4649abcさんと南畑うりさんからの案です、ありがとうございます。
とはいえ焼き鳥ではなくてすいません。
こんな商売をずっとやっていると思うんだ。子供の成長ってのはあっという間なんだなって。
両親に手を引かれて唐揚げを頬張ってはしゃいでいた子供が、今はビールのツマミにしてるからね。
今日来店してきたヤツもそうさ。
初めての日は、エンデヴァーの人形を大事そうに抱きかかえた小さな子供、それが今やヒーロー公安委員会のトップだからなあ。
「どもマスター、いつものね」
「正式にヒーローになってから一度も来なかったヤツのいつものってなあ」
数年ぶりの来店じゃねえか、アレで良いよな?
今なら分かるが、ヒーローになって公安の仕事もやるようになってから気拙くなって来なくなったんだろうな。後ろ暗いことをやっていると知り合いと距離を置きたくなるもんだからさ。
元ナンバー2ヒーロー・最速の男、ホークスこと鷹見啓悟。あのヴィラン連合との決戦にて戦い抜いた英雄は、今やヒーロー公安委員長様だ。肩書は立派だが実態は貧乏くじをおしつけられただけ、先代、先々代の持っていたトップヒーロー達を顎で使う権力などもはやありはしないのだから。
「そんなぁ、冷たい反応だなぁ。お互いオールフォーワンと戦ってズタボロにされてから個性を奪われた同士じゃないですか?」
「その同士の間に親近感なんて湧くのか?俺は別に個性が無くても困らないんだが」
日常的に使用して使い道のあるもんじゃ無かったからな。店でも使わなかったし。
「デクの話によると個性には意思があるそうなんで、オールフォーワンの中で大暴れしたんじゃないですか?」
「そうかね?お前さんの個性はファンミとかしてそうだが」
「マスターの個性は炊き出ししてそうですよね」
否定できねえなあ。
大爆殺神ダイナマイトによれば、俺が脱落した後にオールフォーワンが「豚汁啜るなあっ!?」とか叫んでたらしいからな。
「じゃ、焼き鳥とビールで」
「ウチは焼き鳥はやってないよ。ちょいと離れた鳥吉に行きな」
「飲み屋ですよねっ!?」
「焼き鳥って案外手間がかかんだよ。業務用のヤツを買って焼けばなんとかなるけど、肉と焼き方と炭火次第で味が全然違うんだ。その癖高い代金取れないから割に合わねえの」
一説によると、焼き鳥の原価の大半は材料でないという。材料は原価の三割程度、あとの七割は串と肉を突き刺す人件費だとか。
ウチみたいな個人店だと鶏肉を形合わせて切って串に刺すという手間をかける余裕なんてないからな。他の仕込みだってあるわけだし。
「そうですか」
残念そうに肩を落とす元ホークス。相変わらず鳥好きなヤツだよ。
それに話しながらも準備はしている。とりあえずはビールと突き出しとして皮ポンだ。
ああ皮ポンってのは、鶏の皮を茹でて冷水で洗ってから水気をきって千切りして大根おろしとポン酢を乗せたヤツな。さっぱりとした味付けと鶏の皮の感触が良い感じなんだよ(グニュっした皮が嫌な人もいるからパリパリに揚げた皮のヤツもあるけどね)。
「いやー、茹でた皮と大根おろしとポン酢の相性は抜群ですね」
鳥吉の突き出しに比べたら劣るがね。あっちは産地直送比内地鶏の皮を朝掘り大根で食わせるからより旨いんだよ。
「んで、わざわざ客のいない時間帯を見計らってきたんだから用事でもあるんだろ」
他に客は無し。
もしかして人払いをしているのかも知れねえな。
「はは、流石はマスター。お見通しってわけですね」
「年季だけはあるからよ」
「だけじゃないでしょう全く」
すると両手を祈るように組んで、しばし悩むように黙って少ししてから口を開いた。
「ねえマスター。俺は今から最低な事を言いますね」
「おう好きにしろ」
「生きていて良かった」
ああ、先日自首したアイツのことか。
「トゥワイスが分倍河原仁が、あんないい人が死ななくて良かった」
殺そうとした自分がどの口でほざくのかとホークスは苦しそうな表情で呟く。
分倍河原仁が良いヤツなのは俺も知っている。悪人やらヴィランに慈愛の心や優しさがあることも知っている。だがそれらを見ず知らずの他者に向ける存在なんて俺が知る限りではオールマイトくらいのもの。
人が個人であり、そこに自我と感情があるならば、万民隔てなく手を差し伸べるなんて出来やしないのだ。
「確かに最低な言葉だな」
どの面下げて、と誰もが言うだろう。特に仲間であるヴィラン連合、その中でももっとも親しかったトガヒミコなんかは。だが、
「誰にであれ、生きていることを喜ばれる。それだけで分倍河原仁は幸せ者だと思うがな」
人の価値とは死に様で決まる、と言う。
ならば死んだ時にアレだけ悲しまれ、生きていることにこれだけ喜ばれる分倍河原仁の価値は如何ほどのものなのか。
