モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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第4章 誰かと歩幅を合わせること


 三ヶ月後、秋の彩りが見えてきた頃。すっかり傷も癒えて回復した海未は、また双剣を手に持つ。久々に持ったからか、フォルティス・グラムが少し重たく感じた。

 ギルドクロス装備のマントを上から羽織り、内金具で留める。リアンアーム、ギルドクロスコイル、エルガドパンツを装着し「うん、いつも通り……あれ、ちょっと余裕ができてる」と、ベルトを締め直す。

「旦那さま、忘れてるニャ」

「ん? ああ、はいはい」

 モルが桜のピンを持ってきて、海未に手渡す。それを受け取り、左の横髪に丁寧に付ける。

「……やっぱりこれがないと落ち着かないね」

「似合ってるニャ! さ、行くニャ」

「うん。メル、お留守番よろしくね」

 海未の声で片目を開けたメルは、寝ていた寝床で大きく伸びをして、行ってらっしゃいと言わんばかりに大きくひと鳴きした。

 海未の手には、ひとつの長方形の封筒が握られている。郵便屋のアイルーに「よろしくね」と一言言い、海未はそれを渡す。

 ふと、隣に誰かが来て、同じように手紙を出している。弧白だった。

「おはよう」

「えっ、あ、おはよう、海未さん」

 少々動揺気味に返答した弧白。誰に手紙を出しているのかを聞くのは流石に失礼な為、海未は敢えて手紙については触れなかった。すると彼の方から「誰かにお手紙?」と尋ねられる。

「うん。遠い所にいる方に」

「そっか」

 それ以上の会話は無く、弧白は広場へと向かっていく。海未もそれについて行き、待っている火垂に軽く手を振った。

「お嬢! おはようございます!」

 火垂が海未を見て、元気よく挨拶をしてハグをしてくる。相変わらずのスキンシップの激しさに「はい、おはよう」と、彼女の背中に腕を回してハグをし返した。

「お嬢がハグ返ししてくれた……!」

「そんな珍しい事かな?」

「珍しいですよ! ね、先生!」

 傍で見つめていた弧白は「確かに珍しいかも」と納得したように声を上げる。

「そうかなぁ。そうかもね」

「海未さん、また今日からよろしくね」

「うん、よろしく。……それで、復帰早々で申し訳ないんだけど、二人に紹介したい人がいるんだよね。いいかな?」

「紹介したい人?」

「いいけど、誰だろう。火垂、知ってるか?」

「いいえ、私は知りませんね」

 二人は顔を見合せて、同時に首を傾げる。

「確か今日だったはずなんだよね」

 海未はある一方向を見つめる。その視線の先には海未の家がある連絡船があり、今まさに出航しようとしているところだった。

「あれ、お嬢のお船が……」

「なんだ、なにか来るのかな?」

 しばらくして、連絡船が方向転換をして少し沖側に出ると、その代わりに海から新たな船がやってくる。

「……お、来た」

 大きな木造船だ。羽のような形のロゴマークが右舷船体に刻印されており、それを見た弧白が「ああ!」と急に大声を上げた。

「うわっ、なんですか先生!」

「弧白さんは気づいたね。

 火垂、あれは遠い大陸からやってきた船だよ」

「遠い大陸? バルバレの船ではないですよね、じゃあどこから……?」

「新大陸だよ、新大陸! 俺が所属していた『五期団』の船だ!」

「正解。紹介したい人があの中に乗ってるはずなんだ。もしかしたら、弧白さんは知ってるかも」

 そう、今入港中のその船は、遠い場所にある道の大陸『新大陸』からやってきた交易船だった。

 船の甲板から、海未と同じ煤竹色の頭髪をした背の高い女性が出てくる。少しの時間キョロキョロと辺りを見渡し、やがて海未を見つけると、

「いたいた。おーい、██ーっ! あと弧白も!」

 海未達に向けて、大きく手を振ってくる。海未はそれを聞いた瞬間に「うわ」と少し嫌そうな顔をした。

 

 入港作業が終わり、女性が船から降りてくる。肩には大きな郵便カバンを提げており、それを郵便屋のアイルーに預けた後、海未達に近づいてくる。ふわふわとした暖かそうなファーに身を包み、背中に大きなアンジャナフ大剣を背負ったその女性は「久しぶりーっ!」と、海未に特大ハグをかます。体格差もあってか、海未が彼女の身体にすっぽりと収まっていた。

