「先生、どうかしたんです?」
食事をしながら、弧白は考え事をしていた。火垂に声をかけられるも「ん? あぁ……何も無いよ」と愛想笑いを浮かべる。あぁいつもの考え癖か、と火垂はさして気にも留めず、「それにしても、お嬢強かったですねぇ。たった一人で狩猟してしまうなんて」とお茶を飲みながら笑う。
「本当に凄い人だったね。行く途中に少し聞いたけど、今までほとんど双剣でやってきたみたいだし」
「やっぱりお誘いして正解でしたね! 明日も来てくれるでしょうか?」
好物のデザートを頬張り、幸せそうに表情を緩める火垂を尻目に「来てくれるといいんだけどね」と、食べかけだった食事をまた食べ始めた。
自宅に戻り、弧白は食事場で考えていたことを再び頭に巡らせる。
彼女が自宅に帰る時に見えた、背中の双剣。弧白はその双剣に対して違和感を覚えていた。
(あのフォルティス・グラム、かなり年季が入っていたな。彼女の外見からして、年は俺よりも少し若いくらいだろう。でもアレは……まるで、十年二十年と受け継がれてきたような、そういう代物に見えた)
───だとしたら、誰かから受け継いだもの?
「あー、分かんねぇ! 憶測で考えてもしょうがねぇや」
ベッドに寝っ転がり、ダークオークの天井を見つめる。彼のオトモアイルー、トモエは少し離れた場所で自分の武器を手入れしており、彼の発言自体は全く耳に入れていないようだった。
弧白から見た海未の第一印象は、ただの「普通の女の子」であった。自分たちと同じようにハンターになり、自分たちと同じように狩猟をする。ただ性別が違い、出身もおそらく違い、使っている武器も違うというだけで、その装備を解けば可愛い女の子なのだろう、という印象だ。
薄情で、物言いがハッキリとしていて、表情が読めない。だが不思議とそこに嫌悪感を感じない、そんな人。
そして、目を合わせることが苦手なのだと分かった。
どうも、彼女と目線が合わないのだ。弧白が彼女を見ている時、海未はどこか違うところを向いていることが多い。人としてそれはどうなのかと思うところもあるが、かつての弧白も人と目を合わせられない時期が多少なりともあったため、その気持ちは大いに分かる。分かっているつもりだ。
「どうにかして仲良くなれないかな……」
明日も狩猟に行くのであれば、色々聞いてみようか。
そんなことを思いながら、弧白は布団にくるまって目を閉じる。
今日は案外早く眠れそうだ。
* * *
「海未さん! 来てくれたんですね!」
次の日、自宅から出てくる海未に手を振り、弧白が声をかける。
「お嬢、おはようございます〜。調子はいかがです?」
「ぼちぼち。で、今日は何に行くんですか?」
「はい! これです!」
クエストボードに貼ってある紙を指さす火垂。そこには、ジュラトドス、トビカガチの狩猟をお願いしたいという旨の依頼内容が書かれており、「ジュラトドスか……」と海未が呟く。
「我々はトビカガチをやりましょうか」
「お願いします。里の依頼で狩ってはいるし、まぁ大丈夫かな」
呟きながら道具ボックスに向かう海未を、弧白はじっと見つめていた。
「先生、どうしたんです?」
「……いや、なんでもないよ」
正確には海未ではなく、その背中に担いでいる双剣を見ていた。手入れが行き届いているからか、遠目で見れば綺麗に見えるのだが、近くで見るとやはり年季が入っているように思える。相当古い時代から使われているのだろう。
「そういえば、お嬢が持ってる双剣、フォルティス・グラムですね」
「ああ。龍属性武器の中でも一際強力な武器だ、彼女の出身地にもあったんだろうな」
「先生、お嬢の出身地をご存知で?」
「いいや、知らない。ただの勘だよ。だって、カムラの里にはいなかったんだろ?」
「ええ、それはまぁ……その口ぶりですと、先生がいた所にもおられなかったみたいですねぇ」
「そう。だからただの勘。後で聞いてみようか」
弧白は食事場に移動し、椅子に座る。「いらっしゃいですニャ! いつものでいいですかニャ?」とアイルーの問いに「うん、いつもので」と笑って返す孤白。
「私もいつもので!」
「はいですニャ!」
いそいそとお団子作りを始めるアイルー達。出来るまでに少し時間がかかるため、弧白はこの間にハンターノートを確認する。勤勉ですねぇ、と火垂の言葉を耳に入れつつ、確認している間は一言も言葉を発することは無かった。
「わっ」
「わぁっ!?」
不意に耳元で聞こえた声に、驚いてひっくり返りそうになる。今の声は火垂では無い。ということは……。
「う、海未さん……ビックリしました……」
「凄い集中力。何回か声掛けたんですが、反応しないものですから」
気づけば、目の前にはお団子が運ばれてきていた。余程集中していたのだろう。
「あ、ああ……すみません、気づきませんでした」
