衛宮切嗣・高咲侑「NEO SKY, NEO MAP」 作:我来也
衛宮切嗣は、スクールアイドルのライブをきっかけに、日々の生活に少しずつ変化が訪れ始めた。彼の心には、これまでにない「光」が差し込み始めていた。
しかし、その一方で、過去の「影」が依然として彼の心を蝕んでいた。今まで自分のエゴで殺してきて、その人たちの犠牲を無駄にしないためにまた更なる犠牲を積み重ねてきたからだ。
そんな自分が違う世界とはいえ、今までと違うやり方に希望を見出していいのだろうか。彼らの犠牲は無駄にならないだろうか。
ある日切嗣は以前ライブをやっていた、東京のダイバーシティ辺りを好物のジャンクフードのハンバーガーを食べながら散歩していた。
ただ意味もなくここに来たわけじゃなく、またここであの子たちがライブをやっているかもしれないと思い、ここにまたやって来た。
だが、周りを見渡したり、耳を澄ませてもライブをやってるような感じはない。
(今日はあの子たち、ライブはやらないのか…。)
仕方ない、今日は帰ろうとしたところライブではないが気になる単語をを発する女の子たちの声が聴こえた。
「虹ヶ咲スクールアイドル同好会でーす!今度ライブをやりまーす!よろしくお願いします!」
(ん…?ライブ?)
どことなく聴き覚えのある声だが、それ以上に“ライブ”という単語が重要で声のする方へ向かう。
「今度ライブをやりまーす!どうぞっ!って、あっ!あの時のおじさん!」
「おっ、君はあの時のお嬢ちゃん。」
声を大きくしてチラシ配りをしていたのは以前声をかけてくれたツインテールの子──高咲侑だ。
「おじさん、今度またライブをやるんだー!また観に来てよ!」
と、ライブに関するチラシを切嗣に渡す。
「そうなのかい?それならまた観に行かないとだね。」
切嗣はそう言い、貰ったチラシを確認する。
今度行うライブはあの子たちだけじゃなく他の学校のスクールアイドルも出演するようで曰く、合同ライブ”というやつだ。
「今度のライブは、なんだが大規模なライブになりそうだね。」
「そうなんですよー!今回のライブはうちの虹ヶ咲だけじゃなくて東雲学院と藤黄学園、それ以外の沢山の学校のスクールアイドルたちが参加するんですよ!」
テンションが上がってるのか切嗣に前のめりになって高咲侑は熱く語り始めようとしていた。
このままの流れだと間違いなく長時間コース…。しかも絵面がマズイ。このままだとおっさんの僕がいたいけな女子高生をナンパしてたと思われても仕方ない。
ライブが今度ある事が分かった。それだけで十分だ。あとは上手に切り抜けなければ…。
「と、そんな事よりいいのかい?今度のライブに向けて、そのチラシを沢山配らないといけないんだよね…?」
「あ、そうでした…えへへ。おじさん今度のライブも絶対観にきてね!またね!」
高咲はバイバイっと手を振りその場を後にし走り去っていく。まるで嵐のような子だ。
切嗣はもう一度貰ったチラシを確認する。あの子は虹ヶ咲の学校だと言っていた。
(虹ヶ咲…確か女子校だったはず。)
別に学校に潜入するわけでもないのに、なぜか彼女の学校を確認していた。“虹ヶ咲”、まるで虹のように希望が咲いていくような感じの学校名だ。
ふと切嗣はそんな学校を一度見てみたいと一瞬思ってしまう。
(馬鹿か。そもそも学校の校舎を見て一体何になるんだ。第一、女子校なんだ。不審者に思われてしまう。)
ベンチに座りまだ食べ残っていたハンバーガーを食べ切り、そんな彼女たちに関して興味を抱く。
(歳のせいかな…好物のはずなのに食べるのがやっとになってきた。それに少し眠たくなってきた。)
外は程よい気温、日差しはいい感じに暖かく時々吹く風は涼しい。
