気になる後輩と大好きな先輩   作:ジャスSS

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1.気になる後輩

 突然だが、私「八千代 瑞華(やちよ みずか)」には気になる人がいる。

 

 決して間違えないでほしいが、その子は別に"好きな男の子"などではない。

 

 ただ"気になる"だけだ。

 

 

 

 その子は中学校時代に同じ部活だった一歳下の後輩であるが、肝心な第一印象は"普通に良い子そ~"と平々凡々なもので。

 

 柔和な笑顔と素直な振る舞いが良く見えて──うん、ホントにそれだけだったと思う。

 

 この持ち合わせた印象から察してもらえるだろうが、正直最初は特に思い入れもないただの後輩だった。

 

 

 

 そんな、世の中でごく普通にありふれている印象が変わったのは──あれ? 

 

 

 

「私なんで好きになったんだっけ……?」

 

「気付いたら好きになったんでしょ? 理由なんてなしに」

 

「ち、ちがっ……! ってかそもそも好きじゃないし!」

 

「はいはい……好きって言ったのは瑞華のほうだけど」

 

 

 

 そう──そこに理由なんてものはなかった。

 

 あの子は少しおっとりというか、誰かが助けてやらなきゃいけないところがあって、自然と一緒にいることが多かった私が"仕方なく"世話してやっていたという"経緯"があっただけだ。

 

 思い入れが強くなるのは当然だし、むしろ否応なしに気にならせているのだから、むしろこっちは被害者──被害者──

 

 

 

「被害者って言い方は良くないか……」

 

「……瑞華、あんた祥斗くんのことになるとホントポンコツよね。 気持ち口に出し過ぎ」

 

「へ? 私何か言ったの?」

 

「……ごめん、本当に心配しちゃうんだけど、大丈夫?」

 

 

 

 ──何かヘンなことはしたと思うけど、あえて無視することにしておこう。

 

 腕組みを解き、目の前の見目麗しい女の子と再び相対する。

 

 

 

 あ、そういえば紹介し忘れてたけど、今私の話を頬杖立てながら聞いてくれてるこの子は「藤沢 雪菜(ふじさわ せつな)」。

 

 小学校の時からの親友で、当時クラスで少し浮いていた私に分け隔てなく接してくれてたという、かけがえのない恩人だ。

 

 少し私の扱いがぞんざいな気はするが、そんなところも含めて大切な人。

 

 そんな恩人に、今何故この話をしているのかというと。

 

 

 

「春から祥斗くん入学するって言うから、色々話は聞いてるけどさ……実際その時が来たときなんとかなるの? また同じ部活になりたいんでしょ?」

 

「"なりたい"んじゃなくて、"ならなきゃダメ"だって──」

 

「はいはい。 でもさ、あんた中等部から部活変わってるわけじゃん。 あの子が高等部でも吹奏楽やりたいとか言ってたらどうすることもできなくない?」

 

 

 

 そうだ──私とあの子を繋げた部活というものだが、今の私は中等部の頃と全く違う趣向の部活に入ってしまっている。

 

 故にこのままいってしまうとあの子は中等部と同じ吹奏楽部に入ってしまい、だけど誰かが世話しなきゃいけないから自然とあの子が部活内で浮いてしまい、いずれは大変なことに──なんてことも!? 

 

 いや、それは余りにも恐ろしい。

 

 身の毛もよだつ程の震えを感じたからには絶対に、阻止しなくてはならない。

 

 だからこそ私は今、彼を"安全な道"へ誘導しようと、大事な友達を動員してまでも頭を悩ませているのだ。

 

 

 

「何かしらの作戦とかは?」

 

「そんなのあったら相談しません」

 

 

 

 "だよね~"と言わんばかりに、苦笑いを浮かべながら諦めの頷きを見せる雪菜。

 

 そんな仕草を見せられると、こちら的には見返したい気持ちがやや沸き立つが、リベンジする知恵も閃きもありはしない以上沸かせた気持ちをそのままに保つ他ない。

 

 

 

「じゃあさ……茶道部ってどんな魅力あるのよ。 例えばアットホームだよ~~とかさ」

 

「アットホームさはそりゃあるけど、大したことしてないが故のアットホームさだよ? 中等部の練習と比較したら緩すぎて絶望感感じるよ?」

 

「その緩さにハマっているから今の瑞華がいるんでしょうに……」

 

 

 

 あの子は一応良い子でかつ根性もそれなりにあったから、比較的ガチ寄りな我が赤川学院中学吹奏楽部にもちゃんとついてこれていた。

 

 私が彼の部活選びで危機感を抱いているのも、そんなガチ環境に染まっているだろうなという想定があるから。

 

 故に今私が入っている茶道部でそれを凌駕できるだけの魅力を伝える必要があるのだが──汗を流す青春が体現されたような吹奏楽部に比べ、こちらの青春はゆるゆるお話と茶菓子を楽しむような”優雅な”青春で、環境差が酷すぎて大病を患うこと間違いなしなのだ。

 

 そしてそれは部活選びで選択肢から排除されることを意味し、即ち離れ離れになってしまうことにも直結する。

 

 

 

「やっぱりさ、無理に同じ部活にさせなくてもいいんじゃない? 部活違うからって縁が途切れるわけじゃないってのは、一年間学校毎違ってたあんたが証明してるんだし」

 

「私が今心配してるのは! あの子が浮いて困るようなことにならないかってこと! いくら部活外で時間共有できても、部活中だけはどうすることもできないでしょ!?」

 

 

 

 私が心配しているのはそこだけ。 学生における部活というのは、それだけウェイトが大きいというのは私がよく理解しているから。

 

 メラメラと燃えていた自身の中学時代を思い起こし、今のコメディに満ちた今の自分を見返した。

 

 

 

 

「でもあんたがいなかった一年、祥斗くん普通に過ごして無事に引退したっぽいけど?」

 

「……あ、新しい環境になるから……!」

 

「分かった分かった。 じゃあ逆に、あんたが吹部に入ったらどう? そんなに茶道部の良い所言えないんだったら、思い入れも何もないでしょ?」

 

「それはまあ、そうなんだけどさ……」

 

 

 

 やはりどう見繕っても、求めている答えには中々辿り着かず思考が窮してしまう。

 

 現実の私も縮こまった体勢になってしまい、実質的な議論の停滞を迎えてしまった。

 

 

 

 この状態を察してくれたのか、雪菜は彼女手作りのお弁当を包み、元の席へ戻る準備を始める。

 

 

 

 祥斗と、また一緒になる方法──

 

 

 

 一人難題への正答を導き出せない私は脳の処理スペースをそこに囚われ続けたまま、結局は同じようにお弁当を方し始めたのだった。

 

 

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