モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

14 / 36
いざ、

 エルガドに到着した頃には、皆が店仕舞いをしている最中だった。すっかり夜になっており、火垂はチッチェの元へ行き、詳細を聞いた。彼女から二人が先に行ったと聞き「えぇっ、お嬢と先生、二人で先に行っちゃったんですか!?」と火垂は素っ頓狂な声を上げる。

「なんで言ってくれないんですかぁ!?」

「救難信号が発信されているものなので……他のハンターさんが先に討伐に行かれていたのですが、全員負傷してしまい、代わりにお二人が行かれたんですよ」

「負傷って……ナルガクルガ希少種でしたっけ? そんなに強いんですか?」

 火垂の問いに、チッチェは真剣な面持ちで「はい」と一言返す。

「ナルガクルガ希少種という存在は、エルガドで受付嬢をしていた先輩方にお聴きしても「希少種なんて初めて聞いた」と仰っていました。この事から分かりますように、エルガドでは一度も受注した事が無かったのです」

「なるほど……他の拠点で確認されてた希少種モンスターなんですね」

「そうですね。例を挙げますと、今回の戦場(いくさば)である塔の秘境からほど近いポッケ村やモガの村、それとユクモ村の方で受注されておりました。しかしこちらにも回ってきたということは……」

「あっちの方では討伐出来るに相応しいハンターがおらず、優秀なハンターが多く集うエルガドに救難信号を発信してきた……と」

 ライカやヒノエが言っていた、海未がモガの村やユクモ村辺りで活動していたという発言が仮に本当だとすると、動き方は彼女に聞けば分かるはずだ。

「えぇと、火垂さんも行かれるんでしたよね?」

「はいっ、お二人に抜け駆けされたので追う形にはなりますが!」

「承りました。ところで、今日はランスなんですね?」

「え? あぁ、はいっ。新しい技を教わったので、たまには違う武器も持ってみようかなーと思って!」

「動きが分からないモンスターには、ランスやガンランスといった盾持ちの武器が最適とガレアス提督が仰っていたのですが、本当なのですね……」

「ガンランスは分かりませんが、確かに盾持ちは相性がいいかもですね! じゃっ、行ってきます!」

「はい、お気をつけて……!」

 元気よく出発していった火垂を見送り、チッチェは他の者達と同じように片付けを始める。

「……チッチェ姫、猛き炎の声が聴こえましたが……彼女も、ナルガクルガ希少種の任務へ?」

 ガレアスが指揮所の階段を降り、チッチェに尋ねる。彼に気づいたチッチェは手を止め「ガレアス提督! はい、つい先程出発されましたよ!」と元気よく答える。

「……左様ですか。無事に戻ってくるとよいのですが」

「それは、どういうことですか?」

「……いえ、ナルガクルガ希少種の動きが、前に戦った時と大きく違う、といった報告を、海未殿から受けておりまして」

「海未さんが? 前にということは、ここに来る以前にナルガクルガ希少種と戦っていたということでしょうか? ……モンスターも、知能を高めているのでしょうか?」

「……我々人類と同じように、知能を高め、賢くなっているのでしょう。厄介なものです」

 雲に隠れた月を見つめながら、ガレアスは淡々と呟く。

「大丈夫ですっ! 今は猛き炎に、新大陸のプロフェッショナル、そして……えぇと、海未さんはどんな功績が?」

「……モガの村、ユクモ村……そして、バルバレの英雄。彼女が幼い頃から世話を焼いてきたバルバレの団長から、そう聞いております」

「三つも拠点を救っているのですか! それなら大丈夫ですね!」

「……油断は禁物です、チッチェ姫。ハンターという職業は、常に死と隣り合わせの世界。生半可なものでは務まらないのです」

「それは分かっていますっ! でも、一度はハンターさんが狩猟しているところを見守ってみたいものです……!

 そういえば、バルバレって世界中を移動する関係で、各地の情報が沢山集まってくるんですよね? 地図にも載らないから、見つけられたらレアだとお聞きしました」

「……仰る通りです。海未殿は、そんな移動する拠点で生まれ育ったのです。これ程までにお強い方は……恐らくいらっしゃらないでしょう」

 雲に隠れていた月が見え始め、暗くなっていたエルガドに仄かな光が差し込む。

「……無事に帰ってくることを祈りましょう。さぁ、姫もそろそろお休みなさってください。夜風はお身体に障りますよ」

「はいっ、ありがとうございます、ガレアス提督!」

 止めていた手をまた動かし、チッチェは書類を整える。

「……今日は満月かぁ」

 真ん丸な月を見ながら、彼女はポツリと独り言をこぼした。

 

 * * *

 

 塔の秘境に着き、火垂はキャンプ周りを見渡す。

 既に戦闘中のようだ。……だが、音が一切聴こえない。

 ここからフィールドまでは、翔蟲を伝ってすぐ下である。まともに戦闘をしていれば、聴こえないということはまず無いだろう。

「……もしかして、何かあった……?」

特殊な色をしたヒトダマドリが近づいてきて、花粉をばら撒く。支給品ボックスを見ると、モドリ玉が何故か四つ入っていた。

「えっ、なんで四つフルであるの……? お嬢も先生もどっちも取ってない……お嬢は着いたらまず一番に支給品ボックスを確認するのに」

 ───全員負傷してしまい───。

 チッチェの言葉が脳内で再生される。まさか、負傷者の対応で支給品ボックスを見る暇が無かった?