食後も相待ってベンチに座ったまま少し寝ることにした。かつての世界でならきっとしなかっただろう不用心さだ。でも平和というのがこういうことにも繋がるのならいいのかもしれない。
────────
少し寝ようと思ってたつもりが1時間程寝てしまっていた。眠気はしっかりとれたが首周りがその分ガチガチに凝ってしまった。
首や肩を動かし、固まった筋肉を解していく。ふと隣に横になって気持ちよさそうに寝てる女子高生がいた。
ご丁寧な事にマイ枕を使っている。
「スヤー…スヤー…」
「……。」
僕と同じで昼寝をしてる。時刻はまだ昼間。これが夕方や夜なら起こす必要があるがその必要はなさそうだ。だが、こんな無防備な女子高生を1人ベンチで放置させる訳にはいかない。
寝起きにタバコでも吸おうと思っていたが寝てる女子高生のことも考え吸うのを諦め、ぼーっとベンチでしばらく過ごすことになった。
時刻は夕方になり少し外で寝るには少し肌寒く感じる頃だ。
コートをこの子にかけても良かったが、それだとこの子が起きるのが夜になる可能性がある。それだと流石に困る為、敢えて何もかけずに肌寒さで目を覚ますのを密かに期待している。
(にしてもこの子、よく気持ちよさそうに寝てるな…。)
まるで猫のようだと思う切嗣。すると誰かの名前を呼ぶ声が聴こえる。どうやら誰かを探してるような感じだ。
「彼方さーん!彼方さーーん!」
探してる声の主はチラシを渡してくれたツインテールの子だ。
寝てる女の子のことも心配で気にはなるが、そこまで遠くない距離にいるツインテールの子のところまで走って呼ぶ。
「おーい!そこのお嬢ちゃん!」
「えっ…?あっ…!?さっきのおじさん!どうしたんですか?」
いきなり男性から声をかけられて、不審者かと思い警戒されていたが、自分を呼ぶ声の正体が、さっきチラシを渡したおじさんだと分かると幾分かは安心し自分から声をかけていた。
最初の「えっ…?」という警戒心マックスの声色を聴き多少のショックもあったが、女子高生に声をかける中年のおっさん、しかも服装が黒統一じゃ仕方ないのかもしれない。と思う切嗣。
「人を探してるようだけど、もしかしてあそこで寝てる人じゃないのかなと思ってね。」
「え…?あっ!ホントだ…!彼方さーん!ほらもう起きてぇ〜!もう夜になりますよ!」
「ん〜……。ふあぁ…あっ侑ちゃん…おはよぅ〜。」
「おはようございます。ほら彼方さん、頑張って起きてください!」
「ん〜…もう少し待ってね…今…頑張って…起きるから…!」
2人のやり取りを見ていた切嗣はこのままだと無駄に時間を食うだけだと思い近くの自販機まで向かい温かいココアを2つ、ブラックコーヒーを1つ買い先ほどのベンチの所まで向かいココアを渡すことにした。
「これを飲むと眠気も飛ぶんじゃないかな?どうぞ。お嬢ちゃんも一緒に。」
「えっ?良いんですか?ありがとうございます。」
「すみません…ありがとうございます。」
ツインテールの子と眠り姫が礼を言い暖かいココアを飲む。切嗣もコーヒーを開け飲み始め懐にしまってるタバコを取り出そうとしたところで思い出し、吸いたかったタバコを懐に戻す。
代わりに綺麗な夕焼け姿の海辺を見てコーヒーの美味しさを噛み締める。
そしてふと言葉がもれる。
「ああ、今日も綺麗な夕焼けだ。」
何気ない一言というより、まるで心の底から思ってるように聞こえた。仮に心の底から言ってるわけではないのならそれは言葉の重みが違うと言えるだろうか。
「おじさんって不思議な人ですね。」
「え?」
「……私、“高咲侑”っていいます。おじさんの名前はなんていうんですか?」
切嗣の不思議なところの詳細を答えることをしなかったが、代わりに名前を尋ねてきた。
