モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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相棒

 恋海にとって、弧白という人物は『面白い』以外の何物でもない存在だった。昔から生真面目で、手の抜き方を知らない。それ故に、全てを本気でやりすぎて、後でガバが出てきてしまう。新大陸にいた時の弧白は、言ってしまえば不器用な子だったと言える。

 恋海も恋海で器用な方ではないが、弧白よりかはマシだと思っていた。初めて邂逅したのは六年前、彼が十五歳、恋海が十七歳の時。まだお互い子供だった事もあり、喧嘩もしたしトラブルだって起こした。だがなんだかんだ言って付かず離れずな存在で、三年も経つ頃には新大陸の謎をほとんど解き明かしていた程、恋海にとっては遠い存在になってしまった。

 では、今の二人はどうなのか。

「恋海さん、お団子要ります? 奢りますよ」

「お、いいのー? 何にしようかにゃあ」

 とにかく距離が近い。近いのだが、これでもお互い恋愛感情というものは全くもって無い。

「……あれ? 恋海さん、その薬指の指輪……」

「ああ、これ? 二十一の時にね」

 現に恋海は既婚者というやつである。自分の旦那をほっぽいて他の人を好きになろうなど、恋海としては言語道断である。

「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか!? 御祝儀いくら包めばいいか分からないでしょ、式は挙げたんですか!?」

「挙げてない! 祝儀も要らないって、そんな気遣わなくたって大丈夫よ」

 ケラケラ笑い、恋海は団子を食べ始める。

 今日は海未と火垂が別の任務に呼ばれている為、久々の二人での狩猟になる。食事を終え、クエストボードを眺めていると、「あんた、この前の……!」と後ろから声を掛けられる。

「え? あぁ、あの時のハンターさん! 大丈夫でしたか?」

 その人物は、ナルガクルガ希少種で救援要請をしてきたハンターの一人だった。弧白の言葉に「俺達は軽傷だよ。だがあんたの仲間の一人が重症だったんだろう!? そっちこそ大丈夫だったのか!?」と慌てた様子で問い返してきた。

「つい昨日復帰して、今は別任務に向かっていますよ」

「ああ、良かった……!」

「あの時の? っていうのは、海未が大怪我したって言ってたあの任務の事?」

「そうそう。その時に救援要請をしてきたのが、このハンターさんの仲間だったんだよ」

「なるほどにゃあ〜。無事で良かったねぇ」

「こっちこそ、大変なことに巻き込んですまなかった! ありがとう、助かったよ!」

「大丈夫ですよ。また何かあったら言ってくださいね」

 そうして別れた後、恋海は弧白の顔を覗き込む。少し青ざめた顔をしている彼に「弧白、少し座っときなさい」と食事場の椅子に再び座らせ、恋海が代わりにクエストを選ぶ。

 ───あの顔、相当トラウマになってるにゃあ。ナルガクルガやその希少種は受けない方がいいわね。

 ふと指が止まったクエストがあった。タマミツネの討伐、と書かれており、恋海はおもむろにそれを手に取ってチッチェに渡した。

「受付嬢さん、これお願いしますっ」

「はいっ、承りました!」

「……こんなに小さいのに、凄いね」

「あ、ありがとうございます……! 光栄です、恋海さん!」

「あたしの名前、知ってるの?」

 驚いた様子で尋ねると「はいっ! 父から「ベルダー装備一式でベルナ村を救った、恋海という名前の凄い大剣使いの女性ハンターがいる」と、よく聞かされていましたから!」とニコッと笑う。

