モンスターハンターAtlantis   作:ただの柑橘類

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※注意 必ず読んでください※
このお話には、オリキャラ×版権キャラのモンハン原作にはないオリジナル設定が含まれています。
もし苦手な方は、こちらのお話は読む事を控える事をお勧めいたします。
読まなくても今後のストーリーには何も影響はないお話です。


一人の女の子として

「海未殿、フィオレーネだ。少し話がしたい、開けても構わないだろうか?」

 弧白が追い出された後、フィオレーネは海未のマイハウスの扉を叩く。少し間を空けて扉が開き「フィオレーネ様、どうかしましたかニャ?」と未だ毛が逆立ったまま治っていないモルが出迎える。

「モル殿、その毛は……」

「先程の出来事でニャ〜。旦那さま、あげても?」

 ちらりと机の方を見るモル。舷窓から海を眺めていた彼女が視線だけフィオレーネの方を向き「……いいよ」と呟くように言った。

「ありがとう。お邪魔するよ」

「……前から思ってたんですけど、フィオレーネさんってうちのせんせいみたいですね」

「? せんせい、というのは?」

 扉を閉め、近づきながらフィオレーネは問いかける。海未は舷窓の方にまた視線を戻し「私の教官みたいな人です。というか、訓練生時代の教官です。一年しかいなかったけど」と懐かしそうに返した。

「ほう、教官……どんな人なんだ?」

「綺麗な方ですよ。白髪で、珍しいアメジスト色の目をした、背の高い太刀使いの方です」

「白髪、紫目、太刀使い……ああなんだ、睡蓮(すいれん)の事か」

「……!? せんせいをご存知なんですか!?」

 まさか名前が出てくるとは思わなかったのか、海未は驚いた顔でフィオレーネを見る。

「知ってるも何も、私とロンディーネの義妹だ」

「え、ぎ、義妹……? それはえっと、その……養子、という事ですか?」

「ああ。あの子も色々あってな。睡蓮の故郷が、十歳の時に古龍によって滅ぼされたのは知っているか?」

「……いえ、知りません」

「……その数ヶ月後に王国騎士に保護されてな。王国中の家庭をたらい回しにされて、最終的に私の所で引き取られたんだ」

「それも知りませんでした……そんな事があったんですね」

「緘黙な睡蓮の事だ、隠し事なんて沢山あるに決まっているさ」

「睡蓮さま、とても美しいお方でしたニャ〜」

 モルが二人にお茶を出しながら言う。

「ほんと、どんな血筋引いたらあんな美人が生まれるんだろう……」

「私も確かめてみたいところだ」

「……せんせいは強いな。辛い事があっても、人前では一切出さないんだから」

 お茶を飲み、机に突っ伏しながら海未はぽつりと零す。

「……酷いこと言っちゃったかな、弧白さんに」

 袖を握る海未の手が強くなる。どうしようもない心の蟠りが取れない。誰も悪くないのに罪悪感が出る。どうしたら良いのだろうか。

 海未はずっと考えていた。自身の師、睡蓮ならどう対応するのかと。もちろん、あの人と自分では性格が真逆なのは分かっている。だが海未は睡蓮の背中を追って育ったハンターだ。

 実力のある身近なハンターと言えば、恋海、笠置、睡蓮と年上ばかり。大人になりたいが、大人になりたくない。子供のような態度を取ってしまう自分が嫌いだ。そんなもどかしい気持ちに襲われていた。

「……そうだな。睡蓮なら、貴殿と同じような反応をすると、私は思う」

「えっ、せんせいがですか!?」

「意外だろう? これにも理由があるんだ。

 ……少し昔話をしよう。あの子がまだ家に来たばかりで、私達にはちっとも心を開いていない頃だ。「あの小娘は何処だ、ここにいるんだろう」と、睡蓮を一時的に引き取った事のあるとある家庭の夫人が、武器を持ちながら家を訪ねてきたことがあった」

