物静かで大人しい敏腕秘書的存在のトモエと、暇さえあれば動き回り脳筋火力に全てを捧げている火垂。いい意味で真逆の存在である。
ではそんな二人が共に行動するとどうなるのか。
「トモちゃん! 今日は何するんですか?」
「特にありませんニャ。唯一あるとすれば……火垂さまの買い出しですかニャ?」
「買い出し? 何かありましたっけ?」
「先程ボックスを拝見致しましたが、シビレ罠と落とし罠がそろそろなくなりそうでしたニャ。それと回復薬グレート、ハチミツ……」
あとそれとこれと、と自分でメモしたであろう紙切れを見ながら、トモエが淡々と読み上げる。
「そ、そんなに足りなかったんですか!? 全然見てなかった……」
「最近お忙しい様子でしたので、仕方がありませんニャ。行きますかニャ?」
「はいっ、全部買い足しましょう! その後はどうしましょう?」
火垂は考える。トモエも自身も楽しめるような、そんな場所や出来事があったらいいのに、と。
「トモエは火垂さまについて行きますニャ。なんなりと、ニャ」
「うーん、そう言われましてもねぇ」
「……どうした、火垂殿?」
そこに、たまたま通りかかったガレアスが声を掛けてくる。火垂が事情を説明すると「……ふむ。それなら、いい案がある。ついてくるといい」と踵を返して指揮所の方へと行ってしまった。
「……?」
「行ってみましょうニャ」
二人が指揮所に向かうと、フィオレーネが自身のオトモガルクを愛でている最中であり、こちらに気づくと「火垂殿、貴殿に頼みたいことが」とすぐに火垂の方を向いて話し始めた。
「私ですか?」
「ああ。私と共に、狩猟に行ってはくれないだろうか?」
「狩猟にですか? いきなりですねぇ」
「……貴殿や海未殿、弧白殿と共に狩猟に行きたいと前から言っていてな。だが海未殿は療養中、弧白殿はその付き添いであろう? それならば、今手の空いている火垂殿と先に行ってはどうか、というのが事の経緯だ」
「なるほどですね! もちろん構いませんよ!」
トモエもこくりと頷いており、異議はなさそうだ。フィオレーネは嬉しそうな顔をして「では、準備が出来たら出発口で落ち合おう!」と、ガルクと共に走り去っていった。
「忙しい方ですねぇ」
「……元からああいう子だ。すまないが、フィオレーネをよろしく頼む」
「はいっ、お任せ下さい! トモちゃん、行きましょうか」
続けて火垂も走っていってしまい、トモエが一人取り残された。
「……む? 貴殿は弧白殿のオトモアイルーであろう?」
「今日だけは、火垂さまのオトモアイルーですニャ」
「……なるほど。気をつけて行ってこい」
ポンポンと頭を撫でられ、コクリと一つ頷くと、火垂の後を追いかけて四つ足で走っていった。
* * *
「そういえば、フィオレーネさんはどうして私達と狩猟したいと思ったんですか?」
砂原の道中、ついでにとついてきてくれたメルの背中に乗って走りながら、純粋に気になった質問をフィオレーネにぶつける。彼女は一瞬火垂を見たが、すぐに前を向き「共に狩猟をしている貴殿達の光景が、とても楽しそうと思ったからだ」と素直な理由を語った。
「楽しそう?」
「私は今まで、貴殿達のような複数人で狩猟を行うハンター殿達を沢山見てきた。だが、今まで見たどのハンター殿よりも貴殿達が一際輝いていて、楽しそうだと思った。いつかあの中に私も混ざれたら……と、そう思ったのが理由だ」
「楽しそう……そう見えてるなら何よりですっ」
そんなに楽しそうに見えていたのか、と火垂は内心驚いていた。確かに、自分も二人といると楽しい。二人は自分に無いものを持っている、そう感じることがよくある。それも相まって、一緒にいて居心地が良いのだろう。
