「随分辺鄙な所まで来ましたねぇ」
大社跡。モルに案内されるがままついて行くと、とある隠れ家のようなスペースに着く。サブキャンプの近くであり、標高もかなり高い。辺り一面に緑が広がっており、まさに絶景だ。
「それでモルちゃん、ここまで何しに?」
「昔この辺りで、でっかくて綺麗な鉱石を見たのニャ。それを加工して、お守りのようなものを作りたいのニャ」
「なるほど? じゃあ、今日はその鉱石探しですね! 加工もモルちゃんがやるんですか?」
「モルにはそんな技術ないニャ……だから、ミネーレさまにお願いするのニャ」
「加工屋の! よぉし、見つけられるように頑張りましょう! 気炎万丈っ!」
力持ちのポーズをした火垂を見て「頼もしいですニャ〜」と、モルもつられて笑った。
「ところで「キエンバンジョー」というのはどういう意味ですニャ?」
「ん? あぁ、里長さんの口癖なんですよ。うつっちゃったみたいで……えぇと、意味は確か「意気がたいそう上がっているさま」だったかな?」
「つまり、やる気を起こす時に使う言葉って事ニャ?」
「ですです!」
「よぉーしっ、キエンバンジョーニャ!」
あちこち探し回るモルを、火垂は後ろから追いかけながらその周りを探していく。
……だが数時間探し回っても、それらしいものは見当たらない。疲れ果てた一人と一匹は、一旦昼にしようと携帯食料で食事を摂り始めた。
「無いですねぇ……」
「そんなものですニャ。お宝はすぐ見つかったらつまんないニャ〜」
「ふふ、それはそうですねぇ。そういえばモルちゃん、お嬢は絵を描く事が好きなんですか?」
「そうニャ。旦那さまは昔から絵が好きなのですニャ。小さい頃からずーっと絵を描いてるのニャ」
魚を食べながら、モルが答える。
「それがどうかしましたかニャ?」
「里からエルガドに戻る時に、お嬢のお部屋を使わせてもらったんですよ〜。その時に沢山絵が飾ってあったので、凄いなーって思って!」
「古いもので六年前とかあるからニャ〜。飽きもせずよく描くニャ」
「そう、六年前! びっくりしましたよ〜、特にお嬢と同じ双剣を背負った男の人とか!」
火垂の言葉でピクリと耳が反応し「……旦那さまと、同じ双剣?」とモルが復唱する。
「はい、もしかしてお父様かな? と思いまして」
「ああ……当たりですニャ。まだ飾っていたんだニャ。モルは「辛くなるなら捨てろ」って言ったのにニャ〜」
「辛くなるなら……?」
魚の苦い所に当たったのか、途端に顔を顰めてペッペッと吐き出しながら「ニャーッ、苦ッ! あと火垂さま、そのお話は旦那さまにはしない方がいいニャよ。トラウマトリガーになりかねんニャ」と再び食べ始めるモル。
「わ、分かりました……ん、あれ?」
ふと崖を渡った奥の方で、太陽の光に反射して何かが煌めくのが見える。どうやら土中に埋まっているようだ。気になった火垂は立ち上がり、翔蟲を使って崖を器用に渡る。
手でそっと掘り進めていくと、見たことの無い形の綺麗な鉱石が顔を出し始めた。
「火垂さま? 何をして……ニャ、ニャーッ! モルが探していたのはこれニャ!」
土から出てきたモルがこれだと言わんばかりに声をあげる。
「鉱脈にないなんて、珍しいですね」
「……やっぱり大きいニャ。ボクが見たのは間違いじゃなかったんだニャ」
「よい、しょっと!」
手に取り、引き抜く。モルの身長程の、透けた青色の六角柱結晶が出てきて、「でっか……」と火垂が思わず声をあげる。
「これなら十分作れるのニャ!」
「良かった良かった。にしてもこれ、何の鉱石でしょうか?」
「これは……アクアマリンというものですニャ。旦那さまの好きな鉱石ですニャ」
「アクアマリン? 海みたいな名前ですね〜」
そういえば、お嬢の名前も海に関係する名前だったような?
