「いやぁ〜、やっぱきっついなぁ」
海未と弧白が所々部位破壊をしているお陰で、相手の動きはだいぶ鈍っている。だが油断は出来ない。目の前にいるモンスターは希少種個体、もちろんそう簡単にやられてくれるような相手では無いことも火垂は知っている。
「……! あの動きは、毒棘の雨攻撃!」
一度目は一旦距離を取り、二度目が来る前に足元に近づく。二、三発頭を突くと、ナルガクルガ希少種が怯み攻撃がキャンセルされた。
「にひ、チャンス……!」
続けて三発攻撃し、翔蟲で真上に上がりながらアッパー攻撃を食らわす。続けて槍を真下に向け、頭目掛けて勢いよく突き下ろした───が、その攻撃は空を切る。スッと姿が消え、槍が地面に突き刺さった。
「やっば!」
引き抜きながら、落ち着いて辺りを見渡す。後ろからジャリ、と微かに砂の音がした。
「───後ろっ!」
すかさずガードをして、反動で後ろに下がる。村雨が隣に立ち「『あれ』、やりますのかニャ?」と尋ねてくる。
「いいね、やっちゃおうか」
疾替えを『蒼』に変え、身体に紫色のオーラを纏う。冷や汗をかいていた頬を袖で拭うと、火垂は歯を見せて笑った。
敵は狙いを定め、尻尾を回してくる。隙を与えずもう一度逆回転で尻尾を回してきて、火垂はそれをアンカーレイジでガードし、反撃。突進攻撃をジャストガードし、またすぐさま反撃。お互い譲らない状況だった。
「遅い、遅い、遅い!」
───もっと、もっと速く!
一歩も止まらず、息を切らしながらも狂ったように攻撃を続ける。『狂化』が無ければ、彼女はここまで動く事は滅多にないだろう。
長い威嚇の後、ナルガクルガ希少種は姿を消す。武器を持ちながら、火垂は走って見えぬ敵を追いかける。
「あははははは! いいね、いいねぇ、そうこなくっちゃ!」
尻尾が振り降ろされる。ギリギリで後ろへかわすも、火垂の鼻から上を覆っていたアイデンティティに掠り、飛んでいく。
大きな傷がついた顔があらわになる。深紅と海色のオッドアイは、未だ目の前の獣を捉えて離さない。
「ほら、ちゃんと当ててよ! 当ててくれないと勝負にならないで……しょッ!」
溜めていた槍で横に薙ぎ払うように攻撃すると、ナルガクルガ希少種がよろめいて後ろに退く。足元もおぼつかない。弱っている証拠だ。
本来なら、火垂はここで罠を設置し、モンスターを捕獲するのが定番である。
だが今日の彼女は気分が違った。自身にとって大事な者達をあんな目に遭わせたこいつが今は腹立たしい。
「お前に罪は無いけど……いやある、ガッツリある! お嬢と先生の為に、お前はここで絶対殺す、ぶっ殺す!」
高らかに宣言し、攻撃の速度がより一層増していく。対抗するように相手も反撃を繰り返し、お互いに瀕死寸前まで持っていかれる。回復薬グレートを飲み干し、空のビンをその場に捨てた。
その隙を狙ったのか、ナルガクルガ希少種は彼女に向けて尻尾を振り降ろすが───それは思うツボであった。狙っていたと言わんばかりにアンカーレイジを発動し、攻撃をガードする。
「はぁぁぁあッ!!!」
槍を勢いよく突き、電流が花を咲かせる。ダメージを受けた獣は、断末魔のような声を上げながらその場に倒れ───そして、二度と動くことは無かった。
「ふんすっ」
これぞまさに、会心の一撃。……と、かっこよく決めたつもりであったが、村雨は「狂化が入った旦那さま、やっぱり怖いですニャ……」と若干引き気味に呟いていた。
「ありがとう! いやぁ、まだ見ぬモンスターと戦って楽しくて楽しくて」
「いえ、褒めていないですニャ……さ、急いで戻りましょうニャ。剥ぎ取りよりも、海未さまの容態確認が優先ですニャ」
「そうだね、早く戻らないと……!」
弾き飛ばされた狐のお面を拾い、再び顔に付ける。モドリ玉を使い、火垂は塔の上へと急いだ。
* * *
エルガドに戻り、自宅に帰った火垂はインナー姿でベッドに寝っ転がる。モル達から聞いた限りでは、命に別状はないそうだ。だが意識はまだ戻っていないらしい。
村雨はモル達と一緒に食事をするようで、離れて二匹と共に食事場へと向かっていった。
「お嬢、大丈夫かな……」
彼女の元へは行かないとは言ったものの、やはり心配なものは心配だ。火垂もそこまで外道ではない。
こっそりと家を出て、海未の自宅へ向かう。扉をそっと開けると、明らかに落ち込んでいる弧白と、ベッドで苦しそうに眠る海未が目に入った。
(ああ、やっぱりぃ……)
火垂は薄々察していたが、どうやらそれは当たったようだ。
これ、絶対「俺が看病する」ってずっと付きっきりになるやつじゃないですかぁ……と。
───尚更私が手を出す必要、無いのでは?