「そういえば、お嬢の表情が少し明るくなったの、気づきました?」
「海未殿の事か? ああ、気づいているとも。あの子は変化がとても著しい。あんな大人びた印象を持ちながら、私よりも年下とは、驚いたものだ」
「確かに、お嬢は見た目はともかく、中身はかなり大人っぽい方ですもんね!」
「案外子供っぽい所も沢山あるぞ」
「えっ、本当ですか!? 全然知らないです!」
何故そんなことをフィオレーネが知っているのかと思っていると、聞くまでもなく彼女は話してくれた。
「ほら、バルファルクの特殊個体の話をする前、あの子は私にハグをしていただろう?」
「ああ、確かに! 甘えん坊さんなんでしょうか?」
「そうなのかもな。
たまに、一人で私の部屋に遊びに来るんだ。その時に、貴殿達と狩猟をした事を話してくれる。その時の彼女は楽しそうで、天真爛漫で……私の言う彼女の「子供っぽい」はそういう事だ。だが時折その表情が曇り「自分はあの人達と一緒にいていい存在だろうか」と言う事もある」
「お嬢も悩む事あるんですねぇ」
───お嬢が私達の話をかぁ。
正直、火垂からすればその行動は意外であった。海未は普段物静か且つ人見知りな性格であり、必要以上に言葉を発することがあまり無い。心を開きかけているのか、今でこそ笑ったり世間話をしてくれたり、出会った頃とは変わっているところも沢山ある。だが出会ったばかりの頃は、モンスターに遭遇するまで一切言葉を話さず、黙ったままという事も多かった。
「っと、火垂殿」
フィオレーネが静止するように火垂の前に腕を出す。メルがその合図で止まり、火垂はメルから降りて身を屈め、木の後ろから様子を伺う。
火垂の視線の先には、一頭の飛竜。別名にして「雌火竜」とも呼ばれるリオレイアが、座ってのんびりと空を眺めていた。
「モンスターも黄昏れることってあるんですね……」
「知能の違いはあれど、やる事は同じですニャね」
大して珍しそうにもせず、トモエが呟く。
そういえば、トモエは新大陸で調査団をしていたんだっけか。生態調査も仕事のうちだったと弧白から聞いているし、頭のいい彼女ならモンスターの仕草や細かい動き等を把握していてもおかしくはないだろう。
「よぉし、気炎万丈っ! フィオレーネさん、先に仕掛けますね!」
「ああ、頼ん……いや、その必要は無さそうだ」
フィオレーネが立ち上がり、片手剣を構える。大きな咆哮が衝撃波を出しながら自分達の方へと放たれ、火垂は思わず両手で耳を塞いだ。
「あー……声、大きかったかな?」
「早く戦いますニャ」
トモエもやる気じゅうぶんのようで、表情には見えないが少しワクワクしているような、そんな雰囲気が感じられた。
太刀を手に取る前に、アイテムポーチから閃光玉を取り出す。リオレイアの攻撃を避けながら、火垂は隙を伺うようにしてモンスターから目を離さない。
持ち前の翼で、リオレイアが空を舞う。ブレス攻撃の一瞬の隙を狙い、火垂は足元に潜り込んだ。
「目がチカチカーってなれっ!」
閃光玉を真下に投げ、辺りが眩い光に包まれる。目を眩まされたリオレイアが地面に勢いよく落ち、それを狙っていたと言わんばかりに太刀の攻撃を叩き込む。
「開幕早々から容赦ないな」
「空を飛ぶモンスターは、太刀の天敵ですから!」
トモエは何となく察した。
閃光玉を投げる前のあのセリフ、絶対この人の教官が言っていた言葉だ、と。
視界が閉ざされたリオレイアは、手当たり次第に攻撃を仕掛けてくる。偶然自分側に来た攻撃は見切って水月で反撃。ヒーラーのトモエが時々回復をしてくれて、また動き回り、見切り、斬る。
火垂はモンスターの攻撃を見て、その時どういう攻撃をしたらいいのか、どう見切ったらいいのかという状況判断が極めて得意だった。その才能を見出したかの教官、ウツシが勧めてきた太刀という武器。持ち始めた理由は何となくだったものの、そんな長所を持つ火垂にとっては手に馴染む武器と言えよう。
