ほしを焼くもの   作:青いカンテラ

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Chapter.01壁越え
Mission.01密航


「・・・来たか。時間通りで何よりだ」

 

 その場所にやって来た人物の顔を見て、『保管庫』で管理をしている白衣の男は呆れの混じった口調で言った。

 彼の目線の先に立っているのは、杖を突いたスーツ姿の壮年の男である。白混じりの灰色の髪を後ろに撫で付けているその男は、ある意味お得意様のようなものだ。

 

 その男が何の目的でここに来て、在庫を引き取っていくのか。その理由も目的も、白衣の男は知らない。知る必要がないのである。こちらとしては在庫処分の手間が省けてむしろ助かる。その程度の認識だった。

 

「617たちはその後どうだ? ハンドラー・ウォルター・・・いや、聞かずとも、か。解凍は済んでいる。こちらだ」

 

 男・・・ハンドラー・ウォルターが何か言うよりも前に、その背後から赤髪の女がひょこっと顔を出した。まるで名を呼ばれた犬が「自分のこと?」と出てきたかのようだ。

 

「617・・・待っていろと言ったはずだ」

「へへ、気になっちゃって」

「・・・。まあいい。だが見てもあまり面白いものでもないぞ」

 

 いつの間にかついて来ていた赤髪の女・・・617の行動にウォルターはため息をついて、白衣の男に続く。しばらく廊下を進むと、広い空間に出た。そこは様々な機械に囲まれた手術台が中心に置かれた大部屋だった。

 

 そしてさらに奥、手術台を見下ろすように、鈍色の鋼鉄の巨人―――アーマード・コアが胴体と頭部だけの状態で鎮座している。

 

「これは・・・」

 

 手術台に寝かされ、生命維持システムに繋がれている『ソレ』を見て、ウォルターは僅かに眉根に皺を寄せ、617は興味深げにしげしげと見つめている。

 

「・・・こども、か・・・」

「見た目はな。だが、これも()()()()には違いない」

 

 強化人間。かつてコーラルが盛んに研究され、多くの革新的技術(狂った成果)が生み出されていた頃に生み出された『成果』の一つであり、同時に『負の遺産』とも呼べるものである。

 

 強化人間とは神経の光ファイバー化や、脊椎のマルチコネクタ内蔵による機体センサとの直結、強烈なGに耐えるため人工臓器への置換、そしてコーラル物質の注入・・・人道を嘲笑い、尊厳を踏み躙る非人道的処置の数々により、特にAC―――アーマード・コア―――の操縦に特化されている。そして今ウォルターたちの前にいる『ソレ』は、その中でも()()()に分類される第四世代型だった。

 

 現在はコーラル物質に依存しない最新の第10世代強化人間が登場している。そんなニューエイジと呼ばれる最新型が出てくるより以前、強化人間技術がまだまだ研究途上だった頃には、行き場のない戦災孤児などが身売りされて素体にされることも珍しくはなかった。

 

「夢破れたり・・・あるいは、親に捨てられて食うに困ったか。まあ、事情などどうでもいいがね・・・。どうだね、これがお気に召さないなら他のものを解凍するが」

「その必要はない」

 

 即答であった。元より選り好みするつもりなどウォルターにはなかった。

 

 改めてその強化人間を見る。色の抜け落ちたような白髪に、浮き上がったアバラ。肌は青白く、死人のそれを思わせる。そして、何よりも()()()()()()

 

 事故にでもあったか・・・あるいは手術で失敗して切断でもしたか・・・普通の人間ならばACどころかMTに乗るにも苦労するだろうが、機体と神経接続できる強化人間ならば大した問題にはならない。

 

 それよりも、痩せすぎている方が問題だろう。強化人間が乗るACの戦闘機動は体に掛かる負担も大きい・・・。こちらについては改善が必要になってくるだろう。

 

「ウォルター・・・」

「ああ。起動しろ」

「あんたがそれでいいなら、かまわんがね・・・」

 

 白衣の男が端末を操作する。生命維持システムが強化人間―――C4-621の覚醒を促すために動き出す。

 