「エルガドにも知れ渡ってるのね、あたしの龍歴院の時の事。そんなに派手な事してないはずなんだけどにゃあ……」

「ですが、その当時の恋海さんはまだハンターになって間もない頃でしょう? そんな中で一つの村を救ってしまうなんて、凄いですっ!」

「えへ、ありがとう。実際は困難だらけだったんだけどね」

「また聞かせてください、当時のお話! 私、興味があるんです!」

「ふふっ、今日帰ってきた時にでもね。じゃあ、ありがとう。行ってくるね」

「はいっ!」

 満面の笑みで手を振るチッチェに振り返し、「弧白、落ち着いた?」と食事場でお茶を飲んでいた弧白に声を掛ける。顔色も落ち着き、「あ、うん。すみません、どうしても思い出してしまって」と弧白が素っ気なく返した。

「誰にだって、怖い事の一つや二つあるもんね。気にしてないよ、大丈夫。さ、行こっか! 今日はタマミツネの討伐だよ!」

「お、タマミツネですか! 任せてください、俺得意なんで!」

「期待してもいいかにゃあ〜?」

 ガンランスを担ぎ直し「はいっ」と弧白は笑った。

 

 * * *

 

「……なーんて抜かしてたくせに、早速キャンプ送りにされてるし」

 ネコタクシーでキャンプまで運ばれていく弧白を、恋海は大剣を肩に置きながら呆れた顔で見つめる。タマミツネが今にも襲いかかって来ようとしているのに気づき「恋海さん呑気すぎ! 俺はいいから前見て、前!」と前方を指さして弧白が叫んでいた。

「大袈裟だにゃあ。だいたい、コイツの相手なんて……」

 ノールックで翔蟲を上に出し、空中を舞う。大剣を片手で後ろに構え、大きく溜めたあと、最大出力で頭を叩く。

「……ベルナ村の任務で腐るほどやってきたし、今更動きなんて当たり前のように覚えてるって」

 気絶したタマミツネに更に大剣を入れ、尻尾を切断する。恋海が翔蟲を使って距離を取ると、起き上がったタマミツネは大きな咆哮を上げ、足元の滑液を利用して勢いよく近づいてきた。

 切断された尻尾で地面を叩くも、恋海はそれを軽々と避ける。とある方向を少し見つめた後、「足の速いあいつの事だ、もう少しで戻ってくるにゃあ」と一言呟き、タマミツネから少し距離を取って回復薬を飲み始めた。それを狙ったかのように、再び距離を詰めてくるタマミツネ。大きな口を開けて襲いかかる彼に「あたしばかり見ていていいのかにゃあ〜?」と煽るように呟く。そんな恋海の頭上から飛び出す、ガンランスを構えて竜撃砲を溜める一人の影。その銃口がタマミツネの眼前まで近づき───大きな爆発音を轟かせる。仰け反り、地面を這うタマミツネを見て、恋海は満足気に笑う。

「残念だけど、こっちには頼れる後輩がいるんだよねぇ」

 当の後輩、弧白はというと、「恋海さん! 心臓に悪い!」とヒヤヒヤしながら恋海に訴えていた。

「あはっ、ごめんね弧白! でも、どの道あたしを護るつもりだったんでしょ?」

「それはそうだけど……はぁっ、話は後です。今はタマミツネを討伐しないと」

「はーい」

 また呑気に返事をした恋海は、弧白に拳を差し出す。

「気張っていくよ、相棒」

「……懐かしいな、この感じ!」

 互いの拳をぶつけ合う。それに応えるかのように、タマミツネは再び大きな咆哮を轟かせた。

 

 * * *

 