それなら、彼女が好きなのも納得がいく。土を払い、一緒に付いてきていた朧に括り付け、「よしっ。朧、先にキャンプに帰っててくれる? 私達も後で追いつくから」と頭を撫でる。大きくひと鳴きした朧は、踵を返して険しい山脈をスイスイと降りていく。姿が見えなくなったところで「よぉしっ。モルちゃん、次は私の用事に付き合ってもらいますよ!」と立ち上がる。
「どこまでもついてくニャ〜。それで、何するんですかニャ?」
「ふっふっふ……今、この大社跡にバルファルクがいるんですっ! 言いたいことはもう分かりますよね?」
「バルファルク? ……ま、まさか………」
「そのまさかですっ! 行きますよモルちゃん、バルファルクとランデヴーしに!」
「嫌ニャ! でもついて行くって言った手前断れないニャ! あぁ旦那さま、モルはここまでのようですニャ……全てを超えた先でまた会おうニャ……」
意気揚々と降りていった火垂を、モルは渋々ついて行くのであった。
* * *
「おぉ、すごい! こんなに大きなアクアマリンは初めて見たよ!」
両手で持ちながら、加工屋のミネーレが感嘆の声を上げる。火垂のバルファルク狩りで疲れ果て、脇に抱えられたモルが「このイメージで作って欲しいのですニャ。費用はボクのポケットマネーから出しますから……」と一枚の紙をミネーレに差し出す。
「どれどれ? ほほう、ネックレス型の御守りと来た。これなら、削って磨いて、鉄を溶かして……うん、任せな! ところで、注文数は四つって書いてるけど、これは誰かへのプレゼント?」
「と、言いますか、何と言いましょうかニャ……」
「それなら、丹精込めて作らないとね」
「あの、これで足りますでしょうかニャ……?」
モルが両手で抱えるほどの大きな袋を差し出す。彼の言っていたポケットマネーと言うやつだろう。中身を見ると、沢山のゼニー硬貨が詰まっていた。一旦三人で数え、判明した金額は約二十万ゼニー。高価な防具一式を買ってもお釣りが返ってくる程の金額だ。
「に、二十万ゼニー……これ全部モルちゃんが貯めたんですか!?」
「そうニャ。本当は、旦那さまの誕生日の時にいつか使おうと思って、ずっと貯めていたのですニャ。旦那さまからは移動の度に「重たいんだけどどうにかしてくれる? なんでこんなに貯めてんの?」とよく言われてましたがニャ……」
「あなたの為、とは流石に言えないですもんねぇ」
「そうなのニャ〜。それで、えっと……足りますかニャ?」
「もちろん、じゅうぶん足りるよ。だけど、これは受け取れないかな」
袋の口を紐で縛り、ミネーレはモルに返す。予想外の返事に動揺を隠せず「ニャッ!? な、何故ですかニャ……!?」と涙目でモルは理由を尋ねる。
「だって、それは海未ちゃんの誕生日プレゼントの為に貯めているものなんだろう? そのお金は、その時に使いな」
「ニャ……しかし、それだと今回の制作費用が……」
「モルちゃん、私が出しましょうか?」
「そ、それはダメですニャ!」
「あっはっは! 心配しなくてもちゃんと作らせてもらうよ!」
「えっ? じゃあ、お金はどうすればいいのですかニャ?」
モルの問いに、ミネーレは「そうだねぇ、出世払いといこうじゃないか」と笑う。
「出世払いニャ?」
「そ。あんた、それずっと昔から貯めてるんだろう? 中には昔使われていた古い硬貨もあったよ。そんな努力の結晶を今使うだなんてもったいない! だから、今回の制作費用は出世払い! 支払いは、いつかエルガドが危機に瀕した時に、エルガドを救ってくれる事かな!」
「規模のでかい出世払いだぁ」
「ニャァ〜……モルは、モルはずっと、ヒトに助けられてばかりですニャ、ありがとうございますニャァ……!」
今にも泣きそうな表情でお礼を言うモルに「困った時はお互い様だよ! 明日には出来るから、楽しみにしてな!」とミネーレは歯を見せて笑った。
「モルちゃん、良かったですね!」
「ミネーレさまには感謝しかないですニャ……!」
海未の自宅に戻り「ただいまニャ〜」とモルが扉を開ける。気づいたトモエが「おかえりなさいニャ」と駆け寄ってきた。
「先生、もう夕方ですよ。晩御飯、何か買ってきましょうか?」
「ん、ああ……いつものお団子お願い」
弧白から財布を渡される。今日初めて目が合った。少し気持ちが落ち着いたのだろう、彼の顔色も良くなっていた。
「分かりました!」
「モルさま、一体何をしに行ったのですニャ?」
「鉱石を探しに行ったのニャ。……その後はお察しニャ」
カーペットにばたりと倒れたモルを見て「バルファルク、連れていかれた?」と弧白が尋ねる。
