小型船に乗って海に出ると、海未の自宅があるエルガドの連絡船が錨を降ろしていた。乗ったあと、火垂は甲板の上で一息ついて腰を下ろす。
「随分見切り発車ですニャね?」
「だって、戦ったことの無い希少種のモンスターなんだよ? そりゃあ三人で戦いたくもなるじゃんかぁ」
「お気持ちは分かりますが、もう少し落ち着いて欲しいのですニャ……」
「えへ、ごめんごめん。そういえば、この船ってお嬢のおうちがあるんだよね? 使ってもいいってこの前お嬢が言ってたし、少し休ませてもらおうかな?」
「海未さまが許可を出されているのであれば、よろしいのでは?」
立ち上がり、火垂は海未の部屋へと足を運ぶ。両開きの扉を開けると、一風変わった西洋風の家具が並べられてある。揺れた時に倒れてこないようにするためか、どれもこれも頑丈に捕縛してある。
「わ、すごい……」
「ニャ、火垂さま? どうぞ、中にお入りくださいですニャ」
ルームサービスが火垂に気づき、手招きをする。失礼しまぁす、と中に入り、村雨が扉を閉める。
「お嬢の部屋、初めて入るや」
「エルガドに着くまでの間、ごゆるりとお過ごしくださいニャ。海未さまから「ベッドとかは自由に使っていいからね。私物にはあまり触らないで欲しいかな」と伝言をいただいておりますニャ」
「お嬢らしい伝言! ありがとうございます、少しだけお邪魔しますね」
彼女……海未は、他人のプライベートにはあまり干渉しない。その逆も然りで、自分のプライベートを他人にさらけ出すような事は一切しない。それ故に趣味や普段何をしているかまではよく分かっていないため、火垂は尚更海未の部屋が新鮮であった。
「すごい、絵が沢山貼ってある!」
「わぁ〜……! 海未さまは絵を描かれる方なのですニャね!」
「意外な趣味だぁ」
壁に掛けられたコルクボードに、鉛筆画が描かれた紙が所狭しと貼ってある。繊細な筆のタッチと影の塗りに、火垂は思わず見惚れてしまった。
「そちらは全て海未さまの手書きですニャ。火垂さまや弧白さまも描いていらしたはずですニャよ」
「えっ、私と先生も? どれどれ、どれですか?」
「あ、ありましたニャ」
「えぇーっ、私見つけれてないよ!?」
「あそこですニャ」
村雨が指を指した場所には、確かに火垂と弧白がセットになって描かれていた。食事場での風景だろうか、お互いに団子を食べながら笑っている。火垂の頬には食べカスも描かれており「こ、細かい……」と思わず口に出てしまった。
「これ、どうやって描いたんだろう? カメラを向けられた覚えはないしなぁ」
ふと考えてみる。そういえば、海未が指でフレームを作り、そこに何かを収めている事が度々あった。それは人物、建物、風景、小物とバラバラではあるが、共通しているのは『瞬きをひとつすると、フレームを作るのを辞める』といったもの。その瞬きはまるで、シャッターを切っているかのような動作だったことを火垂は思い出した。
「……お嬢、これもしかして、自分で見たものを記憶して描いてる?」
「か、カメラアイですニャ!」
「ああ、海未さまは元よりカメラを使用されないお方ですニャ。理由をお聞きしましたところ「写真で撮るよりも、見たものをそのまま描いた方が正確だから。あと私が写真撮られるのが苦手でぇ……」と」
ルームサービスが傍に寄ってきて、絵を見ながら言う。
「ルームサービスさん、それ本当ですか?」
「カメラアイをお持ちのお方が、この世にいらっしゃったなんて……ニャ、あの女性の絵は先程の……」
「いいなぁ、私もお嬢みたいな、才能に溢れた人になりたいなぁ!」
「火垂さまには火垂さまなりの、『出来ること』というものがありますニャ。遅かれ早かれ、それは必ず見つけることが出来ますニャ」
「ありがとうございます、ルームサービスさん! って、あれ? なんか、紙の色が違う絵がいくつか……」
沢山の絵の中に一際紙質が古い絵を複数発見する。見ようにも、他の絵に紛れてよく見えない。
「よっ……と」
「あ、あぁっ! 旦那さま、何してますニャ! 怒られますニャよ!?」
背伸びをして、コルクボードを上手いこと外す。他の絵を丁寧に避けると、紙質が古い絵達の詳細が確認出来た。