「先生はいつもこうですからね〜!」
「あ、いつもの事なんだ……私もお団子頼もうかな」
「はいはいニャ、海未ちゃんもいつものでOKですかニャ?」
「うん、お願い」
昨日と同じように頬杖をつき、海未は何かを考えている様子だった。どうしたのかと弧白が聞くと「んいや、モルが昨日ずっと喋ってて、あまり眠れてなくて……」と大きな欠伸をした。
「大変そう……」
「うるさいよ〜うちの子。昔から可愛いのは可愛いんですがね」
「昔から……そういえば、海未さんはどこ出身なんですか?」
「え? バルバレですが」
「バルバレ!? 俺ドンドルマ出身なんです!」
「へぇ、近いですね……いや、拠点ごと移動するから近いとかそういうのはないか……」
「バルバレってどこです、お嬢?」
「えっ、知らない? 今はカムラの里から西の方の、砂漠地帯に拠点を置いてるんじゃないかな。あそこ嫌なんだよな、ダレン・モーランが出て……」
「今度聞かせてください、バルバレでのお話! ちなみに俺は、つい最近まで新大陸で調査団をしていたんですよ」
「新大陸って、モンスターの生態系とかがまだハッキリしていないっていうあの? 料理が美味しいって聞いたことがあります」
運ばれてきたお団子を食べながら、海未は聞き返す。
「そうです! 海未さんにも食べさせてあげたいです……!」
「私はカムラの里出身で、ぬくぬく育っちゃってぇ……」
「へぇ、カムラ出身か……あそこ、ヤバい人しかいなかった気が……」
あまり興味なさげにそう返し、「それで、準備出来ました?」ともう一度問いかける。彼女のお団子は既になくなっており、食器をカウンターに返そうとしていた。
「あと五分待って!」
「お嬢準備早すぎません?」
「……手よりも口の方が達者みたいですね」
メルが脇腹を小突いてきて、スッと頭を下げる。重ね着の頭巾を被りたいようだ。
「ん、はいはい」
優しく被せ、耳ポケットに耳を通す。これで本調子、と言いたげに嬉しそうにするメルを見て、海未もつられて微笑んだ。
そんな彼女を見て、そこまで薄情じゃないのかも、と弧白は考えを改め、昨日の自分の思考を消すように頭を左右に振る。
「何してんの……?」
「いえ、何も無いです!」
「お嬢、この人のいつもの考え癖ですので、気にしない方がいいかと」
「はあ……」
困惑している海未に対して、弧白はなんだか申し訳なくなった。
* * *
「じゃあ、お嬢が明日朝方用事があるということで、明日は十時半辺りにクエストボード前に集合ですかね?」
「それでお願いします。ガレアスさん、なんの用なんだろう……」
「緊急クエストでも貼り出されるんですかね?」
「……そこら辺は、聞いてみないとわからないです」
いつものように狩猟をして、それぞれ終わった後にメインキャンプで合流。明日は何時に集まる、と決めてから解散、というのが大まかな流れになっていた。
「朝方何しようかな。買い物済ませたりなんなりしても時間余るし、うーん……?」
「先生、やることありますよ」
「え、何がある?」
「マカ錬金♡」
……自分でも嫌そうな顔をしていることを弧白は自覚していた。それを見た海未は「マカ錬金……ああ、護石ガチャの」と少し考えて視線だけ上を見上げる。
「そう! ハンターのロマン、護石! あれでレア物が出た時が一番脳汁ブッパですよぉ!」
「ソウダネー」
「……なんか、あんまり乗り気じゃないですけど、大丈夫ですか?」
情けをかけるように海未に言われ「ええ、大丈夫です、きっと……」と弧白は保証のない返事をしてしまった。
「実際、マカ錬金はハズレなものが多いですからねぇ。お嬢も経験してるでしょう?」
「え? ごめんなさい、私ハズレというものがあまり分からなくて……この中にハズレってあるんですか?」
海未が道具ボックスから装飾品を取り出し、二人に見せる。どれもこれも低確率で出るレア物ばかりで「豪運の持ち主!」「俺にも欲しいよぉ、その豪運……」とそれぞれ嘆いていた。
「……相当運無いんですね」
「先生の運の無さもそうですが、お嬢は逆に運が良すぎるんですよ」
「……?」
どういうこと、とよく分かっていない顔をしている海未に「あの護石って、レア物出る確率が結構低いんです。俺は昔から運が無いんで、それも重なってるんだと思います」と弧白が笑ってみせる。
「ふぅん……」
「さ、帰りましょ! お腹空きました!」
「だな、帰るか」
「……私、あんまりお腹空いてないや」
「お嬢は結構少食な方ですか?」
「うーん、その日の体調によって変わるというか……」
遠くで見ても細身なのに、近くで見てもやはり細い。今朝食べていたお団子が普通のお団子より小さめの物であったこともあり、本当に少食なのだろう。
「ちゃんと食べてますか? 食べないとダメですよ」
