モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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帰って

「……んぁ」

 パチリと目を覚ます。トモエが傍で編み物をしており、「旦那さま!」と気づいて顔を覗き込んできた。

 辺りを見渡す。いつものマイハウスだ。やけに身体が重く、弧白はどうにか起き上がって一つ息をついた。

「……俺、何してたんだっけ?」

「海未さまを庇ったのですニャ」

「あぁそうだ……って、海未さんは!?」

「大した怪我はしていませんニャ。旦那さまは海未さまの事になると騒がしいですニャ……」

 やれやれ、とまた編み物を再開するトモエ。彼女の言葉に「……当たり前だよ」と少し拗ねたように呟く弧白。

「だって、ほっとけないんだもん」

「そこまで来ると過保護ですニャ。旦那さまは海未さまの母親か何かなのですかニャ? だいたい旦那さまは海未さまのウニャウニャウニャウワウワウニャウルルニャオニャウニャ……」

「え何て?」

 途中から獣人語に切り替わったトモエに冷静なツッコミを入れるが、トモエは話を聞かず獣人語でずっと何かを言い続けている。恐らく不平不満文句説教……その他諸々だろう。

「……ウニャウルルにかく、旦那さまはもう少し自分の身体を大切にしてくださいニャ」

「あ、戻った……ごめん、気をつけるよ」

 後で海未の元にも行かなければいけない。弧白さん、と微かに小さく聞こえたあの声は、間違いなく涙声だった事だけは覚えている。

「……何してんだ、俺は」

 女の子を悲しませるなんて、と弧白は罪悪感に襲われていた。だがあの状況で護らなければ、彼女は今度こそ死んでいた事だろう。そう思うと護れて良かったのかという気持ちが上まるが、それを抜きにしてもだ。

「あれっ、せんせ!? 目が覚めたんですね!?」

 不意に扉が開かれ、火垂が驚いた様子で入ってくる。「お、火垂」と弧白は声を掛けたが……彼女は弧白の目の前まで来て早々、弧白の頭にチョップをかました。

「でっ!?」

「狩猟笛を捨てるとはどういう事ですか、先生ッ!」

「ご、ごめん……でもああしないと、海未さんを護れなかったから……」

「そういう問題じゃないです! お嬢もそうですが、もっと自分の身体を大事にしてください!」

 頬を膨らませて怒る火垂に「仰る通りです……」と渋い顔をする弧白。

「全く……お嬢も先生もそっくりですっ。前世で兄妹かなんかだったんじゃないですか?」

「俺と海未さんが? そんな事ないって」

「ですよねぇ。私もそうは思わないです」

「あれさっきの発言は?」

「先生のようなヘタレがお兄さんだなんて、お嬢が可哀想です」

「そっち!?」

 地味に傷つく発言だなぁ、と弧白は胸に手を当てる。ふと内ポケットに何か入っている事に気づき、手を突っ込んでみる。透けた蒼い鉱石に、御守りでよく見る結び方をした紐が通されており、「何これ……?」と顔の前に提げて見つめる。

「モルちゃんからのプレゼントですって。渡すのが遅れてすみませんニャ、って。お嬢と私とおそろっちですよ、ほら!」

 ゴソゴソと胸元を漁り、同じものを見せると「へぇ〜、綺麗だなぁ」と手のひらに置く。

「そういえば、海未さんは?」

「それが……おうちを尋ねたのですが、出てきてくれなくて」

「どういう事?」

「「今は狩猟する気にならないから、少し休ませて欲しいと言っている」って、代わりに出てきてくれたモルちゃんが言ってました」

 ───自分のせいだ。

 直感でそう感じた。自分のせいで、彼女がまた塞ぎ込んでしまった。自分を庇ったあの時のような、遠く離れていく感覚がする。

 もしかしたら、このまま離れてしまうのかもしれない。

「あっ、先生! ダメですよ、安静にしていないと!」

 布団をひけらかし、マイハウスを出ようとする弧白の腕を、火垂が反射的に掴む。切羽詰まった表情を浮かべ「俺のせいなんだ、俺が海未さんを……」と、弧白はお構い無しに歩いていく。

「ダメですニャ、旦那さま。まだ傷口が……」

「そんなのどうだっていい、これは俺の責任なんだ! 俺はもう、海未さんが悲しんでいるところを見たくないんだよ……!」

 背中が痛む。でも今はそんな事気にしていられない。火垂の手を振り払い、弧白は上着を羽織ってマイハウスを出る。先生、と自身を呼び止める火垂の声には何も答えず、真っ直ぐ海未のマイハウスへと向かう。

