衛宮切嗣・高咲侑「NEO SKY, NEO MAP」   作:我来也

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第5話

 侑がそう言いながら勢いよく立ち上がり、切嗣の手を握って彼を連れ出そうとする姿に、切嗣は一瞬戸惑いを隠せなかった。彼女のエネルギッシュな姿勢、そしてそのまっすぐな眼差しに、彼はどこか抗えないものを感じていた。普段なら、このような突発的な行動に巻き込まれることは避けるが、侑の言葉と行動には、何か強い引力があった。

 

「…侑ちゃん。君は、何を考えているんだい?」

 

 切嗣は一瞬、冷静にそう問いかけた。しかし、侑はただ笑顔で答えるだけだった。

 

「おじさん、スクールアイドル展って見たことないでしょ?今日は一緒に行くんだから!」

 

 そう言って彼女は切嗣の手を引っ張り、外に向かって歩き始めた。彼女の手の温かさと、その力強さに、切嗣はしばし言葉を失った。どこかで「断るべきだ」と思っていたにもかかわらず、彼は抵抗することなく、その流れに身を任せていた。

 

 カフェを出て、侑と切嗣はスクールアイドル展へ向かっていた。侑は切嗣の手を引き、彼の背中に時折振り返りながら、「もう少しだから!」と何度も元気よく声をかけていた。

 

 スクールアイドル展は、近くの大型イベントホールで行われており、数々のスクールアイドルに関する展示やステージパフォーマンスが行われている。ホールの入口が見えてくると、そこにはすでに多くの人々が列を作り、カラフルなポスターや旗が目を引いていた。

 

「ここがスクールアイドル展だよ! すごいでしょ?」

 

 侑は目を輝かせながら、切嗣にそう言った。

 

 切嗣は、少し驚いたようにその場を見渡した。スクールアイドルに対する熱狂的な支持と活気あふれる雰囲気に、彼は思わず感心する。

 

「いやー、凄いな。“スクールアイドル”ってこんなに人気があるだね。」

 

「そうだよ! みんな夢を追いかけて頑張ってるんです!それを応援するために、こんなに多くの人が集まってるんですよ!」

 

 侑の言葉に切嗣は何かを思い出すように、遠い目をしていた。彼は、かつて自分が追いかけていた「夢」について考えずにはいられなかった。自分もかつては夢を持ち、それを実現しようとした。しかし、その夢は、結果的に多くの犠牲を生んだ…。

 

 侑はその切嗣の様子に気づいたが、あえて何も言わず、手を引きながら会場へと向かった。

 

 スクールアイドル展に入ると、色とりどりの衣装や写真、映像が展示されており、それぞれのスクールアイドルグループの成長や活動の軌跡が描かれていた。会場内は賑やかで、多くのファンが展示物に見入ったり、記念撮影をしていたりと、活気に満ちていた。

 

「ここはスクールアイドルたちがどんな風に努力して、夢を叶えようとしているのかがわかるんですよ。見てください、この写真! これ、せつ菜ちゃんのライブ写真です!」

 

 侑は興奮しながら、展示された写真を指差して説明する。

 

 切嗣も写真を眺めるが、その表情にはどこか曇りが見えた。彼は、スクールアイドルたちの輝かしい成功と、その裏にある努力を理解しているようで、でも自分の過去がそれと重なり、心の中で苦しみを覚えていた。

 

 その時、侑のスマートフォンがポケットで振動した。画面を確認すると、歩夢からのメッセージが表示されていた。

 

『侑ちゃん、今どこにいるの?私たちもう集まってるんだけど…』

 

 歩夢たちと今日は一緒に遊ぶ予定だったことを思い出した侑は、すっかりそのことを忘れてしまっていた。思わず「あ!」と小さな声をあげ、すぐに返信を打ち始めた。

 

『ごめんね、今スクールアイドル展にいるの!もうすぐ行くから!』

 