「うぎゅ、くるちい……お姉ちゃん、ファーがくるちいよ……」

「お姉ちゃんが会いに来たぞーっ! へへ、元気にしてたかにゃあ?」

「元気だよ……離して……」

「おっと、ごめん」

 すぐに離され、海未はどっと疲れた表情を見せる。

「えっと、二人に紹介するね。こちら『新大陸古龍調査団』五期団の……」

恋海(れみ)でーす! この子のお姉ちゃんですっ」

 ふんすっ、と胸を張ってドヤ顔をする女性、恋海。

「おぉ! 噂に聞いていた、お嬢のお姉さん!」

 そんな恋海を弧白は驚いた様子で見ており、「どうしたんですか、先生?」と火垂が顔を覗いた。

「れ、恋海さん、どうしてここに……」

「やっぱり。お姉ちゃんと弧白さん、知り合いだったんだ」

「知り合いも何も、同じ五期団だにゃあ。あたしは今は編纂者と調査団を掛け持ちしながら、新大陸と現大陸の郵便交換役もしてるの」

「れ、恋海さんが海未さんのお姉さん!? 海未さん、なんで言ってくれなかったのさ!?」

「え、特に言わなくていいかなと思って」

「あれ、あたし達が姉妹だってこと、弧白に伝えてなかったの?」

「うん、だって別に関係無い情報だし。火垂にはちょっと前にお話してたけど、弧白さんはあの時傷心しててそれどころじゃないと思ったから」

「あの時?」

 恋海が首を傾げる。「この間手紙に書いてたでしょ? 療養してたって」と海未が腹に手を置いて応えると「あぁ〜……なるほどにゃあ」と納得した様子で笑った。

「弧白ぅ、あんたあたしの可愛い妹に何かしたの〜?」

「何もしてない! 強いて言うなら護られただけだよ!」

「護られた? へぇ、あたしと同じ事をしたって訳……ふぅん。やっぱ姉妹なんだね、あたし達」

「どういう事、お姉ちゃん?」

 恋海の足元から、恋海と同じようなオトモ用の装備を着た紺藍色のオトモアイルーが顔を覗かせる。「あ、この子はあたしのオトモアイルー。アイトっていうの」と恋海が紹介すると、おずおずと前に出てきて軽く一礼した。

「アイトちゃん、久しぶり」

「ニャ……えっと、どうお呼びすれば?」

「あぁ、そっか。“今は”『海未』って呼んでくれる?」

「分かったニャ。海未、久しぶりニャ」

「アイト、久しぶりニャ!」

「モル〜! 久しぶりニャ、ずっとモルに会いたかったニャ!」

 二人はがっしりと抱きしめ合い、久々の再会を噛み締めているようだ。モルがトモエ達を紹介しているのを尻目に「それにしてもあんた、背伸びた?」と恋海は海未の頭に手を置く。

「測ってないけど、伸びたかも」

「あはっ、お姉ちゃんには分かるよ! 多分、三センチくらい伸びてる!」

「三センチって……」

 そんな姉妹の会話を聴きながら、弧白は少し考えに耽けていた。海未の言葉の節々に、どこか引っ掛かりを覚えていたのだ。まるで『海未という名前が本名ではないかのような』、そんな発言。だがプライバシーに関わる事だし、聞いてまた嫌われるのもなぁ、と考えていた。

「弧白さん?」

 海未が顔を覗き込む。ハッと我に返った弧白は「ごめん、ちょっと考え事」と慌てて笑顔を貼り付けた。海未はその様子を見て何か思ったのか、少しの間弧白を見つめた後「ふぅん」とすぐに恋海の方を向いた。