「海未さん……!」

 舷梯を上がり、扉を叩く。扉が開かれ、「こ、弧白さま!?」と出迎えたモルが驚きの声をあげる。

「モル君、海未さんは?」

「旦那さまなら、ベッドに……わ、旦那さま!?」

 ひょいっとモルが抱き上げられ、弧白は自然と視線が下から上へと引っ張られる。

 そこにいたのは、少し不機嫌そうな顔をした海未だった。不機嫌そう、と言っても少し顔を顰めているだけであって、弧白にとって彼女のその表情は慣れっこだった。

「海未さん、体調大丈夫? ごめん、俺がもう少し早ければこんな事には───」

「……って」

「……え?」

「帰って」

 そう一言、彼女の口から放たれる。

「帰って、休んでいて欲しい。あなたが今やるべき事は、私の所に来る事じゃないと思う」

「でも俺は、海未さんが心配で……って、わ、わっ!?」

 弧白の身体に、海未の小さな右手が置かれる。そのまま押し返され、弧白は目の前の彼女を見る。

「う、海未さん───」

「帰って!!」

 物凄い剣幕で怒鳴られ、弧白は思わず身体が固まってしまう。腕に抱かれていたモルの毛がぶわっと逆立ち、俯いた彼女を下から見上げるように見つめている。鳥が数羽飛び立ったのが、弧白の視界の端に見えた。

「海未、さん……」

「……お願い、帰って。来てくれたのは嬉しいよ。でも、今は誰とも話したくない。気持ちの整理が、まだ付いていないの。ごめんね」

 いつもはハーフアップなのに、今日は縛っていない。自分の視界に映る彼女の煤竹色の頭髪を見ながら、弧白はゆっくりと数歩後ずさった。

 いけない事をしてしまった。気持ちが先走りすぎて、我を忘れてしまう自分の悪い癖が出てしまった。

 海未の手が離れ、扉が静かに閉ざされる。後を追いかけてきたトモエが、弧白の右腕に付けた大きなバンドの端を軽く引っ張り「……戻りましょうニャ、旦那さま」と弧白を諭す。

「……うん、そうだね」

「早とちりしすぎですニャ。ああいう時は、女の子は放っておいて欲しいものなのですニャ」

 最後、彼女の表情は見えなかったが、弧白は気づいていた。

「……海未さん、泣いてた」

 彼女の手が、身体が少し震えていた。

「女の子を泣かせるとは……これは追加でお説教ですニャね」

「勘弁してくれ……」

 踵を返し、弧白はマイハウスへと戻っていく。そんな彼の様子をたまたま見ていたフィオレーネが「弧白殿」と呼び止めてきた。

「……フィオレーネさん」

「病み上がりな所、申し訳ないな。身体は大丈夫なのか?」

「はい、私は大丈夫です。海未さんの方が心配ですが……先程突っぱねられまして」

「ああ、見ていたとも。女子というのはああいう時、放っておいて欲しいものなのだ。何も貴殿の事が嫌いで突っぱねた訳ではないはずだ」

「トモエと同じ事を言われた……」

 肩を落とす弧白に「ほら、トモエが合っていましたニャ」と傍でドヤ顔をするトモエ。

「そう落ち込むな。彼女なりに考えがあるんだろうさ。少し聞いてくるよ」

「はい、お願いします……それじゃあ、私マイハウスに戻りますんで」

 軽く会釈をし、弧白は再びマイハウスへ歩いていく。追いかけてきていた火垂が隣に並び「せんせ、そんな落ち込まないで」と肩に手を当てる。

「いや落ち込むよ、あれは」

「気持ちは分かりますが……先生ってお嬢の事となると少々突っ走り気味な所がありますよね」

「ほんとね。何でなんだろ」

「えっ……」

「弧白さま、お気づきでないニャ……?」

 火垂と村雨がそんな馬鹿なと言いたげな表情をしているのに気づき「え?」ときょとんとする弧白。

「トモエ、どういう事?」

「トモエにも分かりませんニャ」

「あ、あー……いや、はい。そのままでいいと思いますよ」

「旦那さま、伝えて差し上げた方がよろしいのでは?」

「いや、これは先生自身が気付かないといけない事だと思うしぃ」

 何やらもごもごと口を噤んでいる火垂。一体何の事か分からず首を傾げていると「と、とにかく! 先生はしっかり休む事、いいですね!?」と火垂に正面から指をさされる。

「はい……」

 しょんぼりとして先を歩いていく弧白に「しまった、言い過ぎましたかね」と小声で村雨に話しかける火垂。

「いえ、療養は当然の事ですので、言い過ぎではないかと……」

「よ、よかったぁ」

 弧白がマイハウスに入るのが見える。パタンと扉が閉ざされる音を聞いた火垂は、「また一人になっちゃった……仕方ない、一人でクエスト行こうかな」とクエストボードへ歩いていった。




先週は投稿できなくてすみませんでした 
あともう1話投稿して第4章は終了となります!あと2章分お付き合いいただけたらと思います!!

次の更新は、4月5日昼12時を予定しています!
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