「慰めてくれるんですかマスター?」
「さてね」
そもそも抹殺を決めたのはヒーロー公安委員会だ。ヒーロー現役時代から好ましくない組織だったが、裏でのやらかしを知った今では大嫌いだ。
物事をデータと数字でしか見ないから判断を誤る。現場で救う人の顔を見てさえいればあんな事はできないだろうに。
「ほれ、ご注文の『鶏々プレート』だ」
「え?マスター」
いつだか肉好きなミサキちゃんという子供に、ハンバーグ、鳥の唐揚げ、ポークソテーとメンチカツと牛丼を揃えた肉々プレートをだしたことがある。
ホークスの子供時代からのいつものはその鳥バージョンさ。
ベースとなるのは、シンガポールチキンライスこと海南鶏飯。
日本のチキンライス(鶏肉入りのケチャップベース炒めご飯)とは違う、鶏出汁で炊いたライスと茹でた鶏肉に数種類のソースをかけて食べるシンガポールの名物料理だ。ウチではそこに揚げ鶏とチキンスープを添えている。
鳥を食べたいという子供の時のホークスの為に、お子様ランチ風にワンプレートで作ってやったもんだよ。
「俺と同じように、鶏々プレートもすっかりデカくなりましたね」
歳をとってもコレばっかり注文したからな。
最初はお子様ランチ程度から食う量に合わせてどんどんボリュームを足していったんだ。
「あー沁みるなあ」
先ずは添えていた鶏スープから啜るホークス。ライスを炊くのにも使うスープで、さっきの皮ポンも一緒の鍋で茹でたんだ。
「茹で鶏って歳を取るごとに好きになりますよね」
子供は唐揚げの方が好きだからな。薄味さっぱりしっとりの茹で鶏は物足りないのだろう。添えてあるソースは、チリソース(子供の頃は無かった)、ダークソース(甘辛い醤油ソース)、生姜とネギのソースだ。
「このソースの付けた鶏と、鶏出汁ライスの組み合わせが最強なんですよ」
タイ米のライスは鶏出汁に生姜とレモンを効かせてあるからあっさりしているがコクのある味だ。
「旨い旨い」
色々な組み合わせを試しながら勢いよく食べるホークス。子供の頃からの好物だから当然か。
コレにはやらないが、ナンプラーとパクチーを添えるとよりエスニックっぽい味付けになる。まあ合わない人がかなり居るからウチじゃやらないけどね。
「ご馳走さま、マスター」
「はいよ」
元最速の男らしく、あっという間に平らげたな。満足しているのは、顔見れば分かるな。
「あのさ、また来てもいいかな?」
裏の役割を担ってからは来なくなった。でもこれからは来て良いかと不安そうに尋ねる。
「今度は部下を連れてこい。そんで金を落とすんだな」
だからあえて素っ気なくいつも通りに答える。重い反応よりもこっちが気楽なヤツもいるからな。
「ありがとうございます」
「ちょっと待て」
帰ろうとするホークスに待ったをかける、そろそろ来る筈だからな。
「注文の、持ち帰り用焼き鳥盛り合わせだ」
ズシンズシンと音を立てながら現れたのは、目つきの鋭い大柄の巨娘。
「悪いねジョーさん」
「かまわん。コイツが客か?」
ジロりとホークスを見るジョーさん。
「焼き鳥は鳥吉が旨いからね」
「その評価は受け取っておいてやる。次は店に食いに来い。焼き鳥は焼き立てが一番だからな」
「あいよ」
代金を受け取り店に戻る巨娘。相変わらずの迫力だな。
「誰です今の?元ヒーローですか?」
「焼き鳥屋だよ。巨娘でちょいとばかり腕っぷしがたつけどね」
拳一振りで他県まで殴り飛ばすくらいのね。
「女性向けの味付けだが、旨い店だよ。今度いってみな」
「女獅子の巣はちょっと」
否定できないなあ。
部下たちの差し入れになればと出前してもらった焼き鳥。それを抱えてホークスは帰っていった。
色々あった、若い頃(幼い頃?)から苦労ばかりの彼だが、これからはより良き道を歩いていって欲しいと俺は願うのであった。
なにせ、子供の頃から見てきたからね。
調べたら焼き鳥はめっちゃ大変でした。
焼き鳥屋という専門店になるわけですね。
マスター。
来店した客のことは基本忘れない。カウンタータイプの店の嗜みだとか。
ホークス
一時期距離を置いていたが、変わらないマスターにホッとした。なお公安委員会はこの店を危険視していたとか。
シンガポールチキンライス。
あっさりめで美味しいが、パクチーとナンプラーが苦手な人は注意。
簡単なレシピだと、調味して耐熱皿でレンチンした鶏もも肉を切り、皿の蒸し汁をご飯に混ぜるものもある。簡単だけど旨い。タレはお好みで。
ジョーさん。
巨娘という漫画の主人公。
下手したらオールマイトレベルで強い焼き鳥屋の女店主。年下の彼氏を溺愛している。
なお、ヒロアカ原作の最終決戦時(都市部大混乱時)には人々をまとめ上げ治安維持組織を立ち上げ、インフラを整備した後、焼き鳥を焼いていた。