ある絵には、後ろから見た構図の、背の高い双剣使いの男性。またある絵には正面から見た構図の、まだハンターになりたてであろう三人の男女。他にも髪の長い女性や、クエストボードを背にした受付嬢らしき女性の絵もある。どれもこれも鉛筆で描かれており、影の濃薄も鮮明に描かれている。
「これは……?」
「もうっ、旦那さまったら……って、この受付嬢さまの服装、ここじゃ見たことないですニャ」
「そちらの女性は、バルバレの受付嬢さまですニャ」
「ってことは、バルバレにいた頃からこんな上手な絵を描いてたってこと!? わぁ〜!」
「……旦那さま、この絵の男性が背負っている双剣、フォルティス・グラムですニャ」
「え? あ、本当だ」
───フォルティス・グラムと言えば、お嬢が持っていた双剣だよね。
まだ海未と出会ったばかりの頃、弧白が彼女の双剣をよく気にかけていた。しつこい、嫌いと言われたあの騒動があって以降はあまり口にしなくなったが、彼が「あの歳の子が持つにしては年季が入りすぎている」「まるで誰かから受け継いだような」と呟いていたのを、火垂は隣で聴いていた。
「もしかして、あのフォルティス・グラムって……ってことは、この絵の人物ってまさか、お嬢のお父さまだったり?」
あれだけ年季の入っているフォルティス・グラムなら、父親からのお下がりということも充分有り得る。弧白が予想していた通りなのかもしれない。
「わたくしはルームサービスゆえ、あまり海未さまの事をお聞きする機会はありませんので分かりませんが……お顔が似ていますので、可能性はあるかと」
「……じゃあ、あの双剣は凄く大事な双剣なんだ。確かに、お嬢とちょっと目つきが似てるかも」
絵の右下を見てみると、小さく日付が書かれている。紙質の古い絵は、全て今から六年前の年月日が刻まれていた。
「えぇっ、これ描いたの六年前!? お、お嬢って今何歳だっけ……?」
唐突に聞かれた村雨は「え、えぇと……この前海未さまからお聞きした限りですと、今年の三月で十八歳になったと。ハンターになられたのは、十二歳の頃だと仰っておりましたニャ」と困惑しながら答える。
「十八!? 私よりも二つも上じゃん! うひゃー、十二歳の頃なんて何してたかなぁ、私? そんな小さな頃からハンターやってたなんて……お嬢は凄いなぁ。ということは、この絵に描かれてる可愛い三人は、もしかして初期のマルチメンバーだったりして!」
「想像が膨らみますニャね!」
「ほんとね。凄いなぁ……」
先生もお嬢も、やはり敵わないな。
火垂は内心そう思っていた。
自分が誇れるものは、火力しかない。だからこそ、頭のいい弧白、絵が上手な海未は火垂にとって憧れの存在であった。
二人が持っているものを、自分は持っていない。だからといって何も出来ない訳ではない。
じゃあ自分が出来る事はなんだろうか?
護ること? 護られること? いいや、違う。今自分が出来ることは、二人から学べることを学んで、それを戦闘に活かすこと。
その為にも、火垂にとってはやはり三人で行くことは必須なのだ。
「……私も頑張らなくちゃ」
「旦那さま、ファイトですニャ!」
「うんっ。さて、着くまで一眠りしようかな」
避けていた絵を元通りにして、コルクボードを壁に掛ける。「お嬢、ベッドお借りしますね」と一言呟き、防具を脱いでインナー姿になった火垂は布団に潜り込む。
「スゥー……ふわふわでいい匂いがする〜……」
「旦那さま、ちょっと気持ち悪いですニャ」
「だっていい匂いなんだもん」
引き気味に呟いた村雨の手を引っ張り、強引に布団の中に連行する。村雨はスンスン、と鼻を鳴らし「……確かにいい匂いですニャ。眠気を誘われるニャ〜……」とその場で丸まって眠り始める。そんな村雨の身体を優しく撫で、火垂も目を閉じて眠りについた。
私も絵を描くのですが、海未のように上手な絵は描けません。いつか描けるようになりたいね。
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次回の更新は、1日遅れまして12月1日(日曜日)昼12時です。
11月31日だって……私だけ31日がある世界線に住んでたみたい……。
そんなことは無いですよ。ちゃんと直しましたからね!!
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