太刀を持った火垂はきっと、誰よりも集中していて、その分誰よりも火力が出ている。並の太刀使いでも集中力がここまで続く者はそうそういない。
気がつけば、火垂は周りの声すらも聞こえなくなっていた。それが聞こえ始めた頃には既にリオレイアは永遠の眠りについており、「……火垂殿、私は必要だっただろうか?」とフィオレーネが懸念していた。
「えっ、な、なんでですか?」
「いや、私はほとんど何もしていなかったから……」
「……旦那さまや海未さまがああ言う理由も納得ですニャ。トモエもほとんど回復役に徹しておりましたニャ」
「トモちゃんまで!? いやいや、私からすればお二人の方が凄いですよ!」
どうやら、過集中するのは彼女の癖の一つなようだ。何故周りが自分を気にしているのかが分からず、火垂は何故何故と疑問符を浮かべるのであった。
* * *
「火垂さま。トモエはお役に立てていましたでしょうか?」
帰り道、ふとトモエが歩きながら問いかけてくる。まさかそんな言葉が来るとは思わず「え、どうしてですか?」と問い返す。
「火垂さまはお強い方ですニャ。となると、尚更トモエは必要だったのかと疑問に思いましてニャ」
「必要ですよ! おかげでほとんど怪我しませんでしたし、トモちゃんがいなかったら今頃キャンプ送りにされていたと思います!」
「そう、ですかニャ? それなら良かったですニャ」
安心したように、トモエがふわりと微笑む。それがなんだか可愛くて、火垂は彼女を両腕に抱いて撫で回してやった。「あうあうあう……」と、海未に撫で回された時
と同様の声を出すトモエに「あはっ、変な声ですね!」とカラカラ笑った。
「そういえば、トモちゃんはどこ出身なんですか?」
「ニャ、トモエはポッケ村ですニャ」
「ポッケ村?」
「簡単に言えば、寒冷地帯ですニャ。その後は、オトモ雇われ予定のアイルーとしてバルバレの船に乗り、色んな街や拠点を見てきましたニャ」
バルバレは世界中を巡る関係で、地図に載らない移動する拠点。海未が出会った頃にそんなことを言っていた。彼女の第二の故郷とでも言うべきなのだろうか。
「バルバレの船にも乗ったんですね! お嬢がバルバレ出身だったような気がしますが、会わなかったんですか? あとモルちゃんとも……」
「海未さまやモルさまとはお会いしたことはありませんでしたニャ。……あぁでも、あの子のお姉さんとなら一度」
「お嬢にお姉さん!?」
「ご存知ありませんかニャ? 海未さまにはお姉さんがいらっしゃるのですニャ。詳しくはご本人さまからお聞きくださいニャ」
「知らなかったです……」
その辺りは、海未の意識が戻った後に詳しく聞くとして……などと考えていると、隣でずっと黙って話を聞いていたフィオレーネが「ポッケ村か……」とポツリと呟く。
「ご存知なんですか?」
「ものすごく寒い所だと聞いた事がある。なるほど、その重ね着はポッケ村特有のか?」
「違いますニャ。これはトモエが自ら選んだものですニャ」
九尾の狐の見た目をしたトモエが、尻尾をふわふわと触る。「この触り心地が好きなのですニャ」と、よほど気に行っている様子だ。
「いいですね、ふわふわ!」
「旦那さまは「え、それがいいの? 本当にそれでいいの?」と再三確認してきましたニャ」
「そりゃ確認したくもなりますよ……」
少し感性というか、センスというか。そういうものが他の子とはズレているのかもしれない。まぁそれもトモちゃんのいい所か、と火垂は大して重く受け止めはしなかった。
「それにしても、海未殿は大丈夫だろうか」