 細い管の束が外れていき、脳深部に埋め込まれたコーラル管理デバイスが起動する。コールドスリープで休眠していた脳機能が目覚めていく。

 

 621が薄っすらと瞼を上げた。感情の無い青い瞳が虚空を見つめる。

 

「ねえ、この子のナンバーは?」

「・・・621、だ」

「621か・・・なら、アタシの妹になるわけだ」

 

 ついさっきまで冷凍保存されていたためか、起動した(めざめた)ばかりの621の肌はひんやりとしている。その冷たい肌に自分の体温を分け与えるように、617は621の頬に手を添えて微笑んだ。

 

「初めまして、621。これからよろしくね」

 

 言葉による返答はない。その代わり、部屋の奥に鎮座していたアーマード・コアの頭部センサーが赤く明滅するのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ―――数年後

 

『ルビコンが近い。そいつを起こしてくれ』

<了解です。ハンドラー・ウォルター>

 

 一基の突入カプセルが惑星ルビコン3に降りようとしていた。いくつもの大型ブースターと分厚い耐熱殻からなる、いかにも急造品といった見た目のモノであり、機能も最低限しかない。だがそれで十分だ・・・。手早く『密航』を行うには身軽な方がいい。

 

<脳深部コーラル管理デバイス起動 強化人間C4-621覚醒しました>

 

 計器類のランプだけが僅かな光源になっているACの薄暗いコクピットの中、休息ではなく休眠していた意識が、スイッチを入れたかのようにパチリと覚醒する。

 

 外の様子は見えないが、コクピットを揺らす僅かな振動。特にこれといったトラブルもなく、目的地であるルビコン3のすぐそこに来たのだろう。

 

『621、仕事の時間だ』

 

 サブモニターの一つに光が灯り、低い男性の声が聞こえてきた。この数年ですっかり耳に馴染んだ声であり、聞き慣れたワードだった。

 

『突入カプセルの電源を落とす。後は合図を待て』

「りょうかい」

 

 こくりと頷き、じっとその時を待つ。揺れが大きくなり、何かに強く引っ張られるような感覚を全身で味わう。ルビコン3の重力圏に差し掛かったのだろう。

 

『・・・今だ、起動しろ』

 

 ACを介して突入カプセルを操作する。前部ブロックのブースターを全力で噴射。さらに揺れが大きくなり体にも強い負荷が掛かる。常人であれば気を失っているかもしれなかった。

 

 このままルビコンに到着するかと思われた矢先、コクピット内に警告のアラートが鳴り響いた。惑星封鎖機構の衛星砲に捕捉されている。回避を推奨すると。

 

 落下コースへと入った突入カプセルに、自力で軌道を変えるような機能は備わっていない。運良く掠めるか、直撃してもすぐさま切り離せる後部ブロックに当たるのを祈るしかなかった。

 

「・・・っ!」

 

 強い衝撃と共に後部ブロックが吹き飛んだ。大小様々な破片と共に突入カプセルがルビコンの空へと落下していく。ふいに引っ張られるような感覚が浮遊感へと変わり、そしてすぐに急速に落下している感覚へと変わった。

 

 爆砕ボルトが作動。空中でバラバラになっていくカプセルから一機のACが大空へと飛び出す。自由落下する中で見えたのは白い大地。どこまでも、どこまでも・・・まるで()()()()()かのように薄っすらと灰色がかったルビコンの大地。そしてその大地を覆う巨大な構造物群(グリッド)。そのうちの一つに、飛び込む。

 

<ISB2262惑星ルビコン3に到着>

 

 いくつもの鋼板をぶち抜き、何本もの配管を破壊し配線を引き千切って、ようやく着地した。かなりの速度でグリッドに飛び込んだことで、さすがに無傷というわけにもいかなかったものの、幸い大きな損傷はない。これならリペアキットで十分対応可能だ。

 

『グリッド135か・・・』

 

 ウォルターが現在地を確認する。僅かな間があり、彼は言葉を続けた。

 