「言われなくても分かってますよ。倒れない程度に食べてはいますから」
彼女の髪についている桜のピンが、光に反射して艷めく。それを見ようと弧白が距離を縮めると、海未は途端に飛び退いて距離を取る。
「───ッ!? あ、あの、あまり近づかないでくれますか!?」
シャーッとアイルーのように警戒する海未。その光景を見て「野良アイルーと戯れてるハンターみたい……」と、火垂はボソッと呟いた。
「お嬢、もしかして人間無理なタイプです? 目もあまり合いませんし」
「…………」
バツが悪そうに目をそらす海未に、これは図星だな、と二人は確信した。
「む、昔から、なんです……人と目を合わせるの、ほんと苦手で……目を見たら、その人達が何を思っているかっていうのが分かってしまって、その、怖くて……」
「と、言われましてもねぇ」
「私らは特に、海未さんに対しては何も思っていませんよ? 頼りになるハンターとしか」
「いえ、そういうのではなく……それは表面上の思いでしょう? 私が言っているのは、君達の心情ではなく、私に対する「印象」です」
「そこまで読み取れるって、お嬢ってやっぱ凄い人ですよね」
「そんな事ないですよ。人の気持ちに過敏になってしまっただけなんです」
決して口を割らないその態度の裏には、何か後ろめたい事情があるのだろう。弧白はそう感じていた。
* * *
「お嬢、この後はどうするんです?」
エルガドに帰り、クエストボードの前で火垂は首を傾げる。
「買い物して帰ります」
「俺も同じく」
「じゃあここで解散ですねぇ。先生、お嬢、また明日もよろしくお願いします!」
「ん、また明日」
「はい。それじゃ」
火垂のみ別の方角に歩き、海未と弧白は買い物をするため雑貨屋に立ち寄る。人間とは違い四本の指を持つ、尖った耳をした竜人族と呼ばれる種族の男性、オボロが二人に気づいて声を掛けた。
「いらっしゃい。おや、海未さんに弧白さん。今日は意外な方々が一緒なんだね」
「意外……まぁそうか。一緒に横歩くのも今日が初めてですし」
「確かに? 海未さん小さいので、見失いそうで怖いです」
「小さい……もう少し身長欲しかったなぁ」
「仲睦まじいようで何より」
店主、オボロの言葉に「いやいや、昨日会ったばかりですし」と海未は片手を左右に振る。
「そうかい? それで、今日は何をお求めかな? ただ今セール中だよ」
「私はトラップツールを買いに来ただけです。そろそろ捕獲用のシビレ罠が切れそうだったの思い出しまして」
「俺は回復薬グレートを」
「トラップツールと、回復薬グレート……と。はい、どうぞ」
ゼニー硬貨を渡し、二人はそれぞれ買ったものを受け取る。いつの間にいたのか、海未の横に立っていたモルにそれを預けると「オボロさん、ついでにマタタビもお願いします」と追加でゼニーを渡す海未。
「マタタビ? って、うわっ、モル君いたの!? マタタビはモル君の為のだったんですね」
「それ以外に何があるっていうんですか……モル、半分持つから無理しないでいいよ」
「ニャ……ウニャ……こ、このくらい平気ニャ」
「……半分寄越さないならマタタビあげないよ?」
「ニャ、それはダメニャ! はいっ、旦那さま!」
「こういう時だけ潔くて助かるわ」
小言を言い「それじゃあ」と自宅に帰ろうとする海未。
「あの、送りましょうか?」
「大丈夫です」
弧白の提案をキッパリ断り、海未は孤白を睨みつけるように見る。その目を見て思わず怯んでしまった弧白を背に、海未は足早に去っていく。トモエがポンポンと手を置き「距離、詰めすぎですニャ」とド正論を放った。
「やっぱり距離詰めすぎなのかなあ……」
「女の子はデリケートですニャ。もう少し優しく接してあげニャいと……ほら、新大陸にいたあの子のように」
「あの人は海未さんとベクトルが違うよ。明るすぎて、逆に振り回された記憶しかないよ」
「それもそうですニャね。さ、帰りますニャ」
オボロに軽く会釈をし、弧白は自宅の方へと歩いていく。時は夕暮れ、皆店仕舞いと閉店の準備をしている。
「なんだかんだ言って、この景色にも慣れてきたな」
「こっちは暖かくて過ごしやすいですニャ」
「確かに。新大陸ではずっと厚着してたから分からなかったけど、あっちって氷だらけだし寒いんだよな……」
「寒冷地域のセリエナならそうですニャね」
家の扉を開け、買ってきた物資を置いて窓を開ける。あちらこちらから良い香りが漂ってくる。弧白の腹の音を鳴らすのにはじゅうぶんすぎるものであった。
そういえば、クエストから帰ってきてから何も食べていない。
「トモエ、夕飯食いに行くか」
「ん、お供致しますニャ」
ガルクも傍についてきて、一人と二匹は腹を満たすために家を出た。
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