 お茶を一口飲み、フィオレーネは続ける。

「その夫人は、睡蓮に対して虐待をしていた報告があった奴だった。その時は私、ロンディーネ、睡蓮の三人が家にいて、両親は外出中。留守番の最中だった。

 当時、睡蓮のような白髪や珍しい色の瞳を持つ子供は、裏で高値の取引がされていてな。恐らくだが、夫人もそれが目的だったのだろう。

 当然、私とロンディーネは追い返そうとしたんだが……なかなか帰ってくれずじまいでどうしたものかと悩んでいたら、急に睡蓮が二階から降りてきて、キッチンにあった大きなジュース瓶を夫人に投げつけたんだ」

「!?」

「睡蓮は言った。「覚えているか、これはお前が私にやった事と同じ事だ。ここは私の恩人の家だ。私の恩人を、家族を傷つけようものなら、今度はお前を私にした事よりももっと酷い目に遭わせてやる」……と」

「同じ事、っていうのは?」

「先程、虐待していたと言っていただろう? 夫人に酒瓶で頭を殴られた過去があるんだ」

「あ……」

「何か心当たりが?」

「えっと、何年か前のお話なんですけど……古龍を討伐したその夜に、宴が開かれて。当時のモガの村の村長が、せんせいに飲まないのかと尋ねた事があったんです。その時に「酒にはいい思い出が無いから」って、断っていた事を思い出して。そっか、酒瓶で……」

 海未は口元に手を当て、何やら考え事をしている。それを見たフィオレーネが「その考える仕草、睡蓮そっくりだ」とクスクス笑った。

「あ、ああ……すみません。お話を遮ってしまって」

「構わない、その反応も彼女を思い出すよ。

 話を戻そうか。数週間前まで、物静かで一言も話さなかった彼女が、険しい顔をしてものすごい剣幕で怒鳴ったものだから、それはそれは驚いてな。夫人が近所の住民達に捕らえられた後、慌てて駆け寄ったんだ。割れた瓶の破片が飛んだのか、手を怪我していたから、治療してやらねばと思った。

 ところで海未殿、睡蓮の性格をどのように捉えているだろうか?」

「え? えっと……冷静沈着で、ミステリアスで、いつも何か考えてるような雰囲気で、でも何を考えてるか全く分からなくて……あとは、んー……あっ、泣き虫!」

「よく知っているな。そうそう、睡蓮は泣き虫なんだ。

 駆け寄った時に、睡蓮は今にも泣きそうな顔をしていた。それは怪我をした事による痛みからではなく、別の何かだったのだと思う。大丈夫か、手以外に怪我はないかと尋ねたら、あの子、急にわんわん泣き出してな……「家族って言ってごめんなさい」と、そう言っていた」

「家族と言った事に対して謝罪ですかニャ? どうしてですかニャ?」

 モルの問いに、フィオレーネは海未から視線を外してモルを見る。彼の頭にポンポンと手を置き「きっと、彼女個人が抱えていた蟠りがあったのだと思う」と続ける。

「睡蓮が私の家庭に来た時から、「どんなに貴殿が私達に対して冷たい態度を取ろうと構わない。貴殿は私達の家族だ」とよく言っていた。だが睡蓮はきっと、自分が愛想がないからと、また前の家庭のように捨てられると、だから自分がこの家庭の家族だなんて、私達を家族と呼ぶだなんておこがましい……そう思っていたのだろう」

「……結構、複雑な気持ちですね」

「彼女は口に出さない分、色々な事を考えて、抱えて生きていたのだと、彼女も感情的になる事があるのだと分かった瞬間だった。気になって深堀りしていくと、あれよあれよと出てくる悲惨な話の数々……聞いていて辛かった。