「お嬢は強いですから、大丈夫ですよ。あれくらいで死にはしません」
とはいえ、フィオレーネが心配するのも当然である。意識不明となれば、そりゃあ誰だって心配もする。しない方がおかしいと皆言うだろう。
一周まわって冷静になっていた火垂は、今だからこそ大丈夫と返事が出来ているものの、救援に行ったあの日はまず目の前のモンスターを倒す事で精一杯で、他のことに頭を回している余裕なんて微塵もなかった。もしフィオレーネと同じ状況下に置かれていたのなら、自分もきっと同じ事を言うだろう。
「……貴殿の言葉を信じることにするよ。海未殿は強い、私もそう信じる……いや、信じている」
「はいっ! 目が覚めて、お嬢の具合が良くなったら、今度こそ四人でひと狩りしに行きましょう!」
「ああ、そうだな」
* * *
「旦那さま、どうでしたかニャ?」
トモエと別れ、自宅に戻って怪我の治療をしている時、ふとオトモアイルーの村雨が尋ねてくる。
「凄かった! 今日はフィオレーネさんも一緒に行ったんだけど、あの人凄く強くて!」
「ちゃんと見ていましたかニャ?」
「居合の合間に見てたよ? 片手剣でダウン取ったり、途中で別のモンスター操竜して連れてきたり!」
「それならいいのですニャ〜。楽しかったようで何よりですニャ」
消毒をしてガーゼをペタペタと貼りながら、村雨はニッコリ笑う。オトモガルクの朧はというと、救急セットからあれをこれをと村雨に渡している。
「今度からお嬢と先生と三人で行く時、手頃なモンスター引っ捕まえて操竜して連れてこようかな?」
「それは構いませんが、無茶だけはしないでくださいね?」
「分かってるよ、村雨は心配性だなぁ」
「いえ、心配性なのではなく……」
心配性なのではなく、いつも無茶ばかりしているから言っている事なのですが。
そう村雨は言いかけたが、「いえ、なんでもないですニャ」と敢えて口を閉じた。
「ところで、海未さまはまだ意識が戻らないのですかニャ?」
「うん、まだ眠ってるって」
「そうですかニャ……ナルガクルガ希少種を初めて見ましたが、あの動きは予測しにくいですニャね」
「また動き覚えなきゃいけないモンスターが増えちゃった! 楽しいからいいけどね」
「楽しいだけでどうにかなる相手じゃありませんニャ! 真面目にやってくださいニャ!」
「あはは、ごめんごめん」
村雨の言う事は正しい。何事も楽しいだけではハンター業は務まらない。だがド真面目にやるのも、それはそれで楽しみに欠けてしまう。恐らくそんな事は弧白も海未も望んではいないことだ。
「ねぇ、村雨」
「はいニャ?」
「私はあの時、どうしたら良かったのかな?」
「あの時、とは?」
「私があと数時間早く帰っていれば、お嬢があんな事にならなくて済んだのかなぁって考えててさ。でもそれって無理な話じゃん? カムラからエルガドまでは結構かかるし、どうしたら良かったのかなって思って」
はぁ、と珍しく主人が落ち込んでいるのを見た村雨は、救急セットを閉まって火垂の隣に座る。
「うーん……どうしたら良かったのかではなく、これからどうしたいかを考えませんかニャ?」
「え?」
「過去ばかり見ていてもどうにもなりませんニャ。時には過去を振り返る事も必要ですが、じゃあ自分はこれからこうしていこう、ああしていこうと、対策を考えるのですニャ」
「村雨……私は、お嬢達を護りたい。今一番火力が出るのは私だから、私が全部見切って、全部斬って、全部シバく! で、いいのかな?」
「その意気ですニャ!」
相変わらずの脳筋思考だが、今ここにそれを指摘する者は誰もいないのである。
年末はサーモンを食え(圧)
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