──結局、あの子を振り向かせる手段は思い浮かぶことなく数週間後。
気付けば桜が散り始めてしまう季節を迎えてしまい、私も高校一年生という身分から位を一つ上げてしまうように。
だけど私も雪菜も中身はなんら変わることなく、徒然なるままに今日を迎えているわけだから──
「結局、これからの一年も無味無臭で終わるのかしらね~」
頬をよく伸びる餅のようにだらけさせ、私は緩々な雰囲気を醸し出す部室の机に突っ伏していた。
「ちょっと、少し前までの威勢はどうしたのよ……大事な後輩の為に頑張ってた姿ちょっとカッコよかったのに」
「雪菜、この世界には抗うことのできない運命というものがあってね──」
有難い話をし始めようとした途端、はいはいという感じで雪菜は手を振って軽くあしらってしまった。
顎を支えに目の前を向いて喋ったというのに、なんと薄情な──いや、態度としては最悪だから仕方ないと言えば仕方ないが。
「でも皮肉なものね。 『茶道部の魅力を!』なんて言ってたあんたが、その魅力を発信する側に立つんだからさ」
「ははは……多少なりともいいとこ探しした甲斐があるってものね」
今この堕落を迎える少し前──俗に言う部活動紹介という行事の茶道部代表として、何故か私八千代が立ってしまったのだ。
もちろんこんな部活だから大それた中身などなく無難な形でプレゼンをこなしたが、その割に反応が良かったのは意外だった。
さり気ない努力が意味を為したように思えて、時間を置いた今でもニヤケようと思えばニヤケられるくらい嬉しさが込み上げてしまう。
「──それで、祥斗くんはどう?」
「あ、うん……」
その名前を聞いた刹那、それまでの5cmほど浮かれていた気持ちは地に着き、沈んだ声で相槌を打つだけになる。
そう。 あの子に届くような部の魅力自体は発せられていないだろうから結局、高校生活では離れ離れになることが増えてしまうのだろう。
はぁ残念──って違う。 あの子大丈夫なのかな──
「──まだ決まってるわけじゃないんだし、あとで適当に連絡でもしてみたら?」
「それはまあそうなんだけどさ……」
「え……」
曖昧な回答で返いたせいか、目の前から失望の目が突き刺さる。
「なに……まさか部活のことについては聞きにくい──とか言うんじゃないでしょうね? 普段は連絡取れるのに」
「いやだって、そこまで聞くのはちょっと、入れ込みすぎかなー……って……」
「いや何に遠慮してんのよ……」
雪菜の呆れようは最もだ。
それでも──ここで私が「部活どうするのー?」なんて聞くのは少し、いやとても恥ずかしいような気がする。
自分の身になって考えると、面倒な先輩だと思わざるを得ず、そう思われるのは──あまり想像したくもない図式だ。
故に今、私はぐずぐずして動かないという防衛行動を取っているわけであるが。
「はぁ……ほんと、この先も思いやられるわね……」
そう彼女が言うと、おもむろに私の机に放置されていた私のスマホに手を伸ばし、パスワードを打ち込めと言わんばかりにこちらへスマホを突きつけた。
何をするのだろう──関係が近いからこそ生まれていた機器扱いのルーズさも手伝ってロックを解除してやると、彼女はすぐさまこちらに見えないようにしつつフリック入力で何か打ち込む様子を見せた。
「ねえちょっと、なにしてんの」
私はここでようやく焦ったように立ち上がり、行為の全容を確認しようとする。
──そこでは、当の柏祥斗くんへのメッセージが映し出されていた。
「え? 何もしないから私が動いてやろうと──」
「なんでそんなことしてるの!?」
慌ててスマホを取り返そうと手を素早く伸ばす。
その動きの早さについていけなかったのか、スマホ自体はすぐに取り戻せたが。
『部活動さ、どうすんの?』
時既に遅し──自身の打ったものでない偽物のメッセージは送られていて、かつそれにはもう既読がついてしまっていた。
「なんでこんなに早いのよ……」
小声で呟いた一言は、目の前にいる入力名人とそれをすぐに読んでしまう後輩両方に向けられた恨み言だった。
──とはいえもう起きてしまった事項を悔いていても仕方がないわけで、今度は『私が』作る本物のメッセージで何を送ればいいか、必死に頭を回転させる。
『その、昔世話したっていうよしみで聞いてるだけだから』
捻り出した追加のメッセージはどうにも、相手側に勘ぐらせてしまうような方向にもっていくメッセージとなってしまった。
それに気付いた次の瞬間には更なる弁解の一手を考えていたが──その思考はすぐさま、部室のドアが開く音でシャットダウンされる。
「すみません。 ここって茶道部の部室で──あ! 先輩!」
そこにいたのは、私にとって間違いなく大切な人──そして今日の部活動紹介でターゲットとなった人物であった。
「し、祥斗くん……? なんでここに……」
とんでもない展開のオンパレードに脳が右往左往している状態が故、部室に入ってきている大切な大切な後輩に対して十分とはいえない言葉を投げかけることしかできない。
軽く頭がショートしてしまった私のことなど露知らず、彼はずんずんと近づいてくる。
そして遂には、パーソナルスペースなど知ったもんかという程まで距離を詰められ、軽く押し出されると抱き合ってしまう近さになってしまう。
「先輩、僕決めたんです」
出会った時まだ私より小さかった後輩の背丈は、いつの間にか私を追い抜き、顔半分ほどの差が生まれてしまっている。
私は首へ、彼はおでこへ、互いに容易く唇を付けるくらいについてしまった身長差には、悔しさという感情よりもずっと、ドキドキする心の方が大きいと感じさせらた。
いつの間にこんな大きく──なんていうのは、男の子が言われたくない言葉なのだろうか。
例えそうでなくても、今の私にはそうした逃げの言葉を発する余裕すらない。
「僕は──この茶道部に入りたいです」
──それは願ったり叶ったり。 向こう側からのラブコール。
雪菜だけしかいない部室がにわかに色めき立った中、その申し出を受けた一人の少女は、少しの間を紡いで答える。
「……えぇ。 もちろんいい──」
その刹那。
「ちょっと待ったぁ!」
耳をつんざく声が響いた。