ヒーロー食堂   作:規律式足

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 原作最終一話前から、最終話の間の八年間の出来事になります。
 原作キャラカップリングありですので、葉隠ちゃんは俺の嫁、という方は閲覧注意です。
 
 南畑うりさんから頂いた案を元に書いた話です。
 ありがとうございました。



三話 葉隠透と雪見鍋

 

「大人っぽい料理をお願いしますっ!!」

 

 そう元気よく注文したのは、インビジブルガールこと葉隠透ちゃん。

 大爆殺神ダイナマイトによる宣伝効果か、開店時間が遅いウチに雄英高校生が良く来るようになったなあ。学生なのにこんな時間まで働く雄英高校生の労働環境が心配にもなるけど。

 今日の彼女は珍しくコスチューム姿(かつての手袋とブーツではない彼女の体組織を用いた透明な服)ではなくスーツ姿だ。

 

「大人っぽい料理を注文することが一番子供らしいよねえ」

 

 噺家の師匠の呟きについ頷いてしまう。

 けどこんな事を楽しめるのも学生である今この時だけ、ならばこちらも用意してやらないとな。

 

「じゃあプリンかね?」

  

「大人っぽいって言ったよねっ!?」

 

「いやウチの手作りプリンは大人に評判なんだよ。麻雀の勝者だけ食べれるウイニングプリンてさ」

 

「それはもう大人っぽいじゃなく、オッサンぽいよ」

 

 否定できないな、うん。

 

「じゃあやめとくかい?」

 

「・・・・・・・・・デザートにお願いします」

 

「はいよ」

 

 大人っぽいね。

 一人飲み女子がする感じで良いかね?まだ未成年だからアルコールは出さないけど。

 

「ま、できるまできんぴらでも摘んでなよ」

 

「突き出し?大人っぽい」

 

 いや作り置きなだけだよ。

 

 

 

「何か悩みでも?」

 

 後は頃合いよく火が通るまで料理が出来たところで、黙々ときんぴらを食べている彼女に普段とは違う理由を尋ねる。

 こんな商売をしていると食べる態度一つで客の状態が分かるようになるもんだ。

 

「え、いや」

 

 誤魔化す仕草をしても、本当は聞いて欲しいということも。

 

「そのスーツにも関係あるのかい?」

 

 ヒーローがスーツ着るなんて企業との打ち合わせぐらいしかないだろうがね。

 

「はい、そうなんです」

 

 ポツリポツリと彼女は語り出す、

 なんと学生でありながらCM出演が決まったこと、その打ち合わせの為に今日は出かけたこと。

 その際に、自分のファンだという雄英の経営科卒業の先輩が強く推薦してくれたこと。

 

「雄英ならではだねえ」

 

 普通のヒーロー育成校ではこうはいかないだろう。他科もまた優秀である雄英だからこそできることだ。

 そんな喜ばしいことなのに、どうにも彼女は沈んでいるような様子だ。

 

「その先輩はあの戦いで映った私の素顔に惚れ込んだそうです」

 

 ああ、その時は俺は現場で生きるか死ぬかブチのめすかの状況だったが、彼女はあの青山優雅と共闘してダツゴクを撃退した際に素顔が見えたらしいな。

 

「嬉しいですよ、ええ本当に。

 でもなんか透明じゃない時の顔が本当の顔だとか言われたり、素顔が綺麗だからと急に優しくされたり、今まで相手にされてなかったのに言い寄られたりすると、なんか納得できないというか、嫌なんです」

 

 今までの彼女は恋愛とは無縁だった。ヒーロー科A組の中でもっともその性格が女の子らしく、仕草で感情を表現しているのに、彼女が透明だからというだけで言い寄る男なんていなかったのだ。

 

「尾白君は、最初から顔が見えなくても女の子扱いしてくれて優しかったのに」

 

 そしてCM出演の打ち合わせ後に企業に推してくれた先輩から今度一緒に食事にいかないかと誘われたらしい。そんな今まで一度もなかった初めてのことでつい頷いてしまったそうだ。だからこそ、その食事の時に慣れてないからと何かやらかさないようウチで大人っぽい料理を注文したのだとか。