 そんな睡蓮にとっての「護るべき存在」となっていた私とロンディーネの立場が、今の海未殿なのではないだろうかと思っているんだ」

「それは、どういう……?」

「弧白殿にとっての「護るべき存在」が、海未殿なのではないか、というのが私の考察だ」

 それを聞いた途端、物凄く顔を顰め始めた海未を見て「恐ろしい顔をしているぞ……」と若干引き気味なフィオレーネ。

「私が、弧白さんにとって護るべき存在? ありえないですそんな話、だって弧白さんは……」

 海未は今までの彼の態度を思い出す。ナルガクルガ希少種の一件で負傷した自分を、誰よりも心配していたのは弧白だ。誰よりも自分自身を責めていたのも弧白だ。

 何故そこまでする必要がある? 自分は彼にとって大事な存在でも何でもない。恋人ならまだしも、ただの狩り仲間だ。

「……弧白さんは、優しすぎるだけですよ」

 訳が分からない。ただの狩り仲間である自分に、ここまで必死になる彼がよく分からない。

 彼のあれは、ただの過心配ではないか。海未はそう思った。

「さっき弧白さんが訪ねてきた時も、無事だった事と、わざわざ自分を心配してくれていた事が嬉しかったんです。

 でもそれと同時に、無理して来たあの人にどうして大人しく療養しないのかと怒りが沸いてきて……優しすぎるが故に自分を差し置いてまで他人を心配する弧白さんの心情が理解出来なくて、思わず怒って突き返してしまったんです。

 でも、大丈夫、って笑って安心させてあげたりとか、落ち着いて手短に話し合って、帰って療養するように促したりとか……もっといい方法は沢山あったはずなのに、私は笑えないどころか、あの人の顔すら見れなかった」

「……ふむ。先程、睡蓮が怒鳴って瓶を投げつけた、と話したが……状況は違うとはいえど、海未殿と少し似ていると思わないか?」

「え? どこがですか?」

「そこまでハッキリ言われると返しようがないのだが……後から聞いた話だが、睡蓮はあの時「自分が護らないと、と思った」と話していた。それと同じように、貴殿が弧白殿に怒ってまで突き返したのも、貴殿は己の心を護りたかったからではないのだろうか?」

「……? 私の心を?」

「ああ。現に今は、私と話していても落ち着いて話せているだろう? 貴殿はあの時、己の心を落ち着かせる時間が必要だった、だからあのような態度を取った。ただそれだけだと、私は思う」

「……」

「どうと言うことは無い。弧白殿も、気持ちが先走りすぎたと言っていた。だからといって、この件はお互いに謝る程の事柄では無いと私は思う。

 人は誰しも、ぶつかる事なんてしょっちゅうある。私とロンディーネも、もちろん睡蓮とも、方向性の違いで何度も喧嘩した事もある。お互いに理解し合えない事柄が沢山ある、それが人間関係というものだ。違うか?」

「……きっと違わないと思います」

 昔、小春と喧嘩をした事を思い出す。その時の内容はくだらないものだったが、お互いに譲り合えない、理解し得ないものがぶつかって起こった喧嘩だ。

 今回の件も、それと同じ事が起こっただけだと海未は気付かされた。

「ニャ、そういえば弧白さま、旦那さまが負傷した時に「海未さんがどこか遠くに行きそうで怖い」と言っていたような気がしますニャ」

「そうなの? 別にどこにも行かないのに」

 護るべき存在だからこそ、遠くに行く気がして怖くなって、慌てて訪ねて来たのだとしたら?

 そう捉えれば納得がいく。過心配な彼の事だ、自分が動けなかったあの時に、彼はそう思ったのだろう。

「……何だか、思ったよりも大事にされているんだなって感じました」

「それは何よりだ。それだけ貴殿を大事にしているがゆえの先程の行動と考えれば、納得がいくと思わないか?」

「はい。なんで気づかなかったんだろう」

「旦那さま、自分の事を無下にしすぎですニャ」

「仕方ないじゃん、昔の事もあるんだしさ」

「いーや、昔の事を差し置いても旦那さまは普段から利他主義すぎますニャ!」

「それは弧白さんに言ってよ!? 私はちゃんと自分優先です〜! どっかのモルさんみたいに向こう見ずじゃないです〜!」

「んニャッ!? このガキンチョ〜! ヒトの揚げ足取って自分を棚に上げて!」

 顔を見合わせてバチバチし始めた二人を見て「仲がいいのだな」とお茶を飲むフィオレーネなのであった。




ご一読お疲れ様でした!
更新遅くなってすみません。最近忙しいもので……。
このお話と、あともう一つ投稿したら四章は終わりです。前回も言ったような気がする。あれは忘れてください。

次の更新までしばし待たれよ!
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