女性が好きだ。
繊細な高い声、艶のある髪、柔らかな、どこを触れても滑らかな手触りの美しい肌。
彼女たちの愛を、私は欲してやまない。
同じ生き物なのか不思議に思う存在、それが私にとっての女性。
恨めしい、憎たらしい存在。
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父子家庭だった。
仕事熱心で、家庭に無関心だった父。
母は寂しさを埋めるように、知らない男と共に、離婚書と私を置いて家を出ていったのだ。
なぜ私を連れて行ってくれなかったのか、恨みもした、でもそれ以上に母が恋しくて、悲しくて、もう一度抱きしめて欲しかった。
時が過ぎ、父と私はより疎遠になった。
家のことは全てお手伝いさんに任せ、私と関わることはもはやなくなった。
母が家を出て行ってから数年。
私は中学生になった。
小学校の卒業式も、中学校の入学式も、誰も来てくれなかった。
埋まらない寂しさを抱える毎日、そんな日々を終らせられるきっかけを見つけた。
初めて家出をした。
見つけたのだ、父の書庫で見つけた手帳に書かれた、今の母の住む住所を。
父は、私がいなくなった事にいつ気づいてくれるだろうか。
気付いたとしても何もしてくれないかも知れないが。
交通機関を乗り継ぎ、母の住む住所へ向かった。
庭付きの小さな一軒家。
私の住む家よりずっと小さい。
インターホンを押す。
反応がない。
不在なのだろうか。
ぶらぶらと時間を潰すために付近を歩く。
母が普段歩いている道を今歩いている。
同じ場所にいる。
それが嬉しかった。
植木に囲まれた小さな公園を通る。
懐かしい声が聞こえた気がした。
心臓が早鐘を打つ。
聞こえた公園の門を通り、中へ進んでいく。
視界を遮る植え込みを避け、声の方へ。
「...は」
母がいた。
知らない子供がいた。
一度だけ、父と母が最後に話した時にいた男と、共に遊ぶ子供を、慈しむ目で見つめる母。
「は、ははは」
なんだこれは。
私が求めてやまない、あの目を向けられる幼い彼女は、なんなんだろうか。
殺意が、強い殺意が沸いた。
視界の先で、母と男に撫でられる彼女が、早足で一人どこかへ向かっていった。
公園の端の目立たない公衆トイレ。
彼女が入っていった場所をじっと見つめる。
ふらりと足が進み、そこへ入った。
個室に区切られ、その内の扉が一つ閉まっていた。
ここか。
扉の目の前に立つ。
水の流れる音が聞こえ、ついで便座の蓋を閉める音。
ガチャリと扉が開く。
勢いよく扉を掴み。
彼女を押し込み、自身も個室に入り込んだ。
「ひっ!?、だ、誰ですか?」
突然の出来事に瞳を潤ませ、震える声を無視し、両腕を彼女のその細い首に伸ばしていく。
「え、え、なに、なにするのお兄さん...」
喉に触れ首を掴んだ。
「ぶぇ」
力を込める。
腕を引っ掻かれるが、知ったことか。
どんどんと青ざめる顔。
口からはよだれが垂れ、端からは細かな泡を吹いている。
「お、がぁざん、たすけ」
どんっと、なにかに弾き飛ばされた。
壁に叩きつけられ、冷たい床に尻餅をつく。
次の瞬間、決死の形相の男が何事とか叫びながら、殴りかかってきたのだ。
大人の男の暴力はこんなに痛いのだと、始めて知った。
殴られ床に組み触れされる。
母の声が聞こえた。
必死に何か呼び掛ける声と共にこちらに向かってくる。
もう一度、抱きしめて欲しかった。
母はこちらに向かってくる。
そのまま、ああ。
私の横を通り過ぎ、彼女を抱きしめた。
目の前が暗くなり、涙が溢れそうになる。
「かあ、さん」
何が違うのか、同じ子供なのに、なぜ私を愛してくれないのか。
そうか母は、私が娘ではなく息子だったから、私を捨てたのか。
だってそうだろう?
彼女と私の違いなんで、性別しか無いんだから。
あぁ、女に生まれたかった。
娘がトイレに向かっていき、しばらく夫と二人だけの時間を過ごす。
目を離すべきではなく、まだ幼い娘を一人向かわせるべきではなかった。
最近は物騒だからと、夫と共に娘のいる場所へ向かった。
助けを求める声が聞こえた。
夫と私はすぐにその声が誰か気づき、無我夢中でその場所に向かった。
夫が娘を襲っていた青年を突き飛ばし、取り押さえた。
娘を抱きしめる。
幸い娘は無事だった。
取り押さえられた青年、どんな奴が大切な娘を害そうとしたのか、顔を向け。
「あ...」
自分の過去の罪が、罰を伴い返って来たのだと思った。
あの子だ。
私が捨てた、あの人との息子。
暗く澱んだ目で涙を流しこちらを見つめてくる彼。
「かあ、さん」
震える声で私を呼ぶ声が、私の過ちを咎められているようで、頭が真っ白になり、耐えられなくて、娘を抱いてその場から離れてしまった。
夫はその後警察を呼び、彼を引き渡したそうだ。
夫は、彼が誰だったのか察したようだった。
何も言わずに私に寄り添ってくれた。
私には愛する夫と娘がいる。
ならあの子は、、、愛している。
嘘だ。
最低だ、私。
あの人の元を離れてから一度もあの子に会おうとしなかったくせに。
一度も。
もう過去のことにしていた、あの子もあの人の元で幸せに生きているなんて、自分を言い聞かせて言い訳して。
怖かったのだ、あの子に責められるのが。
「おかーさん」
娘が私を呼ぶ。
その小さな体を抱き顔を寄せる。
「ごめんね、怖かったよね」
娘はくすぐったそうにして、しかし心配かけまいとはにかむ。
「ううん、お父さんとお母さんが助けてくれたから大丈夫」
その気丈な娘に、自身の愚かさと醜さをより感じ、耐え難かった。
封筒が届いた。
あの人から、彼をもう近づけさせないと、謝罪とそんな文がはいっていた。
手紙には、あの子は今回の出来事をとても反省していると、もう私たち家族に近づくことはしないと誓わせたと、そして最後に、彼に一度でもいいからと落ち着いた場所で会ってあげてくれと、書かれていた。
私はそれに承諾した。
後日、私は小さな落ち着いたカフェの一席に座っていた。
あと少しで、彼と会う。
どんな顔して会えばいいのかいまだに分からない。
でも、謝りたかった。
「母さん」
後ろから声がした。
可能な限り笑顔を作り、振り向いた。
彼は、その手にナイフを持って私に向かって来ていた。
「あっ」
腹の真ん中、肉を貫き血が溢れ出る。
「かあさん、かあさん」
彼が赤く濡れた手で私を抱きしめ、私を呼んだ。
「これで、ずっと私の、私だけの母さんになってくれるんだ」
瞼が重く、意識は遠く。
最後に夫と娘の顔が浮かんで。
「ごめん、ね」
----母さんは動かなくなった。
ざまあみろ
女ってずるいよな、なんであんな醜いのに、美しくて、綺麗なんだよ。