 それなら、二人が取っていなくても納得が行く。なんであれ、二人がもしもの時に戻れなくなるのはまずい。火垂は支給品ボックスからモドリ玉を三つ取り出し、アイテムポーチに突っ込んだ。

 弧白、と、下から海未の緊迫した声が聴こえてくる。彼女が呼び捨てとは珍しい。いつもならさん付けをするというのに。

 ───いよいよやばい事になってるのかも。

「……行くよ、村雨。着いてすぐ戦えるように準備しておこう」

「はいですニャ!」

 村雨が火垂にしがみつく。傍で飛んでいた翔蟲を使い、火垂は下に降り始める。

 分厚い雲がしばらく続く。翔蟲から手を離した後、段々と晴れてきた視界で下を見る。

「……は?」

 地面に半円形上に形成された血飛沫。一番手前の壁には、何故かぐったりとしている海未を抱いて呆然と座り尽くす自身の先生、弧白。その足元は血溜まりが広がっており、その目の前には、二人を威嚇する月白色のモンスターが一頭。ナルガクルガ希少種だ。

 ───なんだ、何がどうなっている? どうしてお嬢は負傷している? そうか、さっきの先生を呼ぶお嬢の声は───。

 いや、今は考えるよりも先に身体を動かせ。出来るだけ注意をこちらに惹き付けて、何とか二人から注目を逸らすことが出来れば……!

 翔蟲をひとつ使い、モンスターに接近する。盾を手前に、槍を突き出すようにして空中で構え、彗星の如く一直線に突っ込んでいく。

「でりゃぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 脳天目掛けて槍を勢いよく突くと、ナルガクルガ希少種は衝撃で仰け反り、その場で転んで足をばたつかせる。

「せんせ……ッ!?」

 着地をした火垂が見たのは、おぞましい光景だった。

 弧白に抱かれている海未は、ナルガクルガ希少種の攻撃を受けたのか、腹がざっくりと斜めに斬られている。傷口も深く、出血も酷い。呼吸も浅く、すぐに治療を施さないと死んでしまう。それなのに、弧白は呆然と自身を見ている……いや、見ているように見えるが、目線が合っていない。彼はきっと、自分でもナルガクルガ希少種でもない、他の事に気を取られている。そんな気がする。

「先生、お嬢が!」

 ───お嬢が大変な時に何をやってるんだ、この人は!

「先生……! 先生、先生ッ!!」

 肩を掴み、必死に呼びかけると、我を取り戻したように彼の身体が跳ねる。

 言いたいことは沢山ある。だが、ここで不安にさせてしまっては、きっと彼は先程のような状況になるだろう。

「遅くなってすみません、先生! 私が来たからにはもう大丈夫ですっ!」

 だからこそ、火垂は笑った。心配させないように、少しでも安心させてあげられたらと、そう思ったから。

「……ほ、たる……俺…………」

「先生はお嬢を連れてキャンプまで……いいや、エルガドまで戻ってください! 船を待機させています、ここは私が何とかしますから、早く!」

 よく見ると、海未が普段つけている桜のピンが外れて飛んでいっていることに気がつく。辺りを見渡し、傍に落ちていた桜のピンを弧白の片手に握らせ、ついでに飛んでいた彼の帽子も見つけて被せ、モドリ玉も握らせる。

「でも……俺は……」

 弧白は何かを考えながら、消え入るような声で呟く。

 ナルガクルガ希少種が起き上がり、火垂に飛びかかる。すかさず盾と翔蟲の併せ技「アンカーレイジ」で受け、間髪入れずにカウンター攻撃を繰り出す。攻撃しながら少しずつ移動をして、ナルガクルガ希少種の注目を二人から逸らす。

 

「早く行ってください! 助けたいんでしょう、救いたいんでしょう! そのために何をするべきなのか考えてください!

 忘れたんですか、私は先生の教え子ですよ! 私は───私は! カムラの里の、猛き炎ですよ!」

 

 そうだ。自分は彼の教え子だ。

 だからこそ、ここで自分が食い止めないと、海未が死ぬ。弧白ももしかしたら……とてもじゃないがそんなエンドはごめんだ。

 彼の身体が、やっと動いた。海未を抱き、渡したモドリ玉で上に戻る姿を横目で確認出来た。

 これで安心だ……とは言えないが、頭のいい彼ならきっと海未を救ってくれる。そう火垂は信じている。

「……さて。お嬢の身体に傷をつけて、先生の心を抉って……生きて帰れると思うなよ」

 ナルガクルガ希少種が完全に火垂の方を向く。

 今自分に出来ることは、火力を出すこと。たったそれだけの事で、助かると言う人がいるならば。

 それを、最大限に発揮するだけだ。

 

「…………ふぅっ。いざ、気炎万丈ッ!!!」

 

 それに応えるかのように、月白の化物(モンスター)はより一層大きく吠えた。




1日遅れてしまいすみません  
用事の方については何とかやり遂げましたので安心してください✌️
リアルでも気炎万丈が口癖になりつつあるんだ……ゲームってすごいね
もう12月になりましたねぇ〜。寒くなって来ましたので、お身体にはお気をつけて!

栞や感想、ブクマお待ちしております!励みになります、いつも見てくれてありがとうございます✨
次の更新は、12月7日土曜日昼12時です!

Twitter↓
@Amnts_MH
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。