まるでその詳細を答えるのを誤魔化すように。しかしそこを突っ込む事はしなかった。
相手の女子高生が名前を教えてくれた上に名前を聞かれても困る理由はない。むしろここで変な応え方をする方がおかしい。だから至って普通に応える。
「僕の名前はね、切嗣…“衛宮切嗣”っていうんだ。」
「衛宮…切嗣…。切嗣さんっていうんだね、おじさん。」
「あはは、名前を教えたのに結局おじさん呼ばわりか…!なら僕も侑ちゃんの事をお嬢ちゃんって呼ばせてもらおうかな。」
「うわー!それは何か恥ずかしいからダメー!」
切嗣のちょっと大人な揶揄いに侑は負けてしまう。なんだか年相応な可愛さがあるなって思う切嗣。
さて、と切嗣は缶コーヒーを飲み干し会話を続ける。
「もう高校生の君たちは帰る時間だよ?」
「あ、はい。そうですね、彼方さん今日はLINEグループに連絡して一緒に帰りましょー?」
「そうだね…!今日はもう帰って明日頑張ろう〜!」
今日はありがとうございました。と侑と“彼方”と呼ばれる眠り姫は帰路につく。さて自分も帰ろうと思い少し歩き始めたところ、「すみませーん!切嗣のおじさ〜ん!」と手を大きく振ってこちらに走ってきた侑が戻ってきた。
一体何かあったのかと思い「どうしたんだい?」と聞くと
「あ、あの…!連絡先教えてくれませんか?」
「え…!?」
「えっ…いや、あの、今度ライブにまたきてくれるんですよね?良かったら私が色々案内したくって!」
「え?いやーそれなら待ち合わせの場所と時間を予め決めてれば…!」
「当日私色々なところに行ってチラシを配ったり裏方に回ることが多くてそれが難しいんです!だから連絡先教えて下さい!」
それなら僕と一緒にライブ会場を回るのはやめた方がいいんじゃないかな?って思っていたが、彼女のその気持ちを無下に出来なかった。彼女なら色々なスクールアイドルについて質問してもちゃんと応えてくれそうだ。
僕はこの世界で買ったスマホを侑に見せる。
「これで良いかな?」
「はい、ありがとうございます。えとLINEも教えてもらっても良いですか?」
「ライン…?」
「おじさん、LINE知らないんですか?」
侑が僕の隣に来て僕のスマホの画面を確認する。警戒心がないのか、こんなおじさんに対して何も思わないのか距離感が異常に近く腕越しに侑の胸や体が当たる。
(おいおい、この子は同級生の男子にも同じようなことをしていたんじゃないだろうな…。)
もししていたら、なんという魔性の女。高校は女子校だから問題ないが中学校が共学なら何人もの男子が勘違いを起こし死地に送り込まれていただろうか。
そんな切嗣らしからぬことを考えていると、どうやら僕はLINEをダウンロードしていないらしく、この際だからダウンロードしてLINEのアカウントを登録しちゃいましょう!と侑が提案する。
このまま、のらりくらり誤魔化してもわざわざ帰りの途中走ってここまできた女の子だ。絶対LINEを登録しないといけなさそうだ。
切嗣は分かったよ。と言い、LINEをダウンロードし侑のサポートもあって順調にアカウント作成や一通りのやり方を教えてもらった。
「にひひ、これで友達登録完了だよ!私が最初の友達だね!」
「そうだね。まっ、他に知り合いがいるわけじゃないから今後も友達は侑ちゃん1人しかいなさそうだけど。」
「うー、それはそれで嬉しいような悲しいような…。」
「…っと、そんなことよりそろそろ帰らなくてもいいのかい?眠り姫が待ってると思うけど…。」
どうやらもう1人の存在を少し忘れていたらしい。「あっ!」と言った後またね、おじさん。と一言挨拶をした後走ってまた帰路についた。
今度こそ僕も帰ろう。そう思い、夕食のジャンクフードを買い衛宮邸に着いたのだった。
こりゃあ、侑√だぁ。