「お姉ちゃん、いつまで滞在するの?」

「今日から一週間くらいかな。その間、寝床はあんたの家を借りようと思ってるんだけど、いい?」

「それは構わないよ。……で、狩猟行くの?」

「行く! もう大剣振り回したくてうずうずしてるの!」

「……だ、そうですが。二人はいい?」

「もちろんです!」

「構わないよ。恋海さんとまた狩猟が出来るのか、楽しみだな」

「ふふん、お姉ちゃんに任せなさいっ」

 胸に手を置き、恋海は誇らしげに笑った。

「その前に、防具屋で新しいの作ってきたら?」

「あ、それもそっか……こっちじゃ役に立たないもんね、この装備。うん、作ってくる! 海未、あんたの素材借りるわよ」

「素材は防具を作ったら帰ってこないよ〜……人の素材をなんだと思ってんだ、あの人」

 加工屋に向かっていく恋海に、海未が呆れた顔をしながらやれやれと肩を竦めた。

「変わんないなぁ、恋海さん」

「昔からあんなんだよ。お調子者でいつもケラケラ笑ってて、辛い事なんて何にもなさそうなおちゃらけた顔してんの。

 ……ほんと、羨ましいくらい」

 目を細め、まるで恨みか嫉妬か、そんなものでもあるかのような眼光を恋海に向けながら、海未はポツリと呟いた。

「ああそうだ。お姉ちゃんと狩猟に行くなら……いいものが見せられる」

「いいもの?」

「って、なんですか、お嬢?」

 スタスタとチッチェの方へ向かい、とあるクエストを受注する。

「ついでに人助けも出来て、いいものも見せられて、一石二鳥だね」

「なになに?」

 弧白と火垂が後ろからクエスト情報を覗く。そこに書いてあった討伐対象は、「ウルクスス」。

「白兎獣ウルクスス! しかも救難信号が出されているものですね!」

「恋海さんが防具を作り終えたら、交代する形ですぐ向かおう」

「あたしが何ー?」

 既に防具を作り終え、装着した恋海が後ろに立っており、「お、流石お姉ちゃん。早いね」とさも当たり前かのように海未が言う。

「早くないですか!?」

「だって、十八番装備だし!」

 にひっと歯を見せて笑う恋海。頭、腕、足装備以外をウルクスス装備に着替えた恋海が、弧白には先程とはまた違う印象に見えた。

「本当はベルダー装備が一番いいんだけどねぇ〜、あれ動きやすいし」

「ここではそれで我慢して」

「はーい。それで、何に向かうの?」

「ウルクスス」

「おぉ! じゃあいいものが見せられるね!」

「恋海さんまで……一体なんなんですか?」

 弧白の問いに、恋海はんー、と考え「着いたら教えるね」と出発口に向かう。アイトも装備を変えたようで、同じく暖かそうなウルクスス装備になっていた。

「……ところで弧白、あんたうちの妹をハグしたんだってね」

「ウッ」

「後でシメるからね」

「キューン……」

 

 * * *

 

 救難信号を出したハンターを見つけ、先にエルガドに帰還させると、「さて、殺す?」といきなり物騒な発言をしだす恋海。

「お姉ちゃんがそうしたいならしてもいいと思うけど……」

「ん〜、ぶっちゃけどっちでもいいのよね。なんせ───」

 ゆらり、と後ろで揺れる大きな影。弧白が振り返ると、そこには大きな耳を生やしたモンスター、ウルクススが仁王立ちで立っていた。

「目の前だからにゃあ」

「恋海さん、後ろ! 後ろ!」

「わぁ、弧白さん力強いねぇ」

 海未を連れて距離を取った弧白が顔面蒼白で叫ぶも「大丈夫大丈夫! あたしは問題ないから!」と恋海は呑気に笑っている。

「海未さん、あれ止めなくていいの!?」

「うん、大丈夫だよ」

「なんで!?」

「すぐ分かるよ」

 ウルクススは距離を取ると、寝そべり、まるでスケートのように腹這いで滑ってくる。その狙いは恋海だ。当の彼女はというと特に抜刀もせずウルクススを見つめている。段々と距離が迫る中で、恋海は武器の代わりに自身の片手の平をウルクススに向け───、