「そうじゃなきゃ、探すだけでこんなに疲れてないニャ〜」
「だよね。やっぱりそうだ」
「どうして分かったんだニャ?」
「火垂の機嫌がいいから」
「えっ、私そんなに顔に出てますか?」
「出てる、出てる」
「お面付けてるのに!?」
「嬉しそうなオーラが出てる。バルファルク狩った時のあのイキイキしてるオーラ」
オーラってなんだ、オーラって。
そういえば、海未も好きなモンスターがいるとこの前話していた。気持ちが浮ついていて、その時の会話はよく聞こえなかったが……『殲滅した』という言葉だけは耳に残っている。
「せんせ、お嬢ってモンスターを殲滅したり……とか、そういうお話って聞いてないですか?」
「いきなりどうしたんだ? うーん、この前そんな事を言ってたような気がするけど」
「そうですか……モルちゃんは何か知ってますか?」
「知ってるも何も、弧白さまに話したニャ。ラギアクルスの事ですニャ〜」
「らぎあくるす……?」
カムラの里から一歩も出た事がなかった火垂は、当然そのモンスターの名を知らない。なんだそのモンスター、と火垂が首を傾げていると「知らないのも無理は無いですニャ」とモルが言う。
「そもそもカムラの里周辺はラギアクルスの生息地では無いニャ。更に言うと、水没林のラギアクルスは去年に旦那さまの手によってほとんど殲滅されているから、今は遠くにでも行かない限りは見る事も難しいのニャ」
「そりゃあ知らないはずですねぇ。お嬢、一体どんな理由があってラギアクルスを……」
「まぁ、あんな事があっては恨むのもしょうがないニャ」
「あれは、うん。流石に俺もショックだったな」
「お、お嬢、そんなにヤバい過去を持ってるんですか?」
「ヤバいというか、エグいというか」
「あれは不可抗力ニャ。伊月さま達もまだハンターになって三年くらいの新米だった頃だし、獰猛化個体に出くわしたのも全くの偶然、運が悪かった……ただそれだけニャ」
「じゃあ、あの絵の子供達はやっぱりお嬢のかつての狩猟仲間なんですね」
絵が飾られた壁に近づき、所々隠れた紙質の古い絵を見つめる。仮にこの子供達がラギアクルスによって全滅させられた過去があったのだとしたら、海未は相当悲惨な経験をしている事になる。もちろん、人の過去を詮索するような野暮な真似はしないが……想像するだけでも恐ろしい光景だ。
自然と、身震いをしてしまった。
「絵?」
「あ、はい。壁に飾っているこの絵です。全部お嬢が描いたものなんですって」
「へぇ、凄いな、こんなに沢山……」
「火垂さまや弧白さまの絵もあるニャよ」
「え、俺の絵も?」
「後でお見せするニャ。ともかく火垂さま、今日はありがとうございましたニャ」
「お構いなく! 私も楽しかったです! じゃあ、私は晩御飯買ってきますね」
海未の家を出る。西日が差し込み、火垂は目を細める。まっすぐ食事場に向かい、火垂は弧白が好きな味の団子を注文する。椅子に座り、出されたお茶を飲みながら、傍に出来た大穴を見つめる。
静かだ。周りに親しい人達がいないと、こんなにも変わるものなのか。少し物足りないなと感じると同時に、お嬢ももしかしたらこんな気持ちだったのかな、と思うと、火垂は何も出来ない自分がますます嫌になった。
ふと思う。それだけ悲惨であろう経験をしたのにも関わらず、どうして海未はハンターを続けているのだろうかと。
自分がハンターをしている理由は、百竜夜行から里の皆を護りたかったからである。
でも、海未は違う気がする。彼女はきっと、誰かのためにとかじゃなくて、自分の気持ちをハンターという職業で押し殺すためにしているのだと思う。本人から詳しい話を聞いていない故に定かでは無いのだが……先程のモルの話や表情を見る限り、彼女が今、少なくとも楽しいという気持ちでハンターをしているとは到底思えなかった。
もし自分がそんな経験をしたら、真っ先にハンター業を辞めているだろうから。
「……お嬢は、強いなぁ」
海未や弧白は強い。自分がちっぽけに思えてくるほどに。
これからうんと笑わせてあげたいな。
そう思いながら、火垂は受け取った団子が入った袋を持ちながら、海未の家へと踵を返すのであった。
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年末はお酒飲んだりスキー行ったりしてゆったり過ごしたいですねぇ。
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