やっぱり家にいた方が良かったのかもしれない、と火垂は来た事を少し後悔した。
「……先生…………」
正直、あれだけ落ち込んでいる彼を見るのは火垂も初めてだった。彼にとって「海未」の存在がどれだけ大きいのかを、火垂はたった今痛感した。
帰ってから、彼に事情は聞いていない。聞く前になんとなく察してしまった。
彼は庇われた。動きが読めていた海未が、弧白を庇ったのだ。きっと彼女も怖くて仕方がなかったと思う。だが庇ったということは、彼女自身も何か思うところがあって、それを行動に移したのは確かなはずだ。
海未の事も、もちろん弧白の事も、火垂は何も分からない。二人がそれを話そうとしないならば、自ら暴こうとするべきではないと、そう思っているから。
だが二人とも何かしらあったのは事実だろう。それが今回の出来事を引き起こしたならば、海未や弧白には人を失った、あるいは失う寸前までいった程の過去を経験した……そんな気がする。
そう思うと、二人が背負っているものがどれだけ大きいものなのか、それを背負って作る笑顔がどれだけ苦しいものなのか、火垂には容易に想像できた。
「……」
今は、声を掛けるべきでは無い。
踵を返し、自宅への帰路を歩み始める。食事場の方からモルの大きな泣き声が聴こえ、少しだけ胸が痛くなった。
───もっと早く私が帰ってきていれば、こんなことにはならなかった?
呼び出しに応じてエルガドを少し離れていた自分を、火垂は無意識に責めていた。そもそも行かなければよかった話……いいや、それは選択肢には無かった。カムラの里は、火垂にとっては生まれ育った故郷そのもの。里の家族に必要とされているならば、行かねばならぬのが猛き炎であろう。
けれど、不可抗力で片付けられるほど、今回の件は軽い出来事ではない。海未が生死を彷徨う様な怪我を負った、それが何よりもの証拠だ。
「……どうすれば、良かったんだろう」
* * *
次の日、海未の自宅へと再び足を運んだ火垂は、今日こそはと扉を開ける。依然として椅子から動いていない弧白に「先生、おはようございます」と声を掛けた。
「……おはよう、火垂」
彼は火垂の方を見ず、代わりに海未を見たまま挨拶を返した。火垂にとっては慣れっこだ。彼の機嫌が悪かったり、何かあった時はこうして目を見ずに挨拶する。ある意味子供のような人、それが弧白なのだ。
「朝ご飯買ってきましたよ。無理はしないでくださいね」
「……ん、ありがとう」
火垂は近づき、買ってきた彼用の朝食を傍に置く。ほとんど寝ていないのだろう、彼の目の下には少しばかりの隈が出来ていた。
「お嬢、容態はどうですか?」
「大分落ち着いてきた。魘される事も少なくなってきたし、顔色も昨日よりかは全然良くなったよ」
「あぁ、良かった……」
海未の顔を覗くと、少し苦しそうではあるが落ち着いた呼吸を繰り返して眠っている。おでこには濡れタオルが置かれており、枕元でメルが様子を見ていた。
「モル君から聞いたよ、今日は彼と一緒に狩猟に行くんだろ? 俺は海未さんの意識が戻るまで看病してるから、申し訳ないけどしばらく自由行動していてくれる?」
「ん、分かりました。私はいつも通り過ごしていますね」
モルが火垂の傍に来て「準備万端ニャ」と笑う。行こっか、と返し「じゃあ先生、お嬢の事よろしく頼みますね」と家を出た。
朝早いにも関わらず、マーケットは皆開店を済ませている。昨日の夜とは打って変わり、明るく賑やかな雰囲気がエルガドを包んでいた。
「今日は何を狩りに行くんですニャ?」
「そうですねぇ……って言っても、あんまり気が乗らないんですよね。お嬢があんな状態なので……」
「じゃあ、今日はモルが火垂さまを振り回しますニャ」
「へ?」
「丁度やりたいことがあるんですニャ〜。という訳で、大社跡に行くニャ!」
クエストボードへ元へ向かうモルを、火垂は慌てて後ろから追いかける。「おはようございます、火垂さん! 昨日は大変でしたね……海未さんの容態はいかがですか?」とチッチェが心配そうに声を掛けてくる。
「おはようございます、チッチェさん! まだ意識は戻っていませんが、顔色は良くなっているそうですよ」
「左様ですか……! それで、今日は何に致しましょう?」
「大社跡に行きたいのニャ。探索ツアーを受注するのニャ」
モルが火垂の肩によじ登り、探索ツアーのクエスト用紙を取ってチッチェに渡す。
「だ、そうです。今日の私は、モルちゃんの付き添いみたいなものなんです」
「なるほど! 分かりました、行ってらっしゃいませ!」
「行ってくるニャ! 火垂さま、行きますニャよ!」
「はいっ、出発です!」
一体何をするのだろう?
それはモルにしか分からないことだが、とにかく今はついて行くしかない。さすがに探索で太刀を持っていくのは邪魔になるし重たいので、道具ボックスから手頃な双剣を取り出し、それを持っていくことにした。
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