Fantasy Colors──幻想のライ──   作:isizu8

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幻想郷の人々

いくら幻想郷が人間にとって危険な場所とはいえ、記憶を取り戻すためこのままじっとしていることも出来ない。

ライは朝食を食べ終えた後、護衛兼案内役の妖夢も連れてこの幻想郷で人間が住む里へ訪れていた。

 

「驚いたな……まさか本当に冥界から現世へ移動できるなんて」

「もともとは現世と冥界の間には結界が張られていたんですけど、今ではお花見の名所になっていたりもするんですよね」

「花見? 幻想郷は平和なのか物騒なのか今一つ分からないな」

「あはは……」

 

この幻想郷では現世と冥界の間には結界が張られていた。しかし現在は現世と冥界の結界に穴が空き、行き来が容易となっている。

ライは苦笑する妖夢を見た後、その横に浮いている白い球体に視線を向けた。

 

「ずっと気になっていたんだが、妖夢の隣で浮いているのは……」

「これですか? これは半霊ですよ。私の半身ですね」

 

半身という言葉を聞いてライが首を傾げる。その疑問は予想していたのか妖夢が続けて答える。

 

「私は半人半霊なんです」

「ハーフってことか? 人間と幽霊の」

 

「そうです」と妖夢が頷く。霊といった存在が可視化できていること自体が驚くべきところではあるが、そのハーフが存在するという事実にライは「もはや何でもありだな」と答えた。

 

「それはそうと、確かこの人里で阿求って人に会えば良いんだよな?」

「はい。もしも他の外来人がここを訪れていれば、阿求さんの所にも何か情報が入っているかもしれませんから」

 

ライは現在、他の外来人を探している。自身が外の世界から来た可能性がある以上もしも他に外来人が訪れており、あわよくばそれが自分を知っている人物だとしたら、失った記憶の手掛かりに一気に近づくと考えた。

 

他の外来人といえば『東風谷早苗』という少女が居るが、彼女はライが来るよりも随分前に幻想郷に来ており、その彼女からもライという人物の話を一度も聞いていないことから関りは薄いもしくは無いと妖夢は考えていた。そのことは当然ライにも話したが、彼自身も早苗という少女には全く心当たりが無く何かを思い出す素振りも無かった。

そして早苗のいる『守矢神社』の場所は妖怪の山にあり、そこまでの道のりは険しく妖夢が護衛で付いていたとしても今のライには危険過ぎる。

そこで比較的安全な場所にある、人里の名家『稗田家』当主である『稗田阿求』ならば何か知っているのではないかと妖夢の提案で人里まで向かったのだ。

 

「ごめんくださーい!」

 

そして稗田家までたどり着き、妖夢が声を掛ける。名家と言われるぐらいだから何の約束もなしに取り次いでくれるものだろうかと感じていたが、思いの他すんなり通してくれた。そして少し待つとやがて稗田阿求その人が現れた。

 

「お久しぶりです、妖夢さん。それと貴方が外来人の……」

「ライと言います。よろしくお願いします」

「ライさんですね? 私は稗田阿求と申します。こちらこそよろしくお願いします。それで、今日はどのようなご用件で?」

「えっと、実は……」

 

妖夢はこれまでの経緯を阿求に話し始めた。

 

「ふむふむ……ライさんは記憶喪失で外来人かもしれないと」

「ええ。それでもしかしたら人里にライさんを知っている他の外来人が来ていないかと思いまして。何か知りませんか?」

「残念ですが、ここ最近そういった情報は無いですね」

 

阿求の答えはライが期待していたものとは異なっていた。

 

「お力になれず申し訳ないです」

「いえ、気にしないでください。お話が聞けただけでも有難いですから」

「そう言って頂けると助かります……」

 

申し訳なさそうに謝る阿求に対してライがそう返答する。

そんなライの様子を見て哀れに感じた阿求は、何か出来ることは無いだろうかと考える。そして思いついたことをそのまま言葉に出す。

 