『まだ修正が利く誤差の範囲だ。621、この先のカタパルトを使え。それで帳尻は合う』

「ん」

 

 メインシステム戦闘モードに移行。機体と体が有線で神経接続され、621の感覚がACのそれへと拡張される。150cmにも満たない体が、数メートル、十数メートルもの鋼鉄の体になるのだ。

 

 膝をついていた降着姿勢を解除。次いでブースタを吹かして大小様々なパイプが血管のように張り巡らされた空間を移動していく。頭部センサとカメラが、少し高い位置に通れそうな空間を発見。

 

 そちらに向かってブースターを使って飛び上がり、少し道なりに進んでいけば・・・広い空間へと出た。何本ものレールが伸びているのを見るに、資材の搬入や運び出しを行うための場所のようだ。

 

『ガードメカは排除しろ。動作の確認にもなる』

「りょうかい」

 

 スキャンを走らせる。レーダーに表示されたのは二脚タイプのガードメカが4機。物陰に伏兵がいるということもない。ガードメカたちは侵入者がいないかと周囲を警戒しているが、上方向への警戒は薄いのか、高い位置にいる621には気づいていない。

 

 ならば好都合と、普及型ライフルで先制攻撃をする。装甲の薄いガードメカはライフル弾一発の被弾でも致命傷になり、爆散する。その音で侵入者に気がついたらしい。少し離れた位置にいたMT数機がマシンガンを発射してくる。

 

 狙って撃つというよりは数による制圧を目的とした射撃。左右に動き、時には跳躍も交えて長く射線の上に留まらないよう動く。そうして被弾しないよう立ち回りながら、普及型ライフルで反撃、あるいはブーストで一気に近づいて左腕のパルスブレードを振るい斬り捨てる。

 

 数分と掛からずに敵を殲滅しさらに奥へと進むと、さきほどよりも数の多いガードメカがうろついていた。まずは数を減らすために右肩の4連装ミサイルを起動。マルチロック機能で複数の目標を同時にロックオン。発射された4つの弾頭は白い尾を引きながら飛翔し・・・爆発の花を4つ咲かせる。後はさきほどと同じだ。反応した残りの敵をスクラップに変えていく。

 

『機体が損傷している。修復しておけ』

 

 隔壁にアクセスして通路を進んでいると、ふいにウォルターからそう通信が入った。戦闘のものではなく、落下時に受けたものを言っているのだろう。リペアキットを使い、ダメージを回復しておく。少し機体(からだ)が軽くなった・・・気がする。

 

『見えるか? 621。お前にはあの汚染市街に降下してもらう』

 

 通路を抜けた先にあった目的のカタパルトにアクセス。起動させて乗り込み機体を固定させる。目標は汚染市街。アサルトブーストを長距離巡航モードへ。ジェネレーター出力を背部ブースターに集中。

 

 背後に板がせり上がってくる。機体を屈ませると、カタパルトが作動して空中に打ち出される。一発の弾丸のように。一筋の流星のように。

 

 空中に向かって伸びていたレールから飛び立ち、汚染市街へと向けて飛翔する。乱立したグリッドの支柱を潜り抜けると、一気に視界が開けた。白い大地とそれらを覆うように立つ巨大建造物。地平線の向こうから今まさに登ろうとしている太陽。その光を反射しキラキラと輝くのは大地に積もる灰混ざりの雪か。

 

 常人ならばこの景色を見てどう思うだろうか。感動し、見惚れるのだろうか。それともかつてこのルビコンを焼いた厄災の大火を思うのだろうか。

 

 621にはわからなかった。脳を焼かれ、感情もまた焦げ付き鈍くなっている621には。けれど、と脳裏にちらりと赤髪が過ぎる。

 

「617なら・・・きれい・・・だって・・・いう、はず・・・」

 

 短い間だったが、自分の教育係を務めていた彼女。同じ第四世代型ながら感情の豊かであった彼女ならば。きっと、そう言うだろう。

 

 

 

 

 

 




AC6、期間限定ショップはあるわ立体物はバシバシ出るわTRPG化も控えてるわで供給が、止まらねえ!!!!
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