「お座りっ!!」

 そう一言だけ叫んだ。

 途端、その声を聞いたウルクススが急にブレーキをかけ始め、恋海は盛大に雪を被る。それでもなお笑っている恋海を見て「頭のネジが外れてる……」と弧白が呟いた。

 そこからが驚くべき光景だった。ウルクススが恋海についた雪をそっと掻き分け、耳を畳んで静かに頭を下げ始めたのだ。

「よーしよしよしよし、いい子だにゃあ〜」

「……ほらね、大丈夫でしょ?」

 自身についた残りの雪を払い落とし、恋海はウルクススの頭を撫でくりまわす。敵意が一切無くなったウルクススを見て、弧白は驚きを隠せずにいた。

「あ、あれが「いいもの」ってやつ? でもなんで?」

「そう、あれが「いいもの」。お姉ちゃんは過去に、ウルクススに助けられた事があるんだよ。だから攻撃しないんだと思う」

「だとしても、さっきまで敵意剥き出しだったウルクススをあんな一瞬で、しかも「お座り」の一言で手懐けられるなんて事あるか!?」

「珍しく素が出てるね、弧白さん。今見ているのは、紛れもなく事実だよ。モンスター側も、何か感じるところがあるんだと思う」

「はぇー、すっごい……お嬢のお姉さん、ウルクススを手懐けちゃってますよ」

 火垂も初めて見る光景のようで、物珍しそうにして声色が上がっていた。

「よしよし。でも人を襲うなんてにゃあ。そういう事をする子には……」

 と、ここで恋海が初めて抜刀をする。重たそうな大剣を後ろで構え、一定時間溜め始める。

「───容赦は、しないっ!」

 ウルクススに向けて思いっきり振り降ろし、ズドンッ! という音と共に地面が軽く揺れる。両耳を削がれたウルクススは、怯んで後ろに倒れ込んだ。

「嘘だろ、あの大耳を一撃で……」

「さ、皆もやるよ〜」

「はーい」

「あ、狩猟するにはするんだ……」

「相手はモンスターだよ、弧白さん。お姉ちゃんのいつもの光景だし、あんまり気にしない方がいいと思うよ」

 海未は双剣を抜刀し、さっさと走っていく。

「つかの間の手懐けでしたねぇ」

 火垂が笑いながら、そんな事を呟いた。

 

 恋海のちょっとした特技(?)を見せてもらい、無事ウルクススの討伐が完了した四人。マスターランクに入ってから受注出来るクエストのはずなのに、そこまで苦戦する相手ではなかったのは気の所為だろうか……と、弧白は少し腑に落ちない様子だった。

 戦闘中も、恋海にはほとんど攻撃を仕掛けなかったウルクスス。海未の言っていることは本当なのかもしれない。

「お疲れ、三人とも!」

「ん」

「姉御! 凄いです!」

「うぇっ、姉御ってあたしの事?」

「はいっ! 強くてかっこいいので、姉御ですっ!」

「あはっ、いいねぇそのあだ名!」

 年の差がある女子二人がキャッキャしているのをよそに、海未は息絶えたウルクススの剥ぎ取りを始める。全く気にしない所も海未さんのいいところか、と弧白も隣で剥ぎ取りを始めた。

「うちのお姉ちゃん、うるさいでしょ」

「新大陸にいた時からずっとうるさかったよ。……でも、あの愛嬌に助けられた事が何回もある。彼女の長所だよね」

「ふふ、そうだね。うるさいけど、それで元気づけられるんだよね。……お? 大獣玉だ」

 剥ぎ取った素材の中から、一際レア感を放つ大きな玉『大獣玉』を採り出す海未。弧白が羨ましそうな目で見つめており、それに気づいた海未が「ん」と弧白に大獣玉を差し出す。

「えっ、でもこれは海未さんが採ったものじゃ……」

「いいよ。余ってるし、あげる」

 半ば押し付けるような形で大獣玉を渡して海未は立ち上がり、膝についた雪を払い落とした後、剥ぎ取った素材達を持って恋海の方へ歩いていく。

「お姉ちゃん、剥ぎ取らなくていいの?」

「あっ、忘れてた。って、弧白! それ大獣玉じゃん! 普段運ないのにこういう時に出すんだにゃあ〜?」

 ニヤニヤしながら煽る恋海に「うっさいな! これは海未さんがくれたものだよ!」と少し怒りながら反論する弧白。

「ありゃ。海未、あんたあげたの?」

「だって、別に要らないし」

「……ふふ、甘酸っぱいねぇ〜」

「どこが?」

 何の事か分からない、と言いたげな顔で海未は姉を見る。恋海は恋海で相変わらず笑っており「あんたがもうちょっと大きくなったら分かるよ」と海未の頭を撫でた。




予約投稿していたつもりが何故か出来ていませんでした。エウン
海未のお姉ちゃん、恋海は弧白君の過去編でも出てきますが……エルガド編でも海未関連で関わる事が多いので登場してもらいました。
お茶目なメスガキ属性の恋海をどうぞよろしくお願いします。

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