「あっ、そういえば霊夢さんには会いましたか?」

 

阿求にそう問われライは首をいいえと横に振る。それを見ると彼女は続きを話す。

 

「博麗神社という所に博麗霊夢という巫女さんが居るのですよ。彼女は異変解決の専門家ですから、何か知っているかもしれません」

 

新たな情報を得たことによって、多少落ち込んでいたライの心に希望の光が灯る。その様子に安心感を覚えた阿求は続きを話す。

 

「神社はこの里から東に行ったところにありますよ。えっと、地図は……」

「それなら私が案内しますよ。博麗神社なら私も何度か行ったことがありますから」

 

阿求が地図を探そうと席を立とうとしたとき、妖夢が名乗り出た。妖夢が案内してくれるというなら心強いとライは案内をお願いした。

 

「この周辺の妖怪は人間をむやみに襲うことは無いのですが、一応気を付けてくださいね」

「はい。今日は話を聞いてくれてありがとうございました。では」

 

阿求の忠告を受け、2人は稗田家を後にし、里を出て霊夢が住むという博麗神社へと歩き出した。

 

そして妖夢の付き添いもあって、博麗神社には大した危険もなく到着した。

二人は神社の前にある長い階段を上ると鳥居を潜りきり一息ついた。

 

「ふぅ……ようやく着きましたね」

「妖夢は飛べるんだから、先に言ってくれても良かったのに」

「そんな! ライさんを置いて先には行けませんよ」

「妖夢は優しいな。とはいえ、僕一人が飛べないというのも少し不便だな」

「でしたら修行してみますか? もしかしたら飛べるかもしれませんよ?」

「そうだな。気が向いたらやってみるよ」

「修行するときは言ってくださいね。私もお手伝いしますから!」

 

一体何の修行をしたらそんなことが可能になるのだろうかと疑問を持つライであったが、妖夢が純粋な眼を見てきたため、その疑問を口にすることは出来なかった。そうして暫し二人が談笑していると、やがて神社の中から不機嫌そうな顔をした少女が現れた。

 

「ったく、人ん家でうるさいわね……って妖夢? てっきり魔理沙でも来たのかと思ったけど」

「あっ、霊夢さん。お久しぶりです」

 

その少女の正体は博麗霊夢。この博麗神社の主である。

 

「久しぶり。それで何の用? そこにいる彼氏でも見せびらかしに来たわけ?」

「彼氏?! 違いますよ! 彼はその……」

 

霊夢の突然の爆弾発言に、妖夢は顔を真っ赤にして驚き慌てて答えようとするも上手く言葉が出せなかった。

 

「じゃあ兄妹?」

「それも違いますよぉ。この方はライさんといって……」

 

何とか落ち着きを取り戻した妖夢はライと共に今までの経緯を霊夢に語る。

 

「なるほどね。残念だけど、新しい外来人の情報なんて無いわね」

「やっぱりそうですか……」

 

人里でそれらしき情報が無かった時点でおおよそ予想はついていたのか、余り落胆はしていなかった。

 

「ライって言ったっけ? あんたも災難ね。記憶を失くした状態で冥界で倒れて、しかも妖怪に食べられそうになるなんて」

「そうだな。今僕がこうしていられるのは妖夢のお陰だ」

「いえいえ、当然の事をしたまでですから」

 

妖夢は謙遜して答えるが、ライは当然の事などとは全くもって思っていなかった。彼女が居なければ今こうして生きていることすら無かったかもしれないのだから。それほどまでにライにとって彼女の存在は大きい。

 

「とうちゃーく! おい霊夢。この前言ってたアレだけど使わないなら私に……」

 

突然神社の上空から大声が響き渡り、箒に乗った少女がこちらに近づいてきた。

 

「ってなんだ、妖夢も来てたのか? それに見慣れないやつもいるな。お前誰だ?」

「ライです。よろしく」

 

ライは突然の出来事に内心で驚きながらも冷静に言葉を返す。

 