「いやぁ、今回のはなかなか手強かったねぇ! あたしがキャンプ送りにされた時はどうしようかと思ったよ!」

「それはこっちのセリフ! ただでさえアンジャナフ大剣とは相性が悪いんだから、気をつけてくださいよ!?」

「はーい、分かってまーす」

「その態度は分かってない時の態度なんだよなぁ……」

 狩猟が終わり、エルガドに帰ってきた恋海と弧白を待つ人物が二人。海未と火垂だった。

「先生、姉御、お疲れ様です!」

「おかえり」

「あれ、海未に火垂ちゃん。もう終わったの?」

「うん。今日引き受けた討伐対象も、そこまで苦戦する相手じゃなかったし」

「何を受けてきたんだ?」

「え、激昂したラージャン二頭」

「ガッツリ苦戦する相手じゃない、それ?」

 サラッと答えた海未に、弧白が冷静なツッコミを入れる。

「ティガレックスじゃないんだし、別になんともないよ。それに、こっちにはそれをカモって言う脳筋太刀使いがいるんだし」

「はいっ! ラージャンはカモですっ!」

「私が一頭相手にしている途中で討伐し終わってるくらいにはヤバい子だし」

「はいっ! お嬢に剥ぎ取りしてきていいですよって言いました!」

「相変わらずだな、火垂は」

 二人の会話を聞いて笑顔を見せる弧白。新大陸にいた頃はムスッとしていた彼も、随分と表情も態度も柔らかくなったものだ。

「変わったね、弧白」

「何がですか?」

「ふふ、何もないよ」

 恋海はそれだけでも嬉しかった。同期として成長を傍で見てきたからこそ、こうして大きな変化が目に見えているのだから、そりゃあ嬉しい事この上ない。

 恋海は少し寂しかった。ずっと遠い存在になった気がして、距離が開いたような気がして。

 だがそれでいい。彼はこれからも成長していく。それを見守るのが先輩というものだろう。

「ティガレックスといえば、先程救難信号クエストでティガレックスの討伐依頼が来ていましたよ?」

 火垂がクエストボードに向かい、そのクエストが書かれた紙を指さす。

「本当だ。誰も行かない感じなら、俺達で行ってこようか」

 絶対強者と呼ばれるティガレックス。いつの時代も暴れん坊で、苦手なハンターも多いだろう。海未もその一人である事を、恋海は知っていた。

「海未、あんたは行かなくてもいいよ? 連戦だけど、あたしらで片付けてくるし」

「いや、行くよ。普通のクエストならまだしも、救難信号が出ているならほっとけないし」

 前にオトモアイルーを一日交代した時に、「ティガレックスは天敵」とモルが言っていたことを弧白は思い出す。恋海の気遣うような発言からして、本当に天敵なのだろう。

「海未さん、まだ復帰して二日目だし、無理しない方が……って俺が止めても、海未さんは行くんだよね?」

 海未は困ったように笑い「足でまといにならないように、気をつけるね」と遠慮しがちに呟いた。

「じゃあ、受注しておきますね。少し休憩したら行きましょ、お嬢は無理しないように!」

「ん、分かった」

「海未、大丈夫?」

「大丈夫だってば。お姉ちゃんは心配症だなぁ」

「んいや、大丈夫ならいいんだけど……」

 恋海の今の顔は、周りから見れば嫌な顔をしている事だろう。恋海自身も、どうしてもいつもの笑顔を作る気にはなれなかった。

 胸がざわつくのだ。こういう時は大体、何かが起こる。恋海はそう確信していた。

 ……一瞬最悪な事を考えてしまい、ブンブンと首を勢いよく左右に振る。

「いつもの『勘』?」

「多分ね。何も無いといいな」

「何も起こらないように、私も気をつけるね」

 恋海は昔から妙に勘が鋭い。しかも、それが当たる事がほとんどである。父や母も同じようなものを持っており、あちらに関しては未来までも正確に当ててしまうほどの超人なのだが。

 新大陸で弧白と調査をしていた時も、勘が働いた時が度々あった。結果的に全て当たり、弧白や恋海もそれで酷い目に遭った事があるくらいだ。

 ───気張らないと。

 当たっては困る。何かが起こると決まった未来なら、それを防げる強さで上書きしなければ。




???「相棒ーっ!」
……ではなく!!弧白君の相棒は紛れもない恋海です。
嫌な予感、当たらないといいね。

来週、再来週はお話ストック作りのため更新お休みします。

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@Amnts_MH
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