 返信を送るが侑は悩む。今は切嗣と一緒にスクールアイドル展に入ったばっかり。しかも私が強引に此処へ連れてきてしまった。それがまた自分の都合で入ったばっかりのお店でバイバイとお別れをするのは如何なものか…。だが、元々遊ぶ予定だった歩夢たちの予定をキャンセルする訳にもいかない…。

 どうしたものか、と1人で悩んでるところに切嗣が「どうかしたのかい?」と声をかける。

 侑は切嗣の方を向いて申し訳なさそうに笑った。「えーっと…この後友だちと遊ぶ予定だったんだけど、私がうっかり忘れちゃってて…さっき友達から連絡きて思い出しちゃって…」

 

 その時、背後から聞き慣れた声が響いた。

 

「あ、侑ちゃんいた!」

 

侑が振り返ると、そこには歩夢が立っていた。彼女は少しだけ息を切らしながらも、笑顔を見せていた。

 

「あ、歩夢!」

 

「良かった〜!まだここにいたんだね。もぅ、皆待ってるよ!」

 

 歩夢は侑に軽く笑いかけたが、次の瞬間、彼女の視線は侑の隣にいる切嗣へと移った。その瞬間、歩夢の表情が少しだけ緊張したものに変わった。

 

「えっと…あなたは?」

 

 歩夢の質問に、侑は少しだけ戸惑ったが、すぐに答えた。

 

「あ、えっと…おじさんは、切嗣さんっていう名前でちょっと一緒に見に来てもらったんだ。なんかスクールアイドルに興味を持ってくれてるみたいで!」

 

 切嗣は軽く会釈し、「どうも」とだけ言った。その冷静でどこか物憂げな表情に、歩夢はさらに不気味な気持ちを抱いたが、それ以上深くは尋ねなかった。

 だけど、これ以上私の、私たちの侑ちゃんを危ない目に合わせたくない一心で侑と切嗣を引き離そうとする。

 

「そっか…じゃあ、みんなも集まってるし、侑ちゃん早く行こ?」歩夢はそう言って、切嗣を見つめた。“これ以上この子と関わるのはやめて”と言葉にはしないがそんな思いが含まれてる気がした。

 

(あはは…こりゃあ、嫌われちゃったみたいだ…。)

 

 理解や納得はしていてもいざこうして嫌われた実感を得るとどこか悲しい気分になる。

 

「えっ?でも…あ、そうだ!おじさんも一緒に私たちと遊ぼ!」

 

 侑はそう言った。彼女の誘いには純粋な好意が含まれていたが、切嗣と歩夢は内心穏やかではない。

 切嗣からしたら侑に加えて他の女子高生と一緒に街を出歩くのは周りの視線が気になって仕方がない。

 歩夢からすれば、こんな不審な人と侑ちゃんだけじゃなく他の人と関わらせるのは如何なものかと思う。

 

 切嗣はゆっくりと首を振り断る。

 

「いや、今日はここまでにしておこう。侑ちゃんには楽しんでもらいたいし、僕はちょっと他に用があるのを思い出したしね。」

 

 そう言って切嗣は、再び微かに笑った。しかし、その笑みにはやはりどこか儚さが漂っていた。

 切嗣はそう言って、ゆっくりと歩き出した。彼の後ろ姿を見送りながら、侑と歩夢はしばらく無言で立ち尽くしていた。

 

「侑ちゃん早く行こ?」

 

 歩夢がぽつりと呟いた。

 

侑は頷きつつも、どこか寂しそうに「おじさん…」と呟く。

 

 その後、歩夢と侑は他の仲間たちと合流し、スクールアイドル展を楽しむことになった。だが、侑の心には、切嗣との短い交流が何か深く刻まれていた。彼の過去、彼の苦しみ、その背後にあるもの。すべてが謎に包まれているが、どこかで彼のことをもっと知りたいという思いが湧き上がってきた。

 

 切嗣の影は、遠くへ消えていく。しかし、その姿は侑の心の中に深く刻まれ、彼女のこれからの道にも影響を与えるものとなるかもしれない。

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