「よろしくな! 私は霧雨魔理沙だ。魔理沙で良いぜ!」

「で、魔理沙は何の用で来たのよ?」

「ああそうだった! お前の持ってる新しいスペルカードだけど、使わないなら私にくれないか?」

「ああ、そんなものもあったわね」

「何ですそれは?」

 

霊夢と魔理沙の会話を妖夢が興味深そうに聞く。

 

「私が試しに作ったスペルカードの事よ。まあでも私が持ってるやつよりも全然弱いけど」

「新しく作ったんですか? それはまた凄いですね」

「ちょっといいかな? そのスペルカードっていうのは何なんだ?」

「そうでした。ライさんはご存じなかったですよね。スペルカードというのは……」

 

そこまで会話が進むと、ライはスペルカードという物が気になり質問した。それに妖夢が答える。

その説明を聞いたところ、スペルカードとは攻撃形態の種類や必殺技……人間が自身よりも格上の存在……例えば妖怪のような者達と戦うための手段なのだと理解した。

 

「なるほど……それがスペルカードか」

 

ライがスペルカードについて理解したところで、妖夢が何か思いついたような顔をした。そんな妖夢が気になった霊夢が彼女に問いかける。

 

「どうかしたの?」

「霊夢さん。そのカード私に譲ってくれませんか?」

 

突然のお願いに霊夢は少し驚く。

 

「なんだ、妖夢も欲しくなったのか? けどお前って確か剣術がメインのはずじゃ……」

「正確に言うと、ライさんに譲ってあげてほしいんです。ライさんは私たちのように戦い慣れているわけではないですから」

 

妖夢はライの事を心配していた。人間の身でこの幻想郷を生きて行くのは至難の業だと彼女は考えていたからだ。

 

「まあ確かに、ただの人間が人里以外で生きるのは厳しいわね……まあいっか。どうせ使い道が無くて処分に困ってたところだし、あんたに譲ってあげる」

 

霊夢はライにスペルカードを譲ることを承諾した。妖夢はそれを聞き安堵する。

 

「良いんですか? そこの魔理沙さんが欲しがってるなら……」

「あー、私のことは気にすんな。それとそんな硬い話し方じゃなくて、もっと砕けた感じで良いんだぜ」

「私にもそんな感じで良いわよ。堅苦しいのはなんか苦手だし」

「分かった。ならそうさせてもらうよ」

「それじゃあ持ってくるから待ってなさい。けど、その前に……」

 

そこまで言うと霊夢はいったん言葉を止め、無言でライを見つめる。そして……。

 

「お賽銭、していってね♪」

 

屈託の無い笑顔でそう言った。

 

「幻想郷に来たばかりのやつに集るなよ」

「相変わらずですね、霊夢さん」

 

霊夢のこの一言に妖夢はため息を吐き、魔理沙は苦笑していた。

 

「な、何よ二人とも。ちょっと冗談言っただけでしょ?」

「お前が言うと冗談に聞こえないんだぜ」

「まあ霊夢さんですし」

「あんた達、私を普段どんな目で見てんのよ!」

 

三人がそんなやり取りをしていると、何処かからお金の落ちる音が聞こえた。

 

「「「えっ?」」」

 

三人が音の鳴った方に視線を向けると、そこにはライが手持ちの金銭を賽銭箱へと入れていた。

 

「ら、ライさん?!」

「えっと、これで良いかな?」

 

その行為に言い出しっぺの霊夢までもが驚いた表情でライを見ていた。三人のその表情を見て、ライは「作法でも間違っていたかな?」などといった見当違いなことを考えていた。そんな彼の様子を見ていた霊夢は……。

 

「ライ……貴方良い人ね! すぐ持ってくるから待ってなさい♪」

「(なんて現金なやつ……)」

 

霊夢は先程の冗談の時とは違い、本当に嬉しそうな笑みを浮かべながらカードを取りにいくため駆け出して行き、そんな霊夢を魔理沙は呆れた目で見ていた。

 

