星から出るわけにはいかないのである。

 

  ●

 

「昔、ボクを取り逃してから何回だっけ?キミから逃げたのは」

 

見晴らしのいい、土手でボクとヤミさんは向かい合う。

あの、『モシャ・クラゲ』がきっかけで音子がシロであることが彼女にバレたわけであるが、彼女はあの時のボクよりも冷静だった。

 

あるいは取り乱すボクを見て多少冷静になったのかな。

……どっちでもいいけど。

 

ともかく、彼女は時間と場所を変えてボクを呼び出した。

だから僕の方も戦闘服だし、耳や尻尾は出したままだ。

 

「でも今回は、文字通り尻尾を巻いて逃げ出すわけには行かない」

 

そう言って『マグヌス』を取り出す。

カートリッジはすでに装填済み。

 

「シロ、決着をつけましょう」

 

――口火を切ったのは彼女の方だった。

ボクが瞬きをしたその瞬間。

その0.1秒の間に彼女は自らの放った声すら置き去りにするように、死角から腕を刃に変化させてボクのやわらかい肌に突き立てようとする。

 

五感が彼女の位置を知らせるよりもさらに速く。

びびっ、とボクの本能がその脅威を警告する。

右足を支点にボクは体を捻り、上段回し蹴りのような形で彼女の攻撃を妨げると同時にヤミちゃんの体へ足を振り抜く。

 

攻撃自体は硬化させた肌によって凌がれたが、衝撃までは逃がせない。

吹き飛ばされた彼女を追って、地面を蹴って飛び出す。

 

「っ!」

 

もちろんそれを黙ってみているヤミちゃんではなく、髪を刃に変えて迫るボクを阻もうと凶器を幾重にも伸ばす。

 

でも、遠距離から伸びてくる攻撃はボクの動体視力ですべて認識している。

そうなるとあとはボクの運動能力を彼女が超えられるのかという話になるが、そっちに関してもボクの動きを固めようとしてくる一部の動きにさえ気を付けていれば問題はない。

 

そのまま、銃は使わずに拳を固める。

『マグヌス』は対応力に優れた武器だが、純粋な力押しや近接戦闘では僕自身の肢体を利用した方が強い。

 

襲い掛かる刃を危なげなくかわしてのけ、拳を大きく振り上げる。

ヤミちゃんが腕と髪の一部を使ってその身を隠す。だが構わない。

そのまま殴りぬける!

 

硬質化した髪をそのまま押しつぶし、その裏のヤミちゃんごと地面にたたきつけんとする。

大きな音を立てて、地面が震えたがボクの視線の先には少しずつ消えゆく、変身でできた物質の欠片のみ。

その先にヤミちゃんの姿はない。

 

ダミーだ。分かりやすく言えば変わり身の術。

視界からは消えたが、彼女が逃げたわけではないことはいまだに鳴り響く本能の警鐘が知らせている。

せっつくように、脅威は頭上にいるぞと知らせるに従い、顔を空中へ向ける。

 

そこには、天使がいた。

 

変身でできた白い羽を大きく広げ、すでにヤミちゃんは両腕を刃に変化させている。

 

――問題ない。ならば撃ち落とすだけである。

マグヌスを構える。

撃つ弾は『貫通弾』。ヤミちゃんの作る壁程度なら貫いて、本体の彼女に届かせることができる。

 

問題は命中させるところかな。縦横無尽に動かれると反射させる物もない空中では、直接当てるのはボクの技量じゃあ不可能に近い。

当たるとしても彼女の体のどこに当たるのかまでコントロールしきれない。

 

ならば少しでも彼女に近いところに移動しようと、ボクが対抗するためにわずかに彼女から意識をそらしたその瞬間。

ギッ、と異音をたてて、ヤミちゃんが腕の刃を合わせる。

 

「あ、やば」

 

一手。ヤミちゃんの打つ手とボクの手が食い違う。

 

黒板をこすり合わせるほうを100倍不快にしたような音がボクを襲う。

……し、しかも。指向性を持たせるためにスピーカーみたいなものまで変身で作ってる……!

 

「オェ……ッ!」

 

元々五感のうち、直感以外に聴覚と嗅覚も鋭いのだ。

ボクの敏感な三半規管が蹂躙され、すさまじい頭痛と吐き気がボクを襲う。

 

ぐらり、と体が揺れて膝をつく。

戦闘不能ではないが、もちろん大ダメージである。

 

それに対して、ヤミちゃんは追撃を行わない。

ちぇっ、無遠慮に近づいてきたら無理やり反撃しようと思ってたのに。

 

「なぜ、爪を使わないんですか」

 

「うぅん?」

 

未だ空中にいる彼女がボクに問いかける。

 

「あなたのかぎ爪なら、最初に私に近づいていた時点で終わっていたかもしれない」

 

「結果論……でしょ。君ならボクの装備にあわせて戦術を組み立てるくらいできるよね」

 

「そうではありません。……あなた、私を殺す気がないですね」

 

「へへ」

 

あったりぃ。

 

「なぜですか?私を殺さない理由はないでしょう」

 

「殺す理由もないと考えれないの?」

 

「私を殺す方があなたにとって一番簡単な解決方法です」

 

その通りだと思う。地球から宇宙に放り出すよりは圧倒的に簡単だ。

それに後くされもないしね。

 

「不殺を貫いているわけではないでしょう。殺す必要があるなら殺すのが貴女のはずです」

 

「そうだね」

 

「では、なぜあなたは……」

 

「地球で過ごすヤミちゃんを見てた。もちろん警戒するためにだけどね」

 

ただの殺し屋じゃなくなっていくのは、もともと知識として知っていたし、それを間近で実際に感じてもいた。

 

「それで、改めてキミを殺してはいけないと思った」

 

そんな事を彼女に言いながら。

かつて父さんに言われたことを思い出す。

 

『あの少女もかつてのお前と同じだ。自分の在り方に縛られて囚われている』

 

『あなたとは?』

 

『……』

 

『父さんとは違うの?』

 

『……どうだろうな。だが俺の言ったことがわかる時が来るだろう。その時は力になってやれ』

 

――わかるよ。少なくとも今なら父さんの言ってたことが。

 

「はっ……」

 

ヤミちゃんは自分の体の中で押しとどめられなかったものを吐き出すように笑みを漏らす。

 

「では、あなたはどうするんです?このまま私に殺される気ですか」

 

「そういう気はないよ。だから――どうしようかなってねぇ……」

 

「何も考えていないのですね」

 

「後先考えれないたちでね。必要な時には身体の方が勝手に動くもんで……!」

 

にしし、と笑みを浮かべる。

だとしてもちょっとさっきの攻撃は効きすぎたかもなあ。

ちょっとぐらぐらするや。

 

それでも、と『マグヌス』を構える。

やるだけやるさ。ボク自身がやりたい、したいと思ったことはやらないと嘘でしょう?

 

ボクが下手を打てばこのまま決着がつく。

それを感じて、背筋がひりつき、唇が渇く。

 

「二人ともやめろ!」

 

極度に集中していたから、突然響いたその声にビクリと体が動いた。

土手の上から叫んで、声を届かせたその人物を見て思わず、目を丸くする。

 

「リト?」

 

そこには荒く息を吐き出す、ボクの友達(主人公)がそこにいた。




姉がどんな姿かは皆様にお任せします。

次回、リト視点で今までの白猫とこれからの白猫。
シリアスにもう少しだけお付き合いください。彼女がいつものように過ごせるように彼も頑張ってくれるでしょう。

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