Fantasy Colors──幻想のライ── 作:isizu8
「みんなが僕を……忘れますように」
少年は願った。
二度と巻き込まないように……誰も悲しませないように……
――全ては、幻であるように――
――全ては、泡沫の夢であるように――
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Fantasy Colors——幻想のライ——
第一部『超常異変』
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「九百九十八……九百九十九……」
ここは冥界……死者が成仏か転生するまでの間を幽霊として過ごす世界。
「……千!」
そんな死者や霊が暮らす冥界で、今日も一人の少女が剣の修業に明け暮れていた。
「ふぅ……」
その少女の名は魂魄妖夢。彼女は純粋な人間ではなく、半人半霊……つまりは人間と幽霊のハーフである。
「幽々子様のお世話もしなきゃですし、今日はこのくらいにしておきましょうか」
妖夢が稽古を終え帰宅の準備をしている時、少し離れた場所で人間のものでは無い獰猛な声が木霊した。
「あれは妖怪? あんなに集まって何をしているのでしょう」
気になってその声の元へ近づくと、そこには一人の人間を取り囲んでいる妖怪の群れがいた。妖怪たちは今にもその人間を食べようとしている様子であった。
「大変! 助けないと!!!」
彼女は妖怪の群れを次々と切り伏せ、倒れていた人間を救出した。
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そして翌日。
妖夢によって救出された少年は彼女の住処『白玉楼』で目を覚ました。
「ここは……?」
目を覚ました少年は辺りを見渡す。そこに広がるのは桜の木の立ち並ぶ美しい庭園。その奥には立派な屋敷が建っており、一見しただけならお金持ちの豪邸にしか見えない。しかし、周りの雰囲気はまるで人気が無く不気味なものであり、この少年もそれを何となく感じ取っていた。
「あら、目が覚めたのね」
しばらくその光景を眺めていると、穏やかそうな雰囲気を纏った女性が彼に近づき話しかけてきた。
「貴女は?」
「私は幽々子、西行寺幽々子よ。よろしくね♪ それで貴方は?」
「僕はライ……だと思う」
彼は自身の『ライ』という名前を自身なさげに答える。
「ライって言うの? 自分のことなのに変わった言い方をするのね」
幽々子は首を傾げながらそう言った。そんな彼女にライは続けて言葉を紡ぐ。
「分からないんだ、自分の事が」
「えっ?」
「思い出せないんだ。自分が何者なのかを……」
「記憶喪失ということかしら?」
「どうやら、そうみたいだ」
「あらあら、それは困ったわねぇ」
幽々子は頬に手を当てて困惑の表情を浮かべる。どうしたものかと悩み始めた彼女に突如として声が掛けられる。
「幽々子様、朝食が……あっ、目が覚めたんですね!」
声の正体は妖夢。昨日ライを助けた少女である。朝食の準備が出来たため幽々子を呼ぼうとした彼女であったが、ライの存在を確認すると少し驚いた様子で声をかける。
「ああ。えっと、君は……」
「申し遅れました。私は魂魄妖夢と申します」
「彼女が昨日倒れていた貴方を助けたのよ」
幽々子の返答を聞いて、今一つ自身の状況を把握しきれていないライであったが、冗談や嘘を吐いている様子ではないと察して妖夢に感謝の言葉を述べる。
「そうだったのか。助けてくれてありがとう」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ。でもどうしてあんなところで倒れていたんですか?」
「それは……」
「覚えていないみたいよ? 彼、記憶喪失らしいの」
「えっ?」
「ああ。だからなぜ倒れていたかもよく分からないんだ」
「それは……災難でしたね」
記憶喪失という想定外の返答に驚く妖夢だったが、ライの境遇を気遣い哀れむ。
「他に何か覚えていることはありますか?」
「日常生活に必要なことは大体わかる。後はライという名前くらいかな」
「ふむふむ、ライさんですか……ライさんは幻想郷という言葉に聞き覚えはありますか?」
「幻想郷? いや、分からないな」
「幻想郷を知らない、ということは」
「外来人、という事かしらね?」
妖夢と幽々子が顔を見合わせる。何の話をしているのだろうかと疑問符を浮かべるライに妖夢が幻想郷や外来人について話し始めた。
幻想郷……それは、結界で覆われている外の世界から忘れられたものや、存在が幻想となったものが辿り着く場所。妖怪や妖精などの人間以外の存在が暮らしているため、人間にとっては非常に危険な場所でもある。
そして外来人というのは何らかの理由で外の世界から幻想郷に迷い込んでしまった人間の事である。
「とにかく助けてくれてありがとう。この恩はいずれ返すよ……それじゃあ僕はこれで」
幻想郷についてある程度理解したライは、やがて意を決して妖夢達に頭を下げこの場から立ち去ろうとする。
「えっ?! どこへ行くのですか?」
「僕なりに記憶の手掛かりを探してみるよ」
「ですが外は妖怪もいますから、一人で武器も持たずに出歩くのは危険ですよ? 昨日、倒れていた貴方を食べようとしてましたし」
「そうだったのか……うーん」
自分が食べられそうになっていたという事実に内心少なからずショックを受けつつも、何とかして記憶の手掛かりを探ろうと思考を巡らせる。そんなライを見て幽々子は優しく声をかける。
「だったら、ここに居ればいいんじゃない?」
「えっ?」
「だから、記憶が戻るまでここに居ればいいじゃないかってこと。記憶が無いのだから当てなんて無いでしょう?」
「いや、流石にこれ以上迷惑は掛けられない」
幽々子からの思いもよらぬ提案にライは遠慮した。
「あら? 別に迷惑だなんて思っていないわよ。人は多い方が楽しいし、記憶が無いのは色々と不安でしょうから」
「そうですよ! このまま放ってなんておけません!」
だが、そんなライに幽々子はさらに言葉を重ね、妖夢もそれに同調する。
「だが、本当に良いのか?」
「ええ♪」
「もちろんです!」
二人の瞳に嘘は感じられない。本当に自分を歓迎しているようにも感じられる。だが、初対面の人間に対してここまで親切にしてくれるものだろうか? そんな疑問が一瞬だけライの頭を過った。しかし、そんな考えを振り払うと彼は幽々子達に改めて向き直り感謝の言葉を述べる。
「ありがとう――」
ライがお礼を言った瞬間、安心感からなのか突然彼のお腹が鳴りだした。二人はそんな彼を見てクスクスと笑い出した。
「とりあえず、朝ごはんにしましょうか」
「ふふっ、そうね♪」
「……お世話になります」
ライは頬を赤く染めながら、二人と共に屋敷の中へと入っていった。
こうして、ライの白玉楼での生活が始まったのだった。