「あの流れで本当に賽銭するやつがいるとは思わなかったぜ」

「霊夢さんの言うことを真に受けなくても良かったんですよ?」

「けどスペルカードという物をくれるというなら、対価を払うのは当然じゃないか?」

「それは、そうかもしれませんが……」

 

ライの言ったことは正論ではあるので妖夢は言い淀んでしまう。とはいえ普段の守銭奴な霊夢を知っている妖夢はどこか複雑な表情を浮かべていた。

そうして暫しの時が経過し霊夢がスペルカードを片手に戻ってきた。

 

「お待たせ。これがスペルカードよ。受け取りなさい!」

「助かるよ。ありがとう」

 

ライは霊夢から5枚のスペルカードを受け取った。

 

「それで、ライはこれからどうするんだ?」

「そうだな……とりあえずは幻想郷を回ってみようと思っている」

 

自分が外来人である可能性がある以上、幻想郷の景色を見たところで何か思い出す可能性は少ないだろう。とはいえ、このままじっとしているよりはマシだとライは考えた。

 

「まあ雑魚妖怪相手ならそのカードで何とか出来るでしょうけど、あんまり無茶すんじゃないわよ? そもそも貴方、戦闘経験はあるの?」

「知識はある。けど実際に戦った事があるかは覚えていないな」

「何だか曖昧ね。まあ記憶喪失じゃ仕方ないか」

 

そんな様子を見て妖夢は何かを決心した顔をすると、ライに対してある提案をする。

 

「でしたらライさん。明日から修行しませんか? これでも私、剣術指南役ですからお手伝い出来ると思いますよ」

「そうだな……」

 

修行という単語を聞いてライはふと思案する。戦闘経験を積まなければ幻想郷を回るのは難しいだろう。そして彼は先ほど霊夢から戦闘経験の有無を問われたとき『知っている』と答えていた。つまりそれは過去に戦闘を行った可能性があるということになる。これも自分の記憶について手がかりになるかもしれない。ならば答えは一つだ。

 

「頼んで良いかな?」

「はい、お任せを!」

 

こうして幻想郷を回るため、ライは妖夢の修行を受けることとなった。

 

 

______________________

 

 

 

ライと妖夢が白玉楼へ帰宅した夜。

博麗神社にて霊夢と魔理沙が神妙な顔つきで話をしていた。

 

「霊夢、あいつ……ライをどう思う?」

「そうね。彼自身には特に問題を感じなかったけど、おそらく彼が来たことを切っ掛けに新たな異変が起きる可能性は有るわね」

「まっ、このまま何も無しって訳にはいかなそうだよなぁ」

「また面倒臭いことになりそうね」

 

二人はこれから起きるであろう面倒事を予想してそろってため息を吐いた。

 

「とりあえず私は、異変が無いか色々探ってみるわ」

「じゃあ私はライの様子でも見てみるとするかな」

 

魔理沙がそう言うと霊夢は揶揄うような視線で魔理沙を見る。

 

「へぇ……あんたにしては珍しく面倒見が良いわね。もしかして惚れた?」

「あはは! 別にそんなんじゃ無いんだぜ。まあ、あいつが連れてくるかもしれない異変には興味あるけどな!」

 

魔理沙がそう言うと霊夢は肩をすくめる。

 

「どうせそんな事だろうと思ったけど、あんまり変なことに巻き込むんじゃないわよ?」

「そういうお前こそ珍しく気にかけてるじゃないか。お前こそあいつに惚れたのか?」

 

先程のお返しと言わんばかりの視線を霊夢に向けるも彼女はそれを意に介さず答える。

 

「馬鹿。ただの人間を危険にさらす訳にはいかないでしょ? それに……」

「それに?」

 

続きが気になる魔理沙が霊夢に聞き返すと、彼女は先程ライが入れていったお金を手に取って言った。

 

「貴重な参拝者だもの。色々と気にかけてあげなきゃね♪」

 

そんな霊夢を見て魔理沙は呆れるように笑った。

 

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