 なるほどね。

 これも経験ってやつだろう。

 周囲から見られ方が変わる。そんなことはこれからいくらでもあるのだから。

 

「はいよ、お待ち」

 

 小型のコンロを置いて火をつけてから、その上に一人用の鍋を置く。

 

「お鍋?」

 

 疑問の声を上げる彼女の前で鍋の蓋をとる。

 下の具が見えぬ程に鍋全体を覆い尽くす大根おろし。その見た目からこの料理はこう呼ばれる。

 

「雪見鍋だ」

 

「綺麗」

 

 料理は見た目からとも言われるが、この景色は中々のものだろう。

 

「大根おろしのピリッとした辛味がなんとも酒を誘う、大人の喜ぶ鍋だ。また大根おろしが具をあっさりさっぱりさせて胃に優しいぞ」

 

 食堂で一人鍋を食べることは彼女には初めてのことだろう。ま、一人鍋そのものは修学旅行の旅館でもでそうだがね。食器さえ用意すれば大人数分の用意が楽なメニューであるから。

 

「わあ、具が見えないよ。何がでるかなー」

 

 上の大根おろしごと具を取りポン酢で食べる。これが本当に旨いんだ。

 

「んー、豚肉だ美味しー」

 

 一口食べだせば若い食欲に火が付く。エビ、しいたけ、白菜、と具を見つけるたびにはしゃいで食べる。お気に召したようで何よりだ。

 

「その先輩は雪見鍋みたいに葉隠ちゃんを思ったんじゃないかね」

 

「どういうことですか?」

 

「一見しただけじゃわからない中で、良いものを見つけたって気持ちになったんだろ」

 

 見つけたって気持ちはかなり心動かすんだよな。それが良いものならば尚更だ。

 

「そんな、ものなのかな?」

 

「そんなもんだよ」

 

 とはいえ男慣れしてないだろう葉隠ちゃんに目をつけたって可能性もあるがね。雄英高校出身だから大丈夫だと思うが、念の為テレビ関係の知り合いに調べて貰うか。

 

「でも私は、ありのままの私を受け入れてくれる人が良いなあ」

 

「その考えも正しいさ。嫌なら断ればいい」

 

 それが理由でCM出演が駄目になったとしたらその程度の仕事だったということなんだから。

 

「そうだよね、私が一緒に行きたい人は」

 

 何やら自分の中で整理がついたらしく、そこからの食事は箸が軽くなったように見えた。

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末さま」

 

 デザートのプリンアラモード(CM出演を祝った特別仕立て)も綺麗に食べきった彼女は憑き物落ちたようなスッキリした様子だ。

 

「ねぇマスター?」

 

「ん?」

 

「雪見鍋ってお酒に合うんだよね?」

 

「ああそうだ」

 

「私が成人したら時に、必ず食べにくるから。今度はお酒も一緒に」

 

「その日が待ち遠しいねえ。ただ」

 

「ただ?」

 

「その時は一人鍋かね」

 

 一緒に食事したいと思った人物。

 それは本人にとって特別な人なのだから。

 

「え、いやいや尾白君とはまだそんなんじゃないからっ!!」

 

「一足飛びに家族鍋だったりしてね」

 

「それはセクハラだよぉ」

 

 数年先の約束。

 飯屋冥利に尽きるってもんだ。

 

 

 

 

 

「っで、どうなったかって?

 野暮なこと訊くんだね記者さん」

 

 煙草の煙をフウと吐いてから、その日のことを思い出す。あの幸せそうな彼女を思い浮かべてただ一言。

 

「家族用の鍋、用意しといて良かったよ」

 

 





 雪見鍋が大人っぽいかは、人によりますね。
 居酒屋のカウンターで一人鍋は大人なイメージが作者にあります。
 ただ作者が酒に弱く、居酒屋に行かないのでかなり想像で書いております。
 そして葉隠ちゃんと先輩、尾白君はどうなったんでしょうね?

 南畑うりさん、こんな感じでよろしいでしょうか?
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